蜻蛉のまたたき恋
「ねぇ、知っていますか先生?」
唐突に聞いた。
この いつも何も考えて無さそうな顔、それがちょっと苛立ったから。
「ん?何を?」
先生は、僕の話を聞いているのだろうか。ちょっと強めの口調でボクは先生に聞いた。
「蜻蛉は一日しか生きないってこと!」
「……。それは知らなかったなぁ。」
相変わらず、だるそうな声。
「国語の先生なのに?」
「国語は関係ないだろう。」
先生は僕の頭をポンと叩くと、煙草に火をつけた。臭くてかなわないよ、この匂いは嫌いだった、だって失恋の臭いが する。
「先生…僕の話聞いているんですか?」
「あぁ、聞いているよ。ちゃんと、ね。」
語尾を強めて言ってくる先生のまなざしが痛かった、その視線に僕は殺されそうだ。
「じゃあ、何の為に生まれてくるか知ってる?」
先生が、今度は僕に聞いてくる。しまった、ここまでは知らなかった。黙っていると、先生が続けた。
「交尾の為だよ。」
一瞬の沈黙のあと、(煙草の匂いが制服についてしまうよ)咳払いをして僕はこう言った。
「……、………!」
そして先生と二人きりの時間は終わってしまったのだ。それは夢物語のようだった。
(一瞬でも良いから恋人になりたかったな)
(ならば、蜻蛉でも良かった)