第八章 ロウ
その男は、夜道を静かに歩いていた。やがて一軒の家に着くと、小さくドアをノックする。家主の男が現れて、訪問者を招き入れた。
「君が、ロウか?」
「はい、ハタロさん。」
「よく来た。」
そこは、カルシータのハタロの家だった。そこにやって来たロウは、コダのもう1人の弟子だ。年齢は20才だが、非常に落ち着いた男で、また有能である。
ロウはこの後ルラルド村に向かうのだが、その前に、ヨリクガの情報がほしかったので、ハタロの元に来た。その前には、ケントを訪ねていろいろ聞かせてもらった。
ハタロの弟子でスニヤの所に情報を運んだテニオは、スニヤの回復術のおかげで意識を取り戻した。まだ無理はさせられないが、ポツポツと話してくれたのも助かった。そのテニオの話しの中で、一番気になったのは。
「ヨリクガが銃を所有しているらしいのですが。」
「ああ、そのようだね。どんな汚い手を使ったか知らないが………。」
銃というものが発明され、何年か経っている。各国軍隊が所有し訓練されているのみで、一般には出回っていないはずなのだが、何事にも例外がある。
「コロボリス製の粗悪な品が、比較的入手しやすいらしい。と言っても、合法的ではありえないが。」
邪悪な魔法使いに、粗悪品の銃か。ゾッとする組み合わせだ。
(セナ様は防護服の準備もされてるそうなので、少しはましだろうが。)
ロウはスニヤから預かった、印形をハタロに返却した。代わりに、ハタロの魔力が込められた七輝石の水晶玉を渡された。ハタロは自分も手助けしたいが、ヨリクガに目を着けられてしまったので難しかった。
「もしもの時は、それに呼びかけてくれ。」
ロウは、はい、と返事して受け取った。
一夜明けて、ロウはまた静かに旅立った。ルラルドへの最短コースを、しばしば魔法を使って、速やかに移動した。普通の人なら10日はかかる道のりだが、ロウは3日で到着した。すぐに、調査を始める。
ルラルド村は、人口は少ないが面積は広く、森や湖の美しい、風光明媚な観光地でもある。ユナ・リアが生まれてから警備は厳重になったが、ロウにはクリント王子お墨付きの完璧な身分証明書があった。職業は画家にしてもらった。絵画道具を持ち歩いてれば、大概の場所に怪しまれず行ける。実際、絵も上手かった。
短い時間で、村の勢力図が見えてきた。村の権力者はムロダ家。その当主が最近、高価な品々を大量に買いつけて、ユナ・リアへの贈り物と豪語していたらしい。ニトラとヨリクガに担ぎ上げられた道化は、この男であろうと踏んだ。
ならば、ムロダ家の周辺を探ってみる。すると、中年の独身男の使用人が、やけに酒や食料をたくさん買っているらしい。家族はいないのにと、目立つ量だった。この使用人が、ニトラたちの身辺の世話をしていると考えた。
今度はその使用人の尾行をし、ついにロウは、ニトラとヨリクガの居所を特定出来た。湖畔に建つムロダ家の別荘で、夜は灯りが漏れない様に気をつけているが、人の気配があった。
湖畔と言うのが、ロウには都合が良い。距離を取って、絵を描きながら見張ることが出来る。
(この場所なら、剣士が襲撃しても、巻き込みの被害は最小限に抑えられる。)
後は、決行の日を待つのみだった。