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異世界結婚生活記  作者: 金柑乃実
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ある日曜日、勇樹は子どもたちを連れて姉の家を訪れた。

以前勇樹がリリアンローズと帰省してすぐ、姉は当時交際中だった男と結婚したらしい。

そうしてできたのが2人の男の子。マリアルーナと同い年の千尋と、カトレアの1つ上の奏太。初めて見る従兄弟たちの姿に、人見知りがちなマリアルーナも、積極的なカトレアもまず固まる。

しかし数分とすれば、子ども同士仲良く遊び始めた。

「“子どもはすごいな。すぐに仲良くなれて”」

「“そういうものでしょ。大人と違って、変な偏見もないし”」

「“そうか?ルーナは特に人見知りが激しい方なんだけど”」

「“なんとかなるものよ。それで?今日はどうしたの?”」

「“あぁ、姉貴のとこ、蕎麦を嫌がったことはあるか?”」

「“蕎麦?……記憶にはないわ。年越しそばだって食べるし。なに?嫌がったの?”」

「“やっぱり、元々見慣れないものだからかな?他のものは割と見慣れてなくても気にせずに食べてるんだけど”」

「“そりゃあ蕎麦は見た目がだいぶすごいもの。日本特有のものだし、そんなに食べさせてないんでしょ?”」

「“あぁ、あっちにはそんなものなかった”」

「“食わず嫌いっていうヤツね”」

姉の言い方は軽い。そこまで気にすることはないということだろう。

「とーしゃまぁ……!」

そこへ頬を涙に濡らしたカトレアが抱っこを求めてきた。

「どうした?レア」

「レアの……っ、レアの、クマしゃん……っ!」

カトレアの最近のお気に入り、クマのぬいぐるみを、従兄に取られて悲しかったらしい。

「“こら、チヒロ!あんたはまた……”」

「“か、かしてってちゃんといったぞ!”」

「“また返事聞かずに取ったんでしょ?!レアちゃん、ごめんなさいね。ほら、チヒロ!早く返しなさい!”」

「“姉貴、いいから”」

息子を叱る姉をなだめ、勇樹は泣き続けるカトレアの顔を上げた。

「レア、“チヒロお兄ちゃん”はな、レアと遊びたかったんだ。レア、意地悪してなかったか?」

「レアのらもん……」

「そうだな。でも、レアはいつでも遊べるだろ?“チヒロお兄ちゃん”は、レアのクマさんがかわいかったから、ちょっと遊びたかったんだよ。ちょっと貸してあげないか?」

「……ん」

勇樹の説得により、カトレアも納得したようだ。

「“ごめんな。納得したみたいだから、遊んであげてくれ”」

「“うん……”」

千尋は不満そうに頷いて、そのぬいぐるみをカトレアに差し出した。

「“なぁ、かあちゃん”」

そこへ千尋の弟奏太が母親に甘えに来た。

「“あのねー、あのひと、へんなことしゃべってるー”」

「“え?”」

勇樹と子どもたちが話す皇国語のことだろう。

「“変なことじゃないのよ。そういう言葉もあるの”」

「“なんでー?”」

「“へんじゃないよ”」

そこに1人でアイリスの遊び相手をしていたマリアルーナが、歩み寄ってきた。

「“へんだよー!”」

「“……へんじゃ、ないもん……”」

さすがのマリアルーナも、日本語で言い返すことはできないようだ。

「“奏太くん、聞き慣れない言葉だから変に聞こえたんだな。この子たちのお母さんの国の言葉なんだ。ずっとお母さんの国で暮らしてたから、その言葉が喋り慣れているんだ。変って言わないでほしいな。この子たちにとっては、それが普通の言葉だから”」

「“ふぅん……。わかった”」

3歳にわかる言葉で説明すれば、理解はできるのだ。

「“そういえば、ルーナちゃん、次小学生だっけ?こっちの小学校に通わせるの?”」

「“今のところはそのつもり。母さんがランドセルと勉強机を買いたいって言ってるし”」

「“じじばばの楽しみね。千尋にも買うのに”」

「“父さんも随分前に退職してるし、それが楽しみなんだろ”」

姉弟の会話は、しばらく止まらなかった。


「“そろそろ帰るか。……って、子どもたちは?”」

「“部屋で遊んでるんじゃないかしら?千尋―、奏太―、ルーナちゃんたち、もう帰るってよー”」

姉が呼ぶと、すぐそばの階段から千尋と奏太が下りてくる。その顔は困っていた。

「“あら、ルーナちゃんとレアちゃんは?一緒に遊んでたんじゃないの?”」

「“うん……かくれんぼしてたんだけど、どこにもいないんだ……”」

かくれんぼか。皇城ではあまりしなかった遊びのため、2人ともはしゃいでいるのだろう。

密かに探索魔法を使うと、すぐに居場所はわかった。

「“チヒロくん、お風呂場は探した?”」

「“え?ううん。そんなとこ、ふつーはかくれないもん”」

「“元々いた国ではかくれんぼなんて遊びはなかったから、普通がわからないんだ。探してみるといい”」

「“うん!”」

甥っ子たちが元気に駆けていく姿を見送る。

「“そういえば、あんたもよく風呂場とかトイレに隠れてたわねぇ”」

「“え、そうだった?”」

「“そうよ。友達と遊んだ時も公園のトイレとかで、みんな驚いてたわ。かくれんぼの天才は遺伝するのかしら”」

「“ハハハ……”」

「“見っけ!”」

すぐに元気な声が聞こえてきた。


「ルーナ、レア、チヒロくんとカナタくんと仲良くなったみたいだな。楽しかったか?」

「うん!」

「……ううん」

楽しそうに頷くカトレアと、不満そうに首を振るマリアルーナ。

姉妹とも従兄弟たちとは楽しそうに遊んでいたのに、どうしたのだろう。

「ルーナ?何かあったか?」

「……まほうつかえたら、みつからなかった」

かくれんぼの最後の最後に見つかってしまったのが悔しかったらしい。

「あれはな、お父さんが答えを教えてあげたんだ。もう帰る時間だったから」

「おとうさまが?」

「あぁ。チヒロくんたちだけじゃ見つけられなかったみたいだぞ。上手に隠れてたな」

「おとうさま、なんでわかったの?」

「正直に言うと、探索魔法だな。でもルーナ、お家の外で魔法は使わないっていう約束、ちゃんと守ってくれたんだな。偉いぞ」

勇樹が褒めてあげると、マリアルーナの顔にも笑顔が戻った。

「またみつからないようにする」

「レアも!」

「そうだな。頑張れよ」

父子の姿は、赤く染まった空の下で静かに輝いていた。


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