表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/75

26話。王宮がテロリストに襲われる

【大貴族アゼル視点】


「アヒャヒャヒャッ! バカめぇえええ! なにが【機神の錬金術師】だ! この俺様を敵に回したことを、たっぷり後悔するんだなぁああ!」


 俺様は大貴族、ヴァルム公爵の子息アゼルだ。

 本来なら、美しいレナ王女をはべらせ、みんなから祝福と賞賛を浴びる婚約パーティの主役は、俺様だったハズなのだ。


 それがヘルメスなどという、どこの馬の骨ともわからぬ平民に姫を奪われ、殴り飛ばされるという屈辱を味わった。

 居合わせた者どもは忍び笑いを漏らしていやがった。


「許さん! 許さんぞぉ! 俺様をコケにしやがってぇええええ!」


 たが、調子に乗るのもここまでだ。

 俺様はひとりになりたいと家臣たちを遠ざけて、単独で王宮の倉庫にやって来ていた。


 懐から、禍々しい装飾をされた短刀を取り出す。

 これは先日、俺様の屋敷にやってきた老魔導師から受け取った魔導具だ。

 くくくくっ、これを使って、あのヘルメスに復讐してやるのだ。

 俺様は先日のことを思い出す。


『アゼル様、レナ王女を奪ったヘルメスが憎くはございませんか? これを王宮内に設置していただければ、我が手の者が王宮に侵入し、ヘルメスを討ち取ってご覧に入れます。その代わり、私をよろしくお引き立てのほどを……』


 そう言って、老魔導師はこの魔導具を差し出した。

 うさんくさいヤツだとは思ったが、レナ王女との婚姻は、ヴァルム公爵家の栄華のために必要なことだ。

 なにより、この俺様に取り入ろうとするとは、先見の明があるヤツだ。気に入った。


 計画を詳しく聞いたところ、婚約パーティを狙って暗殺を仕掛けるということだ。


『国内外の貴族が集まる婚約パーティが台無しになれば。万が一、ヘルメス暗殺に失敗しても、やはり王女殿下と平民の結婚など許すべきではなかったと、国王陛下もお考えを改めましょう』

『なるほど、おもしろい! 成功したあかつきには、お前を召し抱えてやる!』

『ありがたき幸せでございます』

 

 まぁ、あの老魔導師が失敗したところで、俺様がヘルメス暗殺の黒幕だという証拠は出ない。

 シラを切れば良いだけの話だ。俺様には、なんのデメリットも無かった。


「アヒャヒャヒャッ! ヘルメスを潰せば、レナ王女は今度こそ俺様のモノだ!」


 俺様は上機嫌で、短剣を倉庫の床に置いた。すると、輝く魔法陣が床に浮かび上がる。その魔法陣から武装した男たちが、次々に飛び出してきた。


「ほぅ~っ! これは本格的じゃないか!? よし、お前らヘルメスを殺せ! クソくだらない婚約パーティをブチ壊しにしてやるんだ、アヒャヒャヒャヒャ!」


 男たちは爆笑する俺様を無視して、外に駆け出して行った。

 大貴族である俺様に、あいさつもせんとは無礼な連中だ。


 やがて外から、何やら爆発音と衛兵の悲鳴が聞こえてきた。

 う、うん……? 俺様は違和感を覚えた。

 暗殺というのは標的に気づかれないように、静かにやるモノじゃないのか?


「お、おい、何を……!?」


 倉庫の外に出ると王宮に火が放たれ、夜空が赤々と炎に照らされていた。

 武装集団は誰彼構わず攻撃して、大混乱を引き起こしている。明らかにこいつらの目的は、ヘルメス暗殺などではなかった。

 これは王宮への……つまりは王国への攻撃だ。


「な、なんだ、これは。お前らは一体、どういうつもりだぁ……!?」


 俺様は戦慄した。

 そうこうしている間にも、倉庫から次々に武装集団が出現し、雪崩を打って王宮に攻め込んで行った。

 その数は、もはや100人以上。これはもう暗殺集団ではなく軍隊だぞ。


「待て! やめろ! これではまるで謀反ではないか!?」


 俺様は絶叫したが、ヤツらは止まらない。

 ここまで騒ぎが大きくなっては、王家はこいつらを手引きした者を血眼になって探すだろう。反逆罪で処刑される未来が頭に浮かび、背すじが凍った。


 するとヤツらのひとりが、俺様に剣を振り下ろした。とっさに身を引いて防御したが、肩を斬られた。


「ぎゃあああああ!? 痛い! 痛いぃいいいい!?」

「おやおや、アゼル様。まだ、生きておいででしたか。もうアゼル様のお役目は終わりましたので、ご退場ください」


 俺様に取り入って魔導具を渡した老魔導師が、目前に立っていた。


「お、おおおお前、俺様を騙して……!?」

「これは人聞きが悪い。お約束通りヘルメスめを殺し、レナ王女との婚約を阻みます。その対価に、アゼル様のお命も含まれていたというだけです」


 老魔導師は虫けらでも相手にするように告げた。

 その手には、古式ゆかしい魔法使いの杖が握られていた。ヘルメスのタブレット型スタッフ【クリティオス】に駆逐されて、もう誰も使わなくなった杖だ。

 その杖が俺様に向けられ、強烈な【ファイヤーボール】が撃ち出された。


「誰か、助け……っ!」


 俺様を一瞬で黒焦げにできる威力を持った魔法であることが、直感的に理解できた。


「……させるかっ!」


 突如、俺様の前に立ちはだかる人影があった。

 その声はヘルメスだ。


「ぬっ!? 我が魔法を弾いただと……!?」


 【ファイヤーボール】はヘルメスが振った右手に弾かれた。

 俺様はヘルメスによって、九死に一生を得たのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こういう後先考えない馬鹿は一番扱いやすいからね。煽ててれば何でもしてくれそうだし、助けても報いはしっかり受けさせましょう。
[気になる点] ここまで馬鹿をやらかした奴を助けるってさすがにお人好しすぎでは(-ω- ?)後々自分のやった事を後悔して罪を償わせるならまだわかりますが…
2022/11/09 22:08 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ