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44話。機神の中で、少女たちの頭を撫で撫でする

「ちょっ、狭い! スクリーンが見えない! やっぱり、シルヴィアは来ない方が良かったんじゃないか……っ?」

「お兄ちゃん! 一緒に私も戦うって、誓ったでしょ? どんなに苦しくても一緒だよ! ルーチェ、もうちょっと端に寄ってよ!」

「これが物理的限界です」


 俺はルーチェとシルヴィアと一緒に、機神ドラグーンのコックピットにすし詰めで乗っていた。

 元々、一人乗りとして作ったので3人で乗ると、ギュウギュウで身動きができない。息が詰まる。


『目的地、ラクス村の座標確認。1時間で到着する』

「頼む。ドラグーン……!」


 音声入力で、機神ドラグーンに指示を送る。

 さっきから、シルヴィアの胸部が顔に当たっていて、しゃべるのに邪魔になっていた。

 この密着具合は兄妹でもちょっと恥ずかしい。


 機神ドラグーンが、ラクス村まで自動で俺たちを運んでくれるので、特に操作は必要ないのが幸いだった。

 空間転移で移動できれば楽なのだが、ラクス村には転移の出口となるゲートを設置していないので、仕方がない。


「1時間もこの状態ってのはな。ルーチェ、身体の調子は大丈夫か?」

「はい、マスター。現在は安定しています。一過性の不具合だったようです」


 俺に寄り添うルーチェが、無表情に答える。

 ホムンクルスである彼女は、身体が弱いので心配だった。


「むっ……お兄ちゃんはルーチェのばっかり心配して」


 シルヴィアが唇を尖らせた。

 本当は妹は置いてきたかったのが、風竜機シルフィードで俺を助けるんだと言って聞かない。


「ルーチェの心配ばかりって……今回の敵は、悪魔だぞ。怪我人もいるだろうし、ルーチェの聖女の力を借りる場面が出てくるだろう?」

「まぁ、そうだけど。わかっていても、妬けちゃうの! 私だって、お兄ちゃんに甘えたいだもん」

「あーっ、わかった。わかった。これで良いか?」


 俺は腕を伸ばして、シルヴィアの頭を撫でてやる。

 成長したかと思ったが、いつまでも甘えん坊の妹だった。


「えへへっ、お兄ちゃん大好きぃいい!」


 シルヴィアはうれしそうに俺にギュッと抱き着いてきた。膨らみが俺に当たっているのだけど……ちゃんと自覚しているのだろうか?


 だが、さすがにソレを指摘することは、恥ずかしいというか、はばかられた。

 俺はこの状況から逃れるために身じろぎするも、シルヴィアが離してくれない。グイグイ、身体を押し付けてくる。


「シ、シルヴィアは本当に、頭を撫でられるのが好きだな」

「うん、お兄ちゃんに頭を撫でられている時が、1番幸せなの」

「……マスター、私も頭なでなでを体験してみたいのですが、よろしいでしょうか?」


 ルーチェが興味本位からそんなリクエストをしてきた。


「もちろん、良いぞ。ルーチェは良くがんばってくれたからな。よしよし」

「あっ……マスター、確かにこれは心地良いです」

「ぐっ! お兄ちゃん、私にも私にも! もっと頭撫で撫でして」


 うっとりと目を細めるルーチェを見て、シルヴィアがさらにおねだりする。


「おっ、おおう……」


 俺はふたりの少女と寄り添いながら、彼女らの頭を撫で続けることになった。


「ロイ様! すみません。通信に出るのが遅くなりましたわ! って……何をなさっているのですか?」


 スクリーンにレナ王女が映し出された。彼女は目を白黒させる。


「いや、ドラグーンのコックピットが狭くて……今はラクス村に現れた悪魔討伐に向かっている最中なんだ」

「……ぐっ、ま、まあ、良いです。おふたりはご家族ですしね。状況は理解しましたわ。緊急事なので手短に説明いたします」


 レナ王女は気を取り直すためか、咳払いをした。


「ラクス村の近くに出現したA級ダンジョンですが、ゼバルティア帝国の領地内にあり、立ち入り禁止にされてしまいましたわ。すぐに攻略して、悪魔が這い出て来るのを阻止したかったのですが……領主様に面会しても許可できないの一点張りです」

「……どういうことだ? 帝国にとっても悪魔が出てくるような危険なダンジョンは、放置できないハズじゃないか?」


「もしかすると、よほど貴重なアイテムが手に入るのかも知れません。今、皇帝陛下に書状で許可を求めていますが……返事がいつ来るか。許可が降りるか、わかりませんわ」

「なるほど……」


 俺は考え込む。

 原理は未だに解明されていないがダンジョン内には、宝箱がランダムに出現する。ダンジョンが存在する限り何度でもだ。


 ダンジョンの攻略難易度が高くなると、宝箱から手に入るアイテムも高価で貴重な物となる。そのため、ダンジョンを国家や領地の財産とみなす考え方もあった。


 ダンジョンは最下層にいるボスモンスターを倒せば消滅してしまう。貴重なアイテムが湧き出るダンジョンを消すのは損失だと、場合によってはボスモンスター討伐を禁止する領主もいた。


 ダンジョンから湧き出てくるモンスターに殺されるのは、力の無い平民。平民が何人死のうと、ダンジョンから得られる利益の方が重要だということだ。


「わかった。根を絶たなければ、問題は解決しない。こっそりそのダンジョンに入って、攻略してしまおう」


 バレれば国際問題だが、放置しておけば帝国と王国、双方の民に大きな被害が出るだろう。

 俺の第二の故郷であるラクス村を地図から消したくはない。


「わかりましたわ。わたくしもそれしかないと思います。ただ、問題はそのダンジョンは帝国騎士団の厳重な監視下にあるということです」


 それはちょっと骨が折れそうだ。

 下手をすれば、ダンジョン内で帝国騎士と鉢合わせすることも考えられる。


「わかった。とにかくレナもラクス村に向かってくれ。そこで、合流しよう」

「はい、ご武運を」


 レナ王女は通信を切った。


「あっ! お兄ちゃん、山から煙が……!」


 シルヴィアがスクリーンを指差して、素っ頓狂な声を上げる。

 山の一部、村のあるあたりから火の手が上がっていた。


「戦闘が起きているみたいだな! 急いでくれ、ドラグーン!」

『了解!』


 俺は村に最大スピードで急行する。

 機神ドラグーンに気づいた村人たちが、歓声を上げた。


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