後編
パイロープは嫌々目を開けた。誰かがためらいがちにパイロープの背中を揺さぶっている。ぼろ布越しに伝わってくるぬるい温度がひどく不快だった。
「余に触れるな」
振り返らないままパイロープは低い声で威嚇した。弾かれるように背中から手が離れる。
パイロープは上体を起こして胡座をかいた。両目を手の甲で擦る。
上質の溶岩をたらふく食べていたかと思ったらいつの間にか忌々しい過去の戦いを繰り返していた。
パイロープは眠るのが好きだった。だが、この身体になってからは眠るのが少し億劫に感じることもある。夢を見たくなかったから。何一つ現実でないものに振り回されるのが腹立たしくて仕方がなかった。
パイロープが思い切り背伸びをする。ついでに空を見上げた。太陽は傾きかけている。
「んんーっ! ……ふう」
そうやって一息ついてようやくパイロープは後ろを向いた。銀鎧の男がもじもじと突っ立っている。血色はすこぶる良い。見て分かる場所の傷口は全て塞がっていた。新しい血の臭いもしないからもう出血もしていないはずだ。
パイロープが寝ている間に川で顔を洗ったのだろう。緑色の血液はすっきりと落ちている。その際に邪魔だったのかガントレットの外された右手に黒ずんだ銀の指輪が嵌っていた。
ろくに生気のなかった瑠璃色の瞳が斜陽のもとで澄み渡っている。
どうやらパイロープの血には真実人間を癒やす効果があったらしい。いざ疑問が解消されてしまうと嬉しいような拍子抜けするような屈辱を覚えるような。どうにも反応に困った。
「まさか本当に効果があるとはのお」
結局は他人事のように言葉を零した。ただの独り言だ。決して男に話しかけたわけではなかったけれど、ここぞとばかりに男が口を開いた。
「貴女が私を助けてくださったのですか?」
元死に損ないのわりにはハキハキと喋っている。痛みに顔をしかめたり動きが鈍くなったりする様子はない。パイロープの血が男の傷を完全に治したのだろうか。それとも強がっているのか。もうどうでも良かった。
パイロープは凍て付いた眼差しで男に応える。
「ここに余以外の誰がおる?」
「そ、そうですね」
男が俯いた。パイロープの凄みに怯えているのだろうか。ついでに小便でも漏らしてくれれば人間ごときに気軽に話しかけられた苛立ちも少しは収まるというものだが。
男は間を置かずに再びパイロープを見据えた。恐怖の色はまったく浮かんでいない。パイロープは思わず男を凝視した。何故男は顔を赤らめているのか? 目が潤んでいるのか? 初めて見る人間の表情だった。
男の意図が読めずにパイロープは困惑していた。その最中に男がいきなり跪いたものだからパイロープは口を半開きにして男を見下ろすほかなかった。
「いきなり何じゃ」
「申し遅れました。私はラズ・スピラ。ルース教団の聖騎士……でした」
男は恭しく頭を垂れたまま名乗った。パイロープにとっては右耳から左耳へとそのまま抜けていく情報だ。つまりすぐに忘却された。
ひと呼吸置いて、男――ラズは面を上げた。パイロープの背筋を震えが走る。
ラズは得体のしれない何かをパイロープに向けていた。殺気とは違う。ぬるくて粘ついた気持ちの悪い何かだ。
「この度は何とお礼を申し上げれば良いか…………言葉もありません」
ラズの声は震えている。興奮状態にあるのかもしれない。
パイロープはラズから目を逸らした。
「そうか。貴様の名前に興味はない。傷は治ったようじゃし、余は行くぞ」
と言い置いてさっさと踵を返す。決して逃げようとしているわけではない。まさかこのパイロープが人間から逃げ出すなどあってはならない。
だがしかし。人間の語った血の効果が真実だと証明された今パイロープがぐだぐだとここに留まる理由もまた存在しないのだ。
ラズが慌てて立ち上がる。上擦った声でパイロープに呼びかけた。
「お、お待ちください! 何故、どうして私を助けてくださったのですか?」
パイロープは無反応を貫いた。ラズの問いかけに答える義理はない。川沿いを下流に向かって歩いていく。
それでもラズはめげずにパイロープへ話しかけ続ける。
「それに、一体どうやってあれほどの傷を……治癒魔法でも難しいはず」
ぴたりとパイロープが立ち止まった。ラズの問いかけに答える義理はない。
けれども、無性に頬がむずむずしている。自らの血をもって取るに足らない人間の命を救ってみせたのだと、自慢したくて堪らなくなっていた。その相手が得体のしれないラズだとしても。
パイロープの仕様もない葛藤には存外早く決着がついた。
「良かろう。答えてやる」
パイロープはにんまりとしながら仰々しく後ろを向いた。手を伸ばせば届く位置にラズがいる。無意識のうちに二歩後ずさった。
ラズは逐一パイロープの動きを目で追っている。だからパイロープが後退したことにも当たり前に気が付いたけれども、言及はしなかった。
「鎧に緑色の汁が付いておるじゃろう。それに貴様の顔も同じ汁で汚れていたはずじゃが」
何事もなかったようにパイロープは言う。銀の鎧を汚す液体を指差した。
ラズが鎧に視線をやりながら口元を手で覆う。それからゆっくりと頷いた。
「はい、確かに。これは……?」
口元を覆っていた手で鎧に付着した液体を拭った。乾きかけたそれはラズの人差し指をまばらに緑色にする。
パイロープは腰に手を当てながら堂々と返答してやった。
「余の血じゃ」
鼻高々とするパイロープ。ラズは瞬きを繰り返している。
「貴女の血……? しかし、この色は」
ラズが指に付いた血を一瞥する。その手をきつく握りしめた。そしてラズは慎重に言葉を声に乗せる。
「…………貴女は人ではないのですか?」
「ふん。こう見えても余はドラゴンでな」
パイロープは悪辣に笑った。けれどすぐに舌打ちをする。
「忌々しい人間どもに呪いをかけられて今はこんな姿になっておるが」
こんな姿、をパイロープは強調して言った。だがラズにそんなこだわりは伝わらない。ラズは反射的に飛び退いた。
「ドラゴン!?」
更にラズは咄嗟に剣を構えようとした。けれどもその手はむなしく空を掻くばかり。ラズの愛剣は戦場に捨て置かれている。もしかすると既に死体漁りが掘り出して日銭に変えているかもしれない。
身構えるラズがパイロープに向けたのは紛れもなく殺気だった。殺気で恐怖を必死に覆い隠そうとしているのも見逃せない。自分をドラゴンだと思いこむ少女の妄言だと一蹴しない点も好感触だった。言葉を解するドラゴンに遭遇して生きていられる人間はほとんど存在しないのだから。
パイロープは満足げに腕を組んだ。
「武器もなしにどうやって余と戦うつもりじゃ? 人間の姿にはなったが、それで貴様に遅れを取る余ではないぞ」
パイロープが歌うように語る。ラズの殺気が心地良かった。パイロープの好む温度には物足りないが、先ほどまでラズに向けられていた感情に比べれば明快で受け入れやすい。
「……っ申し訳、ありません」
ところが、ラズは血の気の失せた顔で即座に地面へ膝をついた。殺気はつゆほども感じられない。何事だ。切り替えが速すぎてパイロープの方が置いてけぼりになっていた。
「たとえドラゴンだとしても貴女は私の命を救ってくださった。そんなお方に刃を向けるような真似は絶対に致しません。ご無礼をお許しください」
ラズはパイロープに粛々と言葉を捧げる。仮にもドラゴンと名乗った少女の前で無防備に項を晒してまで。
この人間はおかしいのではないか?
パイロープは首を傾げた。人間はドラゴンを恐れるものだ。たとえ命を救われたのだとしても。気まぐれに手足を千切られないという保証はどこにもない。
総合するとラズは状況判断が正常にできなくなっている。これもパイロープの血の影響なのだろうか? そうだとしてもパイロープにどうこうする気は微塵もなかった。
「貴様、面倒な人間じゃな。貴様を助けたのは余の血に人間を癒やす力があるのか知りたかったからよ」
パイロープは口早に言った。どうして人間相手にぐずぐずと会話を続けているのか。一時の高揚から我に返ったパイロープは背中に意識を集中させた。
「それだけじゃ」
ついでに付け加える。それから翼を広げた。にわかに少女の背中から盛り上がって生えてきた無骨な翼を目の当たりにしてラズがはっと息を呑む。
「ふふん。見事な翼じゃろう?」
パイロープは得意げに翼をはためかせる。風が起こってラズの金髪を揺らした。パイロープは話し続ける。もとよりラズの返事は待っていなかった。
「呪いを解く方法は見つかっておらぬが、時間の経過と共に呪いが解けてきておるのじゃ」
そう言いながら苦虫を噛み潰したような顔で己の両手を見つめた。人間らしい丸っこい爪が何度でもパイロープの神経を逆撫でする。今のパイロープでは一時的に一部分をドラゴンの形態に戻すことしかできないのだ。
やはり呪いは解かねばならない。パイロープは決意を新たにした。
呪いが時間の経つほどに弱まって、待ってさえいればいつか必ず自由になれるものだとしても。そのいつかは人間にとっては途方もなく長い時間かもしれない。だが、永遠に近い時間はパイロープにとってはやはり取るに足らない未来でしかなく。人間の身体は有り余る時間を無為に過ごすにはあまりにもちっぽけだ。
パイロープはラズを見遣った。
「それではな。人間」
と言い放ってパイロープは大きく羽ばたく。踵が地面から離れて、後はつま先を残すのみ。
「せっかく拾った命じゃ。せいぜい大切にするが良い」
人間にかけるには寛大に過ぎる言葉を残してパイロープは飛び立つ。飛び立ちたかった。
「お待ちください!」
しかしまたしてもパイロープの行動はラズによって阻まれる。
ラズはパイロープのもとへ一足飛びに駆け寄ってパイロープの手を掴んでいた。その身を係留としたラズは歯を食いしばってパイロープを大地に引きずり降ろそうとしている。
そのような暴挙をパイロープが許すはずもない。腕を軽く揺するだけでラズはあえなく振り払われて大小の石ころが転がっている固い地面へと叩きつけられた。頭の打ちどころが悪ければ死んでいたかもしれない。
と、いいつつラズは何事もなかったかのように素早く体勢を立て直した。
パイロープが怒鳴る。
「またそれか! 余は十分に待っただろうが!」
「っ私も一緒に連れて行ってほしいのです!」
ラズも負けじと声を張り上げる。半端に空中に浮かんでいるパイロープの下に膝を折って両手も地面につけた。切羽詰まった様子でパイロープを仰ぐ。パイロープは唖然としていた。
「……はあ? 余の話を聞いておらなんだか? 余はドラゴンじゃぞ。人間に忌み嫌われておるあのドラゴンじゃ。そんな余に付いていきたいと? 貴様は人間の敵として追われ、狩られることになるのじゃぞ」
一息に喋る。こうして馬鹿正直にラズと対話していること自体が悪手であると気が付かないほどにパイロープは動揺していた。吹けば飛ぶような人間一匹さっさと燃やしてしまえばいいのに。
「承知の上です。私は貴女にお仕えしたい」
ラズはそう言い切った。嘘偽りのない真っ直ぐな目でパイロープを射抜く。
「…………余に仕えたい?」
虚をつかれたパイロープの羽ばたきがぴたりと止まる。翼が背中に吸い込まれるように消えた。そして危なげなく着地する。パイロープの表情は渋かった。
対してラズは喜色満面だ。地に伏したまま、僅かでもパイロープとの距離を詰めようと前進する。
「理解できぬ。貴様狂ったのか? ひょっとしなくとも余の血のせいか?」
とうとう打ち明けたパイロープにラズは首を横に振る。
「いいえ。違います。私はもう……人の世に生きたくないのです」
ラズは微笑した。己を憐れみながらも解放の予感に震える微笑みだった。パイロープが鼻で笑う。
「死にたくないと言ったり生きたくないと言ったり忙しいの」
図星をつかれてもラズは慌てなかった。ゆったりと頷いてから地面に額を擦り付ける。
「足手まといにはなりません。貴女を傷付けるのであれば人間であろうとも殺し尽くしてみせます。だから、どうか私をお傍に置いてください」
美丈夫がみすぼらしい格好の少女に土下座している。神に奉仕する聖騎士としての誇りも優雅さもなげうつ、惨めで生々しい懇願だった。
乞われる立場にあるパイロープはといえば、情けないラズを嘲るでもなく口をもごもごと動かしていた。目が泳ぎ、しきりに髪を触っている。おまけにため息をついた。
どうせ口だけだろう。いざドラゴンと人間を秤にかけることがあれば絶対に人間を選ぶはずだ。いやもうとにかく面倒くさい。紛れもない本心が喉まで出かかるものの、パイロープが口にしたのは別の言葉だった。
「余は人間を喰らうぞ」
ラズが素早くパイロープと目を合わせた。額や前髪についた土を払おうともしない。パイロープは大口を開けてラズを威圧した。人間の歯なのは間違いないけれども、人並み以上に鋭い歯を見せつける。わざとらしくガチガチと歯を鳴らす。
人間は不味いから極限状況にでもない限り喰うことはない、と親切に教えてやることはしない。ラズの目の前に立っているのは貧相な少女などではなく凶暴凶悪なドラゴンなのだと今一度思い知るべきだった。
しかし、ラズは一切パイロープから目を逸らさなかった。あまつさえパイロープの右足に触れようとする。
「貴女の血肉になれるのなら本望です」
恍惚と囁いてラズはパイロープの足の甲へ唇を落とした。予期せぬ接触にパイロープがラズの顔面を蹴り上げる。と思いきやパイロープの身体も思考も完全に動きを止めていた。人間になって初めて鳥肌が立っていたことに注目する余裕も皆無だ。
ラズが足から離れる。そこでようやくパイロープは正気に返った。
「…………気色悪い。貴様やはり狂っておるぞ」
「…………」
心の底から蔑まれてもラズは一途にパイロープに縋った。よし、焼き殺そう。骨も残らぬほど入念に燃やしてやる。決断は早かった。パイロープは深く息を吸い込む。しかし、と一抹の不安が過ぎった。
燃やしたところでこの人間は正しく死ぬのか? 灰の山から平然と復活してくる光景があまりにも容易に想像できてしまった。引き裂いて殺しても噛み砕いて殺しても、奴は脳漿や内臓を撒き散らしながら笑顔でパイロープに付き纏ってくるに違いない。
ならばいっそ髪一本残さずに喰らってしまうか? 名案だ。いや、どこがだ。パイロープの血肉になれるのなら本望だとかいう発言を思い出せ。同化してしまったらいよいよ逃げ道がなくなってしまう。
パイロープにとっては羽虫同然の人間一匹にありえないほど踊らされている。突拍子もないことを真剣に考えて。そんなことになるのは嫌だと本気で拒んで。ラズを恐れているのだとパイロープは自覚していないし、認めもしないのだろうけれど。
どういう形であれラズはパイロープを脅かす存在かもしれない。憎み恐れるのではなく、愛し崇めることでパイロープを追い詰める。そんな人間がいるとは思わなかった。そして、いつまでその狂乱が続くのかと興味を抱いたのも紛れもなく真実で。
飽きたら殺せば良い。自分に言い聞かせてパイロープはラズの前髪を引っ掴んで顔を合わせた。頭皮が剥がれない程度に加減はしていても相当痛いはずだがラズは無反応だ。
「好きにせよ。ただし、二度は助けぬぞ」
憎まれ口を叩く。言い終わるか否かのところでパイロープは手を離した。何本か金糸が指に絡み付いている。激しく振っても取れないそれをもう片方の指でつまんで除去した。
「はい! ありがとうございます!」
ついに言質を取った喜びと達成感にラズは打ち震えていた。パイロープはすぐさま目を逸らしてラズに背を向ける。下流に向けて早足で歩き始めた。
ラズは俊敏に立ち上がってパイロープの後を追う。
パイロープの隣に並ぶ前に右手の人差し指に嵌めていた指輪をぞんざいに投げ捨てた。彼方へ転がっていく指輪にラズは見向きもしなかった。内側に刻まれた聖句が顧みられることは二度とないだろう。
「あの……お名前を伺ってもよろしいですか?」
「パイロープじゃ」
パイロープは素っ気なく答えた。人間を伴って歩いていることへの違和感に慣れる日は来るのだろうか。その前にラズがパイロープとのはちゃめちゃな道行きに音を上げるかもしれない。
ラズは屈託なく笑った。
「パイロープ様! これから末永くよろしくお願い致します」
今の言葉は聞き捨てならない。鼻歌でも歌い出しそうなラズの横顔をまじまじと見つめる。
「待て。貴様、死ぬまで余に付いてくるつもりなのか……?」
「はい! もちろん!」
ラズは元気良く返事をした。今更そんな当たり前のことを訊かないでくれと言いたげでさえある。あまりに泰然としているせいで物分りが悪いのは自分の方だと納得してしまいそうになった。
そんなことあってたまるか。しかし、パイロープにはラズを言い負かす言葉が思い浮かばない。
ラズは悶々とするパイロープをしばらく興味津々に観察していた。それからある時点で慎重に話を切り出す。
「……ところでパイロープ様。御血は口移しで下さったのですか?」
「? そうじゃ。血を口に垂らすだけでは貴様がむずかって拒否した故な!」
嫌味ったらしく言ってやった。怒れ。吐け。せめて恥じろ、と言外に訴える。パイロープの返答を受けてラズは――。
「ああ……それは……何と……恐悦至極にございます……」
――忘我の境にいた。うっとりと目を細めて舌なめずりしている。
パイロープは迅速に前を向いた。ラズはこういう特殊な人間なのだと割り切って大体を無視するのが最善だと把握し始めていた。
「喜んでおるのは分かるが、何故こうも気色悪いのか……」
それはそれとしてぼやきたくはなる。パイロープの愚痴を聞き逃しているはずがないのにラズはにこにこ笑ったままでいた。足取りは軽く、呼吸はなめらかだ。
「パイロープ様。これから人里に向かうご予定はおありでしょうか?」
「ある。だが、貴様は何をするつもりじゃ?」
ラズの視線がパイロープの開放的な背中、もとい大穴の空いたローブに向かう。
「パイロープ様のお召し物を選んで差し上げたいのです」
「ぼろ鎧の上に武器も持っておらぬ人間に心配される謂れはないぞ。どうせ持ち合わせもないじゃろう」
「ご尤もです。ですので、私も装備を整えますね。ぼろ鎧ではありますが売れば多少の足しにはなるでしょうから」
「うむ。うむ……?」
パイロープは頷きややあって小首を傾げた。懇ろに応対されているようで結局はラズの思い通りになってやしないか。いや、きっと気のせいだろう。
いかに狂っているとはいえ、人間ごときにやすやすと主導権を握られるパイロープではないのだから。
「楽しみが増えました」
パイロープはまだ知らない。浮かれ調子で呟くラズのなかでは服どころかパイロープのぼさぼさ髪の手入れもするのもとうに決定事項になっていることを。
姿形だけは乙女なドラゴンと爽やかに狂信的な人間の旅は始まったばかりである。
完
多分だけどパイロープは一刻も早く逃げた方がいい。
最後まで読んでくださってありがとうございました!