46話。アークデーモンを人造聖剣で倒す
灼熱のブレスを浴びたというのに、アークデーモンは体表が焼け焦げただけだった。
ヤツは赤い瞳で、俺を睨みつける。
「敵、ダメージ軽微です」
「【ドラゴン・ブレス】でも、あまり効果がないのか……ッ!?」
上位悪魔との戦闘は初めてだったが、これほどの魔法防御力を誇っているとはな。
興味深い対象だ。
「なんだ? 機械じかけのドラゴンだと? またぞろ人間は妙なモノを造ったようだが、この我の敵ではないわ!」
ヤツは勝利を確信して、ゲラゲラと嘲笑った。
「悪魔の肉体は、アストラルボディ(霊体)が顕在化したものです。物理的、魔法的攻撃の90%を無効化すると言われています。通常攻撃では太刀打ちできません」
「で、でもお兄ちゃんの造った機神ドラグーンなら勝てるよね!?」
冷静なルーチェの指摘に、シルヴィアが不安の声を上げる。
相変わらず、ふたりの少女から密着されて居心地が悪いが、四の五の言っている場合ではない。
「もちろんだ。【ホーリー・ファング】展開!」
『了解』
機神ドラグーンの左手より、白く輝く爪が伸びる。これは聖銀を鍛えて造った対悪魔用の兵器【人造聖剣】だ。
「す、すごいわぁ! あの爪から、膨大な聖なる力を感じるわ!」
地上でティアが、目を見張っている。
聖女だけあって、この【人造聖剣】の力を感じ取れるらしい。
創造神【父なる神】が勇者に下賜した聖剣を分析して、錬金術で再現したのがこの爪だった。
「当然です。マスターの造った機神ドラグーンは、人間を害するあらゆる魔物を滅ぼすための兵器。悪魔、アンデッド、ドラゴン、精霊。いかなる存在をも討滅するための武装を有しています」
ルーチェが心なしか誇らしげに微笑する。
「紛い物の聖剣を造り出したということか。だが、しょせんは紛い物に過ぎん。一撃で粉砕してくれよう!」
アークデーモンが矢のように飛翔して、機神に魔槍を突き出したきた。
迎え撃った【ホーリー・ファング】が魔槍を破壊して、アークデーモンの胸をえぐる。
「グォオオオオオ!? なんだ、この力は? 紛い物の聖剣ごときが、なぜこれ程の力をぉおおッ!?」
それはルーチェが機神ドラグーンに乗っているからだ。
聖剣とは、【父なる神】の力を地上に下ろすための依代だ。本来なら、勇者のような神に選ばれた特別な人間しか、聖剣の真なる力を解放することはできないのだが……ルーチェは特別だった。
ルーチェは【父なる神】の末端である天使なのだ。
「こ、この感覚は、まさか……天使! 天使がそこにいるのか!?」
「天使だって!?」
アークデーモンの叫びに、村人たちも驚愕の声を上げる。
まずいな。ルーチェの正体については秘匿しておきたい。
俺は機神ドラグーンを突進させ、アークデーモンを【ホーリー・ファング】で貫いた。
「バカなぁあああああ! まさか天使を使役するだと!? それは天にまします父にしか許されぬことだぞ!」
聖なる力に身体を焼かれて、ヤツは断末魔と共に滅び去る。
「不遜! 不遜が過ぎるぞ、錬金術師ぃいいい!」
「不遜? そうかな……」
聖剣も天使の力も錬金術で分析、再現できる。
なら、それを使うことをためらう必要などない。
祈ったところで神は助けてくれないことを俺は8年前に思い知った。
神の奇跡にすがるのではなく、神の奇跡を再現して、大切な人を守り抜くんだ。
「やったぁああああ! ヘルメス様が、ヘルメス様が勝ったわ! ありがとうヘルメス様!」
ティアが拍手喝采する。
「おおおおぉっ! これが噂の機神ドラグーン! 勇者無き時代の新たな英雄じゃあ!」
村長も村人たちも、全員が大歓声を上げて俺をたたえた。




