第二章 追放者の陰謀
「転覆………、とは?」
ケントが問うた。
「うむ………、つまりクーデターが起きかねない、ということだよ。」
「なんと!そのような、大それたことが!?」
ロミナス公の声は大きすぎて、皆が肝を冷やした。
「詳しく、お聞かせください。」
トムルは、一番冷静だった。
ハタロから伝わって来た情報は、テニオのことから始まった。ルラルド村出身の彼は、一風変わった青年で、放浪癖があり長らく故郷を留守にしていた。そして、カルシータのハタロの元に来たのを機に、素質があった魔法の修行をすることにした。中々、優秀だったらしい。
時が過ぎて風の便りに、故郷にいる従兄弟の家にユナ・リアが誕生したと聞いた。
名誉な素晴らしいことだと、祝いに駆けつけたテニオ。しかしハタロの弟子となり、能力が格段に上がった彼は、そこで今はまでにない不穏な空気を察知する。
一見、何も変わりない故郷だった。しかし、何かおかしい。テニオは、魔力を使って調べを進めた。幸い彼の故郷での印象は、放浪癖の抜けない半端者だ。警戒されずに、調べることが出来た。
ユナ・リア誕生で祝いモードの続く村に、何故か不満分子が生まれ、水面下で勢力を拡大しつつあった。ヤーナたち、役人の目の届かない所で、陰謀の根がはびこりつつある………。
「ユナ・リアを王家に嫁がせるのではなく、ユナ・リアと結婚する者が王になるべきだという考えのもと、着々と準備が進められているという。ヤーナたちを亡きものとし、不満分子にとって都合の良い者を王とし、ユナ・リアを盾に取って軍の介入を難しくするのだろう。」
しばらく、沈黙が続いた。
なんという、大それた計画………。
テニオは、実は、不満分子の元凶たる2人の人物まで割り出していた。その1人は、ハタロの弟弟子だった人物で、つまりは元はスニヤの弟子だったのである。名は、ヨリクガと言う。
スニヤは、知人に頼まれて弟子にしたものの、性根の悪さに呆れ果て、ついに破門にしていた。スニヤを相当、恨んでいると言う。
ヨリクガのことが分かった時点で、テニオはハタロ元に帰った。自分には、如何にも出来ない問題だった。ハタロは、スニヤに恩義を感じていたので、何とかしたいと考えた。
しかし、その頃から、テニオのことを察知したらしい敵から妨害を受け始めた。まともな手段では、情報をスニヤに届けることは出来ない。
ハタロは知恵を絞った。そして、テニオの身のうちに、メッセージを潜ませた。テニオはリードニス人の1人として、物言わぬ使者となっても、ユナ・リアを守りたいと思ったのだ。
「テニオは、時間はかかるだろうが、必ず、私が何とかするよ。しかし、この先のことは、あなた方が頼りだ。そのため、今日、来てもらったのだ………。」
全員が、それは理解していた。国を守るのは、自分たちの責務である。
「ああ、それと。」
スニヤは更に、言い難そうに続けた。
「元凶の、もう1人の人物と言うのが、ケント、覚悟して聞きなさい。あの、ニトラらしいんだ………。」
ニトラ!?タクは、耳を疑った。
(あのニトラが、クーデター首謀者!?)
ニトラは、ついに改心することなく、シンシアティ本家を追放されていた。心優しいケントに、ここまでされるのは、異例中の異例だった。
ケントの絶望が、痛い程感じられた。セナも、苦しさでうめいた。トムルも、同様だった。
「討たなくては、いけませんよ。今度は破門や追放ではなく、確実に。」
コダの言葉は、核心をついていた。