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第十一章 突入

「こんな魔法、どこで覚えた?」


コダに続いて、セナも頭を抱えた。


「お祖母様の蔵書の魔法書から、自分で学びました。」


アイナは、諦めてなかったのだ。初めはグロサムの荷物に紛れ込むつもりで、必死に練習したが、習得する前にグロサムは行ってしまった。その後、ようやくできるようになり、うちに来たタクにくっついてみたところ、セナとの会話を聞いてしまい、事情の大筋を知ってしまったという。


何という失態。


「仕方ないですよ、邪心のない者はわかりにくいんです………。」


コダがフォローしてくれた。


アイナは、アイナなりに真剣だった。グロサムを守りたい、兄弟で力を合わせて戦いたい、その一心だった。


もう一度、空間移動する力はコダになかった。クリント王子の命令に背いて申し訳ないが、作戦を続行することにした。ただ、ヤーナに部屋を借りて、セナは自分の防護服をアイナに着させた。アイナは拒めないと悟って、少し大きめの防護服を着用した。


「今から、二手に分かれる。俺とタク、アシトル、ワミナ、シロト、サノとロウは、ニトラ・ヨリクガの潜伏先にむ向かう。2人とも拘束して牢獄に入れるが、やもう得ない時は斬っても良しとする。」


息子の前で、この話しをするだけで辛いのだ。


「アイナとキリル、グロサムはこの館で待機だ。ヤーナと、今は戦えないコダを、万一の場合守ってくれ。」


アイナは父と行きたかったが、グロサムと共に行けないのはわかってた。承知するしかない。


「ご武運を祈ります。ロウ、頼みますよ。」


ロウはもちろん、コダの期待に応えたい。恐れる気持ちはない、これから先は自分が率先して魔法を使い、剣士たちは存分に働いてもらおう。


「はい、行って参ります。」 


完全に夜が更けてから、実行した。夜道をすばやく移動する。よく鍛えた者たちだ、誰も遅れず目的地に着いた。


ムロダ家の別荘は、静かだった。裏口から侵入することにする。簡単な鍵は、ロウに解除された。


キィ………。


音は最小限で、全員入れた。


すぐに、台所。隣は応接室のようだ。


「3人、います。」


酒を飲んでいた若者たちは、2人が気絶させられ、拘束された。残る1人はロウに術をかけられ、反抗できなくなった。


「ニトラとヨリクガの部屋を教えろ。」


「くっ………、ニトラさんは1階の奥、ヨリクガさんは2階の階段の左だ………。」


「他に、誰かいないか?」


「離れにたくさん………10人程………。」


別荘の横に、使用人用の離れがあった。そこでクーデターに備えて、村人を訓練させているのだ。10人を気絶させ、拘束するには、手がかかりそうだ。セナが指示した。


「離れにシロト、アシトル、ワミナが行ってくれ。タクとロウは2階のヨリクガ、俺とサノでニトラだ。5分後、一斉に攻撃する。」


セナと行動するサノは、スギルト家の人間だ。トムルに鍛えられ、無口だが頼りになる。


1階の奥の部屋へ、足音をさせずに近づく。微かに漏れる灯り、ニトラは起きている。タイミングを見計らって、ドアに手をかけ………。


「誰だ!?」


ニトラに気づかれた。奴は、完全に油断してはいなかった。すぐに剣を手に取る。


「俺は、セナ・シンシアティだ。逆賊ニトラ、貴様を捕縛する。」


言い切る前に、ニトラが斬りかかってきた。サノが応戦する。セナも、連携して戦った。

 

ニトラは、怒りや恨みを原動力に、剣の力をつけたようだ。戦いはしばらく続いた。しかし、セナとサノにジリジリと押されていった。


ガシャーン!


ニトラの手から、剣が落ちた。胴と足腰を打たれ、ニトラはうずくまる。


「勝負、あったな。」


ニトラとヨリクガ用には、コダが特別な拘束具を準備してくれていた。魔力も封じる、強力なやつだ。それでニトラを拘束出来た。ニトラは、汚い罵り言葉を吐き続けた。


しかし、サノがふと気づいた。微かに、火薬の匂いがする!


「セナ様、危ない!」


サノが渾身の力で、セナを押し出すのと同時に、ニトラの体は爆発した。家を吹き飛ばす程ではなかったが、部屋中に爆風が充満した。


「サノ!!」


パラパラ、天井から破片が降ってくる中、セナはサノを見つけ、担いで部屋を出た。サノは、咄嗟に頭を抱え込み、体は防護服で守られていた。いのちに別状なさそうだ。


爆音に驚き、タクとロウが駆けつけた。3人でサノの応急処置をする。


「ニトラは?」


タクの問に、セナは首を降って答えた。間違いなく、絶命している。


それにしても。


「おい、ヨリクガは?」


「あっ!!!」


タクのみならず、冷静なロウが焦って答えた。ヨリクガは、いなかったのだ。


実は最初、ロウが鍵を開けた時、ヨリクガに気づかれていた。そして見事に逃げられていた。ヨリクガは、タミアを人質に取ろうとするだろうが、生憎、タミアはもういない。今頃、悔しがっているだろう。


「いや、待てよ。おいロウ、お前だったらどう考える?タミアが避難出来る場所、何処だと思う?」


「それは、やはり、王直属のヤーナ様の所………、ああっ!」


ヤーナの館が急襲される可能性がある。もたもたしてはいられない。

 

離れに向かった3人も、仕事を終えて来た。急いでとって返すことにする。


ゴソッ。


この時、もう少し冷静だったら、物陰に隠れていた使用人の男に誰かが気づいただろう。しかし、焦りが感覚を鈍らせた。


ムロダ家の使用人だった。ヨリクガ脱出の際、銃を渡されていた。


『リーダーの男を狙え。必ず、頭を撃つんだ。』


男は、正しくリーダーたるセナを把握した。後ろから、頭を狙い定める………。

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