エピローグ
朝、勇樹は部屋のカーテンを開ける。朝の柔らかい日差しを浴びて、ベッドに眠る妻の頬が白く照らし出された。
「おはよう、リリィ」
そしてベッドに歩み寄ると、妻の手を取る。
こうして語りかけるのが、この数年の日課になっていた。
マリアルーナは勇樹の許しを得て伯父の養女となり、正式に皇太女としての教育を受けている。日本では考えられないような教育量に、自分が皇帝になった暁にはこれを半分に減らすと公言するほどだ。
カトレアは日本と皇国を行き来し、同盟の締結に向けて邁進中。日本に戻った時には、友人たちと会って遊ぶこともあるらしい。皇国にいる間はアカデミーに通い、魔法についての勉強以外は逃げているという。
アイリスはそんな姉とは違い、アカデミーに毎日通いながら、新しい知識を吸収し続けている。将来は姉を支える立場になりたいと、はっきりとした夢を持っていた。
「リリィ、今日はルーナの立太子の儀だぞ」
まだ皇太女教育が全て終わったわけではないが、ようやく正式に皇太女として認められる日が来た。朝から皇城もランヴェスター公爵邸も大忙しだ。
「レアも今日だけは合法的に授業をサボれると大喜びだ。全く、あいつは誰に似たんだろうな」
勇樹も授業から逃げたことはなかったし、リリアンローズはアカデミーで最優秀の成績を収めていたと聞いている。
「アイは、ルーナだけ羨ましいってさ。今度ティアラを買ってほしいって言うから、今度の誕生日パーティーは豪華になりそうだ」
1人1人、愛しい娘たちについての話は途切れることがない。
日が暮れるまで話していたいが、今日は大切な日でもある。
「またあとで来るからな」
そう伝えて白い手をベッドに置き、勇樹はその場を立ち上がった。
遠ざかる背中を呼び止めるように、白く細い人差し指がピクリと動いた。
The end




