第96話:犬
第11章完結です。
今回の話は、描いてる内に僕自身が物凄く胸が痛くなりました。
ラインハルトの推測通り、テレスティア王国への侵攻準備を着々と進めていたベルドなのですが…。
その時、美海は…。
ラインハルトの戦術予報は、見事に的中していた。
ファムフリート王国を制圧したベルドは、サザーランド王国よりも先にテレスティア王国を潰す為に、侵攻準備を着々と進めていたのである。
それはやはりラインハルトの予測通り、テレスティア王国国王ジュリアス率いる転生者軍団を警戒し、真っ先に潰そうと考えての事だ。
ギャレット王国騎士団の兵士たちがベルドの命により、テレスティア王国への侵攻準備を大急ぎで着々と進めていたのだが。
そんな中、ファムフリート王国の城の地下室の営倉室において、ベルドによる美海への拷問が行われていた。
一糸纏わぬ全裸にされた美海が、天井に吊るされた鎖で両手首を縛り付けられ、身動きが出来ない状態にされてしまう。
そんな美海に、ベルドが妖艶な笑顔で情け容赦なく鞭を振るったのだった。
「おらぁ!!おらぁ!!おらぁ!!」
「ああああああああああっ!!あああああああああああああああああっ!!ああああああああああああああああああっ!!」
ベルドの鞭が美海の一糸纏わぬ綺麗な身体に、情け容赦なく深い傷を付けていく。
鞭で殴られる度に乾いた音が響き渡り、美海の身体に衝撃と激痛が走る。
目から大粒の涙を流しながら全く抵抗する事も出来ず、されるがままになってしまっている美海。
何故ベルドが美海に対し、このような非道な拷問を行っているのか。
それは美海の絶望をより深める事によって、『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の威力をさらに強大にする為だ。
「こ、国王陛下!!報告致します!!」
そのベルドによる拷問の最中、エストファーネを追っていた特殊工作部隊の女性の1人が大慌てで駆けつけ、ベルドの前で跪いたのだった。
「エストファーネ様奪還作戦は、『ラビアンローズ』とファムフリート王国騎士団によって阻まれ、失敗致しましたぁっ!!」
「何ぃ!?『ラビアンローズ』だとぉっ!?」
「は!!奴らの中に探知魔法を使う女魔術師がいたようで、我々の存在を完全に見抜かれてしまいました!!申し訳御座いません!!」
特殊部隊の女性からの報告に一旦美海への拷問を中止し、怪訝な表情を浮かべるベルド。
何故『ラビアンローズ』がサザーランド王国に…まさかラインハルトは自分がファムフリート王国を制圧した事を警戒して、自国の防衛の為に最強の女傭兵集団である彼女たちを雇ったとでも言うのか。
まあ今更『ラビアンローズ』が加入した所で、美海の『異能【スキル】』の前では全くの無力なのだが…。
「それと魔王軍3魔将エキドナが、サザーランド王国騎士団に加入した模様!!」
「何だとぉっ!?」
それでも特殊部隊の女性からの報告に、ベルドはさらに驚愕の表情になってしまったのである。
「どういう事だ…!?『ラビアンローズ』に3魔将エキドナだと…!?ラインハルトめ、一体何を企んでいる…!?」
エキドナが神也に敗北し行方不明になっていたというのは、ベルドも知ってはいたのだが…まさかサザーランド王国に身を寄せていたとは。
別にエキドナ如きベルドの敵では無いのだが、彼女の『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』、そして聖剣ティルフィングの存在は厄介だ。
美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』が、聖剣ティルフィングの加護を受けたエキドナには通じない可能性があるからだ。
まさかラインハルトは、その為にエキドナを迎え入れたのか…!?顎に手を当て、そんな的外れな事を考え込んでいたベルドだったのだが。
「…よし、任務ご苦労だった!!取り敢えずエストファーネの事は捨て置け!!」
やがて意を決した表情で、ベルドは女性に命じたのだった。
予想外のベルドの言葉に、特殊部隊の女性は戸惑いを隠せない。
「は!?本当によろしいのですか!?」
「今はラインハルトにエストファーネを保護させておけばよい!!奴ならばジュリアスと違い、エストファーネの事を丁重に扱うだろうからな!!」
「しょ、承知致しました!!」
「それよりも今はテレスティア王国への侵攻作戦に集中する事が先決だ!!準備が整い次第、お前たちにも出撃して貰うからな!!いいな!?」
「はっ!!」
特殊部隊の女性がベルドに敬礼してその場を去った後、ベルドはまたしても妖艶な笑顔で美海に向き直る。
そして嗚咽して全身を震わせている美海に、さらに鞭を振るったのだった。
「おらぁっ!!」
「あああああああああああああああああああああっ!!」
「美海!!今日から貴様は俺の犬だ!!分かったな!?」
「あああああああああっ!!あああああああああああああああああああっ!!」
バチーン!!バチーン!!と、ベルドが鞭を振るう度に、乾いた音と美海の絶叫が営倉室に響き渡る。
「…う…うううっ…わ、私は…っ!?ああああああああああああああああっ!!」
言い掛けた美海に、ベルドがさらに妖艶な笑顔で情け容赦なく鞭を振るう。
「おい美海ぁ!!犬が人の言葉を喋るのか!?『私は』って何だ!?貴様は俺の犬だと言ったはずだろうがぁ!!」
「あああああああああああああああああああああああっ!!」
何度も何度も何度も何度も な ん ど で も 、美海に鞭を浴びせるベルド。
「…あ、あの…国王陛下、お取込み中の所、失礼致します。ご命令通り彼女の昼食をお持ちしたのですが…。」
その異様な光景を目の当たりにした部下が、ドン引きしながら『美海の昼食』としてベルドに持ってきた物…それは…。
「ほ、本当に『これ』でいいんですか!?」
「おお、見事ではないか!!でかしたぞ、よくやってくれたなあ!!」
「は、ははっ!!では失礼致します!!」
部下が去った後に妖艶な笑顔を浮かべながら、ベルドは美海の両腕の鎖を解錠し、嗚咽する美海に『昼食』を差し出したのだった。
「ほれ美海!!お前の昼飯だ!!最高級品のドッグフードだぞ!?ほれほれ遠慮せずに存分に食え食え!!ぎゃははははははは!!」
ベルドによって無理矢理四つん這いにされた美海が、目の前の床に置かれた皿に山盛りにされた固形物を、大粒の涙を流しながら見つめている。
空腹を訴えた美海の腹が、ぐぐぐぐぐ~~~~~~と盛大な音を鳴らし、早く栄養を補給してくれと美海に対して必死に訴える。
あのファムフリート王国の侵攻作戦の後、美海は昨日の夜から何も口にしていない。
美海の絶望をより深め、反抗心を萎えさせる為と称し、ベルドが美海に食事を与えないように部下に命じたからだ。
目の前にあるのがドッグフードだと分かっていながらも、空腹に耐えかねた美海が思わず右手で、皿に山盛りにされた固形物を掴もうとしたのだが。
「美海貴様!!行儀が悪いぞ!!誰が『前足』で掴んで食えと言った!?貴様は今日から俺の犬だと言ったはずだろうがぁ!!」
「あああああああああああああああああっ!!」
「犬は犬らしく四つん這いになって飯を食わんかぁっ!!」
「あああああああああああああああああっ!!」
そんな美海にベルドが妖艶な笑顔で、またしても鞭を振るったのだった。
もう数え切れない程ベルドに鞭を浴びせられ続けた事で、美海の全身に…それこそ彼女の可愛らしい顔にも豊満な胸にも、無数の鞭の跡がくっきりと残ってしまっている。
美海の全身に激痛が走る。それでも美海に襲い掛かる空腹は決して容赦してくれない。
やがて美海は目から大粒の涙を流しながら、目の前のドッグフードを四つん這いになりながら派手にがっつき始めた。
「ううう…んぐ…はむっ…んぐっ…!!」
「どうだ!?美味いか美海!?」
「…わん。」
下手にベルドに逆らえば、『呪い』による想像を絶する苦痛を浴びせられてしまう。
今の美海は、最早ベルドに反抗する気力すら無くしてしまっていたのだった…。
「そうかそうか!!涙が出る程美味いのか!!それはそうだろう!!この国の最高級のドッグフードらしいからな!!貴様には勿体無い位だわ!!ぎゃはははははははは!!」
目の前の美海の無様な姿を、妖艶な笑顔で見下すベルド。
最早ベルドは美海の事を、人として…いいや、奴隷としてすら扱っていなかった。
そう、美海の事を人でも奴隷でもなく、犬として扱っているのだ。
何故、こんな事になってしまったのか。美海が一体何をしたというのか。
向こうの世界で不運な交通事故で死亡した美海が、全く何の落ち度も無い美海が、何故こんな目に遭わなければならないのか。
きちんと青信号で横断歩道を渡り、全く何の交通違反も犯していなかったというのに。
きちんと校則を守り、全く何の犯罪行為も犯していなかったというのに。
そんな美海が…何故…。
「報告致します!!国王陛下!!テレスティア王国への侵攻準備が全て整いました!!ご命令を下されば、いつでも出撃可能です!!」
美海が四つん這いになりながら必死にドッグフードを口にする最中、報告にやってきた兵士がベルドに敬礼したのだった。
「おう!!準備ご苦労だったな!!ではヒトヨンマルマル(14時0分)に進軍を開始する!!全軍にそう伝えろ!!」
「はっ!!」
目の前の美海の無様な光景に顔をしかめながらも、まさか国王であるベルドに逆らう訳にも行かず、ベルドに敬礼して、そそくさと立ち去る兵士。
そう…美海を助けてくれる者は、今この場には誰もいないのだ。
それが美海の心を、さらに絶望へと堕としてしまう。
それこそ、まさにベルドの思惑通りに。
「美海!!聞いての通りだ!!14時になったら出撃だ!!しっかりと飯を食って準備を進めておけよ!?」
「…わん。」
「ジュリアスが転生者共を使って何を企んでいるのかは知らんが、そんな物は美海の前では全くの無力なのだ!!ぎゃははははははは!!」
高笑いしながら営倉室を去り、扉に鍵を掛けるベルド。
陽の光が差さない薄暗い地下室に、服を着る事すら許されず、たった1人孤独に取り残された美海。
全身にくっきりと残る鞭の跡、そして美海の全身に襲い掛かる激痛。
この異世界で今の美海は、たった1人。
まさに天涯孤独、四面楚歌なのだ。
どうしてこんな事になってしまったのかと、目から大粒の涙を流しながら絶望する美海。
寂しい。寂しい。寂しい寂しい寂しい寂しい。
「…会いたいよ…皆に会いたいよ…パパとママに…『ワルキューレ』の皆に…っ!?」
【ファファファファファ…。】
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
だがそんな美海に、またしても『呪い』が発動してしまう。
あまりの苦痛に冷たい石の床の上で転がり回る美海。
それによって皿の上に山盛りにされたドッグフードが、のたうち回る美海の右手で払いのけられ、床の上に派手に散らばってしまったのだった。
そんな美海の姿を、顕現した『呪い』が高笑いしながら見つめている。
【美海よ。ベルドが先程そなたの事を犬だと申したであろうが。犬が人間の言葉を話すのかえ?】
「がああああああああああああああああああああああああああ!!があああああああああああああああああああああああああああああああ!!があああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
【身の程を弁える事よのう。これ以上苦しみたく無いのであればな。ファファファファファ…。】
やがて苦痛が収まった美海は、涙目になりながら思い知らされてしまったのだった。
今の自分には『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を発動する為に歌う時以外は…もう言葉を発する事すら許されないのだと。
人としての尊厳など何も無い…ベルドに犬として生きる事を厳命されたのだと…。
「…わん。」
【そうだ。それで良いのだ。そなたはそうやって生きながら死んでおれば良いのだ。ファファファファファ…。】
「…わん。」
目から大粒の涙を流し、冷たく固い石の床の上で四つん這いになりながら、美海は飢えを満たし命を繋ぐ為に、床の上に派手に散らばったドッグフードを必死に貪り、激しく嗚咽したのだった…。
次回からいよいよ最終章。フォルトニカ王国での最終決戦。
まずはテレスティア王国に侵攻したベルドの戦いを描きます。
…なのですが、今度の日曜日は歯医者に定期健診に行かなければならないので、申し訳ありませんが次回の掲載は一週間遅らせて10月23日(日)とさせて頂きます。
いつも僕の作品を楽しみにして下さっている皆さんには本当に申し訳なく思っているのですが、歯医者への定期健診だけで半日は潰れてしまうので…本当に御免なさい(泣)。