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29話。妹が風竜機シルフィードの主となる

【妹シルヴィア視点】


「皇帝陛下の名代として、吾輩わがはいがわざわざ出向いてやったとうのに、王宮の警備体制はどうなっておるのだ!?」


 パーティ会場では、ゼバルティア帝国の使者が王様に向かってがなり立ていた。


 外では戦いが続いているようで、爆音と怒号がひっきりなしに聞こえてきている。

 それが会場内の人々の不安と恐怖を、否が応でも煽り立てた。


「ヘルメス殿は飛び出して行ったが、まだこの騒動を鎮圧できんのか!? フンッ! 【機神の錬金術師】が聞いて呆れるわ!」

「さよう! やはり平民と王女殿下の婚約など認めるべきではなかったのです。このような騒ぎが起きるのも、すべて平民ごときを王家に迎え入れようとしたからですぞ!」


 お兄ちゃんの急激な出世を快く思っていない貴族たちが、ここぞとばかりに不満を吐き出す。


「ぐぅううう…っ! 黙って聞いていれば言いたい放題言って。この国が繁栄できたのは、全部お兄ちゃんのおかげなのに……っ!」


 私は密かに唇を噛んだ。

 王女様だけでなく、いけ好かない聖女ティアまでもお兄ちゃんの救援に向かったというのに、何もできない無力な自分に腹が立つ。

 その時、王宮が大きく揺れた。じ、地震?


「ハァアアアア!? なんだ、空に巨大な人影が!?」


 窓から外を指差した貴族が、素っ頓狂な声を上げる。


「むっ!? 機神ドラグーンが出撃しておるぞ! それ程の敵が、出現したのか!?」


 王様も外を確認して、目を剥く。

 今の揺れは、ドラグーンが空間転移した余波みたいだわ。


「陛下、危のうこざいます! 窓に近づかないでください!」


 空に浮かぶ巨大な人影は、天へと飛んだドラグーンに風の刃をぶつけた。そのあおりだけで、窓ガラスが割れ、王宮が軋みを上げる。

 さらなる悲鳴と怒号が、会場内に満ちた。


「だ、大丈夫だ! 皆の衆! 我が息子ヘルメスが操る機神ドラグーンは無敵! さらにこの会場は強力な魔法障壁で護られておる! いかなる攻撃も我らまでは届かん!」


 国王様がみんなを落ち着かせようと、必死に訴えた。


「安心できん! 見るがいい。窓が割れ、壁に亀裂が入っておるではないか!? この城が、あの巨人に踏み潰されでもしたら、我らはおしまいではないのか!?」

「うぐ、そ、それは……」


 帝国の使者の猛反発に、国王様は言葉に詰まった。

 いくらなんでも、あんな巨人の攻撃なんか想定していないんだから、無理もないよ。

 会場内に動揺が広がり、パニックが起きかけていた。


「落ち着いて下さい! お兄……ヘルメス様は絶対に負けません!」


 思わず私は叫んでしまう。


「はっ!? レナ王女の付き人風情が、何を根拠に!? 無礼であろう!」


 帝国の使者が、私を恫喝するように睨みつけた。

 ぐっ、こ、怖い……


「それにどうした? 機神ドラグーンは出撃したようだが、レナ王女が操る海竜機は姿を見せぬではないか? まさかとは思うが、レナ王女か海竜機に何かあったのではあるまいな!?」


 帝国の使者の指摘に、会場の動揺が大きくなる。

 な、何かこの人、わざと他のみんなの不安を煽っているような……


 帝国はアーディルハイド王国の台頭を快く思っていないようだし、ま、まさかとは思うけど、パニックを起こそうとしているんじゃ……


「そ、そそそんなことは、無いモン! それにまだ、風竜機シルフィードだって……!」


 私は動転して、素で反論してしまった。


「風竜機シルフィード? はっ! 戦力があるなら、なぜ出し惜しみするのだ! 最優先事項である我らの身の安全をないがしろにしているのか!? ヘルメスなど、やはり信用できん! おのおの方、自分の身は、自分で守らねばなりませんぞ! ここから脱出するのです!」

「その通りだ! もはやこんな場所にいられるか!」

「えっ、い、今、外に出たら、武装集団が……!」


 帝国の使者に煽られて、一部の貴族が外に逃げだそうとした。

 近衛騎士団がそれを必死に止めようとする。


「お待ちください! 暴徒どもはすぐに鎮圧されます!」

「信用できるかぁあああ!」


 な、なんてことなの。

 もし、ここで外国からの使者に死傷者でも出たら、外交問題になっちゃうわ。

 そうなったら、パーティの主役であるお兄ちゃんの立場も最悪なものに……

 なんとか、なんとかしないと……!


「待って! 待ってください! 今、外に出たら危険……!」

「ええい、どけ小娘! 邪魔だ!」

「きゃあああっ!?」


 私も身体を張って、出口に殺到する貴族を止めようとしたけど、車椅子ごと倒されてしまった。


「ま、待って! お願い待って……っ!」


 それでも、なんとか声を張り上げる。

 私にはお兄ちゃんのような天才的頭脳も、レナ王女のような武力も、聖女ティアのような魔力もない。

 足の不自由な、ただの小娘に過ぎないわ。


 だ、だけど、あきらめる訳にはいかないよ。


 だって、お兄ちゃんが命がけで、みんなを守るために戦っているんだもん。

 お兄ちゃんを少しでも支援するために、ここで私が、今できることを精一杯やらないと……!


『少女よ。ならば、我を喚べ』


 その時、私の頭の中に、厳かな声が響いた。


「えっ!? だ、誰……!?」

『我は風竜機シルフィード。我は、勇気を示したそなたを我が主の資格有りと認めた』


 確かお兄ちゃんは、竜機シリーズは人格を持っていて、自分で主を選ぶと話していた。

 歓喜が私の全身を駆け巡った。


「うれしい! 私もお兄ちゃんの役に立てるんだね!」

『マスター、ヘルメスは、そなたが我が主となることを拒否した。だが、このままでは、マスター、ヘルメスは命を落とすことになる。それは我の本意ではない。故に問いかける。命を賭して、兄と共に戦うことができるか?』

「もちろん! 私はお兄ちゃんに守られるだけじゃなくて、お兄ちゃんを守れる妹になりたいんだもん!」


 それが私の理想、それが私の願いだった。

 なにより、お兄ちゃんが、今、危機にひんしているなら、迷っている場合じゃない。


『そなたの魂の叫び、確かに受け取った』


 すると、私の【クリティオス】が輝いた。

 

『その端末から、我に命令を出せるように設定した。さあ、我に命じるがよい。我が主シルヴィアよ!』

「うん! なら、まずこの王宮を襲う武装集団をやっつけて! みんなを守って、風竜機シルフィード!」

『承知した!』


 力強く頷く声が響く。

 その時、会場の扉が、暴徒と化した貴族に強引に開けられた。


「さぁ、脱出……!?」


 彼らは一様に硬直する。

 なぜって扉の外には、示し合わせたように、ボウガンを構える武装集団がいたのよ。

 扉の前に陣取る近衛騎士団も、さすがにボウガンの一斉発射から、貴族たち全員を守ることはできないわ。


『【妖精のフェアリーサークル】!』


 突如、近衛騎士団と貴族たちの周囲に突風が吹き荒れ、ボウガンの矢がすべて弾き飛ばされた。


「なんだ、この風は!? あ、温かい……力がみなぎってくるぞ!」

「強力な防御とバフの複合魔法だ……!」


 近衛騎士団から歓声が上がる。

 まさか、これが風竜機シルフィードの力なの?


『そうだ、シルヴィアよ。これがマスター、ヘルメスより与えられし風を支配する力だ。【サファケイト】!』


 さらには、武装集団は全員喉を掻きむしるのようにして倒れた。


『敵の周囲の酸素を奪って窒息させた。王宮内のすべてが効果範囲だ』

「スゴイ! それじゃ、もう敵を全部、やっつけられちゃったっていうこと……!? えっ? でも殺してはいないよね?」

『鎮圧完了。無論、失神させる程度に、手加減した。我ら竜機シリーズは、マスター、ヘルメスにより人間の殺害を禁じられているのでな』


 さすがお兄ちゃん。お兄ちゃんの優しさが、この子たちにも受け継がれているんだね。


「それじゃ、すぐにお兄ちゃんの救援に向かわないと!」

『承知した。今、格納庫のロックが外れた。出撃するぞ』

「陛下! 中庭の噴水が割れて、巨大なドラゴンが!?」


 近衛騎士の発した一言に、再び会場は騒然となる。

 外を見ると、噴水のあったあたりに、巨大な翼を持った細見のドラゴンが出現していた。


「慌てるでない! あれこそ我が息子ヘルメスが開発した風竜機シルフィードであるぞ! そうか! 侵入者どもが倒れたのも、風竜機の力か! うぉおおおお! 我が息子ヘルメス万歳!」


 国王様は『我が息子』の部分を強調して、快哉を叫ぶ。


「ヘルメス様の新兵器! ならば、我らは助かるのか!?」

「おおっ! 風竜機シルフィード! なんという頼もしさだ!」


 それに触発されて、貴族たちも諸手を挙げて歓喜した。

 私は目立たないように、こっそりと部屋の隅に隠れる。私が風竜機の主であることは、隠しておくべきだよね。


『機神ドラグーンと通信回線を繋いだ。そなたの兄と話せるぞ』


 えっ。嘘……っ! 私は喜び勇んで、【クリティオス】に向かって叫んだ。


「お兄ちゃん! 私だよ! 私、風竜機シルフィードの主に選ばれちゃった! これでお兄ちゃんの役に立てるね!」

『風竜機シルフィード、出撃する』


 風竜機は爆風を伴って、夜空に飛翔していった。


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