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20話。幼馴染、Dランクに降格して号泣する

【聖女ティア視点】


「ティアさん、あなたは残念ながらDランクに降格となりました。Aランクのライセンスは返していただきますね」

「はぁ……っ!? ちょ、ちょっと待ってよ!」


 冒険者ギルドの受付嬢からの通告に、私は慌てまくった。


「まぁ、これだけ失敗続きなら、しょうがねぇよな。実力が無い癖にAランクを名乗ったところで、無様におっ死ぬだけだぜ」


 ランディは肩を竦めている。

 私たちはあれから数回、C級ダンジョンの攻略に挑んだけど、ことごとく失敗していた。

 理由は単純、私の能力値が激減していて、ランディの足を引っ張っているからよ。


 楽勝だった雑魚モンスターに負けて、毎回、泣きながら逃げ帰るハメになっていた。

 そのことを、ランディは冒険者ギルドに報告し、私の評価は急落していた。


「う、うるさぃ!」


 収入はロイを追放してからゼロ。ランディには固定の報酬と経費を支払っているため、どんどん貯金が目減りしていくわ。

 そこにきて、Dランクに降格だなんて……私の自慢はAランクの聖女であることだったのに。


「ぷぷぷっ……聖女ティアももうおしまいだな」

「ヘルメス様の婚約者だって、威張りくさっていたけど、婚約破棄されたみたいだしね」

「ざまぁねぇぜ。ちょっとかわいいからってよ!」


 冒険者ギルドは、私の転落をあざ笑う声で溢れている。

 順風満帆だったはずの私の人生は、もうメチャクチャになっていた。


 なぜ? 一体どうして? 私はヘルメス様と結婚して、幸せになるハズだったのに……

 理由はもう痛いほどわかっていた。ロイを追放したせいよ。


「ランディ! ロイの調査の方は進んでいるの!?」


 併設されている酒場に移動しながら、ヤケになって尋ねる。


「あーっ、悪りぃが進展はねぇな。レナ王女とロイは恋人みたいに親密だと聞いていたが、そんな素振りは、まったくねぇし」

「なんですって……?」

「むしろ、ロイはレナ王女に荷物持ちとして虐げられているような感じだったぞ」


 ど、どういうことなのか、訳がわからない。

 でも、ふたりがあまり仲良くないなら、チャンスではあるわ。


「……と、とにかく、ロイには戻ってきてもらう必要があるわ。それで、ロイを問い質して、自分はヘルメス様だって、嘘をついたことを謝らせるのよ!」


 そうすれば何もかも元通り、この苦しみから解放されるわ。

 もしロイが戻ってきたら、今度はちょっと優しくしてやっても良いかもね。


 私のために、今まで尽くしてくれた訳だし……

 あいつがSランク級の冒険者だっていうなら、少しは見直してやっても良いわ。


「バカか? ロイがもう一度、あんたとパーティを組むことなんざ、絶対にもうねぇぞ? なんで、わざわざSランク冒険者のレナ王女と別れて、落ち目のあんたのところに来るんだよ」

「ぐぅううううっ……!」


 その通りだった。


「それにいくらなんでも、ロイをバカにしすぎじゃねぇか? 謝らせるだぁ? 今まで、さんざん助けてもらったんだろ。俺がロイの立場なら、あんたとは金輪際、関わりたくねぇな」

「ぐぅ、ああぅ……じゃ、じゃ、どうすれば良いのよ?」

「どうするって……俺にはまるで関係ねぇ話だが、まずはロイに謝るしかないんじゃねぇか?」

「謝る!? 私がアイツに……!?」


 私は激高した。

 そんなことは、プライドが許さないわ。


「まあ、いまさら無駄だろうけどな。あんたはDランクのクソ雑魚だ。Sランク級のロイなんかとは、住んでいる世界が違うんだからよ。ロイがヘルメスであろうとなかろうと、付き合うなんぞ端っから無理な話だ。あきらめて他の男を探すんだな」

「な、なななっ、なんですって……!?」


 思わずランディに食ってかかる。

 だけど、いくら否定しようにもDランクに降格した事実が、私が雑魚であることを思い知らせてくる。

 私はいつもDランク以下の冒険者をバカにしていた。才能が無い、努力が足りない人たちだと見下していた。自分が他人に浴びせた嘲笑が、そのまま返ってきていた。


「くぅううっ、まさか、ヘルメス様が私を婚約破棄したのは、私の本当の実力を見抜いたからじゃ……」

「ああっ、それは有り得るな。実力なし、人格最低の聖女様と、結婚したがる物好きがいるとは思えねぇ」


 今まで、ヘルメス様に認めれるために努力してきたつもりだったけど、本当はぜんぜん、届いてなんかいなかったんだ。

 私は酒場に到着すると、テーブルに突っ伏して大泣きした。

 

「おい、聞いたか!? 錬金術師ヘルメスが、第2王女レナ様と婚約だとよ!」

「聖女ティアとは正式に婚約破棄するそうだぜ!」


 その時、隣のテーブルから仰天するようなニュースが聞こえてきた。


「ちょ、ちょっと、あんたたち、その話、もっと詳しく聞かせなさいよ!」

「げぇえええ! 負け犬の聖女ティア!?」


 私が乗り込んで行くと、男たちは凶悪モンスターに遭遇したかのように驚愕した。


「誰が負け犬よぉおおお! くっ! いくら何でも、婚約発表が早すぎるわ! いつ婚約パーティをやるの!?」


 私は地団駄を踏んだ。

 王族の婚約ともなれば、国内外から賓客を招いて、大々的に祝いのパーティを開く。

 そのため、どんなに早くても婚約は半年後くらいになると、考えていた。


「えっ、5日後に王宮でらしいぜ」

「5日後ですってぇええ!?」


 異例過ぎる早さだわ。

 婚約パーティが終われば、もうふたりの婚約はよほどのことが無い限り、覆せなくなる。

 な、なにより、許せないのは……


「まさか、あの泥棒猫王女、私のヘルメス様と公衆の面前で、キスとかする気じゃないでしょうね!?」


 婚約パーティなら十分有り得ることよ。


「おいおい、どうするつもりだよ?」 

「決まっているわ! その婚約パーティに乗り込んで行って、もう一度、ヘルメス様に直接お会いするのよ! これが最後のチャンスよ!」


 この機会を逃せば、私は一生後悔するだろう。

 振られるにしてもヘルメス様と、ちゃんと話がしたかった。

 なりふり構ってはいられないわ。

 

「はぁ? 招待状も無しに、そんなところで騒ぎを起こせば、下手すりゃ重罪に問われるぞ?」


 ランディは呆れ顔になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ランディと読者の一体感がやばい。
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