表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界結婚生活記  作者: 金柑乃実
32/41

32

翌週の土曜日、ちょうど仕事が休みの日に、マリアルーナの習い事の見学を入れた。

下2人は両親に預け、マリアルーナだけを連れて行く。

3姉妹を平等に扱うとなると、こうして1対1で向き合う時間も必要なのだ。

「“今日体験の予約を入れていた宮野ですが”」

「“あぁ!宮野翠月ちゃんですね!”」

小さな教室の講師は、レオタード姿で明るく言った。

「“初めまして。この教室の先生をしている森下郁恵です。郁恵先生って呼んでね”」

「“こんにちは、みやのマリアルーナみづきです”」

勇樹の隣で、マリアルーナもちゃんと挨拶ができる。

「“あ、ルーナちゃんだ!”」

「“ルーナちゃ~ん!なにしてるの~?”」

「“たいけんしにきたの”」

マリアルーナの友達なのか、女の子たちが2人駆け寄ってきた。

「“ルーナちゃんもバレエするの?”」

「“したいなーっておとうさんにおねがいした”」

「“いいねー!いっしょ、しよーよー!”」

「“うん、いいよ”」

友達とも仲良くできているようだ。

「“じゃあ宮野さん、動けるお洋服に着替えてきてね。ココアちゃん、ユカちゃん、更衣室の場所を教えてあげてくれる?”」

「“はーい!”」

「“こっちだよ!”」

マリアルーナは、勇樹を振り返ることもなく、友人たちと去っていった。

こういうものなのか。少し寂しくもある。

「”お父さんはこちらで見ていらしてください“」

「“あ、はい。ありがとうございます”」

通されたのは、レッスン室の隣にあるマジックミラーがついた部屋だった。

他にも保護者が何人かいる。が、ほとんどお母さんたちだ。

どうにもその輪の中に入る気にはなれず、ベンチの隅に座って、さっき玄関でもらってきたリーフレットを開いた。

「“あ、あの……”」

そこへあるお母さんが声をかけてきた。

「“ルーナちゃんのお父さん……?”」

「“そうですが……”」

「“あ、やっぱり!よかった!あ、私、松本です。松本由香の母です”」

「“あぁ、いつも娘がお世話になっています”」

「“こちらこそ!”」

マリアルーナの友達の母親だった。確かに友達の名前はよく聞くが、その母親に会ったのは初めてだ。

「“いつも娘が言ってるんですよ。ルーナちゃん、とってもかわいくて優しいって”」

「“そんな……”」

「“ルーナちゃんの妹ちゃんたちもまだ小さいですけど、お父さんがお1人で?”」

「“はい”」

「“失礼ですけど、奥様は……”」

「“単身赴任中なんです。海外を転々としているので、落ち着いた環境で育つ方がいいだろうってことで、引っ越してきて”」

「“そうなんですね!”」

気さくな人だ。が、勇樹はどちらかというと苦手なタイプだった。


なんとか体験授業が終わった。途中でもう1人の友達、高坂心愛の母親も登場し、勇樹は母親たちの会話に揉まれた。

授業が終わっても、マリアルーナはまだ友達とおしゃべりを楽しみたいらしく、なかなか勇樹の下に戻ってこない。

次のピアノ教室の体験もある。それを口実に無理やりにでも連れて帰ろうか迷っていると、他の友達もこれからピアノ教室に行くらしく、そのまま連れ立って移動することになった。


結局その日は一日中母親たちの波にもまれ、解放されたのはピアノ教室が終わって一時間後のことだった。

それもカトレアとアイリスが待っていることを口実にした逃げだ。


「ルーナ、楽しそうだったな」

車に乗った瞬間、勇樹はホッとしたのもあって、つい皇国語で声をかけてしまった。

「うん。たのしかった」

しかしマリアルーナも、それには特に疑問も抱かずに皇国語で答える。

「どうする?これからも通いたいか?」

「……だいじょぶ?」

「なんで?」

「あのね、おかね、いっぱいかかるって」

「あぁ、大丈夫だよ。お母さんから預かってるお金もあるからな」

「じゃあ、がんばる」

「そっか。今度からは、お父さんは仕事があると思うから、ばぁばかじぃじにお迎えに行ってもらうかもしれないんだ。いいか?」

「うん」

できればもう、あの波に揉まれたくはない。

仕事がなくても遠慮したいところだったが、マリアルーナは受け入れてくれた。


バレエ教室は週に二度、ピアノ教室は週に三度のレッスンに、マリアルーナは毎週楽しそうに通った。

自宅に電子ピアノと等身大の鏡を買ったことで、その日のレッスンで習ったことを見せてくれる。

おかげで平日の放課後の自由な時間がなくなってしまったが、マリアルーナはその方がいいらしかった。

お友達と遊べない日もあるだろうに、なぜか回数を少なくしようかと聞いても、今のままがいいと言ったのだ。

2歳のカトレアも姉の真似をしてバレエを始め、間もなく従兄を真似しているのかサッカーをやりたいと言い始めてしまった。

それはもう少し大きくなってからと説得するのが、大変だった。


そんな忙しい春は慌ただしく過ぎていき、季節は夏に移り変わっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ