42話。幼馴染、ロイを追放したことを父親から怒られる
【聖女ティア視点】
「どうして、お前はロイを追放したりしたんだぁあああああ!? 自分ひとりの力で活躍できていたと思っていたのかぁ! このバカ娘ッ!」
お父さんはテーブルをバンと叩いた。
故郷の村に帰った私を待っていたのは、お父さんの説教だった。
「バ、バカ娘って! ちょっとヒドい! ……って、お父さんは、まさかロイがSランク冒険者級の実力者だって、知っていたの……?」
「まあな。ロイの両親は、紛れもない天才だったからな。その息子のロイが無才な訳がないだろう?」
私は思わず、食ってかかった。
「ぜ、ぜんぜん知らなかったわよ! なによ、それならちゃんと教えてよ! ロイの両親って、誰なのよ!?」
そう言えば、ロイは8年前にお父さんが連れて来たのよね。ロイは両親と死別したとかで、それ以前の話は滅多にしなかったわ。
私は彼を不憫に思って、最初はすごく優しくしてあげていたっけ……
「あまり詳しくは話せないが、ロイの母親は名の知れたSランク冒険者だった。父親も高名な錬金術師だ」
「……はっ? な、なんでそんな子が、こんなド田舎にやって来るのよ? 超がつくサラブレッドじゃないの!?」
「それは……と、とにかくだ!」
お父さんは大声を上げた。聖職者として教会に勤めるお父さんは説法もするので、とにかく声が大きい。
「ダンジョン攻略は、すでにSランク冒険者のレナ王女に依頼を出している! お前のような半端者は必要ないから、帰れ!」
はっ? ここでもレナ王女?
「ぐぅうううう! な、なによ! 私はヘルメス様をお助けして、王宮を襲った悪者をやっつけて、それはもう大感謝されたのよ! 私だって、役に立つわ!」
「そのヘルメス様から婚約破棄された話は、この村まで届いているぞ! しかも、お前はヘルメスとレナ王女の婚約パーティに乱入したそうじゃないか!? 悪者はお前だ! ええっ? それでも聖女か!?」
「ぐむむむっ……そっ、それは……」
痛いところを突かれて、私は口ごもる。
「おかげで、母さんは『ぷぷぷっ、お宅の娘さん聖女らしいですけど、ヘルメス様から婚約破棄されたんですってね?』とか、笑われているんだぞ。お前がヘルメスとの婚約を自慢しまくっていたせいだ! このバカ娘ッ!」
「ぐは……ッ!」
笑われているのは、私も同じだった。
ヘルメス様からサインをもらってあげるとか、知り合いに安請け合いしまくり、自慢しまくったしっぺ返しを受けていた。
負け犬聖女とか。ご乱心聖女とか、変なあだ名をつけられて、毎日、毎日、嘲笑わられ、陰口を叩かれているわ。
「それで手紙に書いた通り、ちゃんとロイに謝ったのか?」
「……もちろん謝ったけど……あいつは忙しいとか何とか言って、私とパーティを組むことを断わったのよ。もう最悪よ!」
「何? なんと言って謝ったんだ? ロイはお前に惚れていたし、そんな心の狭いヤツじゃないぞ」
「ふん! 悪いのは全部アイツよ。アイツが自分の正体がヘルメス様だとか嘘をついたせいで、私は余計な気苦労を背負い込んだのよ。だから責任を取って、私ともう一度パーティを組みなさい! と言ってやったわ。そしたらロイってば、ひどいのよ!」
「バカお前は!? そんな上から目線で戻ってくる訳ないだろうが! ……てっ、ロイはお前に、自分がヘルメスだと言ったのか。で、それを信じずに追放したって……アホか!?」
お父さんは、さらに激怒した。
「はぁ!? アホとは何よ! こんな見え透いた嘘をついて私の気を引こうなんて、怒って当然でしょ!」
私はカチンと来て、捲し立てる。
「凄腕レンジャーを雇って裏を取ったわ。ロイが嘘をついたことは確実よ! むしろ、謝るのはアイツの方でしょ。そ、そしたら、仲直りしてやっても良いわよ」
思えばこの8年間、ロイとはずっと一緒だった。いつもいるのが当たり前で……
あ、あいつと離れ離れになって、寂しいなぁ、なんて……絶対に思っていないんだからね!
「はぁ、俺から言えることはひとつだけだ……ロイは嘘をつくようなヤツじゃない。お前だって、それくらいわかっているだろう?」
「……まぁ、そうかも知れないけど。じゃあ、お父さんは、ロイがヘルメス様だとでも言うの?」
「さてな。だが、正体を隠すのが得意なヘルメスなら、凄腕レンジャーを欺くことくらいできるとは考えなかったのか?」
「はぁッ!?」
それは確かにそうかも知れないけど……
「あっ、いや、悪い! しゃべりすぎた。今の話は忘れてくれ。薬の調合をしてくる」
お父さんは、何か思い出したように席を立った。
「えっ、急にどうしたの……?」
その態度に、私は不審なモノを感じる。
まさか、本当にロイがヘルメス様だなんてことは……あり得ないわよね。
そもそも【クリティオス】の最初の発売は6年前だし……
ロイがヘルメス様だとしたら、この点でもおかしいわ。
「ロイはこのド田舎村に住んでいたのよ。錬金術の設備もマトモに無いし。【クリティオス】の開発なんて超スゴイことをできる訳が……」
そこまで考えて気付いた。
ロイは聖職者のお父さんに頼まれて、よく隣街まで薬の材料の買い出しに行かされていたのよね。
目的の材料が見つからないとかで、何日間も留守にしたこともあったけ……
幼い子供に任せるにしては、ちょっと不自然だなと思わなくもなかったけど。
ま、まさか、その間に空間転移で、錬金術工房に行っていたとか?
いや、まさか、そんなことがある訳が……考え過ぎよ。
「おい、ティア、大変だぞ! この村は悪魔の群れに包囲されてやがる!」
その時、ランディの大声が轟いた。




