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全員が揃った部屋で、皇帝カルセインからの説明が始まった。
「10年前に始まった内乱だが、当初は皇帝派が優勢だった。だが、内乱は激化していくばかりで、すぐに皇族からの出陣を望まれるようになった。最初に出たのは、ルビラスとラキエルだ」
「皇族からは外れてるけど、一応公爵だしな」
その2人がこの場にいるということは、出陣は成功したということなのか。
「皇帝派からも多少の犠牲は出たが、テロを封じ込めることには成功した。3年前、そろそろユウキくんたちを呼び戻そうかと相談していたんだけど、リリィからまだダメだとストップがかかってね。そうしている時に、皇城が攻撃を受けた」
その瞬間、カルセインも、そしてルビラスやラキエルでさえも、眉を寄せた。
「攻撃を受けたエメラルド宮は壊滅。……そこにいたのは、皇妃、ルビラスとラキエルの公爵夫人と子どもたち。そして、父上やキリエールを先頭にした老齢の引退した騎士たち。……全員が……助からなかった……っ」
疲労だけではない影が差して見えたのは、彼らが家族を失っていたからなのだ。
「リリィはその報復にと単身敵の陣地に乗り込み、瀕死の傷を負って帰ってきた。それからは、ずっと……」
勇樹は子どもたちを気にすることもできなかった。あんなに生きてほしいと頼んだのに。
もちろんこの場に留まった妻には、勇樹にも想像できないような想いがあったに違いない。
それでも、生きようとしてほしかった。
「……伯父様、カイラード兄さまは……?」
その時、マリアルーナが呟くように尋ねた。
「カイラードも、ダメだったよ。エメラルド宮で戦えない人たちを守ってもらう役目を任せていたからね」
「じゃあ……」
ウィクダリア皇国に後継者が途絶えたことを意味する。
「伯父様、わたしを皇太女にしてください」
勇樹がハッと目を見張った。
「ルーナ」
思わず引き留めそうになる勇樹を遮って、カルセインが柔らかい眼差しで確認する。
「本当にいいのかい?ルーナ。キミは、皇国よりも日本で過ごした方が長いはずじゃないか」
「でも、わたしのふるさとは皇国だけです。大切な故郷が滅びていくのを、黙って見ているわけにはいきません。もう日本には戻りません。ここで、お母様が目覚めるのを待ちます」
「あたしも!おかあさまとはなれたくないです!」
マリアルーナとアイリスはもう決まっている。戻ってくる前から、皇国に戻ることを望んでいた。
続いて勇樹の視線は次女へと向く。日本に友達が多いカトレアは、父の視線に気づいて顔を上げた。
「伯父様、日本と友達になることはできませんか?」
カトレアは落ち着いた目をしていた。
「友達に、とは?」
「わたしは、もう1つの皇国を知っています。そちらは、イギリスと仲良くしていました。イギリスのいいところを取り入れて、非魔法士も幸せに暮らせるようにと工夫していました。だから、ここも同じようにできないのかと」
「それについては検討中と返しておこうか。イギリス領の皇国とも連絡を取り合ってるけど、ぜひカトレアの意見も聞かせてほしいね」
まるで政治の話をするリリアンローズのようだ。
話を終えたカトレアが父の方へと視線を向ける。
「わたし、友達よりもお母様の方が大切なの」
カトレアもまた、皇国に留まることを決めた。




