第一章 物言わぬ使者
「タク、この後時間ないか?コダに呼ばれてるんだが、お前も来てほしいらしい。」
定例会議の後、セナに言われた。タクは断るはずがない。
あの旅から6年経っていた。タクは24才、クリント王子の側近として、確固たる地位を築いている。先日、16才になったリリヤと結婚式を挙げたばかりで、セナとは義理の親子になっていた。
しかし相変わらず、忠誠心は増すばかりのタクである。
使いの者に遅くなると言付けて、セナに同行してコダを訪ねた。
「いらっしゃい。」
勝手知ったるコダの家だが、何かいつもと雰囲気が違った。ピリピリと、張り詰めた空気が漂っている。
理由は、すぐにわかった。
一番奥の間に通されてしばらく待つと、後から静かに入ってきたのは。
「………ケント様?!」
シンシアティ本家の当主、ケントが現れたのに続いて、ロミナス公とスギルト家当主代理のトムルがやって来た。スギルト公は、病のため来れないらしい。
(一体、何が始まると言うんだ………?)
タクは内心落ち着かない。しかも、最後に現れたのは、なんとクリント王子だった。
「皆様、お集まりになりました。」
コダに手を引かれて、最近ではご隠居様と呼ばれるようになったスニヤが着席し、いよいよ緊張感が高まる。
「クリント王子、並びにご重臣の方々、よくお出でくださいました。本来こちらから出向くべきですが、事の重大さを考慮して、我が家にお集まりに頂いたことをお許しください。」
スニヤは、コダに合図した。
「彼をこちらに。」
「………はい。」
しばらくしてコダは静かに、車椅子に乗せられた男を連れて来た。まだ若い青年と呼べる彼は目を閉じていて、意識はないようだ。コダが説明をした。
「この人は、ルラルド村のテニオと言います。数日前、旅の途中、意識を失って倒れている所を助けられました。所持品に、スニヤ様の弟子であるしるしの印形があったので、こちらに連絡が来たのです。しかし、スニヤ様には覚えのない人です。」
不思議に思ったスニヤとコダは印形を調べ、これは、カルシータに残して来た弟子のハタロのものとわかった。
ハタロはカルシータ人で、真面目な良い魔法使いだったので、スニヤはカルシータでの地位や仕事を譲っていた。どうやらテニオは、そのハタロの弟子らしい。ハタロが自分の印形を持たせたと言うことは、何か訳があるのだろう。スニヤは、テニオの意識を回復させてやろうと努めた。
そして、複雑な魔法で、スニヤにしか解いて読むことの出来ないメッセージを、身のうちに隠してあるのを見つけた。解くなり、文字が溢れ出た。
「メッセージの発信者は、当然、ハタロだった。」
スニヤはそのメッセージを読み、あまりの重大さに震えた。テニオが、死んだも同然の事態に追い込まれた、敵の攻撃の激しさも納得だった。
「その内容とは、つまり、ユナ・リアに関するものなのだな?」
クリント王子がそう言うのは、そもそも、テニオがルラルド村のものと言ったことから察してのこと。
ルラルド村とは、現在ユナ・リアが生まれたことで、国中の注目を集めてる場所だった。
クリント王子とミリヤの夫婦には、最初王女となる女の子が、次に待望の王子が誕生していて、今3才になる。ユナ・リアは幸先よく、王子誕生の半年前に生まれ発見された。
ユナ・リアは国の宝、しかしあくまで自然に、手厚く守られる。嫁ぐまで故郷から引き離すことなく、王都側から役人や使用人を送り込んで、成長を見守るのだ。
ルラルド村には、かつてタクとガリルドへの旅をした、ヤーナが責任者として赴いていた。
「そのルラルド村に、とんでもないことが起こりつつある………。捨て置けば、国が転覆することになる。」