英雄物語3 番外②
今でも時々思い出す。私の膝の上で、たどたどしくしゃべる小さな弟の姿。
「姉さん、体調はどう?」
3人目を授かり、つわりで気分の悪いミリヤを、グロサムはしばしば見舞った。
と言うのも、グロサムがそれ程王城に来ているのだ。
即位も間近と噂されるクリント王子が創設した魔法学校が、王城の一部を使っているからで、グロサムはその一期生だ。
リードニスやその周辺諸国では、有能な魔法使いの存在が国の強さに関与する。それで熟練の魔法使いたちは、弟子を育て、途切れることなく魔法使いが国を支えるようにして来た。
クリント王子は新しく学校を作ることで、弟子制度を進化させようとしたのだ。
魔法使いには、使える魔法の得手不得手がある。元々の素質と、教えてくれる師匠の得意分野に左右されるのだ。
コダ程オールマイティーな魔法使いは滅多にいない。どうしても、教え方にはバラツキができる。
学校を作ることで、教師となる魔法使いたちが不足を補い合えば、良い成果が次世代に継承されていくだろう。
グロサムは14才になった。声変わりし始め、男らしさと少年っぽさが同居している状態で、ミリヤにはかけがえのない可愛い弟だ。
一期生に選ばれたのは、超有能な子どもたち。グロサムも有能なのはわかる。
でも正直、あまり早く成長してほしくない。どこかミリヤの手の届かない所へ、飛んで行ってしまいそうで嫌なのだ。
「ありがとう。今日は、少しましかな。」
「これ、キナからだよ。ハーブティーだってさ。」
「わあ、ありがとう。」
それでもグロサムはやっぱり、雄々しく成長して行くのだろう。私にできるのは、見守るぐらいのこと。
願わくば。
グロサムの魔法で、グロサム自身も幸せになりますように………。




