表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいねーたのせなたにのう  作者: とぽけっと
3/10

6歳だから仕方ない

 麦畑から強く吹いた風で音が消えていた。


 急に後ろから腰あたりに衝撃を受けた。

「うにゃひゃぁ」

 さっきの寂しさのせいで驚きのすぎて変な声がでた。倒れそうになったのを何とか耐えて腰をみるとリーネちゃんがしがみついていた。リーネちゃんはボクの顔をみて寂しそうに

「セイちゃ、おんぶー」

 なんておねだりをされた。あまりの可愛さにボクの心の何かが止まった。前を向いてスッとしゃがんでリーネちゃん地面に降ろして、さらにしゃがんでリーネちゃんが背中に乗りやすくする、リーネちゃんは背中に「えいっ」って可愛い掛け声で飛びついて腕を首に回してしがみつく、バスケットを右手に持って左手をリーネちゃんが座れるように後ろに回して立ち上がる、後ろから「えへへへへ」って楽しそうな声が聞こえてきてボクはゆっくり歩き出した。右手だけでバスケットを持つのはつらいけれど、左手と背中に温かさを感じて右手なんてもうどうでもいい。

「ごめんなセイくん、うちのリーネが」

 3歩も歩かない内に背中の温かさは消えた。首を締め付けていた柔らかい感触が消えた。え・・・・?混乱したまま振り返る。

「りーねちゃ・・・・」

「何でお前はそんな世界の終わりみたいな顔をしてるんだ」

 ライキがボクの頭を軽く叩く。『世界の終わり』かいい事を言うなライキ、世界の終わりって何だろう?

「どうしたのセイくん、大丈夫?」

 ボクからリーネちゃんを奪ったオトコが話しかけてきた。カエシテヨ・・・

「セイの目が本当にやばいな!」

 ライキに肩を揺らされる。揺らすな~、く~び~が~。肩から手が離れても目の前が揺れている、右手がなにか重い、ああバスケットか、すっごく重たい、すぐに左手で支える。

「セイくん、本当に大丈夫かい?カゴ持ってあげようか?」

 顔を上げるとリーネちゃんを抱えたライキのお父さんがいた、あっライキもいる。

「あっライキ居たんだ、みたいな顔すんなよ、居たよ。どうした、ぼ~として」

 ライキに心配されてる。なんでだったかな?

「何かとっても幸せなことがあって、すぐに幸せじゃなくなって・・・なんかそんな感じで?」

「あー、よくわからんが」

 なんだろう何かとても幸せだった気がするんだけど?

「父さん、リーネ貸して」

 ライキがライキのお父さんからリーネちゃんを受け取る。いいな~ボクも抱っこしたいな。

「セイ、父さんにカゴを持ってもらって」

 バスケットは重いけど自分で運びたいし

「ああそういうことか、セイくん貸して、おじさんが持ってあげるよ」

「大丈夫です、自分で運べます」

「ほらいいからいいから、アベルには及ばないけどおじさんも力持ちなんだよ」

 そう言うとライキのお父さんはバスケットの持つところの横を持つとそのまま持ち上げて持ってくれた。

「セイくんたまにはおじさんにも甘えてよ」

 笑顔でボクの頭をポンポンする。うーん、まいっか腕が軽くなったし

「じゃあセイはリーネをおんぶしてくれ」

 え?振り返る間もなく背中にリーネちゃんを乗せられる。

「せーちゃ、ぎゅ」

 首に腕を回されて首を絞められる、でも3歳になったばかりの女の子の力で絞められても苦しくない。ぷにぷにで気持ちいいぐらい。おっとリーネちゃんが落ちないように手を後ろにして支える。

「リーネちゃん」

「せいちゃ」

 うへへ、リーネちゃんは本当にかわいいな~、あぁ幸せだな〜・・・あれさっきもこんな

「セイは本当にリーネ好きだな」

「リーネちゃんを可愛いし、懐いてくれてるから大好き」

 ライキは呆れた顔をしてるけど、どこか誇らしそうで嬉しそう。

「そうだよね~、うちのリーネは超可愛いよね、街に行ってもリーネ以上に可愛い子いないからね!世界一可愛いと父さんは思う!」

 ライキのお父さんは拳を握りしめて真剣な顔で本当に真剣な顔で言っていた、これが『オトコの顔』ってものかな?ところで

「ライキ、世界一って何?」

「世界一って言うのは世界で一番って意味だな」

「世界って?」

「世界か・・・」

 ライキが世界について考え始めた。世界ってなんだろう?村とか街とかかな?

 う~ん、とライキが考えてるとライキのお父さんが

「世界って言うのはね、人は集まった所が村、村をデカくしたのが町、町を大きくしたのは都市、都市を大きくしたのが国、国が有るとこが大陸、大陸を全部合わしたのが世界さ」

「へー、そうなんだ」「そうなんですね」

 ライキ知らなかったんだ。村より大きいってどんなのかわからないのに、もっともっと大きい所があるってもっとわからない。じゃあ森はなんなんだろう?

「父さん大陸って?」

「大陸か~、あー、大陸ってのはこの地面の事だ、この地面がずーと続いていて、山を越えて街を越えてまた山を越えて森を越えてもっともっと先に海っていうものがあるそこまでが大陸、海って言うのは大きな川だ、すごく大きいらしくてな川の先が見えないみたいでな、まあでも先があってそれがこことは違う地面、大陸だ」

「想像できん」

 ライキと一緒、まったくそーぞーできない。それが全部集まって世界・・・

「リーネちゃんすごいね、世界一だって」

 あれ?反応がない、あっ寝息が聞こえる。くーくー言ってる可愛い!

「リーネ寝てるな、セイ代わろうか?」

「大丈夫もうちょっとで着くから最後まで背おわせて」

 もうちょっとで着く解体小屋に結構人が集まっていて、なんだかちょっと嬉しくなる。

「リーネちゃんは世界一可愛いんですよね?」

「ああそうさ、うちのリーネは世界で一番可愛いのさ」

 ライキのお父さんはすごくいい笑顔でリーネちゃんの頭をなでながら言う、ライキもうなづいてる。


「じゃあ、ライカちゃんは?」


 ちょっと歩いて返事がないので振り返ると、ライキとライキのお父さんの足が止まっていた、と言うか全体的に止まっていた。えっ何で止まってるの?少しのあいだ待って様子を見ているとライキのお父さんの目がすごい速さでみぎひだりへと動いている。ライキはこっちの方を見て面白いものを見つけたって顔になった。

「じゃあ母さんは何番目なんだろう?」

 くくくって笑いをこらえながらライキは聞く。リンさんは可愛くはないと思う、かっこいいし

「え?母さん?リンかい?」

「私がなんだって?何であなた達そんなところで立ち止まってるんだ?」

 リンさんとライカちゃんだ、木の板と石筆を持ってないから「セイタイチョウサ」は終わったのかな?

「なにか話してたの?」

「ライカ、父さんが母さんより可愛い子がいるって言っててな、母さんは何番目って聞いてたんだよ」

「ライキそれは「ヘー、私よりねー。私は何番目なのかしらねー」

 リンさんの顔は笑顔だけどなにか怖い。ライキのお父さんはすごく慌ててる。

「な、何言ってるんだリンが一番可愛いに決まってるじゃないか、当たり前じゃないか」

「え?でもさっきは一番は」

 ライキに口を塞がれた。

「そうだよなセイ、さっきと言ってる事違うよな」

「だそうだけどラトイル、あなたまさか街に商売に行く目的はそう言う事だったのね」

 リンさんはもう笑顔ではない、眉毛の間の皺がとても怖いです。

「違うごかい・・・「父さんサイテー」

 ライカちゃんはラトイルさんから顔を逸らして嫌いを込めて呟くように言う。

「違うんだ誤解があって、やましい事はなにもない、してない」

「やましい事があるからライキとセイに言って少しでも心を軽くしようとしてたんじゃない?」

「「トウサンサイテー」」

 ライキとライカちゃんが同時に言う。あれ?ライカちゃん笑ってる?

「セイこれが修羅場ってやつだ」

 ライキが小声で教えてくれる。シュラバ、男が女に追い詰められる事でいいのかな?

「なんだセイ、そこで何やってるんだ?」

 お父さんが手を布で拭きながらこっちに歩いてきた。こっちのこの状況を見てすぐになるほどって顔になって

「なんだ、ラトイルまた何かやらかしたのか」

「またってなん「この人街に他に女作ってたのよ!」

 え?そうだったの?

「「トウサンサイテー」」

 また揃ってる、どうして二人とも違う方に首を向けて合わせられるんだろう。

「違うんだ!本当に誤解で!お前ならわかってくれるだろアベル!」

 すごく慌ててる、さっきまでなんでも答えてくれてカッコよかったのにヤマシイコトがあると人は慌てるんだな、ボクはヤマシイコトしないようにしよう。ヤマシイコトは誰に聞いたらいいかな?村長かな

「ああ分かってるよ、お前昔かそういう奴だったからな」

「昔からってなんだよ!浮気なんかしてないよ」

「分かってるって言ってるだろ、お前は昔から慌て始めたら、からかわれてる事に気付かないからな」

「え?」

 やっぱりからかわれてたんだ、見てて嫌な気持ちにならなかったし。ライキ達ずっと笑ってたし、今吹き出して爆笑してるし

「からかわれ「バカだねアンタは、ラトイル別に私はあなたに一番可愛いなんて思われなくてもいい、一番好きでいてくれたらそれでいいよ」

 リンさんカッコいい!ボクもお父さんに言いわれたいな!

 ライキとライカちゃんがの目もキラキラしてる。ライカちゃんはお母さんみたいにカッコいい女性になりたいのは知ってたけど、ライキもお母さんに憧れていたんだ。男の子はお父さんを好きになるんじゃないんだ。

「じゃあセイ行くか、この空気の中に居たくない」

 お父さんが小屋に行こうと言うがバスケットがラトイルさん持ってるし、指でラトイルさんを指す。お父さんが指の先を見て「ああ」っていうと、言葉も出ないぐらい泣いてるラトイルさんの方に行き

「ラトイルバスケットくれ」

 返事も待たずに奪い取った。顔すら上げずに気づいた様子もなく泣いてる。

 お父さんはリンさんと目を合わせて首を何回か振るとリンさんが片腕を上げる。

「セイ行くぞ、ライキ、セイを離してやってくれ」

 やっと口からライキの手がなくなった。さて小屋に行くぞ~

「お父さん早く小屋に行こう」

 早く小屋に行こう~♪

「セイ、リーネを置いてけ」

 ちぇ・・・バレたか、もうちょっとおんぶしてたかったな~

「ライキ、リーネちゃん寝てるし今起こすと可哀想だよ」

 粘ってみる。ボクからこの温かさをとらないで!

「ソイリスに見つかると泣かれるぞ」

「ライキ起こさないようにそーっとね」

「セイどんだけなのよ・・・」

 ライカちゃんに呆れられる、泣いたソイちゃんは面倒臭い!最近パンチも重くなったし・・・、昼間はなんとかなったけど暴れる暴れる。


「ほらセイ、行くぞ~」

 お父さんの横まで走る。

「昼も思ったけど、セイ走るの早くなったな」

「えへへ」

 嬉しくなってその場でくるくる回る。お父さんに褒めてもらえるのはすごく嬉しい。

「ちょっとセイ後ろ向いてみ」

「え?こう?」

 え?なんだろう、なにかしてくれるのかな?肩車かな?ワクワク

「背中にヨダレついてるぞ、セイきったねー」

 え!?ちょっ!期待してたのじゃない!

「リーネちゃんのヨダレだから汚くない!」

「えー汚いと思うけどなー、セイきったねー」

 お父さんはそう言うと走って逃げ出した。

「汚くないよ!」

 ボクはすぐに追いかける。汚くないって言ってるのに!もう!

 ボクは全力で走っても、バスケットを持ったお父さんには追いつけない。全然追いつけない。

 お父さんはすぐに小屋についた、ボクはそのままお父さんに向かって走って飛びつく、お父さんはバスケットを持ってない手でボクを受け止めて持ち上げる。

「冗談だよセイ、背中にヨダレなんか付いてないよ。だから泣くなよ」

「だいでだい!」

 もう、なんで涙が出て来るんだよ!わけわかんない!

「いや、な「だいでだい!」

 お父さんの肩に顔を押しつけて涙を拭く、ううって口から出るけど気のせい!肩震えてるけど気のせい!

 お父さんはボクを抱っこしたまま小屋に入る、小屋の中は明るくて何人か人が居る気がする。

「あらアベル、セイちゃんどうしたんだい?」

「転んだのかな?泣いてるみたいだけど」

「だいでだい!」

 ボクが泣いてないって言うと小屋の中が笑い声があふれた。恥ずかしくて顔をあげられない。

「あははは、そっか泣いてないよね、あふふふ」

「ははは・・セイちゃんはないでないにょね・・・ズズズッ」

「なんでアンタも泣いてるんだい」

「ぼらいなぎで~」

「もらい泣きね、ほんとアンタは」

 また、笑い声が溢れる。お父さんの服の隙間から泣いてる人を見るとやっぱり村長の奥さんだった。あの人は子供達がみんなで勉強してるだけで泣いてるからちょっと面白い人。あれ?涙出なくなった・・・なんでだろう。よくわかんない・・・

「セイ、もう大丈夫か?おろすな」

「うん」

 お父さんの肩から顔をあげてまだ残ってる涙を裾で拭く。お父さんが椅子に座らせてくれる。

「セイちゃんの泣いてる顔すごく可愛いわね」

「ほんとセイちゃんすっごく可愛い」

「涙で潤んだ瞳、垂れた目尻、擦って赤くなった目元、本当に可愛いわね」

 ボクが泣いてたのにお母様方は可愛い可愛いって撫で回してくる、正直可愛いって言われるのは苦手だけど、お父さんが言ってたみたいに可愛いって言ってくれる人はみんな笑顔で、やっぱり可愛いって人を笑顔にするみたい。ちょっと可愛いって言われるのが好きになったかも。

「さて皆さん、うちのセイが可愛いのは分かりましたから肉の切り分けしましょう」

 今この小屋の中には6人のお母様方がいる、6コの家族しか村にいないという事ではなくて、解体小屋を建てた頃は全部のお母様が来てたみたいだけど、いつの間にか何家族かで代表決めて来るようになったみたい。ボクが小屋に来るようになってた時にはもう6人ぐらいだったはず。だぶん

「そうね、ちゃっちゃとやって晩御飯作らなきゃいけないしね」

「スープの具増えそうで子供も喜ぶわ」

「でも、これトカゲなんでしょ食べられるの?」

 トカゲの中には毒があって食べられないのもいる、一度村全体で腹痛になった時があった、村長が「腹痛で済んでよかったな」って言って村の人全員無事か一軒一軒確かめに周ってた。お父さんがすごく落ち込んでてリンさんと一緒に謝りに行っていたのは覚えてる。そういえばあの時ボクは腹痛になってなかった。

「そうです、魔物図鑑には毒はないって書いていたのですが、毒沼に居た可能性があるので今アトーレが確認しています」

「確認って、ああいつものね」

「おいアベル、あの肉やばいぞ!」

 ちょうど村長が小屋に駆け込んできた。村長の大きい体型でいつもの大きな声で「やばい」って聞くとすごくやばい気がする。

「なんだ美味かったのか」

「おい、言うなよ驚かせたかったのに!」

 入ってきた時の声には驚いたけど、すっごい笑顔だったし毒は無さそうって思った。

「誰が驚くんだよ、あんな満面の笑みで入ってきといて」

「そうだよ、セイちゃんだって分かってたよ」

 うん、と頷く。ああいうのを満面の笑みって言うんだ。それは置いといて村長の奥さんを指さす。

「カリーヌさん泣いてる」

 みんながカリーヌさんを見る。みんなの注目を集めてカリーヌさんは目を両手で隠す、でも泣き止めないみたい。

「カリーヌなんでアンタ泣いてるんだい!?まさか信じたのかい?」

「う、ウチの旦那が小屋に入ってきたのが可愛くて、しかもあの笑顔で『毒あったよ』って言うからかわいくでぼんどうがばいぐで」

「いいからいいからそっちで泣いてなさい、あと『毒あったよ』とは言ってなかったよ」

 カリーヌさんが首振っている、ここに居るみたいだ。可愛いって言われて嬉しそうに照れてる村長の足にお父さんは蹴りを入れて「で?」って聞く、ひどい・・・村長はひどい!お父さんとリンさんさんは毒についてすごく反省してるのにふざけるなんて!心の復讐帳に書いとかなきゃ・・・「そんちょうにおさけあげない」っと

「食べた感じ毒はなさそうだな、爪周りと皮に残ってた肉を炙って食べてみたけど痺れとか違和感もないから大丈夫だ、一応薬も使って調べたから問題なしだ」

 薬で調べたなら食べる必要ないと思うんだけど・・・?

「なるほど毒は無さそうだな、で外が騒がしいのは?」

「肉がうますぎてな!腕肉なんだがうますぎで、柔らかくて、筋肉多いのかそれがプチプチって噛み切れるんだ、脂も少なくて臭くない、『肉』って主張が少ないんだけどそれが塩と合うんだ」

「いい肉じゃないか、本当に美味しそうだな」

「で、今みんなでどういう切り方でどう焼けば美味しいか研究中という名の飲み会を始めたところだ」

 もう、飲んでるんだ。お父さんに早くボクのお酒飲んで欲しいな~

「で、毒あるか報告忘れて今来たと?」

「勘違いするな、余った肉を貰おうかと思ってな」

「よし、もう出てけ、外で飲んでろ」

 お父さんが村長を持ち上げ外に放り投げる。あの大きな村長を持ち上げるなんてお父さんは本当にすごい

「さて奥様方、酔っ払いが来る前に美味しい部分を切り分けましょう」

 村長がこの肉は美味しいって聞いてからお母様方の目が真剣になっている。腕と足は今頃みんなのおつまみだろうし、尻尾と胴体部分だけなんだけど十分多い。子供は危ないからこの輪の中に入っちゃダメ、結構力が要るみたいで勢い余って包丁を振り回す恐れがあるからだって、振り回すのも回される方も嫌だなー

「私も見学させてください」

 ライカちゃんが小屋に入ってきた。ライカちゃんも子供なので参加出来ない。でもリンさんみたいな猟師になりたいから色々勉強中。将来ボクと一緒に森に入ってくれるかな?その時はライカ先輩だね

 ライカちゃんはイスに座らないで、イスの上に立って見ている。

「尻尾は私がやるよ、しかし大きいね」

「私も手伝うよ、アベルこれ半分に切っておくれ」

「わかりました、どの辺ですか?」

「ここを頼むよ」

 お父さんは太い尻尾を簡単に半分に切る。かっこいい

「アベルこっちもデカすぎるから腰のところで切っとくれ」

「腰かー、腰がどのへんか分からないからアバラのしたぐらいでいいですか?」

「ああいいよ、多分ここだ」

 力仕事はお父さんの仕事、なんでも持ててなんでも切れる。

「なんだいこいつ、お尻プリプリじゃないか」

「いいわね、男ウケ良さそうね、半分にきってやろう」

「この子のしっぽのすごくいい出汁取れそうなんだけどプルップルよ」

「ラトイルが言ってた、肌の張りが戻るって貴族で流行ってる奴ね」

「じゃあ売った方が良いのかしら?」

「街に着くまでに腐るでしょ、食べよ食べよ、後で大鍋入れてスープ作りましょ」

「アベルこっちきてアバラ切ってくれる?奥まで刺さずにアバラだけをね」

「無茶を言う、やりますけど」

「冗談よ、奥までいっていいから、でも内肉柔らかくて美味しいんだけなー」

「いっけねー、奥まで切っちゃった!後で俺が処分しときますね」

「「「「あはははは」」」」

「わざとね、ところでリンちゃんは?」

「母さんは父さんの背中さすってた」

「あの子また泣いてたのかい、変わらないね」

「すみませんウチの兄が・・・すびばぜん」

「危ないから泣くんじゃないよ、泣き止むまであっちいってな」

「今の泣く要素あったかい?」

「なんか凄く楽しくて、兄さんも相変わらずでうれじぐで~」

「この子の説明する時だけははっきり喋るわね」

「本当ね」

「「「「あははは」」」」

 小屋の中は笑顔でいっぱいでボクもつられて声を出して笑しまう。お母様方はおしゃべりしてるけど手だけは凄く早い、お父さんも骨から肉を離す作業してる、手は早いんだけど切り残しが多くて怒られてる。もうすぐ終わりそう。

「ねぇ、スープ作るんだったら鍋洗ったほうがいい?」

 ライカちゃんが思い出したように聞いた。前に使ったあと、お父さんが洗ってたけどな~

「そうだね、アベルちょっと鍋おろしておくれ」

「もうちょっと待ってもらえます?今いいところなんで」

 いいところ?結構お肉残ってる気がする。

「何がいいところだよ、反対側取り残しが多いよ。私やるから、アンタは早く鍋取りな、アンタしか降ろせないんだから」

「うわ本当ですね、結構綺麗に出来たと思ったんですけど」

 お父さんは壁際のツボの水で手を洗うと腰につけていた布で丁寧に油を拭き取る。手を綺麗にしたらイスを移動させて椅子の上に立って、頭より上にある2本の棒で作ってある棚(?)から鍋をおろす。ちなみに村長はイス要らない。

「ちょっと砂入ってますね、サビは付いてないです」

「じゃあ洗わないとですね!わたし行ってきますね」

 ライカちゃんの『仕事したい』がでてる、もしかしたら『ヒマ過ぎ』かもだけど

「いやもう暗くなってるし、鍋重たいから水辺は特に危ない、だからオレも行くよ。ライカはランタン持って足下照らしてくれ」

「わかった、ランタン持つね」

 え!?ライカちゃんが行くの?ボクもお父さんと行きたい!

「ボクがランタン持つよ!」

 勢いよく立ち上がる。だけどお父さんは真剣な顔をして

「セイ、お前は酒の死守と良い肉の確保だ。鍋に水汲んでくるからそれから晩御飯食べような」

 お父さんの真剣な目からは「村長から酒を守れ」と聴こえるようだった。

「うん、わかった!」

 勢いよく返事してバスケットを抱えて座り直す。誰にもわたさん!

「ライカ、川で水少し汲んでから村の井戸で鍋洗って水汲みだ」

 予定を伝えながらお父さんとライカちゃんが小屋から出ていく。

「セイちゃんは本当にアベルのこと大好きね」

「うん、お父さんカッコよくてカッコいいから大好き!」

「顔しか取り柄無さそうね・・・」

 優しいとか、強いとか色々あるけど勢いで言っちゃった。

「骨全部取れたし、切り分けていきましょうか」

「美味しい部分欲しいな~、美味しい部分欲しいな~」

 早めに言っておこう。お父さんとの約束だから

「あはははは、分かってるわよ、これぐらいでいい?」

 拳二つ分ぐらいの大きさのお肉を切り分けてくれる。柔らかいって言ってたところだ

「ありがとうございます」

 うちは2人家族だから十分とは言えないけど十分だ。贅沢言ってはいけない。ライカちゃんの家の分は少し硬そうな部分を取り分けられていた。外で飲んでるから手の分手の分とか聞こえた。

「じゃあうちは~」と言いながらお母様方は自分の家用に良い部分を切り取って行く、うちよりでかいけど、その分家族が多いので問題は無い、量がおかしかったらカリーヌさんが注意する。よく泣いてる人だけど村長の奥さんとして言うべき時はハッキリ言う心の強い人。

 その後はご近所家族の分を切り分ける、結構大きい獲物だと思ってたけど村で分けると少なくなるね。肉自体はあんまり食べられないから、少しでもご馳走だ。あれ?ランタン持ったライカちゃんが今走ってったような?今鍋持ったお父さんが走って行った。何やってるんだろう?みずかけないでとか聞こえる、何やってるんだろう!

「ジーロレさんの家の分取られましたか?」

 カリーヌさんがまたこれが始まるのかとちょっと嫌そうだけど笑顔で聞く。

「ジーロレなんて穀潰しには肉なんて勿体無いよ!」

「ですが、村の一員ですので」

 いつも文句を言うお母様をカリーヌさんがなだめる。他のお母様方も意地の悪い顔になって

「そうだね、あの働かない穀潰しには、下手くそなアベルが削いでたこの骨に付いた肉で十分だよ」

 今年の春にジローレさんは屋根の修理をしていて、腐った木を踏んで落ちてしまい、腰と足を骨折してしまったので、今年は麦畑の仕事が出来ないでいた。村と家族に迷惑をかけてると落ち込んで体調も悪くなってるみたい。

「肉の解体にも来ない穀潰しの嫁には、骨盤の裏の見落としてた肉なんてものいいかもね」

 多分奥さんは、ジローレさんの付き添いで来られない。ジローレさんは動けないので家から出れれず働けないって困ってた奥さんに、ラトイルさんが街から受けてきた内職をして働いている。

「あの穀潰しの、息子2人の木偶の棒には、アベルがアバラ切る時に失敗したこの肉でいいね」

 子供2人はボクよりちょっと上ぐらいだけど、ジローレさんの代わりに頑張るって毎朝畑の草むしりを頑張っている。子供が何処にいるかわかっとかないとダメなので村長じいちゃんと一緒にやってる。

「あの穀潰し一家には塊の肉なんて勿体ない、細かく刻んで何の肉かわからなくしてあげましょ」

 みんなで肉を細かく刻み始めた。ダダダダダって音がすごい

「あの子達はちゃんとやってるじゃないか!なんでそこまで言われなきゃなんないんだい!」

 最初に文句を言い出したお母様が怒り出した。

「アンタが最初っから素直に切り分けないからだよ」

「後で自分の家の分から分けるつもりだったんだろ?」

「ジローレの家も村の一員なんだからちゃんと配らないとこの村がダメになるんだよ」

「誰のせいでも無いんだから、みんなで助け合わないとだよ」

 最初に文句言ってたお母様の屋根を直してたのが弟さんのジローレさんで、責任を感じていて、みんなの取り分を分けて貰うのが申し訳なくて、あんな事を言ったのはみんな分かっている。仲良かったのに何回か前から『ゴクツブシに肉は勿体ない』とか言い出して、何かおかしいなって村長がジローレさんの奥さんに聞くとちゃんとお肉が届いてたみたいで、こっそり自分家の分を回してる、っていうのを村の皆に知らせて、村の皆んなが知っていて、今日皆でからかいながら注意する事になる、ってお父さんに聞いていた。ちなみに面白そうだからカリーヌには内緒な、って村長が止めていた。

「あんたら、知ってたのかい」

「多分ジローレも気付いてるから、あんたに負い目を感じて心が弱るんだよ。怪我人を心配させるんじゃないよ」

「ほら肉をを細かく刻んであげたから持って行ってあげてな」

「リンが体が弱ってても食べやすいようにだってさ、家族はやっぱり同じ物を同じ食卓で食べるのが一番さ」

 みんなが手分けして細かく刻んだ肉を集めて、大きな葉っぱに移し、落ちないようにもう一枚葉っぱを使って包む、それをジローレさんのお姉さんに渡す。ジローレさんのお姉さんはどうして良いのか、なんて言って良いのか分からないって顔になっていて動けないでいた。あっ、そうだ!

 ボクは椅子から降りてジローレさんのお姉さん近付くとバスケットからシソを取り出して

「ジローレさんにこれを食べさせてあげてください。お父さんがお肉と一緒に食べるとさっぱりして食べやすくなるって言っていたので」

 ジローレさんのお姉さんに差し出す。ジローレさんのお姉さんがシソを掴んで

「これはシソかい?ありがとねセイちゃん」

 ボクの手からシソが手から離れそうになった時

「早く良くなりますように」

 口から勝手に出てきた。きっとみんなが思っている事だからだと思う。

 ジローレさんのお姉さんの目に涙があふる、そしてそのまま頭を下げて

「みんないい人だね!セイちゃんは凄くいい子だし!村のみんな本当にあだだがぐて~」

 バッって勢いでジローレさんのお姉さんは頭を上げる、その目にはもう涙は無かった。

「なんでアンタが先に言うんだいカリーヌ!驚いて涙どっかいっちまったよ」

 小屋中に笑い声が響いた。小屋の中は分かるんだけど、外からも、しかも近いところからも聞こえる。外で飲んでた人が見にきてたみたいだ。

「カリーヌ、いい時に泣いてたね、狙ったのか」

 リンさんが笑っていた。狙ってたのかな?

「あー良いもの見たわ、喉いてえ」

 お父さんも笑ってた。ライカちゃん、お父さんの足蹴らないで・・・

「がじーどぅ、ぼばべばぶばぶ」

 ラトイルさんは泣いてる。ばぶばぶ?

「うちの嫁は本当に面白いな、ほらジローレに早く届けてあげてくれ、転ばないようにな」

「40前のおばさんを子供扱いするんじゃないよ、みんなありがとうね」

 ジローレさんのお姉さんは頭を下げて出て行く。嬉しそうな笑顔になってる。

「私らも帰ろうかね」

「セイちゃんまた明日ね」

「はい、また明日」

 お母様方が小屋から出て行く、泣いて椅子に座ってる人もいるけど

「私は後で戻ってくるから、一緒にスープ作ろうね」

「はい、また後で」

 手を振ってお別れをしてお父さんの方に駆け寄る。

「お父さん、ライカちゃんに何したの?」

「オレの速さについて来れなくて、拗ねてるんだ」

 えーそんな事でーって目で見ると、ライカちゃんは蹴るのをやめて

「違うそんなんじゃない!」

 えっ!違うの!?お父さん何やったんだろ

「違うわよねー、暗い道に置いてけぼりにされたみたいで、寂しかったのよ」

 リンさんが後ろから抱きしめながら教えてくれる。あー・・・ボクは寂しかったのか・・・笑えない!

「ちっ、違う!そんなんじゃない!」

「げんきになって、げんきになって」

「げんきになって」とライカちゃんの太ももをリーネちゃんが叩きながら何回も言う。周りは一瞬静かになってから大笑がおきた。

「あはははは、そうだねライカ元気になって」

 リンさんが笑いながら片手でリーネちゃんを抱っこして、ライカちゃんの頭をポンポンする。ラトイルさんは泣くのを我慢して変な顔になってる。「げんきになって」とライカちゃんの肩を叩いたライキは地面にうずくまってる。そして、ソイちゃんがボクの背中にいる。

「セイちゃん楽しいね」

「そうだね、みんな面白いね」

 ソイちゃんボクの背中で歌を歌い出した。誰も知らない、ソイちゃんだけの歌を。今日は調子悪そうだ。いい時はいいんだけどね


「セイ、晩御飯にしょうか」

 お父さんが呼んでいる、みんながさっきの騒ぎでいなくなった時に火壺の前を盗ったみたいだ、村長のやつだからいいのかな?

「お父さん、バスケットとお肉、あとソイちゃん」

「ありがとなセイ」

 バスケットとお肉を受け取って

「ソイは大丈夫だ」

 ソイちゃんは受け取ってくれなかった。なんだか首の締めが強くなったような?

「ソイちゃんご飯たべたの?」

「まだだけど、お父さんのお肉分けてもらった」

「そっかー、ボク今からご飯だから降りて欲しいなー」

「はーい」

 すっと降りてくれた、ダメだろうなと思って言ったんだけど簡単に降りてくれた。ライキがなんか言ってくれたのかな?ありがとうライキ!

 お父さんの横に座ると代わりにお父さんが立つ。え?何で?急に寂しくなる。

「パン忘れたから取ってくるな、肉見といてくれ」

 パンは腐りにくいように硬いめに焼いたやつであんまり好きじゃない、なんとか柔らかくて日持ちしないけど直ぐに焼けるようなパンを考えてる、お酒入れてたらボソボソじゃなくなったからちょっと前進してる。今日のは狩りに行くお父さん用に焼いた硬い方のパン、ないよりいいかな・・・かな?

 火壺の上の鉄板にはもう切られた肉がのっていて美味しそうな匂いが出始めていた。肉だけだと寂しいらしいので野菜も焼いておこう、ウユの実を半分に切って・・・これは半分じゃない失敗失敗・・・ウユの実切った方で鉄板の上を滑らせ、色の変わった所に肉を裏返しながら避ける・・・くっついてる・・・、避けた所の焦げをどけて、もう半分のウユの実で油をひく、シシトウとオクラを乗っけて塩をかける。塩とハシは村長のを借りてる・・・本人居ないけど

「ソイは、シシトー嫌いだなー」

 ソイちゃんがボクの肩の上から手を回して背中に体重をかけて抱きついてる。さっきからずっと!

「ソイちゃんは野菜全部嫌いでしょ」

「全部じゃないもん、いちご好きだし」

「そっか、いちごは好きだったね、ごめんね」

 手だけを後ろにもってって、ソイちゃんの頭を撫でて謝る。えへへとかわいい声が聞こえる。

「ソイはそこ好きだなー」

 お父さんが戻ってた。ポンポンとソイちゃんの頭叩いてボクの隣に座る。パンけっこう残ってる

「シシトウとオクラか、ナイスチョイスだな」

「ちょいすって?」

 ナイスは知ってるけどちょいすがわかんない。

「あーどこの言葉がわからないんだが、あー・・・『見立て』って意味で使うと思う」

 なるほど、ミタテかー、なるほどなるほど

「アベル、ミタテってなーに?」

 ソイちゃんが聞いてくれる。

「アベルじゃないだろソイ、アベル様だろ」

 ソイちゃんの頭を撫でながら『様』を付けろと教えるお父さんカッコいい!

「言葉にするのは難しいけど『見て選ぶ』的な意味で使ってるな」

「そうなんだ」

 ボクは頷いた。ソイちゃんは興味をなくしていて歌を歌ってる、自由だなー

「お父さん、アバラの肉とシソをジローレさん家に渡したんだけど・・・」

大丈夫?って目で聞いてみた。

「大丈夫だ、もし食べたくなったらアトーレに取りに行かすさ。ほい、セイ先食べな」

 お父さんは出来るだけ薄めに切ったパンに、お肉を乗っけて渡してくれた。食べたかったけど口の中が乾いていて食べられない、バスケットから皿を取り出しているのをお父さんが見て

「すまん、飲み物いるよな」

 バスケットからコップをを出してさっき水を汲んできた鍋に水を汲みに行ってくれる、お父さんが水を汲んでくれてる間にお酒とお酒用のコップをだす。お酒用のコップは木ではなくて陶器でできている。香りが全然違うくて美味しくなるらしい。美味しく無い酒は木コップで飲んだ方が臭いが混ざって何故か美味しくなるとか。陶器のコップで飲んでくれてるので、ボクのお酒は認められている。

「はいよ」

 戻ってきたお父さんは座りながらコップを渡してくれる。

「ありがとう、はい、お父さんコップ」

 お父さんにお酒用コップを渡す、お父さんに貰ったコップの水を一口飲んで地面に置いて、お酒の蓋を開ける。

「お、今日のはいつも以上に香りがいいな!」

 お父さんが嬉しそうに褒めてくれる、お父さんのコップにお酒を注ごうとすると

「ソイもそれを飲むー」

 お酒の臭いが届いたのかソイちゃんはボクの肩をゆらしながらおねだりをしてくる。注げない邪魔だなー

「後でね、揺らすとどんどん遅くなるよ」

 揺れが止まった、その間にお酒を注ぐ。

「凄いなセイ、酸っぱさが無くなって美味しくなってるよ」

 一口飲んで、美味しいと褒めてながら頭を撫でてくれる。嬉しいなー、きっと今のボクは満面の笑みってやつだと思う。お父さんのほうから「ひぃ」と聞こえた気が

「おっと、肉がこげる」

 お父さんは肉を自分の皿に移して、他の野菜をひっくり返している。さっきから肩に早く飲みたいって揺らしソイちゃんにボクの水の入ったコップにお酒を少し入れてスプーンで少し混ぜて渡す、子供は薄めて飲まないと吐いてしまう

「はいどうぞ、飲み過ぎたらダメだよ」

 隣にソイちゃんを座らせてから渡す。お父さんも見てるから大丈夫だと思うけどちょっと心配。

「セイちゃん、これすっごくおいしい!」

「そう?ありがとう」

 ソイちゃんが褒めてくれる、お酒臭いとか言われると思ってた。あっパン食べられた

「ソイちゃん、それボクのパンなんだけど」

 ソイちゃんはコップとパンを持ったまま、寝転んでボクのひざに頭を乗っけてくる。ああっ、こぼれるこぼれる

「ソイはもうダメだな」

 ソイちゃんは寝転んだまま黙って、パンと水を順番に食べてる。取り敢えず頭をなでとこ、よしよし

「はい、お父さんお酒どうぞ」

「ありがとうなセイ」

 お父さんのコップにお酒を注ぐ。左手でソイちゃんの頭をなでながらうすしおオクラを食べる、手のひらと同じ長さぐらい大きく育って、タベゴタエがある。喉かわいたなー

「ソイちゃんコップ返してね」

 ソイちゃんはもう寝てるのでこっそり取り返す、代わりに食べかけのオクラを口につっこむ。おお、美味しそうに食べてる。頭なでなで

「寝てたら嫌いなもの食べれるだ」

 後ろから声をかけられてドキッとなる。振り返って見てみるとソイちゃんのお母さんだった。

「ごめんねセイちゃんうちの子が、水汲んで来てあげようか」

「ありがとうございます」

 こういう時は子供は遠慮してはいけない、らしい。甘えてくれないと寂しいと言うか悲しいみたい。

「ごめんなセイちゃん、ソイリス連れてくな」

 ソイちゃんのお父さんが、ソイちゃんを抱っこして持ち上げる。「おっも」とか聞こえたのは気のせいじゃないと思う。

「ソイはふっくらしていて可愛いな」

 お父さんがソイちゃんを褒める、ボクもふっくらした方が良いのかな?ボクも・・・

「だろ、うちの子可愛いだろ、ただ持ち上げるのが大変だけどッタ」

 笑ってたソイちゃんのお父さんは頭の後ろを叩かれた。最近お父さんが抱っこしてくれないのは重くなったからかな?ふっくらはなしで

「はい、セイちゃんお水ね」

「ありがとうございます」

 水を受け取る。ソイちゃんのお母さんはもう一度旦那さんの頭を叩いて自分のところの火壺に戻って行く。

 お父さんのコップにお酒を注いで自分のコップにも少し注ぐ。お父さんはまたパンを薄く切ってくれてそこに肉を乗せて渡してくれる。いただきます

「おお、セイくん晩御飯か、おいちゃんお腹空いたから分けて欲しいなー」

 ええー、まだ一口も食べてないのに、でもお腹空いてるなら上げた方が

「はいどうぞ、ボクさっき食べたのでよかったら食べてください」

 ボクはパンを差し出す。おいちゃんは困った顔して受け取ろうとして手を伸ばしてきたんだけど、後ろからきた娘さんに足を思いっきり蹴られて地面に転がる。すっごく綺麗な音がしたなー

「ごめんねセイちゃん、このおっさん酔っ払ってて、さっき食べたの忘れてるのよ」

 娘さんはボクの頭を撫でてソイちゃん家の火壺のところへ行く。火壺は仲のいい家族で共有する、炭とか節約の為だ。

 今度こそパンを食べる、お肉は間違いなく美味しいんだけどパンがお肉をダメにする、お肉の油をパンが吸って柔らかくなって食べやすくなる、とか思ってたけどこのお肉は油があんまり出ない、軟らかく匂いや味が薄いので塩をかけると塩の美味しいところがでて凄く美味しいんだけど、パンがパサパサでおいしさがパサパサに

「パン美味しくないな!」

「パンがダメだね!」

 パンをなんとかしないと。さっきからお父さんが頭撫でてくる、うへへ

「そんなアベル親子に朗報だ」

 ラトイルさんが後ろから話しかけてきた、ライキも一緒にいる。ダイルランナーの素材を売るために余計な肉と脂の削ぎ落としが終わったみたい

「なんだ?スープでもくれるのか」

 ラトイルさん達はスープ持ってなさそうだけど?

「いやいや、硬いパンを美味しく食べる方法だ」

 おおー、これで残った硬いパンも食べられる。スープに入れたら美味しく食べられるんだけどね

「お?これで狩りに行った時も美味しくパンが食べられるのか」

「スマン、火が要るから無理だ」

 見てわかるぐらいがっかりしてる。興味は無くさないで

「ラトイルさん、ボクでも作れますか?」

 お父さんの為に作ってあげたい!うそ!自分のため!うそでもない!お父さんにも作ってあげたい!

「パンを薄く切らないとダメだから。できる?」

「台と包丁があればできます」

 今日は両方ないけど、お父さんがいる。はい、お父さんパンどうぞ

「どれぐらいの厚さだ?」

 渡しただけで切ってくれるお父さん大好き

「ギルドの酒場で飲んでる傭兵に聞いただけだからな、カリカリにしたいなら薄めに、外はカリっと中はふんわりにしたいならちょっと厚めにだってさ、どのくらいかは分からないな」

「作りやすいのはどっちですか?」

 切る厚さが分からないなら、作りやすい方から試していけばいい!らしい

「カリカリの方だろうな一手間すくないから」

「じゃあ薄めだな、これくらいかな」

 お父さんは薄いパンを4枚作ると皿に置く。キレイな皿だよ

「一通り説明すると、薄いパンにウユの実の果汁を塗って、鉄板じゃなく直で火で炙って、塩かけて食べる」

 うわ~どうなるんだろう。カゴからウユの実を取り出して半分に切ってパンに塗る。4枚とも

「セイくん裏面にもね」

 ひっくり返してね、ウユの実のもう半分を塗っていく。

「アベルさんちょっと飲ませてよ」

「ガキはセイの方飲んでろ」

 ぬーりぬーり。「セイの方飲んでろ」とか言いながならコップを渡すお父さんは優しい

「終わりまし「うっま!甘い!」

「ほんとかライキ!アベル、オレにもくれ!」

「ちょっとだけだぞ、お前泣き上戸なんだから」

 おわったよー。けどお酒の感想聞きたいから黙っとこ。炙るだけだしね

「おお!これは美味しい!酸味や渋みがなく、いろんな果物を使ってるがそれが濃さにならず、こういう果物の果汁だと言わんばかりのまとまり感、『甘い』も渋み酸味青臭さが抜けただけの程よい甘さ、これは料理を邪魔しない。後からほどよくくる酒精のほのかな匂いはお酒を飲んでると言うちょっと大人のかっこよさを忘れさせないいい感じで、なんていいお酒なんだ!売れる!きっと高く売れる!」

 おお、凄く褒めてくれる。褒めてくれたお礼に塩をふって

「ありがとうございます、これ食べてください」

「おおセイくんありがとう、今度お酒売らない?」

 ラトイルさんからサクサク音がする。お酒を売るかー、売れたらいいなー

「うう、苦いーこれはダメだ・・・」

 あーダメだったか・・・ちょっと(?)黒かったからね

「セイこれはいい感じで出来てたぞ」

 お父さんが焼いてたパンを塩を振ってから渡してくれる。サクサク、あっつい、サクサク、あちち

「サクサクして、塩はちょっと濃かったけど美味しかった」

 ボクもいい感じに黒くなる手前のパンに塩をかけてライキに渡す。今度はちょっとマシなはず

「ありがとう、ちょっと黒くないか?」

 水を飲んでるので聞こえません。なにこの水美味しい、お酒が入ってるのかな?

「あー、サクサクと言うよりポリポリかな、不味くはないな」

「じゃあこのぐらいかな。あっつ!あーでも美味しいなサクサクだ」

 ポリポリも美味しそうだな。今度やってみよ

「残りはふんわりした方だな、やり方は?」

「パンの1面を残してウユ果汁を塗って、余った面に水を少し垂らして、その面をウユ果汁で塗って炙るんだってさ」

 お父さんがパンを渡してくるのを受け取って、ウユ果汁を搾りながら塗る。もうウユの実が無い

「セイは何やってるんだ?」

「ライキ、なんでふらふら揺れてんの?」

 村長と村長じいちゃんが村の方から、ライカちゃんとリンさんとリーネちゃんは小屋の方から歩いてきた。村長は奥さんを家に送り、肉を配ってお酒と野菜の追加を持ってくる。村長じいちゃんは飲みたいからいつも後でくる。ライカちゃん達は解体小屋の血を落とす後片付けが終わったみたい。明日みんなでキレイに掃除するから今日は簡単な掃除

「ラトイルが硬いパンを美味しく食べる方法を教えてくれたから試し中で、ライキはさっき酒を飲んだからかな?」

 最後の1面にお酒をちょっとかけながらお父さんが説明してる。お酒で大丈夫かな?取り敢えずウユの実塗っとこ

「ほう、硬いパンを美味しく食べる方法があるのは嬉しいことじゃな」

「そうだね、まず嫁に言えとも思いますけどね」

 村長じいちゃんは嬉しそうに、リンさんは呆れたように言っている。村長じいちゃんは村のカイカクを凄く頑張ったらしい、だから村が少しでも良くなるのは本当に嬉しいみたい。

「ライキ、アンタふらふらよ、座ったら?」

「オレは行かなくちゃならないところがあるから座ることなんてできない」

 え?ライキどこ行くんだろ?このパン要らないのかな?

「どこ行くのよ、さっさと行ったら?」

「あそこの火壺のところさ、でも1人は寂しいから行けないんだ」

 あー・・・。もういいかな、まだ焼けないなー

「ほら行くよアホキ」

「あほきー」

 ライカちゃんはリーネちゃんの手を引っ張りながら、ライキの背中を押して自分ところの火壺に行く。パンはこのぐらいかな、塩をかけてお父さんに渡す、お父さんはパンを3個に切って、リンさんと村長に渡す

「すまんな、お、いい匂いだな」

「ありがと、お酒入れたの?」

 お礼を言ってパンを2つにちぎる。リンさんはラトイルさん、村長は村長じいちゃん、お父さんはボクに片方渡す。ちょっと小さいけどどうなったかな?

「ああ、カリカリ_ってパンの皮の事だったのか、ラトイルに騙されたのかと思ってたわ」

「今度は苦くない」

「真ん中柔らかくなってる」

「火とウユの実いるんだ、狩りでは使えないわね」

「おお、これうまいな!果物の甘さと塩かげんでうまいな」

「ウユの実でこんなにも美味しくなるんじゃな」

 おいしい、確かに美味しいんだけど

「焼く手間考えたらスープに入れる方が楽ね」

 ですよね。でも薄く焼いてサクサクなパンとスープは合いそうな気がする。今度やってみよ

「母さんお腹すいたーってライキが言ってる」

 はいはいって言いながらラトイルさんと一緒にライカちゃん達の方に行く。多分ライキのせいにしたなライカちゃん・・・

「セイちゃーーーん、セイちゃーーーーん、せあぶぶぶ」

 ソイちゃんが泣いている・・・目が覚めて寂しくなったのかな?お母さんいるのに

「はいはい」

 って言いながら立ち上がってソイちゃんの方に行く。昼間寝過ぎたからお酒さんが効かなかったのかな?

 ソイちゃんはお母さんの太ももの上で泣いていた。口をふさがれてあぶぶぶって言ってのが面白かった。

「ごめんねセイちゃん、気にしなくていいから、戻って戻って」

「そうよ、流石にわがまま言い過ぎなのよ」

 ボクが帰ると思ったのかソイちゃんはもっと泣き出した。ああ涙で顔がえらいことに

「大丈夫ですよ、ソイちゃんおいで」

 背中を向けてしゃがむ。もう一度

「大丈夫なので離してあげてください」

「いいの?ごめんなさいね」

 ソイちゃんのお母さんが手をはなグハッ!強い衝撃が背中に来た、そして首が絞まる・・・

「セイちゃんセイちゃん」

 手を後ろに回して立ち上がりおんぶする。

「大丈夫、大丈夫」

 出来るだけ優しい声で大丈夫とつぶやく。優しい声になったのは首が絞まってるからか、「大丈夫」は自分に言い聞かせてるのはきっと誰にもわからない。ボク以外には・・・

 ソイちゃんをおんぶしたまま解体小屋の方に歩く、きれいな星の下を「大丈夫大丈夫」と言いながら歩く、きれいな星の下を「セイちゃんセイちゃん」と言う声と涙と鼻水とヨダレを背中で受けながら歩く。ソイちゃんはわがままな子だけど小さい頃から一緒にいる妹みたいなものだから、やっぱり泣いていたら手を差し出してしまう。大丈夫大丈夫、ボクがいるよ

 小屋を越え川の横を歩いてる頃には背中から「セイちゃん」って言う声が聞こえなくなった。ボクも「大丈夫」って言うのをやめて代わりに、ソイちゃんのお母さんがソイちゃんに歌ってあげてる子守唄を歌う。もう首は絞められてないからね

 子守唄を歌いながら川の横を戻り小屋につく頃にはソイちゃんは寝ていたので、おんぶしたままソイちゃんを返しに行く。おっも!帰りも泣いてたら逃げようかな?

 ソイちゃんところの火壺に戻るとソイちゃんのお父さんが背中からソイちゃんを降ろしてくれる。

「セイちゃんありがとな、ごめんな、本当にごめんな」

 あー、背中がスースーする・・・いいけど、本当はいくないけど

 手を振ってお別れしてお父さんのところに戻る

「セイおかえり、いい事したな」

 お父さんが撫でてくれて嬉しいんだけど、それより背中が冷たくて

「セイいい勲章じゃねーか」

「クンショウって?」

 クンショウってなんだろう?村長に聞き返してると、お父さんはお皿を布で拭くと立ち上がって鍋の方に歩いていった。

「勲章って言うのはな、自分のやった事への印、証じゃな」

 しるし・・・。えー、ヨダレとか鼻水がしるしとか嫌だなー

「セイちょっとこっちおいで」

 お父さんがちょっと離れているところで呼んでいる。お父さんのところに行こうと思うんだけど元気が出ない。でも頑張ろう

「なに?」

「お前相当だな。服脱いで、上だけな」

 長袖を脱ぐ。ああ、頭にヨダレがー

「脱いだよ」

 服を持ってお父さんを見ると、また怯えた顔になってる。最近よくこの顔をする

「おお・・・悪い悪い見惚れてたわ」

 お父さんがはっとして、服を受け取る。

「アベル自分の息子に何言ってるんだ。気持ちはわかるが」

「ワシの息子も何を言ってるんじゃろな」

「うるせえ」

 と言いながらお父さんはヨダレのついたところに水をかけて、濡れないように自分の腕にかける

「セイ、後ろをむいて」

 後ろを向く。お父さんはボクの後ろ髪に水をかけて手のひらで擦ってまた水をかける、硬く絞って乾いた布で水を拭いてくれる。なんだかちょっとだけ元気が出てきた。

「両手を上げて」

 両手を上げる、お父さんは自分の服を脱いでボクに着せてくれる、長い袖はぶかぶかで汗臭いけど、あったかい。ふふふ

 お父さんは寒かったのか背中がブルブル震えてるけど、服のヨダレのついたところを絞って水かけて、また絞って洗ってくれた。

「セイ戻ろうか」

 お父さんはボクの背中を優しく押して火壺のところに戻る。お父さんが押してくれてるところがあったかい

「あとは乾かすだけだな」

 と言いながら村長の膝にボクの服をかける、置く?どっちだろう?

「おい、人で服を干すなよ」

 さすがの村長も怒る。そうだよね・・・

「すみません村長」

「いや、大丈夫だセイ、一言言いたかっただけだ。乾くまでオレが預かっておこう」

 村長は本当にいい人だ。こんな優しい人にボクはなれるかな?

「すまんなアトーレ、ほれセイ座るぞ」

 お父さんは先に座って自分の足をたたいた。今日は座っていいんだ、お父さんに抱きつくように座る

「セイ逆だ」

 持ち上げられてひっくり返される。ああっお父さんが見えない・・・

 力が抜けてお父さんにもたれかかる、あったかいなー

 お父さんが頭を撫でてくれる。優しい手

「セイ、いつもありがとうな、頑張りすぎなオレの自慢の息子『マリセーイスアベル』」


 まぶたが落ちてきた。お父さんに嬉しいこと言われた気がする。もう一回言って欲しいな・・・


 リーネちゃん泣かないで・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ