第四章 真計画
グロサムとキリルに与えられた使命には、もちろん、真の計画があった。
それが決められたのは、あの夜。ユナ・リア強奪と、それによるクーデター計画が明かされた時。
「そんな………!無謀すぎる!危険過ぎます、私は反対です!」
いつもは、慎重な物言いをするタクが、気色ばんだ。
「タク、落ち着け。」
こう言いながら、セナ自身が動揺していた。スニヤの言葉は、受け容れ難かった。
解決のための方法として、まずヤーナに情報を送ること。書簡や、通信では敵に漏れる恐れがあった。ハタロとテニオがした様に、メッセージを封じたものを誰かが運ぶ必要があった。
加えてその誰かは、戦いのための本隊を送る、目標地点になる。つまり、スニヤやコダの様な魔法使いが、剣士たちを空間移動させるため、魔力を持つ者がその地にいて、誘導するのだ。
しかし、敵は鋭く狡猾である。セナやタク、コダやルルが行けば、警戒されること間違いなしだ。警戒されにくい者が、行かなければならない。
「使者の条件は、まず、魔力が高いこと。そして、警戒されにくいこと。さらに、それ相応の身分の者であることだ。」
クリント王子の使いとして行くことも、この時決められた。ならば、役人などではいけない、王族か重臣レベルの身分でなければならない。
「私はね、セナ、グロサムが適任だと思うんだ。」
その場が凍りついたが、構わずスニヤは続けた。
「ニトラやヨリクガの様な輩は、高慢だ。子どもを低く見る傾向がある。警戒はされにくいだろう。グロサムなら、魔力も十分だ。身分も高く、ほとんどの人間には敬意を持って迎えられる。」
ケントが、叫ぶ様に反論した。
「待ってください、伯母上!そんな危険な任務に、グロサムとは。我が家のカーサを行かせます、息子の中で一番魔力が高いです。」
「いや。ケントの家の子どもは、ニトラに知られ過ぎてる。適任ではないよ。」
スギルト家、ロミナス家の子どもたちは、全員成人だ。孫はまだ幼児、適任者はいない。
セナは反対したかったが、言葉が出ない。代わりにタクが、冒頭のように激高してしまった。
「そしてね、もう1人行かせたいんだ。ルルの倅、キリルを。あの子は14才だが、グロサムとは別のタイプの、有能な魔法使いだ。」
キリルは、ルルの影響を受け、また鍛えられたことで、驚くほど成長した。タウロタの心を開いたことも納得の、自然に愛される魔法使いになっている。
「ならば………、アイナも行かせてください。キリルと同い年です。グロサムの弱点を補って、剣士として役に立ちます。」
グロサムとキリルに、アイナまで!?
タクは絶望した。全員、自分の身を切り刻まれても、守りたい子どもたちだ。
しかしアイナの同行は、クリント王子が断固として反対した。セナ・シンシアティ家の子息を、2人揃って行かすことは出来ない。
それでも、タクの感情は収まらなかった。それを静めたのは、今まで多くを語らなかったロミナス公。
「タクよ、お前の気持ちは良くわかる。大切な主家の子息で、義理の弟たちは、何があっても守りたいだろう………。しかし、愛する者が傷つき、よもや死んでしまう、それよりも、辛く苦しいことがあるのを、お前は知っているか?」
タクは、そんなこと知らない。しかし、じっとロミナス公を見つめた。
「それは、信頼していた身内に、裏切られることだ。ケント殿は、今それを味わっているし、私もかつて、味わった………。辛いんだよ、しかしそれでも我らには、祖国と王をお守りする責務がある。わかってくれ。」
タクとセナ、コダも言葉を失くした。そうだ、スニヤもかつての弟子に裏切られた。同じ苦しみを、味わっておられるに違いない。
「わかりました。騒いで、申し訳ありません。」
タクがうなだれ、セナが肩を抱く。スニヤは話しをまとめた。
「ならば決まりだ。セナはグロサムに、コダはまずキリルの両親に、話しをつけておくれ。」