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 青い空、白い雲。


 通り過ぎていく森の木々は元気なようです。

 雨が降る頃には、もっと素敵な景色が見られるのでしょう。


 そんな私ですが、地上へ来て初めての経験を重ねています。


 こう話している今もですが、他人の親切によって安全な場所まで運んでもらえることになりました。移動は徒歩より早いうえに景色を楽しむ余裕だってあるのです。


 床は薄いなりにも木板を重ねて補強されており、車輪によって順調に進んでいます。

 多少の揺れが起こりますが、乗り物から落ちないよう、しっかり丈夫な柵もついています。

 同乗者や汚れについての文句は言えませんよ。


 運ばれてから随分と時間が経っていますが、やはり人が暮らす場所に自力でたどり着くのは不可能だったでしょう。方向だって知りませんもの。進んでいる場所も下草は伸びきったまま。土地に慣れた者に出会えなければ、途中で道を外れてしまっていたはずです。


 それと私、地上に来て、初めて物をいただきました。


 少し煤汚れていますが光沢を見せる、人の手が加わった加工品です。

 きっと地上の皆さまには貴重な代物だと思われます。


 周囲の大人の方は薄汚れた見た目ですし、とりわけ余裕がある方ではないでしょう。

 それなのに身ひとつの私に恵んでもらえる。幼子の体には少々重いものですが、途中で失くしてしまわないよう手首を通す形で固定できるみたいです。

 どうも、片腕がない子には足側にしか付けてもらえないようで、出会う前に手を治しておいて本当に良かったと思います。


 それと、どうやら、大人の方には労働が求められるようなのです。

 というのも、私が乗りこんだ乗り物を運ぶのが、その大人の方なのです。私が受け取った品も、本来は労働の対価として受け取るものなのかもしれません。


 荷台を運ぶ単純な作業でも十数人を運ぶとなると大変です。少しでも足が止まると横から叱咤が飛んできます。急ぎでなくても到着時刻に決まりがあるという感じですか。


 受け取った金物も、肌身離さずとなると邪魔に思えますが前払いは前払い。

 相応に労働も求められるのでしょう。


 あと、護衛の方も貧相ながら刃物を持っていて、少し怖いです。


「にしても良いのか、本当に」


「いいだろ。酒の一本にでもなりゃ十分だ」


 もしかすると、私も対価を求められるのかもしれません。

 どうしましょう。


 家事も、会計作業も、腕に覚えがありませんの。


「毎回決まった分を運ぶだけで何の稼ぎにもならないんだ。

小遣い稼ぎぐらい個人の自由だ」


「あのガキ、……肌が妙に青白くないっすか?」


「どうせ亜人だ。向こうの詳しいやつに見せれば値段も分かるさ」


 ……いや、そこまで私は能天気じゃないぞ。


 私が弱いことなんて知ってるよ。

 逃げ切れないと分かったから、捕まったんだよ。


 手錠をガチャリ、荷台に積まれてドナドナだよ。

 ちくしょー。




 何にしても逃げられないなら仕方がない。

 ここは諦めて今後の生活改善を図ろう。


 まず衣服だ。

 荷台にいる子供は使い古したような布着。対する自分といえば、麻布を裁断せず体に巻いたような姿である。

 うん、大差ないようで何より、これなら奪われることもない。


 なになに、今すぐ魔界穴を出して邪魔者を焼き払えばいいって?


 それはない。

 見ず知らずの相手に親切する質は無いけど、人のいる場所を知るまで待ってもいいだろう。


 それに、自分のことを除けば正規の取引かもしれない。

 仲介者の身勝手で全てを壊されても困るというもの。責められるべきは実行者。同意した仲間を同類とするにしても速断は考えが足りない。


 相手の都合に合わせてあげたのだ。こちらの都合を混ぜても問題ないだろう。


「おっさん、おやつ持ってない?」


「黙ってろ!」


 そう、私は勝手に運ばれただけ。

 勝手に抜け出しても許される。


 いざ、人々の暮らす街へ。







「……こいつ、悪魔だぞ」


 自然盛りだくさんの小さな砦へ運ばれましたとさ。


 手錠で引かれて部屋に入れ込まれて、今度は一人ずつ運び出されるって時に自分の番が来ましたよ。

 なんと、この後に食事がもらえるのだと。知らないおじさん達の言うことは聞くべきだね。


 つか、目の前のおじさん、中々にやる。

 役回り的に運び込んだ人間の健康管理をしているらしい。

 外側一枚は汚ったねえ布だけど中はしっかり染め布の服だ。身なりも周囲よりまともだけど、こうして悪魔を区別できるくらいに知識がある。


 断言しているけど、受肉した悪魔を見たことあんのか。


 こういっては何だが、悪魔なんて形を選ばないし暇な時には不定形になっている連中だぞ。

 どうせ魂核で区別できるからって一つの体に棲みつく物好きもいるし、仕事でなければやりたい放題するのが悪魔なんだ。


 私なんて、肌が青白いのに気付いたの直前だからな。


「悪魔って高く売れるか?」


「やめとけ、そこらの魔物と訳が違う。

見てくれは幼子でも中身なんて分かったもんじゃない。

特に受肉したなんて場合には、ろくな術師が関わっていないもんだ」


 どう考えてもやばいもんね。

 別次元の住民を身体まで与えて招き入れるって。


 およそ悪魔側から求められた形だろうけど、圧倒的な優位がなければ本望なんて告げてこない。

 それって契約側の人間が強制的に従わされたってパターンだよね。


 受肉の材料に、契約者の一族郎党の骨肉が混じってそう。

 イヤだね、悪魔って。


「下手に取引なんて持ちかけるなよ。

子種が全部、緑鬼のそれに取り替えられてたなんて話もざらにある。

将来を心配するなら雑談程度にしておけ」


 ひゅっ、だとさ。

 おっさんが並んで股間を抑える図なんて見たいものじゃない。


「……酒の一杯くらい上に頼んでやる。諦めろ」


 まあ、悪魔を呼び込んで生きていられる人間って少ないもんな。

 大抵殺されるか、契約遂行の巻き添えで死ぬんだもん。

 契約主を守ったなんて話、聞かないぞ。


 ありがとう、悪魔のみんな。

 世評のおかげで、どうにか私は生きて行けそうです。


「さて、ここには何の用で?」


「うーん。目的は無いかな。おじさんたちに怖いこと言われて運ばれてきたの」


 あれま、警戒されちゃったかな。


 事情を聞いてくるなんて、さっきと大違い。

 変に拾って処分もできないって困るもんね。


「……手錠を外した方がいいか?」


「これ絶対返さないといけない?」


「いや別に、欲しいならくれてやる」


 じゃあ、欲しいです。


 もぐもぐ、バキバキ。

 うん、不味いね。

 中身が詰まっている分、腹持ちは良いかもだけど。


「あ……ああ」


 すまんね、周りの親切なおっさん達。


 まだ味わったことがなかったんだ。

 元々重くて邪魔だったし、ならば腹に収めてしまおうってね。


 食べたいなら欠片くらい残すよ?

 ……え、いらないって、そう。


「これから、どうするんだ」


「とりあえず、この後で食べ物をもらえるんだよね?」


「言っちゃなんだが、ここの食事は良いものじゃないぞ」


「食べられるならいいよ」


「……まあいい。

あんたは商品じゃないんだ。

いつまでも同じ扱いにするわけにはいかないからな」


 まあ、あちら側にも事情がある、ずっと住み続けるってわけにはいかない。

 働き口が見つかるといいが、この砦では難しいようだ。


 悪魔って需要ないな。

 まあ私、何にもできないから好都合だよ。


「ねえ、ここから町まで遠い?」


「人間なら歩いて半日ってところだ。

……数日待つことになるが送ってやってもいい」


 そう言った目の前のおじさんと共に、私を連れてきたおっさん達に目を向ける。


 やったね。滞在許可が下りたよ。




 そんなわけで、硬パンと野菜スープの食生活を得たのである。

 さすがに木製の皿は食べない。そこらに生えている樹木と変わらないみたいだし、砦に住む者で共有するみたいだからね。


 ちなみに砦は石造りで内装はないそう。

 本当だよ。精々が家具を買い替えたくらいで、壁に苔や雑草が普通に見つかる。


 広くない砦なのに間借りして悪いね。通路を通る時には道をゆずるし、土足だと床の汚れはどうしようもないけど、天井の蜘蛛の巣くらいは払ってあげる。


 そんなこんなで三日ほど、砦からの景色を楽しみながら暮らしたよ。


 もちろん商売の邪魔はしなかった。

 商談相手が来た時には、出くわさない場所に移動したとも。


 でも、変わっているよね。

 奴隷が認められていない国ってわけでもない。わざわざ町の外で取引するなんて手間かけてまで労働力を買う者がいるのだとさ。

 まあ、奴隷は奴隷として見られるべきで、知人を見かけて喜べるものでもない。そんな場合には別の町に運んでしまった方が面倒も少ないのだろう。

 働かせるにも工夫がいるとは。また一つ賢くなったよ。




 短い滞在期間も過ぎて町まで送ってもらえたから、感謝も感謝。


「おじさんたちも、頑張ってねー!」


 残念ながら門をくぐったところまでお別れである。

 入市税は構わないってさ。砦でお手伝いをしていて良かった。


 全力で手を振って応援してあげると、しっかり返事が返ってくる。滞在中に仲良くしていたおかげで会話もばっちし。


 どうも私を連れ込んだおっさんは、メリッサさんという娼婦が一推しらしい。月に一度くらいしか会えないけど毎回良くしてもらえるんだって。良いね。


 また森で遭難して助けを求める子がいれば、奴隷に誘ってあげればいいと思うよ。

 町の住民は土地勘があるだろうから難しいかもしれないけど。




 さて、昼のうちに町についたまで良いが、今後は生活を考えなければならない。


 飲食も絶対ではないし森の土に埋まって眠るのもありだが、せっかくの地上に来たんだから楽しみは多い方がいい。


 おっさん達の話では、森には多くの魔物がいて町の近くに寄ってきた場合には流通の迷惑になるらしい。


 そして、そんな問題を解決してくれる仕事が冒険者である。

 辺境でもないから周辺地域の管理が主になるけど、魔物を倒して人々の安全を守っている。素質さえあれば町の住民でなくても受け入れてくれる。そのかわり個人主義で仕事の斡旋も実績重視だとさ。依頼ついでに出会った魔物も食べられる。一石二鳥な仕事だ。


 やってやろうじゃないか。

 戦闘はできないけど、自信だけはあるぞ。




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