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せいねーたのせなたにのう  作者: とぽけっと
2/10

村が暗くなる前に

 鐘の音が1回鳴り響いた。


 鐘の音の回数で森から出てくる魔物からの逃げ方が変わる。3回は高いところに避難、4回は家の中の丈夫なところへ避難、5回は畑の方へ避難、鐘が鳴り続けるのは武器をもって戦う。なんの魔物が出てきたかで何回鳴らすかは見張りの人が決める。避難の練習は1年に何回かする、魔物が村に来たことは無い。ちなみに鐘2回は無いみたい、前に聞き間違えた人が避難せずに魔物の前に出て食べられたらしい、それから鐘がいっぱい鳴るってことは魔物が出たってわかりやすくなったみたい。

 鐘の音1回は森から猟師が帰ってきた合図だ、お父さんが帰ってきた!

「ライキ、ライカちゃん行こう!」

「そうねセイ、行こっか!」

 わーーーい!お父さんが帰ってきたーーーー!

 嬉しさの勢いで走りだ・・・

「ソイリスが寝たまんまだけどどうする?」

 せなかった。ライキのせいで!

 確かにソイちゃんなんとかしないと、ソイちゃん家に連れて帰ると遠くなるし・・・

「なんでセイはそんなに「じゃあライキはこのままここをみててね」

 ライカちゃんにとってライキの話しはどうでもいいみたい。

「えっ」

 ライキが戸惑ってる。その間にライカちゃんはボクの手を引っ張って走り出した。

「ありがとライキ」

「ライキありがとう」

 笑顔で手を振ってお礼した。

「わかったみとくよ」

 リーネちゃんを抱えてない方の手で頭を掻きながな「行ってこい」って言ってくれた。

「ソイリス起きた時セイ居なかった泣くんじゃね?」

 ・・・聞こえてない聞こえてない。今日は何か獲ってきたかな~


 森に1番近いライカちゃん家を通り過ぎて、森と村との間の川の横に建ている解体小屋へと走る。

 森と村との距離は長く、とってもでもなく、でも短くもなく・・・間があって、『カエシ』っていう丸太のとがった方を森の方に斜め刺した柵を2列と半分並べられている。来年にはもう半分終わらせたいらしい。その柵より村側に小屋を建てている。

 解体小屋の外にはお父さんとライカちゃんのお母さんがいて、足元にはでっかいトカゲみたいな物が転がってる、今日はお肉が食べられそう♪

「おかえり母さん!」

 ライカちゃんはお母さんが怪我が無さそうなのを見て、そのままの勢いで飛びついた。

 ライカちゃん家は商人のお父さん、猟師のお母さん、双子の兄ライキ、双子の姉ライカちゃん、弟妹扱いはクツジョクらしい。小さい頃はそっくりだったみたいだけど12歳の今は背も顔も似てない。ライカちゃん達の妹がリーネちゃん3歳甘えん坊でもわがままを言わないかわいい子。ライカちゃん家みんなというか村の人のほとんどが黒茶色の髪の毛をしている。

「ただいま、ギュ〜〜〜〜」

 ライカちゃんを受け止めてそのまま体を力いっぱい締め始めた。ライカちゃんが暴れてる。

「お父さーん!」

 ボクもお父さんに飛びつこうとしたんだけど、お父さんが怯えた顔をしたのを見て立ち止まる。

 立ち止まったボクを見てお父さんが辛そうな笑顔になって謝る。

「すまんなセイ、おいで」

 手を広げて待ってくれる。

 ボクは首を横に振って、背中まで伸びている髪を後ろで縛って、さらに服の中にしまう。

「お父さんごめんなさい、約束破って」

 お父さんは困った顔をしてから、バカだな~という顔で抱きしめてくれる。

「それはセイが勝手に決めた事だろバカだなセイ。それよりおかえりないはどうしたセイ」

 お父さんは「セイ」と何回も自分に言い聞かせるように言うクセがある。ボクを見て辛そうな顔をした後でよくそのクセを出す。

「おかえりなさいお父さん!」

 お父さんの背中に腕を回して顔を胸に押し付ける、お父さんの腕の中はお父さんの匂いでいっぱいで嬉しすぎて「おかえりなさい」に詰め込んでしまう。「ひぅ」とつぶやいてお父さんは固まる。

「アベル家は仲が良いのか悪いのかわかんないね」

「うっ、うっせー、仲は良いんだよ」

 ライカちゃんのお母さんにお父さんは言い返す。そうだよ!ボクはお父さんが大好きなんだから仲が悪い訳がないじゃないか!

「セイちゃん本当に?アベルにいじめられてない?」

「そんな事ないよお父さんはとっても優しいよ!」

 お父さん胸に顔を押し付けたまま返事する。あぁ良い匂い~。あれ?お父さんが震え始めた?。

「冗談だよ、アベルはそういう奴じゃないってのは知ってるよ」

 わかってる、ライカちゃんのお母さん『良い人』だからからかってるだけっていうのはわかるんだけど、どうして仲が悪いなんていうんだろう・・・でもまあ、お父さんの口から『大好き』って聞けたから幸せ過ぎてもうどうでもいい~、しあわせ~。あれ『仲がいい』だったっけ?いやいや『大好き』だったはず!しあわせ~。

「アベル、顔真っ白だよ?大丈夫か?」

「あたりまえでーべらぼーめー」

「どこの言葉よ、解体はやっとくから先帰る?」

「いや、オレはまだ見習いだから解体はやる」

 解体をするためにボクを引き離す。

「コラ、セイ!離しなさい!離れなさい!」

「やぁ~」

 お父さんの背中に回していた手で服を掴んで離されないようにする。

「なんで!なんで離れないんだ!」

 もうちょっと、もう少し匂い嗅がせて〜・・・アベシッ!

「いっっったぁ~」

 思わず手を離してしゃがみ込んでしまう、頭を摩りながら何が起きたか周りを見る。弓の端っこを持ったライカちゃんのお母さん、その腰にしがみついて足を震わせているライカちゃん、ライカちゃん達の方に親指を立てるお父さん。叩かれたところを見てないから犯人がわからない・・・。

「なんか、お昼に今の見た気がする」

 ライカちゃんが変な格好のまま言い出した。なにかあったっけ?

「ライカ何かあったの?」

「勉強前にソイとセイが・・・」

 ライカちゃんが昼にあったことを説明しはじめる。思い出した!確かに似てるけど!

「へ~、セイちゃんは年下の女の子と一緒なんだ~」

 ニヤニヤしながらライカちゃんのお母さんはからかってくる。ちなみにお父さんもニヤニヤしてる。

「もういいでしょ!なにこの魔物!どう解体するの!」

 恥ずかしさで早口で大きな声になってしまった。みんなのニヤニヤ顔が笑いの顔になった。

「あはははは、セイちゃんはかわいいな〜、顔真っ赤」

「もうかわいいって言わないでよ!」

「セイはまだ6歳だから、かわいいで良いんだよ」

 と言ってお父さんは頭をぐしゃぐしゃに撫でまわしてきた。

「お父さんみたいにかっこよくなりたい!」

「そうか?父さんかっこいいか?」

「うん!かっこいい!」

 真っ直ぐお父さんの方を見て力一杯頷く。

「そうか~?父さんかっこいいか~?」

「お母さん邪魔しないであげて」

 ライカちゃんがお母さんの服を引っ張って止めてくれる。

 お父さんは目を逸らして苦笑いをしてライカちゃんのお母さんの方を見てニコッって笑顔になった。ニヤリかな?それからボクの方を向いて真面目な顔で

「セイ、かわいいっていうのは悪い事じゃないんだ。かわいい子がいるとその場の雰囲気が軽くなるし、かわいい物があるとそこが華やかになる。セイにはみんなを癒してあげれるそんな子になって欲しい」

「でもボク男だよ?」

「それがどうした?男でも女でも人を笑顔にしてあげれる事が1番いい事だと父さんは思うけどな」

「かわいいはみんなを笑顔にしてあげれるの?」

「そうだセイ、かわいいはみんなを癒すんだ。例えばそうだな~」

 お父さんはライカちゃんのお母さんの方を見てニヤリと笑う。

「みんな笑顔になるよな~リンリン」

「「ブフー」」

 一緒のタイミングでライカちゃん親子が噴き出した。

「リンリン?」

「あははは〜セイくり返さないで~」

 ライカちゃんが爆笑してる。

「な、かわいいものは名前ってだけでも人を笑顔にできるんだ」

「リンリン?かわいい・・・名前・・・・」

 え?もしかして・・・

 ヒュン、頭の上を早い何かが通る音がした。

「危ねえ!当たるところだっただろ!」

「死ネ」

「あ、キレてる。すまん!本当にすみませんでした!」

 リンリ・・・、ライカちゃんのお母さんの弓を避けながらお父さんは直ぐに謝り始めた。リン・・・ライカちゃんのお母さんは美人と言うよりカッコいいって感じなんのでおかしな感じが・・・・。ちなみに弓を振り回してるだけで矢は射ってない。

「はぁはぁ、ほんと当たらないわね」

「ははは、元グラップラー舐めるなよ」

「はぁ、もういいわ、解体しましょう」

「誰を!」

「ダイルランナーよアホ」

 リ・・・ライカちゃんのお母さんはライカちゃんに似て怒りやすいけど冷めやすいみたい、もういつものライカちゃんのお母さんに戻ってる。こういうところがカッコいいんだけど・・・。ちなみにライカちゃんは笑ったお仕置きでゲンコツ貰ったみたいで地面で転がってた、可哀想なので頭をさすってあげよ。「うへへ」って笑ってくる、ボクも「うへへ」って笑いかえす。「「うへへ」」

「で、ダイルランナーってどう捌く、先に水に浸けるのか?」

「さあ?初めて獲ったしわからん」

「おいおい先輩」

「うっさいな、食用可って書いてたし皮剥いで切り分けたら食えるでしょ」

「食べれるのはわかったが、で、浸けるのか?」

「知らん、ダニはいなさそうだから水に浸けずに吊るして血抜きでいいんじゃない?」

「了解、吊ってくるわ、セイ行くぞ」

「道具の整備やっとくから剣かしな、ライカもアベルの方を手伝いなさい」

 ライカちゃんのお母さんはお父さんから剣を受け取ると小屋の中に入ってった。

「アベルさん、ダイルランナーだっけ、強かった?」

 お父さんの足元にあるダイルランナーを指差しながらライカちゃんは聞いた。

 濃い緑色のゴツゴツした肌に鶏なら余裕で丸かじり出来るぐらいの大きな口、口の中は鋭い歯がびっしりはえている、体の大きさは頭の先から尻尾の先まででボク2人分ぐらい。ボクはお父さんの胸ぐらいの身長だから結構でかい。手足が長くて走るのが上手そう。

「この口をを見てみ、噛みつかれたらヤバそうだろ、実際コイツがいた所に転がってたゴブリンなんか腹から上を1噛みで無くなってたからな」

「ゴブリンって子供をチンピラにした奴ってお母さんが言ってたんだけど、どれくらいの大きさなの?」

「あーソイリスよりちょっとでかいくらいだな」

「ソイちゃんより大きいぐらいを半分!?」

 ソイちゃんを大っきくして・・・チンピラってなんだろう?チンピラはおいといてソイちゃんを大きくしたのを一口って相当強いんじゃ・・・

「まあ、まずコイツを血抜きしないとリンさんに怒られるからさっさと作業するか。よっこいせっと」

 お父さんはダイルランナーの首を右手で掴むとそのまま肩に担いだ。

「アベルさんは本当に力持ちだね」

「かっこいいよね!」

「こんなの闘技場に行けば結構いるさ、セイ血抜き用のタライ持ってきてくれ、ライカはリンさんからフック付きロープとナイフ貰ってきてくれ」

「「わかった」」

 お父さんはダイルランナーを担いで血抜きと皮を剥ぐ所に、ボクとライカちゃんは小屋に入る。

 解体小屋の中は色んな匂いが混じり合っている、小屋の木の匂い、ロープの縄の匂い、狩猟や解体ようの鉄具の匂い、錆の匂い、オイルの匂い、板張りの床だけど色んな人が運び込んだ土の匂い、人の匂い。鼻が痛くなるけど嫌いじゃない匂い、いつもの匂い。

「母さんロープとナイフ貸して」

「ボクはタライください」

 刃物を研ごうとしていたライカちゃんのお母さんは手を止めて。

「あの大きさなら右から2番目のロープ持って行きな、セイは扉近くの大きめのタライ持って行きなさい、水を少し入れるの忘れないでよ」

「はーい」「わかりました」

「セイのその言葉遣い・・・まあいいわ、刃物は危ないからロープだけ持って行きな」

 小屋の中は綺麗に物が置かれている、大きな机を中心に壁にロープ、ランタン、カバン掛け、雨用外套、子供の手の届かない所に刃物を置く棚、魔物の特徴を書いた紙を置く棚、換気用の窓が2つ、フキン掛けが取り付けられている。床は刃物を持って作業する為出来るだけ物を置かないよう入口付近に置いている、手洗い用の壺、道具洗う用の壺、骨などのゴミを捨てる桶、椅子の山などが転ばないように出来るだけ綺麗に寄せられている。別にライカちゃんのお母さんが綺麗好きだからこうなってるわけじゃなくて、肉を切り分けに来るお母さん達が綺麗にしてくれるからだ。ちっちゃい子供も来るから危険が危ないみたい。

 入り口近くの大きめのタライ持って水を汲む為川に向かう、川にタライを突っ込ん水を汲む、なんてことをするのは素人のする事、タライを水に持って行かれて流された人は手で汲む、だからボクは手で汲む、水は子供には重い・・・

 タライに薄めに水を入れたらお父さんの所に向かう、お父さんの所に着いたら内臓を取り出す所だった。

「アベル!慣れてきたからって調子に乗らないしっかり足を持って!ライカは手を持ってしっかり観てなさい」

 お腹を上向にして寝転がしてお父さんは両足を持って、ライカちゃんは両腕をもって動かないように押さえる、ライカちゃんのお母さん・・・リンさんはダイルランナー跨いで喉にナイフを当てる、刃物を持った作業なのでみんなの顔が真剣だ。それとも内臓を取り出す作業失敗すると肉が臭くなるからか真剣なのかな?

 内臓の取り出しは何回か観てるけど気持ち悪いから後ろ向いとこっと。

「じゃあ始めるわね、まずはナイフを喉に・・・かったーい、ナイフ刺さらないわね」

「力入れたらいけるだろ」

「下手に力入れたら内臓傷いきそうで怖いのよ」

「まあわかるけど、変わろうか」

「そうね、あなたの変な力ならいけそうな気がする」

「変な力とか言うなよ、ナイフ貸して」

「内臓の傷つけないでね」

「わかってるって、足しっかり持っとけよ、フンッ」

「うわー簡単にナイフ刺さってる、ちょっとそれ深く刺しすぎ」

「そうか、もうちょい薄く、皮を持ち上げながら内臓を傷つけないように」

「流石に6年見習いやってると手つきが変わるわね、がんばれがんばれ」

「集中出来ないから!集中集中ゆっくりゆっくり」

「その辺から多分膀胱だから慎重にね」

「了解、ゆっくりゆっくり」

「母さんあの大きな袋はなに?」

「なんだろうねライカ、後で一緒に解剖しましょうね」

「うん♪」

「なんだろうなこの気持ち」

「魔物の把握は人の命に関わるから記録は残さないと」

「わかってるけど・・・なんだかな、腹裂き終わったから変わってくれ」

 お腹を裂き終わったって聞こえて、つい後ろを振り返ってしまった。そこのは両手両脚を抑えられ喉からお腹の下まで切り裂かれた魔物がいた。あ、本当に内臓の真ん中に大きな袋がある、それに生暖かい血のにお・・・

「村から誰も来ないね~」

 村の方に顔を向けて見ないようにする。

「セイ、川で遊んでてもいいぞ」

「本当にセイとライキは解体だめね」

「ウチの旦那もだけどね」

「血と脂の匂いがダメなんじゃないか、俺も最初ダメだったし」

「私は慣れたよ」

「無理に乗り越える必要も無いしね、さて続き続き」

「首落とすか、喉切る手間省けるだろ」

「そうね、頭重そうだし、先落としましょうか」

「了解、ライカちゃんちょっと離れてて」

「はい」

「す~~~~、ふん!」

「本当にどうなってるのよあなたのその不思義な力は」

「私もナイフで首を落とせるようになるかな?」

「普通はちょっとずつ首の周りの肉を切ってから捻じ切るんだけどね、ライカは真似しないようにね」

「刃の先に力を込めると出来るよ」

「ライカ危ないからしないように!」

「はーい」

「アベル、ナイフ貸して」

「はいよ、あ、ちょっとへこんでる」

「後で直しきなさいよ、喉の方は首を落としたから切らなくていいでしょ、内臓を護ってる薄い膜をナイフで削ぎ落として膀胱と直腸は中身が出ないようにこうして切ったら出ないように縛る、これで内臓の切除は終わり、アベル、内臓を・・・あータライがいるわ」

「ボク取ってくるよ」

「ちっさいやつでいいからね」

 あっちを見ないように立ち上がって、あっちを見ないように走ってタライを取りに行く、小屋から小さくないけど小さめのタライを持って川に水を汲み行って、走って戻る。

 タライを持って戻ると、ダイルランナーは尻尾は切り落とされその付け根にフックを刺されて逆さまで吊るされて最初の大きなタライに血を垂らしていた。よく見るけど見慣れないものをみて足から力が抜けていった。

「セイ、タライありがとな、なんだ腰抜けたのか」

「足に力が入んない」

 座り込んでしまったボクにライカちゃん達は面白いもの見つけたって顔で近づいてきた。

「セイもまだまだね、タライ貰うわね、ありがとう」

「ライカ、セイは6歳なんだから仕方ないわよ、ありがとうセイ」

 ライカちゃんとリンさんはタライを持っていって血を受けているタライから内臓を移してる。

「父ちゃん達まだやる事あってなセイにはキツいだろうから村の方見ててくれ」

 お父さんはボクの両脇に腕を通して引きずるように村が見える位置に座り直させてくれた。手が汚れてるからか慎重で丁寧に。嬉しくなって違うところの力も抜けそうになってあせる。

「じゃあ行ってくるな、誰か来たら教えてくれ」

 お父さんはボクに任務を与えて、ライカちゃん達の方に行った。誰が最初に来るかな~。

「母さん、この大きな袋からやらない?」

「胃でしょ・・・アベルお願い」

「了解、何がでてくるかわかってるだけに嫌だな」

「まあ、ゴブリンでしょうね」

「初めて見るゴブリンがこれなんだ」

「かなり雑に食べてるのは消化を悪くする為かな?」

「解らないわね、そういう習性なのかもね」

「これが心臓でこれが肺、心臓と肺の間にあるこれ何かな?」

「これはわからないわね、心臓と肺の間にあるんだから弱点ではありそうだけど」

「心臓の横にあるこの袋は温度上げるやつだな、フォレストオオトカゲにあったやつ」

「そうねあったわね、これは胸のあたりを強打するだけで狩れるかもね」

「あの速さで突撃してくるコイツの懐に入るなんて勇気いるぞ」

「アベルいなかったら死んでたわね」

「どうやって倒したの?」

「いつも通りリンさんが索敵して1体だけの魔物を正面からオレが倒す」

「さすが元グラップラーよね、横に避けたと思ったら首を一刺ししてるんだから、それでバターンよ」

「死闘とかではないんですね」

「戦闘を楽しむと可食部が少なくなって怒られるからな、主婦の皆様方に」

「森で狩りを楽しむなんてバカのする事よ、人間は弱いんだから」

「でもアベルさんなら大丈夫なんじゃ?」

「森という領域で魔物に数で来られたら私達は勝てない」

「逃げ切るのも厳しいしな」

「だから慎重に毎日森に入って、森の変化はないか、ここは私達の狩場だよって教える」

「ここ最近は特に問題無かったけど、子供の頃は猟師が殺されるなんて良くあったし、警戒怠って村を襲撃されたなんて何回かあったな」

「で、村じいが中心になって、ギルドに頼って村周辺の・・・さて皮剥ぎ終わったしこの話はまた今度ね」

「「え~~~」」

 皮剥ぎしてたんだ。見たかった・・・

「皮が厚かったかから剥ぐのは楽だったんだけど、頭なし尻尾なしで手足長いとちょっとグロいな」

「そうね、ライカ手足の外し方教えてあげるからこっち来なさい」

「はーい、私やっていい?」

「最初に手本見せるから反対側をやりなさい」

「はい」

「まず、足のここ肉を・・・「セイ、誰か来たか?」

 お父さんがボクの頭を優しく撫でながら隣に座る。手洗ったのかな?

「大丈夫、ちゃんと洗ってきたよ」

 心の声がきこえた!?

「拭いてないけどな」

「え!やめてよ!」

「冗談だ冗談、セイの背中が泣いてたからな」

 背中が泣く?どういうこと?何か出てるのかな?

「背中がな・・・「うわ、だっさ」

「リン、うっさいよ」

 リンさんにツッコまれて、お父さんが恥ずかしそうにしている。

「寂しそうだったって意味だ、しかし誰も来ないのはおかしいな」

「笛鳴ってたっけ?」

 リンさんが思い出したようにみんなに聞く。

「しらん」「聞いてない」「聞いてません」

「あー、それは来ないわね、セイ行ってこーい!」

「はい!」

 森の見張り台に走る、足に力が入るようになってる、あっ・・・足が、ズザーッって転がる。

「セイ、大丈夫か~」

「だ、だいりょうぶ!」

 もう恥ずかしい!恥ずかしいな!すぐに立ち上がって走り出す、ボクは振り向かない、言われたことを守るために一生懸命走る。

「セイー、だいりょうぶ~?」

 足の力が抜けそうになる、もう!もう!ライカちゃんの方に振り返ってあっかんべーをしてそのまま走る。

 

見張り台に下に着いたら上の方から

「セイちゃん派手に転んだねー、大丈夫かい?」

 今の当番のおばちゃんが可笑しそうに声をかけてくる。

「大丈夫です!ありがとうございます!今日は獲物取れてるので笛お願いします」

「あら、忘れてたかい?ごめんねすぐ吹くね」

「お願いしまーす」

 お願いしてすぐに走って戻る、走り始めてすぐに鐘がカーンと鳴って笛のピーって音が聴こえた。これで村に獲物が取れたと知られることができた。毎回取れることはないし、食べられないのもいる。素材の剥ぎ取りもあるのでみんなに手伝って貰う必要がある、なので獲物を獲ると村に合図を送る。

「ただいまー」

「おかえり、ありがとな」

 お父さんが撫でてくれる。ダイルランナーはすでに元がどんな形をしていたかわからない状態になっている、胴体しか無い。リンさん達はダイルランナーの体験記録を残すために木の板に今日の事をかきだしていて、お父さんは食べられない所や素材にならない物を燃やす為に土を掘ってる。

「アベル、今日はなんだ?」

 急に後ろから声が聞こえてビクッとなった。後ろを振り返ると村長が大きめのツボと鉄板を持って近くに立っていた。近い!

「ジョージ、来るの早くないか?今日はトカゲだ」

 ジョージ村長は大きい、色々大きい、身長はお父さんより頭2つぐらい高く、腕や体の太さは・・・うーん・・・とにかく大きい、声も大きい畑仕事してる時はね、今はあんまり大きくない。黒茶色の髪が色んな方にハネてるので顔も大きく見える。ドンッとしているけど丸っこいから怖いよりかわいい感じがする。

「アトーレだ、ジョージって誰だそれは。トカゲか串持ってくればよかったな」

 アトーレ村長だった。ジョージって誰だろう?

「どうせ酒取りに行くんだからついでに取ってくれば良いじゃないか、セイこのままここで晩御飯にするから野菜と食器取って来てくれ」

「わかった、色々持ってくるね」

 村長が来ると酒盛りになる。「一生懸命働くのはこの為だ!」とか言っていた。村の大人のほとんどが。

「おう、セイ一緒に戻るか!」

 と聞こえると同時に後ろをから持ち上げられ、肩に座らせてくれる。

「セイ、デカくなりすぎだ歩いてくれ」

 持ち上げて降ろそうとする、持ち上げられた時に頭を一発叩いく、気にせず降ろしてる村長に

「もう7回目だよ!」

 一応文句を言っておく、直してくれないけど!

「そうだったかすまんすまん、ほら行くぞ」

 からかってるのがわかる。全く気にしてない村長はボクのお腹に腕を回して持ち上げて運ぶ。苦しい、でも手と足がぶらぶらしてちょっと楽しい。手と足をぶらぶらさせて運ばれてると何人かの人すれ違う。力を抜いて顔を下げてるので誰かわからない。ぶーらぶら

「おや、アトーレ今日はもう帰るのか」

「酒を取りにちょっと戻ってくる、火壺に火入れといてほしい」

「ああわかったよ、塩を少し持ってくてくれ」

「あら村長、今日の獲物はセイちゃんかしら」

「ボクじゃないですよ、ダイルランナーです」

「初めて聞くわね、美味しいかしら」

「セイ姉ちゃん、それ楽しい?」

「ぶらぶらして楽しい、あとお兄ちゃんね」

「村長ボクもやって~」

「置いてかれるぞ、後でな」

「セイちゃん!何でソイ置いてったの!」

「グーグー」

「ソイ、セイちゃん寝てるから行くわよ」

「グーグー」

 あぶないあぶない、背負うものが増えるところだった。心の中で危機が去ったと安心していると村長がボクを地面におろした。

「じゃあセイまた後でな」

「ありがとう村長」

 手を振って家へと走る。家に着いたら庭のウユの木から実を3つ採る。ウユの実は赤色で、親指と中指で輪っかを作ったぐらいの大きさが食べごろで種は無い。匂いは無いけどしょっぱ酸っぱく、実が大きくなると味が薄くなって食べやすくなる、他にも、鉄板の上で果汁を使うと油の代わりになって、ウユの実を食べ物と一緒に置いておくと食べ物が腐りにくくなるらしい、お母様方の味方である。

 家の中に入ると、大きいバスケットを物置部屋から出してきて、皿、スプーン、フォーク、ボールをキレイに入れていく、ちなみに全部木製。今朝庭の畑で採った野菜を入れる、オクラとシシトウ、ちょっと虫に食べられているけど、それは大人用。

 蓋が閉められる陶器の瓶を持って台所の角に置いてある瓶に行き布取って蓋を外して中身を移し替える、これはボクが漬けた果物のお酒、村長の奥さんに教えてもらった村に昔から伝わる果物というか作物を使ったお酒、お父さんが甘いお酒が好きみたいで、お父さんが狩りでいなくてさみそうにしているボクに村長の奥さんが教えてくれた。最初に作った時お父さんが褒めてくれて、嬉しくなって丁寧に継ぎ足し継ぎ足し研究に研究を重ねた。あれから2年、匂いで美味しいか美味しくないかわかるようになったボクのお酒をお父さんに飲んでもらう!・・・よく飲んでるけどね。瓶に蓋を押しこんで陶器のコップを2つバスケットにいれる。布巾を何枚か入れてその上にウユの実を置いて準備はできた。

 バスケットを持って家を出る、あっランタン忘れた、家に戻りランタンを壁からとってまた家を出る。庭の畑に行って摘み忘れてたシソを数枚積んでいく、準備はできた。


 解体小屋に行くため村道を歩く、太陽は麦畑の少し上にいて赤色に変わり始めている。麦畑の方から少し強い風が吹いて体が押される、風は少し冷たく麦の穂のざわざわとした音がするのにすごく静かで、なにか怖くて寂しくて、目を麦畑のから逸らして少し早足になって歩く。


 だから、後ろから襲われるのを気づけなかったんだ。

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