第十章 もう1人
コダは小さなタミアが怖がらないように、ふんわりとしたワンピースを着て現れた。大人たちには、天女が降りてきたように見えたようだ。
「初めまして、コダと言います。あなたが、タミアちゃんですか?」
「はい………。」
タミアの目にも、きれいな魔法使いさんだったようだ。
コダの指示で簡単な旅準備をして、2人ずつ空間移動で村を脱出することになった。まずタミアと母リラが、コダと手をしっかりとつなぐ。
「安全な場所って、どこなんですか?」
リラの問いに、コダは微笑む。
「リードニス国内ですが、特別な場所ですよ。邪悪なものは、決して入り込むことはできません。そこに、このキリルくんのお母さんが待ってて、誘導してくれます。」
キリルの顔が、ぱっと明るくなった。
「わかった、カムリファスの園だね。」
タウロタのいるあの場所なら、特にニトラは、絶対に入れない。ルルとタナルが、天幕の家を準備してくれてると言う。
「では、参りましょう。お2人とも私の手をしっかり握っててください。」
次の瞬間、3人は消えてしまった。待つこと数分、再びコダが現れる。女性から先に2人ずつ、8人全員を送るのに計4回空間移動をして、コダは一度スニヤの元に帰った。魔力の消耗が激しく休養せねばならない。
タミアの家であるが、家族は誰もいなくなってしまった。
「じゃ、我々は帰らせていただきます。ああ、いえ、お見送りは結構です。」
ヤーナの、別れの挨拶の芝居は少しわざとらしかったが、仕方ない。外からカチリと魔法で鍵をかけ、3人は帰った。
グロサムとキリルも疲れたので、夕食まで休んだ。体力を回復させ、この後の計画でも役に立ちたかった。
安全のためにと、2人が着るための防護服も、グロサムの荷物に巧みに隠してあった。スニヤの手紙で指示されてたので、この段階で着用した。薄いが丈夫な革製の防護服、タクの身を守ったことを、キリルは覚えていた。
夕食の頃、1人の男が静かにやって来た。グロサムはよく知っている、コダの弟子のロウだ。慌ただしく食事を済ませ、今度はいよいよ剣士たちがやって来るのを待った。
剣士たちは、セナとタクはもちろん、シロト、ワミナ、サノ、アシトルと言う名の、本当に強く魔法も使える者たちを厳選して計6人、まずはセナの屋敷の庭に集合した。そこにスニヤとコダが到着した。コダが、やはり2人ずつ手をつなぎ、空間移動をする。スニヤの後押しがある分、少し楽だった。
最初にセナとワミナがヤーナの屋敷に来た。続いてシロトとサノ、最後はタクとアシトルだ。
「父さん!」
「グロサム、元気そうだな。」
「タクさん。」
「キリル、大丈夫か?」
感動の再会の最中、流石に力尽きたコダが崩れる。1日に空間移動をこんなにするのは初めてだった。ヤーナが寝室にどうぞと促した。
「いや………、その前に………、何か変です。2人を運んだ感じじゃない………。」
コダはしきりに首をひねっている。そしていきなり、頭をかかえてしまった。
「あーっ!タクさん、そのポケットの中は、何ですか?」
「えっ?」
慌ててタクはポケットに手を入れた。すると、何やら小さな人形があった。コダは、パチンと指を鳴らして、かかってた魔法を解いた。
「あ~っ!」
「わっ、わっ?!」
人形は、くるくると回ってボンッと弾け、もう1人の剣士が現れた。
静かに、と言われていた現場に、押し殺した悲鳴が響き渡った。
「ア、アイナ!?」
人形に化けて、タクと共にやって来たのは、セナ・シンシアティ家の長男アイナだった。




