30話。妹シルヴィアと合体する
「シルヴィアが風竜機の主だって!? シルフィード、俺は却下したハズだぞ!」
『今回のケースは、我が行動原理の優先事項【マスター、ヘルメスの命を守る】に該当すると判断した』
俺の叱責に、風竜機シルフィードが理路整然と答える。
風を切り裂いて、【機械仕掛けの神】ルドラに体当たりを仕掛ける巨影があった。
その流線型のフォルムは、まさしく風竜機シルフィードだ。
「ごぶぅうううッ!? なんだ、風のドラゴン!?」
ルドラを操るオデッセは、不意打ちに面食らっていた。ふっ飛ばされて、空中でたたらを踏む。
そのおかげで、ヤツからの攻撃が途絶えた。
『ヘルメス様! どうやら王宮内に侵入した武装集団は風竜機の魔法によって制圧されたようですわ!』
作戦司令室のレナ王女が、驚きの知らせを伝える。
「シルヴィア! 風竜機の主は、機体に魔力を吸われ、ダメージを受ければ感覚フィードバックで痛みが共用される! 下手をすればショック死するかも知れないんだぞ!」
『知ってるよ! それでも、私はお兄ちゃんの役に立ちたいんだもん!』
シルヴィアは大声で叫んだ。
思えば妹が、俺の意見に反発するのはこれが二度目だった。
一度目は、8年前、離れ離れで暮らすことを承諾させた時だ。
お兄ちゃんと離れたくないと、シルヴィアは泣いて嫌がっていたな……
「おのれ、この暴風神ルドラに傷をつけるか!? 不遜なる風竜めが!」
ルドラが風竜機を殴り飛ばす。
風竜機は大地に叩きつけられ、地面が揺れた。
『……いっ!?』
「シルヴィア!」
妹は小さな悲鳴をあげた。
『だ、だだだいじょうぶ、これくらい何でもないよ……!』
いや、痛くないハズがない。
俺に心配をかけまいと、強がっているのが見え見えだった。
『シルヴィアさん!? ティア様、海竜機は、まだ出撃できませんか!?』
『今、呪いの解除中よ! 術者が倒されたから、なんとかできると思うわ! えっと……うわ、なにこれ、強烈!?』
レナ王女とティアも俺を支援するために、力を尽くしてくれていた。
たが、ティアの様子から察するに、魔導システムに入り込んだ呪いの解除には、時間がかかりそうだ。
ここは、俺がなんとかするしかない。
「シルヴィア、無理をするな。俺の背後に隠れて、援護してくれればいい!」
『……今、ようやくわかった。こんな痛い思いをしてまで、お兄ちゃんは私を守ろうとしてくれていたんだね……』
シルヴィアの操る風竜機が、身を起こす。
『この痛みを、どうか私にも一緒に背負わせて!』
その一言にはシルヴィアの覚悟が込められていた。
シルヴィアには、安全な場所で俺の帰りを待っていて欲しかった。
でも、いつの間にか妹も成長して、守られるだけの存在じゃなくなっていたんだな。
それならば、8年前には言いたくても言えなかった言葉を、今こそ伝えよう。
「わかった。一緒にやるぞ、シルヴィア!」
『うん、お兄ちゃん!』
『ああっ! 風竜機とドラグーンの【竜融合】の成功率が上昇しています!』
作戦司令室の少女オペレーターから、歓声が上がった。
『合体成功率、26%、37%、51%……! な、なおも上昇中! すごい数値です!』
俺とシルヴィアへの信頼関係が深まったため、合体成功率も比例して急上昇していた。
『合体成功率89%! す、すごいです!』
『ええっ!? わたくしとの成功率より、高い!?』
『はぁ!? ヘルメス様が私以外の娘と、また合体!?』
ティアとレナ王女が不満そうな声を出したが、作戦司令室に満ちた喜びの声に掻き消された。
「やったあぁああ!! 私、お兄ちゃんと合体したい! ねぇ! どうやったら合体できるの、教えてお兄ちゃん!」
「あ、ああっ! 俺とタイミングを合わせて『【竜融合】!ゴォォオオ! 風竜機神シルフィード!』と叫ぶんだ!」
『叫ぶ? 叫ぶだけだ良いの? わかった!』
共鳴するふたりの魂の叫びを感知して、合体シーケンスが発動する。細かい操作は機体の人工知能が、すべて行ってくれる。
「おのれ、ふたり仲良く滅するが良いぃいい!」
暴風神ルドラが、俺たちに向かって突っ込んできた。
「行くぞシルヴィア!」
「うん!」
高まる心、俺たちの想いは今一つになった。
『「【竜融合】! ゴォォオオ! 風竜機神シルフィード!」』