第六章 憂鬱と復讐
「はあ………。」
山高く積まれた贈り物を見て、リラは思わず、ため息をついてしまった。
「タミアの誕生日は、まだ先なのに………。」
しかも、3才の子どもに贈るには、高価過ぎる品々。常軌を逸している。
生まれた娘が、ユナ・リアだった。このことは、リラの人生を激変させた。初めての出産を終えたリラは、助産師たちが騒ぎ出してもしばらくぼーっとしていた。
でも自分にとってタミアは、可愛い娘でしかない。できることなら平凡で、普通の子として育てたかった。今となっては、叶いそうにない夢だけど。
それにしても、あのムロダ家。ルラルド村一の権力者だけど、いけ好かない連中。最近になってやけに馴れ馴れしく、接近してきた。タミアと、8才の息子を仲良くさせようとする。
挙げ句に、あの贈り物の山………。
「もう、うんざり!」
その後リラの元に、使者がクリント王子からの贈り物を持って来ると、連絡が入った。またうんざりかと思いきや、リラは使者の1人がセナ・シンシアティ家の子息と聞いて、嬉しかった。
(クリント王子のお后様の、実家の方よね?身分違いだけど、私たちと、同じ立場の方なんだ。)
少し、気分が良くなったリラ。しかし自分の知らぬ所で、陰謀は進行していた。
「それで、高価な品々を贈ったんですよ。女は、物に弱いのでね。」
下卑た笑い声、ムロダ家当主は、本当に品のない男だった。こんな奴と、極力口も聞きたくない。
「やりすぎるなと、言っただろう。警戒されては、元も子もない。」
姿は見えない、司令者の声。きき従えば、天下を取れると思うと、横柄さも我慢できる。
「しばらく、おとなしくしてろ。また連絡する。」
「はいはい、仰せのままにいたします。」
通信を切って、ニトラはしばらく不機嫌だった。ニヤニヤ笑いながら、ヨリクガが声をかける。
「よう、相棒。なんだか不機嫌じゃないか。」
「不機嫌にもなるさ。あんな奴に、秘密を感づかれるなんて………。」
テニオのことである。よりによって、スニヤとつながりがある魔法使いだった。
「なに、あいつはこの俺が、息の根止めてやった。気にするなよ。」
本当はテニオ自ら、仮死状態になる術をかけていたのだが、スニヤがヨリクガには教えてない魔法なので、助かった。
そんな彼らにも、クリント王子の使者の話しが届いた。ニトラは、12才と14才の子どもが来ると聞いて、拍子抜けする。情報が漏れていたら、そんな使者を遣わしはしないだろう。
(問題ないな。全て、計画通りだ。)
ユナ・リアを狙う計画は、早くからあった。ニトラがガリルドで入院中、トムルから聞いた話しがきっかけだ。
その時ユナ・リアだったミリヤは、本来スギルト家の血筋だった。スギルト家内には、不満を漏らすものもいたと言う。しかし、スギルト公はそれを抑え込んだ。今後、その事を話題にするものは、容赦なく処罰すると明言された。
トムルが伝えたかったのは、世の中には、いくらでも思い通りに行かないことがあると言うこと。そしてそれでも我らは、多くの人々の幸せのため、堪えて生きるべきであると言うこと………。
しかしニトラは、そう理解しなかった。かえって、ユナ・リアを我がものにして繁栄している、セナ・シンシアティ家を憎んた。
父親が商売を失敗し、没落した家の子だったニトラ。その自分に手を差し伸べてくれたケントに感謝して生きるべきだったが、誰かの小さな囁きに影響されてしまった。
ーーーケント様は良いお方なんだけど、弟君の方が出世しちゃったわねーーー
逆恨みと呪いに囚われ、ついにケントから追放されたニトラは、復讐を計画するうちに、ヨリクガと出会った。
見ていろ。
俺は、やってやる。
必ず、復讐してやる。