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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
最終章:光溢れる未来へ
98/112

第97話:絶望の幕開け

遂に最終章開始です。

最終決戦の地・フォルトニカ王国に向かうベルド率いるギャレット王国騎士団は、その道中にあるテレスティア王国へと襲撃を仕掛けます。

迎え撃つテレスティア王国騎士団、そして転生者部隊。美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』対策を万全にして挑むのですが…。

 坂本良太はこの異世界に転生させられる前は、ある田舎の観光地に存在する小さな町工場で、航空機の部品を作る下請け会社の社長を務めていた。

 親会社から取引停止を情け容赦なくちらつかされながら、単価を下げるように何度も執拗に圧力を掛けられ続け、さらに他のライバル企業との価格競争や納期競争、品質競争に晒され続けた事で、思ったように業績は伸びず経営は決して順風満帆とは言えなかった。

 この手の下請けの工場ではよくある話なのだが、本来なら部品を作れば作る程、材料費や光熱費、人件費などの必要経費がかさんで赤字になる状況だった。

 だがそれでも社員が一丸となって奮起し、

 

 『エアコンを使用せずに冷房は扇風機だけで済ませる』

 『工場の明かりをこれまでの白熱灯から電力消費量の少ないLEDに変えて、必要最小限しか使わない』

 『トイレの水はウンコ以外は終業時間まで流さない』

 『軍手がボロボロになっても油まみれになっても、限界まで使い続ける』

 『作業時に使用する油の使用量を限界まで削る』

 『社長の給料を生活が成り立つ限界まで削り、さらに社長の分のボーナスは全額カット』


 これらの極限までのコスト削減に取り組み続けた事で、毎日のように親会社からの厳しい納期の要求に晒され続け、従業員に無理を言って夜遅くまでサービス残業をして貰い、本当に心の底から申し訳なく思いながらも、何とか辛うじてギリギリ…本当にギリギリ黒字になる程度には会社を回す事が出来ていたのだ。

 そう…あの日、マイカーで旅行に来ていた太一郎たちを、大型トラックで追突させて死なせてしまうまでは。


 坂本は危険運転致死傷罪の現行犯、さらに労働基準法違反の容疑で逮捕、起訴されてしまう事となる。

 その後の裁判での口頭弁論で、検察側は坂本が納期に間に合わせようとするあまり、無茶な信号無視、速度違反、トラックへの過積載を行うなど、運転手として最低限守らなければならない『安全』を軽視した事が凄惨な事故に繋がったと主張。

 さらにトラックのドライブレコーダーに残された動画を検証した結果、太一郎たちが乗る乗用車に追突するまでクラクションを鳴らすだけで済ませ、全くブレーキを掛けようとしなかった事が判明した事や、警察の取り調べにおいて


 『安全なんざ知ったこっちゃねえ!!』

 『仕事はとにかく早くやらなあかんのや!!』

 『こっちだって生活が掛かっとるんや!!』


 などと発言した事を問題視するなど、反省の態度が全く見えず悪質だとして死刑を求刑。

 それに対して結成された弁護団は、そもそも親会社が課した無茶苦茶な納期に問題があり情状酌量の余地はある、また坂本が経営する会社が信用を失墜し既に倒産しているなど、一定の社会的制裁は既に受けているとして、無期懲役が相当だと反論した。

 検察側、弁護団が激しく争った結果、一審、控訴審共に坂本に下された判決は、死刑。


 如何に親会社から無茶な納期を要求されようとも、それで何の落ち度も無い犠牲者3人が、突然理不尽に命を奪われた事に対する大義名分には到底成り得ない。

 被告人が『安全』を軽視した事でもたらされた結果は極めて甚大であり、被告人の言い分も身勝手で峻烈しゅんれつ極まりなく、情状酌量の余地は全く無い…裁判長はそう坂本に通告したのである。

 弁護団が行った上告申請も却下され、判決確定から8年後…死刑廃止団体による抗議デモが行われる最中、坂本への死刑が執行された。


 以前、向こうの世界で誰かが言っていた。

 人はどれだけ大きな罪を犯そうとも、それらは『死』によって全てが許されるのだと。

 だから坂本が死刑執行されて命を断たれた時、それで坂本の罪は許されたのだろうか。

 実際に向こうの世界においても坂本の死刑執行の時点で、坂本に課せられた刑罰は既に終わっているのだ。


 それなのに、何故…こんな事になってしまったのだろうか。

 死刑を執行されても尚、坂本の罪は…まだ許されていないとでも言うのだろうか。

 テレスティア王国国王・ジュリアスの命により実行された転生術によって、この異世界に有無を言わさず転生させられた坂本は、他の転生者たちと共に『呪い』を付与され、ジュリアスの為に戦う事を強要されてしまったのである。

 そして。

 

 「国王陛下!!ギャレット王国騎士団が、遂に我が国へと進軍を開始しました!!」

 「よろしい、直ちに迎撃態勢を整えなさい!!転生者部隊、前へ!!あの身の程を弁えない愚かな連中を、一匹残らず駆逐するのですよ!?いいですね!?」 


 清々しい朝日に照らされる最中の、朝8時。

 遂に開始されたベルド率いるギャレット王国騎士団による、テレスティア王国侵攻作戦。

 陣を構え、鉄壁の守りの構えを見せるテレスティア王国騎士団。

 そしてジュリアスの命令を受けた坂本ら20人の転生者たちが、一斉にテレスティア王国騎士団の最前列へと進んでいく。


 彼らの誰もが付与された『呪い』のせいで、誰もジュリアスに逆らう事が出来ずにいた。

 逆らえば『呪い』によって心にも身体にも甚大な苦痛を与えられ、生き地獄を味合わされる事になるからだ。

 およそ国を守る為の戦いに赴く者が見せる物だとは到底思えない、憔悴し切った表情を見せる転生者たち。


 「フン、あの娘の『異能【スキル】』の正体は既に割れているのですよ。これが歌だと分かってさえいれば、別にどうという事はありませんよ。」


 進軍を開始したギャレット王国騎士団の先頭に陣取り、ボロボロの衣服を着せられて無理矢理馬に乗って走らされる美海の姿を双眼鏡で確認し、不遜ふそんな態度を見せるジュリアス。

 本来ならば坂本ら20人の転生者たちを使い、真っ先にファムフリート王国を襲ってエストファーネを強奪し、ジュリアスの妻にするつもりだったのだが…ベルドのせいで計画が狂ってしまったのだ。

 ファムフリート王国は陥落し、エストファーネは『ラビアンローズ』と共にサザーランド王国へと亡命してしまった。

 

 だがまあ、それはそれで別に構わない。

 ここで転生者たちを使ってベルドや美海を抹殺した後に、サザーランド王国を攻めてラインハルトを抹殺し、エストファーネを強奪すれば済む話なのだから。

 それに美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』対策ならば、もう既にしっかりと済ませてある。


 「総員、耳栓を装着しなさい!!今後の伝達は光信号による暗号通信で行う物とします!!いいですね!?」

 「「「「「はっ!!」」」」」

 

 ジュリアスの号令の下、一斉に耳栓を装着するテレスティア王国騎士団の兵士たち、そして坂本ら20人の転生者たち。


 「これはただの耳栓ではありませんよ。この日の為に魔術師ギルド総出で大量生産させた特性品ですからね。充填された魔力が続く限りは、外部からの音を完全にシャットアウト出来る…これならあの小娘の歌も怖くはありませんよ。」


 20人もの転生者たちを転生させた事に加え、これを兵士たち全員分用意したせいで費用も物資も触媒も大量に消費する羽目になってしまったのだが、今はそんな悠長な事を言っていられる場合ではないのだ。

 これさえあれば美海の歌など、別に怖くも何とも無い…そう思い込んでいたジュリアスだったのだが…。


 「やれ!!美海ぁっ!!」

 「…『絶望の輪舞曲』…【デストラクション】…。」


 ベルドによる度重なる虐待と拷問によって、最早完全に心が壊れてしまった美海が、生気を失った虚ろな表情で、ベルドに言われるままに絶望の歌を奏でる。

 次の瞬間、ジュリアスもテレスティア王国騎士団の兵士たちも、坂本ら20人の転生者たちも、突然力が抜けたかのように崩れ落ちてしまったのだった。

 まさかの予想外の事態に、ジュリアスは戸惑いを隠せない。


 「ば、馬鹿な…!?あの娘の…『異能【スキル】』の正体は…っ!!歌では…無かったの…ですか…っ!?」


 ジュリアスの身体に力が全然入らない。立ち上がって剣を構えるだけで精一杯だ。

 魔術師ギルド総出で作らせた耳栓は、しっかりと効いている。美海の歌どころか周辺の音そのものが全く聞こえない。

 それなのに何故、美海の歌によって強烈なデバフを食らわされてしまったのか。


 「か、身体に全然力が入らん…!!一体何がどないなっとんのや…っ!?」


 坂本もまた、槍を杖代わりにして何とか立ち上がるものの…ジュリアスと違って何の戦闘訓練も受けていない、単に『異能【スキル】』を使えるだけでしかない坂本では、武器を構える事さえままならない。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の威力は、ファムフリート王国を襲撃した時よりもさらに増大しているのだ。

 そう…ベルドによる度重なる虐待と拷問の末に、美海の絶望がさらに深まった事によって。

 あの頃は能力の減退が5分の1程度だったが、今回は7分の1にまでジュリアスたちの能力が減退してしまっていた。


 「ククククク!!馬鹿な連中だ!!耳栓如きでは美海の歌を止められはせんわ!!総員突撃!!転生者共は俺が抑える!!お前たちはジュリアスの首を取れ!!」

 「「「「「はっ!!」」」」」


 そんな中でまたしても開始された、ギャレット王国騎士団による虐殺劇。

 ここから先は、最早『戦い』にすらなっていなかった。

 1人、また1人と、まともに戦う事すら出来なくなってしまったテレスティア王国騎士団の兵士たちが、ギャレット王国騎士団の兵士たちによって次から次へと蹂躙されていく。

 あっという間に、戦場にテレスティア王国騎士団の兵士たちの無数の死体が出来上がってしまっていた。


 「お、おのれベルド…!!おのれ忌まわしい歌姫が…っ!!」

 「陛下!!どうかここはお引きを…ぐあああああああああああああああっ!!」

 「この状況で…一体どこに引けと…言うのですか…っ!?」


 身体に全然力が入らない中でも、それでも耳栓を外して必死に剣を手に奮戦するジュリアス。

 だが美海が歌う事を止めてもなお、3分間は『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の効力が消える事は無い。

 既に戦闘開始から2分が経過しているが、そのたった2分もの間に、テレスティア王国騎士団は壊滅状態になってしまっていた。

 ジュリアスの目の前に、無数の部下たちの死体が転がってしまっている。

 万全の対策をしていたはずなのに…一体何故こんな事になってしまったのか。


 「はぁっ…!!はぁっ…!!わ、私の…あ、暗黒流…っ!?」

 「「「「「国王ジュリアス!!その首貰ったぁっ!!」」」」」

 「くそっ…!!くそっ…!!くそおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 部下たちが次々と命を落とす中で、必死にギャレット王国騎士団の兵士たちを剣で斬り捨てるなど、孤軍奮闘するジュリアス。

 だが果たして、この絶望的な状況の中、美海の歌の効力が切れる残り1分まで持ちこたえる事が出来るのか…。


 「はっはっは~~~~~~~!!この程度か!?話にならんわ転生者共ぉっ!!」

 「「「「「ぎぃあああああああああああああああああ!!」」」」」


 そして転生者たちもまた、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』によるデバフが情け容赦なく身体を蝕む最中、ベルドの神剣バルムンクによって次々と斬り捨てられていく。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の影響をまともに受け、全力を出す事も叶わないまま抵抗らしい抵抗も出来ず、次から次へと死んでいく仲間たち。

 まさに絶望的な光景が、坂本の目の前で繰り広げられていたのだった。


 「ウ…『十頭の大蛇【ウロボロス】』…っ!!」

 

 それでも坂本が一瞬の隙を目掛けて放った無数の漆黒の鞭が、何とか辛うじてベルドの全身を拘束したのだが。


 「坂本さん!!」

 「い、今や…!!な、何とか俺が…抑えている間に…こいつを…っ!!」

 「坂本さん、余所見よそみしないで!!そいつはまだ!!」

 「なっ…!?」


 坂本が仲間たちにベルドへの止めを促した瞬間、ブチブチブチブチと派手な音を鳴らしながら、自らの全身を拘束している漆黒の鞭を、妖艶な笑顔で力任せに引き千切ったベルド。

 まさかの絶望的な光景に、坂本は戸惑いを隠せない。

 そして。


 「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!こんな物で俺の動きを封じる事など出来んわ!!」

 「そ、そんな馬鹿なぁっ!?」

 「死ねぇっ!!」


 ベルドの神剣バルムンクが、情け容赦なく坂本の身体を切り裂いたのだった。

 派手に鮮血を放ちながら、どうっ…とその場に倒れ込む坂本。


 「がはぁっ!!」

 「坂本さぁん!!」


 絶望の表情の転生者の青年が涙ぐむのを、薄れゆく意識の中で見つめる坂本。

 一体どうして、こんな事になってしまったのか。

 向こうの世界で坂本は、必死になって働いて、働いて、働いてきた。

 親会社から執拗に単価を下げる事を迫られ続け、ライバル企業との価格競争、納期競争、品質競争に晒されながらも、それでも工場の従業員たちや、その家族たちを何とかして食べさせなければならないと、必死になって働き続けてきた。

 その為に『効率』を重視するあまり『安全』を度外視した結果、何の落ち度も無い3人もの命を理不尽に奪ったとして、死刑判決を受けて死刑を執行された。


 そうして死してなお、坂本の罪は赦される事無く…ジュリアスとベルドの傲慢さのせいで、今また坂本はこうして再び理不尽に命を奪われようとしている。

 向こうの世界に遺してきてしまった、愛する妻と2人の息子、孫たちに想いをせながら、地面に倒れ伏した坂本は思わず涙ぐんでしまったのだった。

 一体どうして、こんな事になってしまったのかと。

 そう言えば他の転生者たちは、この異世界の事を『あーるぴーじー』のようだ、みたいな事を言っていたのを、坂本は今になって走馬灯のように思い出したのだが…。

 

 「…俺はよぉ…中学を出てから、今までずっと仕事一筋で生きてきたんや…だから仕事以外の事は何も分からんのや…。」

 「そうか!!ならばあの世で気が済むまで永遠に働いてろ!!このクソジジィが!!」

 「が…っ!?」

 

 そんな坂本の左胸を、情け容赦なく神剣バルムンクで貫いて止めを刺したベルド。

 目から大粒の涙を流しながら事切れた坂本の姿に、転生者の青年の頭の中で、『プツン』と何かが切れた。


 【ファファファファファ…分かっておるかえ?敵前逃亡すれば、そなたらは…。】

 「そんなのする訳ねえだろ!!てめえに言われるまでもねえ!!坂本さんたちを殺したこいつを!!俺は絶対にこの手で殺してやる!!」


 自分に取り憑いた『呪い』を罵倒し、青年が物凄い形相でベルドに剣で斬りかかる。

 彼の凄まじい威力の一撃を、妖艶な笑顔で神剣バルムンクで受け止めるベルド。

 鍔迫り合いの状態で、互いに睨み合う2人。


 「お前ええええええええええ!!よくも皆をおおおおおおおおおおおっ!!」

 「ふははははは!!貴様は俺の事を楽しませてくれるんだろうなあ!?」

 「楽しめるもんなら楽しんでみろよ!!このクソ野郎がああああああああああっ!!」

 

 そうこうしている内に、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の持続時間である3分間が過ぎたようだ。

 自分の全身に力が戻ってきているのを感じ取った青年が、坂本たちの仇を討つ為に、決意に満ちた表情で自らの『異能【スキル】』を発動したのだった。


 「『潜在能力解放【トランザム】』!!」


 次の瞬間、青年の全身が凄まじい真紅の光に包まれる。

 そうして戦闘能力を爆発的に上昇させた青年が、仲間たちの仇を討たんとベルドに斬りかかる。

 『潜在能力解放【トランザム】』発動による強烈なバックファイアが、青年の身体に情け容赦なく襲い掛かるが、それでも今はそんな悠長な事を言っていられる場合では無いのだ。

 ジュリアスの野望も、この異世界の情勢も、今の青年には至極どうでもいい。

 何としてでも今ここでベルドを殺し、仲間たちの仇を討たなければならないのだから。


 「俺たちに『呪い』を掛けたジュリアスのクソ野郎もそうだが!!俺はお前の事も絶対に許さねえぞ!!よくも皆を殺してくれたなああああああああああああああああっ!!」

 「ほう!!これが噂の『潜在能力解放【トランザム】』か!!かの『閃光の救世主』も使えるとの報告は受けているが…だが!!」


 だがそれでも、ベルドには遥かに及ばない。

 並の使い手であれば反応すら出来ないであろう、青年の凄まじい速度の連撃…それをベルドは妖艶の笑顔で全て神剣バルムンクで弾き返してしまったのだった。

 何という凄まじいベルドの戦闘能力なのか。絶望が青年の心を支配したのだった。

 こんな化け物みたいな奴を、一体何をどうしたら殺せるというのかと。


 「しかし何と笑止よ!!美海の歌の効力が切れ!!『潜在能力解放【トランザム】』を発動してもなお!!貴様の力とは所詮はこの程度なのかぁっ!?」

 「そ、そんな馬鹿な…!!俺の『潜在能力解放【トランザム】』を、こんなにもあっさりと…!!」

 「食らえぃ!!暗黒流鳳凰剣奥義!!鳳凰天翔!!ほうおおおおおおおおおおおう!!ほうおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!ほうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!」

 「ぎぃああああああああああああああああああああああああ!!」


 ベルドの凄まじい一撃をまともに受けた青年が、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられてしまう。

 そのまま涙目になりながらズルズルと崩れ落ち、壁にもたれかかる青年。

 そんな青年の無様な姿を、ベルドが妖艶な笑顔で見下しながら。


 「雑魚が!!これでは同じ『潜在能力解放【トランザム】』の使い手である『閃光の救世主』の実力も、所詮はたかが知れているという物よ!!」

 「がはぁっ!!」


 神剣バルムンクで、情け容赦なく青年の左胸を貫いた。

 驚愕の表情で、そのまま事切れてしまった青年。

 その様子を他の転生者たちが、絶望しながら見せつけられてしまう。

 

 「これがテレスティア王国騎士団の転生者部隊とやらの力…!!微温ぬるい!!どれ程の物かと期待してみれば、所詮はこの程度だったとはな!!」


 そうしてベルドが高笑いする最中、ジュリアスもまたテレスティア王国騎士団の兵士たちに、次々と剣でドスドスドスと全身を貫かれてしまっていた。

 

 「がはあっ!!」

 「敵将ジュリアス、討ち取ったり~~~~~~~!!」

 「ば、馬鹿な…!?この私の世界征服の野望が…っ!!こ、こんな所で…っ!!」


 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』対策は、事前にしっかりと済ませてきたはずなのに。

 だが美海の歌の威力は、ジュリアスの予想を遥かに上回っていた。

 耳栓で美海の歌を封じるつもりが、美海の歌は耳栓さえも無力化する代物だった。

 今の有り得ない状況を認める事が出来ないまま、ジュリアスは地面に倒れ伏し、そのまま事切れてしまったのだった。


 ジュリアスはラインハルトと違い、気が付いていなかったのだ。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』に秘められた、その隠された『本質』…そしてその絶大な威力であるが故の、致命的な『弱点』を。

 それが自身の敗北を招く事になったのだと気付かないまま、ジュリアスは無様に戦死してしまったのである。

 

 「こ、国王陛下が…し、死んだ…!!」

 「もう駄目だぁ…おしまいだぁ…!!」


 ジュリアスの戦死を目の当たりにさせられた、生き残ったテレスティア王国騎士団の兵士たちが、一斉に武器を捨てて両手を上げ、ギャレット王国騎士団の兵士たち対して降伏の意思を見せる。

 戦場において部隊のエースが討ち取られるというのは、それだけで兵たちの士気に大きく影響してしまう物なのだ。

 ましてそれが自国の国王ともなれば、尚更だろう。


 「国王陛下!!テレスティア王国国王ジュリアスを討ち取りました!!」

 「おう!!でかしたぞ!!こっちもたった今、片付いた所だ!!」


 ジュリアスの足元に、坂本ら転生者たち20人全員の死体が転がっていた。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の前では、テレスティア王国が誇る20人もの転生者たちでさえも全くの無力。

 今回の戦いで、その絶望的な事実が証明されてしまったのだ。

 それに加えて『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』さえも通用しないなど、ベルド自身の戦闘能力も相当な物だ。

 これからこの異世界は、一体どうなってしまうというのか…。


 「よくやったぞ美海ぁ!!お前の絶唱に逆らえる者など最早誰もおらんわ!!」

 「…わん。」

 「これでテレスティア王国は潰した!!次はフォルトニカ王国の番だ!!『閃光の救世主』だか何だか知らんが、美海の力を持ってすれば潰すのは容易い事よ!!ひゃははははははははは!!」

 「…わん。」


 盛大に高笑いするベルドの後ろ姿を、美海が目から大粒の涙を流しながら、感情を失った虚ろな表情で見つめていたのだった…。

転生者たちを皆殺しにし、テレスティア王国を陥落させたベルドは、遂に最終決戦の地・フォルトニカ王国へと進軍を開始します。

迎え撃つ太一郎たちフォルトニカ王国騎士団。耳栓すら通用しなかった美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』相手に、果たしてどう立ち向かうのか…。

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