第3話 コニーとXOXO
夜明け前の一番闇が深くなる時間……
ペタ……ペタ……ペタ
水掻きの有る様な足音をたててそれは歩いていた……
「明日までに“うそつき鬼嫁ちゃんがコワい”仕上げなきゃならないんだよな…あ、“となりのエイリアン”今日発売だったわ……ツイートしとくか、ボウリング中……っと。故郷の本屋さんもか……わくわくします、これらを昼頃予約ツイートして……よし寝よう!」
プロの自覚のない自称漫画家はふと窓の方を眺める。
猫耳の象の様な鼻をした生物がこちらを覗いている。
視線が合うと生物は笑う様に眼を細めた。
「あああ~!窓に……窓に……」
自称漫画家の絶叫に驚き謎の生物はその場から走り去る。
後には失神した自称漫画家が失禁した状態で残されていた。
“次のニュースです。偽漫画家の隙手間・塗例素さんが入院しました。
隙手間さんはピンクの象が5階の窓から覗いていた等と口走っており、警察では薬物検査も視野に入れた精神鑑定を行うとしております。”
「やっぱりどっかにダンジョン在るんじゃね?幻覚見せるモンスターって結構居るぜ?」
「えびちゃんは大丈夫なんですカ?」
「俺は幻覚無効かけてるけど……二人にもかけとこうか?」
「えびちゃん……その魔法なのにもかけて欲しいなの。」
「え?もうかけたぜ?」
「だって……店の前を何か歩いてる様に見えるなの。」
「確かに歩いてますネ。」
「あんな魔物見たことねぇ。」
象の鼻と猫の様な尻尾と耳とひげを持ち直立歩行する前足の無いピンクの30センチ程の動物。普通に居るはずは無かった
「とりあえず捕獲するなの!」
「公園に入ってからの方がいいんじゃないか?」
「そうですネ、安全第一で保護しまショウ。」
店をホログラムに任せて謎の生物を追跡する。運良く謎の生物は公園に入って行った。
「動くな!逃げようとすれば拘束する!」
えびちゃんの声に気付いた生物はえびちゃんの方に向かって来た。
「縛鎖。」
地面から現れた鎖が謎生物を縛り上げる。だが謎生物は1メートル程に巨大化して鎖を引き千切った。
謎生物はその象の様な鼻を伸ばしえびちゃんの頭に押し当て持ち上げる……えびちゃんは精神攻撃を受けて気を失っていた。
「XOXO!何してるの!」
謎生物を叱ったのは金髪ツインテール……というよりお団子頭にしたピンクのパーカーの少女であった。
XOXOと呼ばれた生物は媚びる様に少女の脚に頭を擦り付けている。
「あなたのペットだったなの?一人で歩いてたから店で保護しようと思ってたなの。」
なのちゃんが話しているとなのちゃんの服が全て落ちた。
「え?何がどうしたの?」
突然の事にパニックに陥る少女、しかし……
「ああこれは糸一本引っ張るだけで全裸になる実用新案の服なの。えびちゃんの鎖に引っ掛けて誤作動したなの。」
「どこが実用なんでスカ……」
ジト目の書店ちゃんに答えるなのちゃん。
「2秒でお風呂に入れるなの!」
「いいからさっさと服着てくだサイ。あとえびちゃん連れて来てくだサイネ。」
えびちゃんは失神したままだった。
「書店ちゃん!えびちゃんはなかなか立派なモノをお持ちなの!」
「何してやがんだこの野郎!」
えびちゃんの拳骨と共にお仕置きバスターが吠えた事は言うまでもない。
「とりあえず店に戻りまショウ。えびちゃん、なのちゃんをお願いしまス。」
「こいつ無駄にでかいからな……男根小さい癖に。」
なのちゃんは平均身長でえびちゃんが小さいのであるが。
「ではここは帝都ではないと?そう言えばトラップもただの鎖だった……じゃあブラックホール第3惑星人の基地は?」
「コンピューター、回答ヲ。」
“コノ次元ニブラックホール第3惑星ハ存在シマセン。”
「そんな……」
「つまりあなたも転移者なのデス。」
「良かったぁ~!地球人抹殺なんてあたしやりたくないもん。」
「で、あなたは転移者保護プログラムによりここに住む権利が有りマス。」
「書店ちゃん、なのの奴まだ起きないぞ?」
「えびちゃんの拳骨が効いたんでスネ。」
「いやたぶんお仕置きバスターだと思うよ?」
嬉々として失神したえびちゃんのスパッツと下着を剥ごうとするなのちゃんに気付いたえびちゃんが拳骨を落としたと同時にお仕置きバスターが炸裂したのだった。
「ところでこいつなんで裸なの?」
「糸引っ張ると脱げる服を着用してた様デス。」
「あ!あの……XOXOがごめんなさい。」
「いや追い詰めたら逆襲するよなそりゃ、XOXOだったか?済まなかったな。」
XOXOがえびちゃんの横に行って頭を擦り付ける。こうしていればかわいいのだが……
「あたしはコニー、コニース・Kと言います。ブラックホール第3惑星特別戦車隊所属、で、この子は生体戦車XOXO。生物の脳がエネルギー源です。」
「よーしXOXO、あの裸の奴の脳吸っちまえ。」
「何命令してるなの!」
「失神中の仲間の股間見ようとする奴には当然の対処だ。」
「股間は興味ないなの。なのは飽くまでも男根が見たいなの!」
いっそ清々しかった。
「しかし脳なぁ……ダンジョンが在れば手に入れるのも楽なんだが……」
「フランス料理で羊の脳のテリーヌとか有りますシ、結構手に入りマスヨ?」
「あ、戦車としてのエネルギーなんで生物としては人の食べる物で大丈夫です。」
で、コニーのエプロンと名札、コニーとXOXOの社員証が払い出される。コニーは社員番号523番で広報担当、XOXOは社員番号2020で広報マスコットという扱いになった。
「コニーちゃん、明日ピクニックに行きませんカ?」
「いいですよ?何するんですか?」
「山の中で全員全裸で戯れるなの。」
「なのは黙ってろ!いや実はXOXOの戦車形態見せて欲しいんだよ。」
「そんなことならいいですよ。XOXOも動きたいでしょうし。」
この判断が後に騒動を巻き起こす事になるのだがこの時は誰も気付いていなかった。
ピクニック……なのだが、書店ちゃんはアンドロイドで疲れ知らず、えびちゃんは元冒険者でコニーちゃんは元戦車兵、つまり……
「もう少しゆっくり歩いて欲しいなのぉ~。」
「ほら、なの遅れてんぞ。ってか獣人の割に体力ねーな。」
「なのは都会派なの、主に車で移動してたなの。」
「そーかそーか、俺より早く着いたら一緒に風呂に入ろうと思っt……」
10メートルほど先を歩いていたえびちゃんを抜き去り、駆け足姿勢でなのちゃんが叫ぶ。
「えびちゃん、早くしないと置いてくなの。」
「どういう生き物なんだあれは?」
ちょっと開けた場所に出た。綿山を流れる谷川の曲淵の川原でキャンプ施設もそばに有る、今は人は居ないようだ。
「ではコニーちゃん、この辺デ。」
「は~い。XOXO、ブライシンクロン!」
ズズズ……普段身長30センチのXOXOが身長30メートルになる。
「フェードイン!」
コニーの身体がXOXOの中に溶けて行く……
「やべぇ!コニー、中止だ!」
「もう少し見ておきたいなの。」
「馬鹿野郎!10分しないうちに防衛軍が攻めて来るぞ!」
しれっと元に戻ったコニーとXOXOを連れて綿山から出たのは15分後であった。
既に防衛軍が山狩りを始めようとしていた。
ちょっとホラー風味のオープニングにしてみましたが如何だったでしょうか?
あと隙手間塗例素にモデルは居ません。居ませんったら居ません。調べないようにお願いします。
逆にコニース・Kのモデルであるこにすけ先生が講談社奨励賞を受賞されました(佳作とはたった2点差です)。おめでとうございます。勝手に応援させていただいております(本人迷惑かも知れませんが……)。
実は最初からXOXOを生体戦車にする案は持っておりました。普段は愛玩動物然としている生き物が実は鋭い牙を持っているっていうシチュエーションに憧れています。自分に牙を剥かない前提ですが。
さて次回はXOXO好きなお姉さん登場……できればいいなと。
次回 書店員達、島へ(前偏) お楽しみに