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異世界結婚生活記  作者: 金柑乃実
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翌日、朝食を終えた後必要な荷物をまとめて、以前の召喚で使った補助具に入れ、召喚を待った。一部荷物を残すことにはなったが、それも皇国で相談して魔法で全てなかったことにするか、もう一度召喚を受けて取りに戻るかを決めることにした。

実家には、いつものようにイギリスに行くとだけ伝え、それ以上のことは何も言わなかった。

そうして彼らは、皇国に戻った。


懐かしい召喚の間。そこにいたのは、皇帝と皇太子、そして公爵が3人だけという寂しいものだった。

「久しぶりだね」

そう言って微笑むのは、皺が増えただけでほとんど変わらない皇帝。

勇樹はその顔を見た瞬間、その場に最敬礼の姿勢を取った。三姉妹もそれに倣う。

「ここには身内だけだ。そういうのはいらない」

そう言われて、勇樹が顔を上げると、

「陛下、お母様はどこですか?」

すぐ後ろからマリアルーナの声が聞こえてきた。

「ルーナか。大きくなったね」

「おかげさまで、今年16になりました。いろいろお話をお聞きしたいところですが、まずはお母様に会わせてください」

皇帝に対しても物怖じせずここまではっきり伝える姿は、まさにリリアンローズだ。

「……わかった。移動しようか」

皇帝はどこか寂し気に微笑み、ゆっくりと立ち上がった。


皇城内のアメジスト宮の一室に案内された。10年前まで暮らしていたそこは、今も変わらない姿を保っていた。

しかしそこに、目的の人はいない。

三姉妹が戸惑っている横を、皇帝が通り過ぎ、奥の寝室へ入っていった。勇樹も娘たちを促してついていく。

かつて並んで眠ったベッドの上で、リリアンローズは独りで眠っていた。

「お母様!」

「おかあさ……っ」

マリアルーナとアイリスは、慌てて駆け寄っていく。その声に、リリアンローズが反応することはない。

「3年になるかな。ずっと眠ったままだ」

「……」

勇樹は近づくことも、呼びかけることもできなかった。

愛する妻は、昔と変わらない綺麗な顔で、まるで死んだように眠っているのに。

「医者の話では、今後目を覚ます可能性は薄いらしい。今生きていること自体が不思議だと。……まるで、誰かを待つみたいにね」

きっと家族を待っていたに違いない。家族と会うために、頑張ってくれていたのだ。

「……違う……」

その時、勇樹の耳に、カトレアの声が入ってきた。

「レア?」

カトレアの顔を覗き込もうとすると

「こんなのお母様じゃない!」

そう叫んだ。

「レア!そんなこと言わないで!」

それに対し、マリアルーナが怖い顔をする。

「違うもん!」

しかしカトレアは、まるでその場から逃げるように、寝室を出て行ってしまった。

「レア!」

勇樹が追いかける。カトレアが足を止めたのは、廊下に出たところだった。

「レア」

「……せい……」

「レア、どうした?」

「わたしのせいだ!」

振り返ったカトレアの頬は、もう濡れていた。

「なん……」

突然のことに何が何だかわからず、勇樹が戸惑っていると、カトレアが抱き着いてくる。

「わたしがお母様はもういないって思ったから……っ、だから、お母様……っ」

「ち、違うぞ、レア。それは絶対に違う」

「なんでそう言えるの?!」

興奮したカトレアは、勇樹がなだめても泣き止みそうにはない。

「お母様……死んじゃったら……っ、どうしよ……っ!」

「レア、大丈夫だから」

勇樹は娘を抱きしめて、トントンと軽く背中を叩いて落ち着かせる。

まるで幼い子どもに戻ったかのように泣きじゃくるカトレアだが、彼女も13歳。大人への階段を登ろうとしている年齢だ。子供騙しは通用しない。

「レア、お父さんの話を聞いてほしい」

「……なに?」

「お父さんは、お母さんがこうなってしまったのがレアのせいじゃないと言える。でも、なんでと言われると説明できない」

「……」

「だから、一緒に話を聞きに行かないか?伯父さんたちに、お母さんの身に何が起きて眠ってしまったのか。それを聞いたら、レアのせいじゃないことは証明できるはずだ」

勇樹自身も早く確かめたかった。何かできることはないか、確かめたかった。

そんな父の願いを知ってか知らずか、カトレアも小さく頷いてくれた。


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