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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
最終章:光溢れる未来へ
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第98話:決戦のフォルトニカ

遂に開始された、フォルトニカ王国騎士団とギャレット王国騎士団による戦争。

この異世界の命運を分ける最終決戦。太一郎たちは美海の恐ろしい『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を前にどう立ち向かうのか…?

 かくしてテレスティア王国を陥落させたベルド率いるギャレット王国騎士団は、その後も進軍を緩める事無く、清々しい晴天の昼空の下、遂にフォルトニカ王国の城下町へと辿り着いた。

 美海を先頭に城下町の前で待機し、いつでも進軍出来るようベルドの命令を待つギャレット王国騎士団。

 それを迎え撃つフォルトニカ王国騎士団は、万全の体勢で迎撃準備を整えている。


 神也の暗黒魔法は未だ瑠璃亜の身体を侵食しており、クレアたちの尽力によって順調に回復してはいるものの、まだ意識が戻ってはいない。

 それ故に今回の戦いではイリヤとルミアがフォルトニカ王国騎士団に臨時加入し、暫定的にサーシャの指揮下に入る事となった。


 後に歴史の教科書にも載る事になる、この異世界の命運を賭けた最終決戦が、今まさにフォルトニカ王国にて始まろうとしていたのである。


 「しかしエキドナが先日持ってきた、ラインハルト陛下の戦術プラン…果たして本当に上手く事が運ぶのでしょうか?」


 サーシャの傍らで、とても厳しい表情でギャレット王国騎士団を見据えるルミア。

 先日、エキドナが『転移【テレポート】』を『異能【スキル】』でフォルトニカ王国へと訪れ、今回の最終決戦をフォルトニカ王国の勝利へと導く為の、ラインハルトが作成した戦術プランを記した書類をサーシャに手渡したのである。


 エキドナがサザーランド王国に保護されていて無事だった事を喜んだイリヤとルミアだったが、それでも3人で再会を喜んでいる暇は無かった。

 エキドナは戦術プランをサーシャに手渡した後、笑顔でイリヤとルミアに会釈し、とても忙しそうに『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』で、サザーランド王国へと帰還していってしまったのである。

 この後ダリアら『ラビアンローズ』と協力して並行して行われる、パンデモニウム奪還作戦の準備の為に。

 

 そしてルミアの衣服のポケットの中には、エキドナを通じてラインハルトがルミアに託した、美海を『呪い』から解放し、ベルドの魔の手から救助する為の切り札と成り得る『ある物』が入っていた。


 「私はラインハルト陛下とは直接面識がある訳ではありませんが、『雷神の魔術師』の異名を持つ優れた軍師でいらっしゃると聞いています。信頼して大丈夫でしょう。」

 「そうですね。私はラインハルト陛下と実際に戦った経験がありますので、その点に関しては疑いの余地はありませんが…。」


 何しろルミアは、かつてはラインハルトの優れた戦術の前にボコボコにされた、バルガノン王国騎士団に所属していたのだ。

 ラインハルトの有能さは、身に染みて思い知ってはいるのだが。

 そしてラインハルトがサーシャに託した戦術プランには、エストファーネからの事情聴取を受けて導き出した上での推測だと前置きした上で、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の『本当の正体』と『弱点』についての詳細が書かれていた。

 もしこれが事実だとするならば、まさにサーシャたちにとっては自分たちの生死をも左右しかねない程の有益な情報だ。


 「ルミアさん。この作戦の成否はラインハルト陛下に歌姫の救助を託された、他でも無い貴女の活躍に掛かっています。どうかお願いしますね。」

 「はっ!!お任せを!!サーシャ王女!!」

 「私たちも精一杯、ルミアさんの事を援護しますから。」


 ルミアの右手を、ぎゅっと優しく両手で包み込むサーシャ。

 そんなサーシャの両手の温もりが、何だかルミアにはとても心地良く感じられた。

 ラインハルトの作戦通りにルミアが美海を救出すれば、ルミアは美海を奪還すべく、確実にベルドに命を狙われる事になる。

 そうさせない為に太一郎がベルドと戦ってくれる事になってはいるが、正直言ってかなり危険極まりない任務だ。

 それでもルミアなら大丈夫だと、ラインハルトは信頼してくれているのだろう。

 かつて一度戦った身なれど…いや、だからこそ、ラインハルトからの信頼に応えなければならない。ルミアはその決意を新たにしたのだった。


 「国王陛下!!時間です!!」

 「よ~し!!お前ら!!フォルトニカ王国侵攻作戦を開始するぞ!!」


 そして遂にギャレット王国騎士団による、フォルトニカ王国城下町への侵攻作戦が開始された。

 これまで通り、まずは美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』で、フォルトニカ王国騎士団を無力化する。

 この単純にして凶悪なベルドの戦術の前に、これまでファムフリート王国もテレスティア王国も、全く抵抗らしい抵抗も出来ないまま陥落してしまったのだが。


 「さあ奴らに存分に見せつけてやれ美海!全てを破壊するお前の…っ!?」


 ベルドが妖艶な笑顔で、美海に絶望の歌を奏でるよう命じようとした…まさにその時だ。


 「こ、国王陛下!!サザーランド王国騎士団の竜騎士部隊が後方より、我が軍に対して挟撃を仕掛けてきています!!」

 「何ぃ!?サザーランド王国騎士団だとぉっ!?」


 慌ててベルドが背後を振り向くと、果たしてそこにいたのはラインハルト率いる、飛竜に乗った竜騎士部隊の大軍だった。

 上空から物凄い勢いで、ベルドたちに向かって突撃してきている。


 「馬鹿な連中だ!!わざわざ上空から挟撃を仕掛けて来るとはな!!これでは狙ってくれと言っているような物ではないか!!美海!!まずは奴らにお前の力を存分に思い知らせてやれぇっ!!」


 地上と違い遮蔽物しゃへいぶつが何も無く、身を隠す事が出来ない上空では、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の格好の的だ。

 そんな楽観的な事を考えていたベルドだったのだが…次の瞬間、ラインハルトの見事な戦術によって、ベルドの表情が一気に怒りに染まる事になってしまうのである。


 「…『絶望の輪舞曲』…【デストラクション】…。」


 ベルドの指示通り、度重なる拷問によって最早完全に心が壊れてしまった美海が、虚ろな瞳で上空にいるラインハルトたちに向けて絶望の歌を奏でる。

 次の瞬間、ラインハルトたちに情け容赦なく襲い掛かる、凄まじい威力のデバフ。


 「くっ…!!ラインハルト様…!!」

 「これは…!!分かってはいたが、全くとんでもない威力だな…!!」


 強烈な脱力感に襲われ、思わず顔を歪めてしまうセレーネとラインハルト。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の影響をモロに受け、ラインハルトたちの戦闘能力は本来の1/10程にまで減退してしまっていた。

 テレスティア王国陥落後もベルドの美海への拷問がさらに続けられ、美海の心は徹底的に破壊し尽くされ、『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の威力がさらに増大してしまっていたのだ。

 だが。


 「しかし計画通りではある!!これで歌姫は上手く陽動に乗ってくれた!!」


 何とそれさえも、全てラインハルトの戦術予報の範疇はんちゅうだったのである。


 「これよりフォルトニカ王国騎士団と連携し、歌姫救出作戦を開始する!!」


 ラインハルトに促され、バズーカ砲を手にした部下たちが一斉に美海に向けて狙いを定め、トリガーを引く。

 次の瞬間、立て続けに美海に向けて放たれた、無数の巨大な弾丸。


 「遠距離砲撃で美海を抹殺するつもりか!?その狙いは実に見事だ!!だがこの場に俺がいた事が運の尽きよ!!」


 それをベルドが妖艶な笑顔で、神剣バルムンクで全て撃ち落とそうとしたのだが。


 「暗黒流鳳凰剣奥義!!鳳凰紅蓮刃ほうおうぐれんじん!!ほうおおおおおおおおおおおう!!ほうおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!ほうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!」


 ベルドが自らの『気』をブレンドした、太一郎の維綱いずなにも劣らない威力を秘めた無数の衝撃波を、神剣バルムンクから弾丸に向けて放つ。

 だがサザーランド王国騎士団が放った弾丸にベルドの衝撃波が直撃した瞬間、爆発した弾丸から突然煙幕が解き放たれたのだった。

 放たれた煙幕がサザーランド王国騎士団の周囲を包み込み、兵たちやベルドと美海の視界を奪ってしまう。


 「な、何だこれは!?煙幕だと!?」

 「陛下!!これは反魔法煙幕です!!煙幕内部の魔法は全て無力化されます!!」

 「何ぃ!?反魔法煙幕だとぉっ!?」


 部下からの報告に、怪訝な表情を浮かべるベルド。

 かつてバルガノン王国が魔王軍を苦しめた、反魔法煙幕…それを今度はお返しとばかりに、ラインハルトが自分たちとフォルトニカ王国騎士団を守る為の手段として有効活用したのだ。


 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の影響をまともに受けてしまったサザーランド王国騎士団だが、それでもバズーカ砲などの機械類にまでは、その影響は及ばない。

 また『絶望の輪舞曲【デストラクション】』はあくまでも一時的に能力を減退させる『だけ』の『異能【スキル】』であり、食らった所で殺傷能力が全く無いので死ぬ事は無い。

 しかも反魔法煙幕が張られているお陰で、効果範囲内にいるギャレット王国騎士団は魔法を使えず、また視界も遮られているので、弓やバリスタなどの飛び道具も狙いを定められない。飛竜に乗って上空にいるサザーランド王国騎士団への攻撃手段が無いのだ。


 これらのラインハルトの優れた戦術がピタリとはまり、ギャレット王国騎士団は戦闘能力が1/10にまで減退してしまったサザーランド王国騎士団に対し、全く手も足も出せずにいたのだった。

 その屈辱とも言える事実に、怒りを露わにするベルド。


 「ええい!!姑息な真似を!!とにかく弓やバリスタを撃ちまくれ!!」

 

 ベルドの命令で、慌てて苦し紛れに弓矢やバリスタを上空へと放つギャレット王国騎士団だったのだが。


 「ラインハルト様、ギャレット王国騎士団からの遠距離射撃が来ます!!」

 「慌てるな!!所詮は闇雲に撃っているだけだ!!そう簡単には当たらんよ!!」


 ラインハルトがセレーネに告げた通り、慌てて放たれた弓矢やバリスタは完全にラインハルトたちから外れて、明後日の方向に飛んでいくだけだ。

 まさに『当たらなければ、どうという事は無い』という奴だ。


 「戦術プラン通り、我々は歌姫の絶望の歌によるデバフが切れるまで、この場を一時撤退する!!」

 「「「「「はっ!!」」」」」


 そしてラインハルトの命令で、すたこらさっさと逃げ出すサザーランド王国騎士団。

 放たれた弓矢やバリスタが、先程までラインハルトたちがいた場所を呆気無く空振り三振してしまう。

 これでギャレット王国騎士団に、大量の弓矢とバリスタを無駄に消費させる事に成功した。これもラインハルトの戦術による物なのだ。

 後は『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』によるデバフが切れるまでの3分間、フォルトニカ王国騎士団にバトンタッチするだけだ。

 そしてサザーランド王国騎士団の一時撤退を合図にサーシャが馬に乗り、決意の表情で部下たちに呼びかけたのだった。


 「では先日エキドナさんが私たちに提供して下さった、ラインハルト陛下の戦術プランに従い、これより私たちは歌姫救出作戦を遂行します!!」


 隼丸を高々と掲げるサーシャに対し、うおおおおおおおおおおおおお!!と力強い雄叫びを上げるフォルトニカ王国騎士団。

 そしてサーシャは高々と掲げた隼丸の先端を、ギャレット王国騎士団に力強く向けたのだった。


 「総員、作戦行動を開始して下さい!!」


 反魔法煙幕が張られたギャレット王国に向けて、サーシャからの命令で一斉に馬を走らせ、突撃するフォルトニカ王国騎士団。

 その先頭を走る太一郎とシルフィーゼが、決意に満ちた表情で標的のベルドを見据える。


 「いずれ真野神也が戦場に乱入して来るだろうから、それまでに僕がベルドを倒すのが理想、それが無理なら最悪歌姫の救出だけでもしてくれれば助かる…確かエキドナが持ってきたラインハルトの戦術プランに、そう書いてあったけどな。」


 戦術プラン通りに事が進めば、太一郎はベルドと真野神也…ラスボス2人を相手に立て続けに連戦をする羽目になる。

 それだけラインハルトが、太一郎の事を信頼しているという事なのだろうが…。


 「…全く、責任重大だな。ははっ(笑)。」


 自分がベルドに敗北するような事になれば、その時点でラインハルトの戦術プランが根底から崩れ去ってしまう事になる。

 ラインハルトに与えられた重責に対して、もう苦笑いするしか無かった。


 「おのれ、小癪こしゃくな真似を!!この程度の煙幕、我が暗黒流鳳凰剣で吹き飛ばしてくれるわぁっ!!」


 そんな中でベルドが神剣バルムンクから放った鳳凰紅蓮刃で、美海の周囲に展開された反魔法煙幕を全てかき消してしまった。


 「今だ!!やれぇっ!!美海ぁっ!!」

 「…『絶望の輪舞曲』…【デストラクション】…。」


 美海がベルドの命令を受け、今度はフォルトニカ王国騎士団に『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を発動する為に、背後を振り向いてフォルトニカ王国騎士団へと視線を向ける。

 この時、ベルドは確信していただろう。フォルトニカ王国騎士団は美海の『歌』を警戒し、美海の歌が届かない遠距離からの攻撃に徹するだろう、と。

 そしてそれこそが、まさにベルドの狙いだったのだが。


 それなのに。

 ベルドの周囲から反魔法煙幕が消え去り、ベルドの視界が開けた瞬間。

 ひたすら遠距離攻撃に徹すると思っていた、フォルトニカ王国騎士団の大軍が。


 「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」


 ベルドと美海の目の前にいた。

 

 「な、何だとぉっ!?そんな馬鹿なぁっ!?」


 まさかの予想外のフォルトニカ王国騎士団の行動に、驚きを隠せないベルド。

 ベルドが煙幕をせっせと吹っ飛ばしている間に、フォルトニカ王国騎士団が遠距離攻撃に徹するどころか逆に距離を詰め、ギャレット王国騎士団と乱戦状態に持ち込んだのである。

 ベルドと美海の目の前で、死闘を繰り広げる両軍だったのだが。


 「こいつら正気か!?美海の歌が怖くないのかぁっ!?」

 「夢幻一刀流奥義!!疾風はやて!!」

 「な、何ぃっ!?」


 そこへベルドに襲い掛かった、一筋の『閃光』。

 慌ててベルドが神剣バルムンクで、その凄まじい威力の一撃を受け止める。

 馬から降りた太一郎が縮地法で一気にベルドとの間合いを詰め、鳳凰丸でベルドに斬りかかったのだ。

 互いに鍔迫り合いの状態で、睨み合う2人。


 「貴方の相手は僕だ!!ベルド!!」

 「その黄金の刀…!!そして『閃光』の如き太刀筋…!!貴様が『閃光の救世主』かぁっ!?」

 

 太一郎を吹っ飛ばしたベルドだったが、何故か美海は『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を、フォルトニカ王国騎士団に向けて発動しようとしなかった。

 いや、正確には『使いたくても使えない』のだ。

 何故ならこの状況では、味方であるギャレット王国騎士団やベルドにまで、強烈なデバフの効果に巻き込まれてしまうからだ。


 「歌姫の歌は、乱戦状態では使い物にならない…ラインハルトの助言通りだったな。」

 「くっ…!!おのれラインハルトめ!!初めからこれが狙いだったのかぁっ!!」


 顔を赤くしながら、怒りの形相で太一郎を睨みつけるベルド。

 そんなベルドを太一郎が、何の迷いも無い力強い瞳で見据えていたのだった。


 美海が『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を発動した際、多くの者たちが強烈なデバフを食らわされ、次々と無力化されていった。

 だが美海のすぐ傍で歌を聴いていたはずのベルドやギャレット王国騎士団は、何故か全くその影響を受けていなかった。

 美海がデバフの対象をベルドたちから外したとも考えられるが、エストファーネからの事情聴取を受けた時点で、ラインハルトはその可能性を即座に否定したのである。

 何故ならエストファーネはサザーランド王国に亡命した際、ラインハルトに語っていたからだ。


 美海が歌を歌い始めるまで、ベルドやギャレット王国騎士団の兵士たちは美海の背後で待機し…『美海が歌い終わるまでその場から動かなかった』のだと。


 このエストファーネからもたらされた重大な情報から、ラインハルトは瞬時に導き出したのである。

 ベルドたちは美海の『歌に』ではなく、『デバフの効果範囲に』巻き込まれる事を恐れて、美海が歌い終わるまで彼女の背後で待機していたのだと。


 つまりは、こういう事だ。

 『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の本当の正体…それは『歌』ではない。

 美海が歌を歌うのは、『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を発動する為の、あくまでも『前提条件』に過ぎない。


 美海の歌をトリガーにして、美海の歌を聴いていたかどうかなど全く関係無く、美海の『視界に映る者たち』全員に強烈なデバフを付与する。


 それが、それこそが、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の本当の正体だったという訳だ。

 だからベルトもギャレット王国騎士団の兵士たちも、美海の歌をすぐ傍で聴いていたにも関わらず、全く何の影響も受けていなかったのだ。

 そりゃそうだろう。そもそも美海の視界に映らない場所に陣取っており、デバフの効果範囲の外にいたのだから、デバフの影響を受ける訳が無いのだから。

 それに気が付かず、あくまでも美海の『歌』への警戒をするという全く無意味な行動をしでかしてしまったせいで、ジュリアスは無様に敗れ去ってしまったのである。


 だがそれさえ分かってしまえば、別にどうという事はない。

 まずは美海の視界と、ギャレット王国騎士団の遠距離攻撃を封じるために、反魔法煙幕をぶちかます。

 当然、ベルドは美海に『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を使わせる為に、反魔法煙幕の効果範囲外へと美海を移動させるなり、あるいは神剣バルムンクで反魔法煙幕自体を吹き飛ばすなりするだろうが。


 いずれにしても、その隙に乗じてフォルトニカ王国騎士団を突撃させる。

 そうして敢えて敵味方入り乱れる乱戦へと持ち込む事で、美海に『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を使わせない状況へと…下手に使ってしまえば味方まで巻き込んでしまう状況へと巧みに持ち込んだのだ。

 これだけ凶悪な美海の『異能【スキル】』だ。下手に味方まで巻き込んでしまえば、それこそ自滅を招く事になりかねないだろう。


 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』は、美海の視界に映る者全員に、敵味方関係無く影響を及ぼしてしまう。任意の者をデバフの対象から外すなどといった器用な真似は出来ない。

 そんな事が出来るのであればベルドはこれまでの戦いにおいて、美海が歌い終わるまで自軍を後方に待機させるなどといった、そんなセコい真似はしなかったはずだ。

 しかも、なまじ凶悪な威力を秘めてしまっているが故に、敵味方入り乱れる乱戦では全く使い物にならない。

 これこそがラインハルトが即座に見抜いた、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』に秘められた最大の弱点なのだ。


 こうしてラインハルトの見事な策によって、これまで無敗を誇ってきた美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』は、遂に完璧に攻略されてしまったのである。

 『雷神の魔術師』の異名を持つラインハルトを、敵に回してしまった事…それがベルドにとっての最大の不運なのだ。


 「…ラインハルトぉ…!!あの若造があああああああああああああああああっ!!」


 ラインハルトの術中にまんまと乗せられ美海を無力化されてしまったベルドからは、先程までの妖艶な笑顔が完全に消え失せてしまっていた。

 あるのはただ、自分をコケにしてくれたラインハルトへの怒り。


 だがしかし、それにしてもだ。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の本当の正体が『歌ではない』という事実に、何故ラインハルトは気が付いたのだろうか。

 エストファーネがサザーランド王国へと亡命した以上、当然ラインハルトによる事情聴取を受けているはずだが。

 それでもエストファーネも自身の体験から、美海の『歌』を警戒すべきだと、そうラインハルトに勘違いかつ無意味な進言をしたはずだ。

 そしてそれはまさに、ベルドの想像通りだった訳なのだが…。


 まさかラインハルトはエストファーネへの事情聴取によって得られた、僅かな証言と状況証拠『だけ』で、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の本当の正体を即座に見抜いたとでも言うのか。

 そうでなければラインハルトの、そして彼が指揮するサザーランド王国騎士団の、さらに彼の助言を受けたと思われるフォルトニカ王国騎士団のあまりの手際の良さは、到底説明が付かない。

 何だそれ、天才過ぎるだろ!?…ベルドは太一郎と交戦しながら、ラインハルトのあまりの聡明さに怒りを露わにしていたのだった。


 「瑠璃亜。ラインハルトたちが私たちを助けに来てくれたわよ。彼なら必ずベルドを抑え込んでくれるはず…だから貴女も紛い物の魔王なんかの暗黒魔法に負けたら駄目よ。」


 そんな中でクレアは女性医師と共に、未だ意識が戻らない瑠璃亜を精霊魔法で懸命に治療していたのだった。

 心なしか、瑠璃亜が若干笑みを浮かべたような気がするが…気のせいだろうか。

 クレアたちの尽力によって、瑠璃亜の暗黒魔法自体は順調に浄化されつつあるのだが、ベルドの侵略が始まるまでに浄化が間に合わなかった。

 だから一刻も早く、瑠璃亜を回復させなければならないのだが…。


 「…はぁ、仕方が無いわね。もう『あの治療方法』をやるしかなさそうね。」


 以前クレアが太一郎に言い掛けて、顔を赤らめながら思いとどまった、瑠璃亜の暗黒魔法を『今すぐに浄化する方法』…それをクレアは実行する事にしたのだった。


 「ほ、本当にやるんですか!?女王陛下(泣)!!」

 「状況が状況だから仕方が無いわ。瑠璃亜の服を脱がせて貰えるかしら?」

 「しょ、承知致しました(泣)!!」


 相手は義理とはいえ、太一郎の母親だ。

 しかも自分は未亡人だし、もう40過ぎたBBAだし、そもそも瑠璃亜本人の意思さえも確認していないので、正直不本意ではあるのだが。 

 この状況においては、もう四の五の言っていられる場合では無かった。


 「じゃ、セックスするわよ。瑠璃亜。」


 この娘にして、この母親である。

 いきなり全裸になって、豊満な胸を顕わにしたクレアの美しい肢体を、女性医師が瑠璃亜の服を脱がしながら、顔を赤らめながら見つめている。

 そして瑠璃亜を同じく一糸纏わぬ姿にし終えた女性医師に見守られながら、クレアが瑠璃亜の身体の上に覆い被さり、意識を失っている瑠璃亜と優しく唇を重ねたのだった。


 そう…クレアは瑠璃亜と愛し合う事で心と身体を1つにし、自身の魔力を瑠璃亜の体内に直接流し込む事で、瑠璃亜の身体を蝕んでいる暗黒魔法を強引に浄化するつもりなのだ。

 この方法なら、恐らくは30分もあれば瑠璃亜の暗黒魔法を浄化出来るだろう。


 瑠璃亜とレズセックスをするなどという、あまりにも滅茶苦茶な方法だったが故に、流石にクレアも本当に最終手段にしておくつもりだったのだが。

 クレアも言っていたが、もう一刻の猶予も無いのだ。

 今は一刻も早く瑠璃亜を回復させ、太一郎たちの救援に回って貰わなければならないのだから。


 「…ん…ちゅっ…んっ…。」

 「ひええええええ、じょ、女王陛下、そんな大胆な…(泣)!!」


 瑠璃亜の唇を自らの舌先で、とても愛しそうに優しく撫でるクレアの傍らで、この異世界の命運を賭けた最終決戦が繰り広げられていたのだった。

繰り広げられる太一郎VSベルドの死闘。

両軍の大乱戦が繰り広げられる最中、ルミアは無事に美海を救助する事が出来るのか…?

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