第95話:歌姫救出作戦
ダリアたち『ラビアンローズ』の協力を受け、何とかサザーランド王国まで辿り着いたエストファーネは、遂にラインハルトと邂逅を果たします。
今後の対応について緊急会議を行う事になりますが、そこでラインハルトは何を語るのか…。
こうしてダリアら『ラビアンローズ』による護衛を受けながら、その日の夕方6時にエストファーネたちは何とかサザーランド王国へと辿り着く事が出来た。
出迎えたラインハルトはクライスの死に哀悼の意を示しながらも、取り敢えず今日はもう遅いからゆっくり休んでほしいと、エストファーネたちに休息を促した。
城の給仕たちが用意してくれた温かい夕食を口にして、自分は今ここで生きているんだと、改めて自身の生を実感するエストファーネ。
同時にクライスやダリアたちによって守られたこの命を、絶対に無駄にする訳にはいかないと…いつか必ずファムフリート王国をベルドの魔の手から奪還し、王権を取り戻し民を救うのだと、エストファーネは改めて心に誓ったのだった。
そして、翌日の朝9時。
ラインハルトとセレーネ、大臣たち、そしてエストファーネとダリアを交え、緊急会議が開催される事となった。
ラインハルトとエストファーネが向かい合うような形で着席し、ラインハルトの傍にはセレーネが、エストファーネの傍にはダリアが護衛として起立している。
さらに『ラビアンローズ』の女性たちとファムフリート王国騎士団の兵士たちも、城の外で周囲の警戒を行っていたのだが。
「遅くなってしまい申し訳ありません。ラインハルト様。」
「なっ…!?」
そこへ颯爽と会議室に姿を現した予想外の人物の姿に、エストファーネは驚きを隠せなかったのだった。
「構わないよ。こちらも無茶な頼みをして済まなかったね。エキドナ殿。」
「いえ、今の私はラインハルト様の庇護を受けている身です。諜報活動や戦闘に事務処理、炊事洗濯掃除に至るまで、どうぞ遠慮せずに何なりとお申し付け下さいませ。」
そう…神也に無様に敗北し、『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』で命からがら脱出したエキドナが、そこにいたのだ。
エストファーネ同様にサザーランド王国へと逃れ、ラインハルトに助けを求めていたのである。
「魔族の女性!?どうしてサザーランド王国に!?」
「エストファーネ殿にも紹介しておくよ。魔王軍3魔将の1人、エキドナ殿だ。」
「…!?あの…!!」
ラインハルトに紹介され、穏やかな笑顔でエストファーネに一礼するエキドナ。
新たなる魔王カーミラとなった神也に敗北し、姿を消していたとは聞いていたのだが。
とはいえサザーランド王国とパンデモニウムが同盟を結んでいるというのは、この異世界全土に知れ渡っている周知の事実だ。
だからここにエキドナがいても、何ら不思議では無いのだろうが。
エキドナはラインハルトの隣の空いている席に着席し、凛とした態度で背筋を伸ばしたのだった。
「では全員揃った事だし、早速緊急会議を始めようか。今回の議題は先日ファムフリート王国を不当に占拠したギャレット王国に対して、我が国がどのような対処を行うかなのだが…。」
それを見計らったラインハルトからの呼びかけによって、その場にいた者たちが一斉にラインハルトに傾注する。
「まず我々は現時刻をもって、ギャレット王国の転生者の少女を『歌姫』と仮称する物とする。先日の戦いでファムフリート王国騎士団は、歌姫の『異能【スキル】』によって壊滅状態に陥り、全く何の抵抗も出来ないまま虐殺されたと聞く。」
ラインハルトの言葉に、苦虫を噛み締めたような表情になってしまうエストファーネ。
あの日の出来事は、今もエストファーネの頭の中に鮮明に残っているのだ。
「エストファーネ殿。歌姫への対処をするにあたって、彼女の能力について少しでも多くの情報を知っておきたい。辛い過去を思い出させてしまって本当に申し訳ないが、歌姫の力を実際に体験した君の口から、その詳細を聞かせて貰えないだろうか。」
「…はい。あの時に目の前で起きた光景が、私は今でも信じられないのですが…。」
エストファーネは深刻な表情で、ラインハルトに全てを語った。
ベルドによって召喚された転生者と思われる歌姫が、みずぼらしい服装を着せられ、さらに『呪い』によって苦しめられる等、ベルドによって奴隷のように扱われていた事。
歌姫が兵たちの先頭に立って歌を歌い出した瞬間、ファムフリート王国騎士団の兵士たちが突然急激に弱体化し、何も抵抗出来ないままギャレット王国騎士団に虐殺された事。
およそ3分程で歌の効力は切れたようだが、その3分間もの間にファムフリート王国騎士団は壊滅状態に陥ってしまった事。
これら全てをエストファーネは、一切の嘘偽りも誇張表現も無く、100億%馬鹿正直にラインハルトに話したのだった。
エストファーネの話に腕組みしながら、神妙な表情で耳を傾けるラインハルト。
「…成程。歌姫の能力の詳細は大体理解したよ。有難う、エストファーネ殿。」
「ラインハルト陛下に助けを求めておいて何ですが…あんな恐ろしい『異能【スキル】』を相手に、私たちは一体どう立ち向かえばいいのか…!!」
何しろ美海の歌を聴かされただけで、ファムフリート王国騎士団は強烈なデバフを食らい、あのような惨劇が繰り広げられる事になってしまったのだ。
美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』で敵を3分間無力化し、その3分間で可能な限り一気に敵を殲滅する。
この単純にして凶悪なベルドの戦術に対して、一体何をどうすれば対処出来るのかと…頭を悩ませるエストファーネだったのだが。
「いや、何も問題は無い。歌姫への対処は充分に可能だよ。」
あっけらかんと、ラインハルトは穏やかな笑顔で、エストファーネに断言してみせたのだった。
まさかのラインハルトの言葉に、エストファーネは戸惑いを隠せない。
「ラ、ラインハルト陛下!!私の話を聞いていらっしゃらなかったのですか!?彼女の歌を聴かされた者たちは皆、力が抜けたかのように無力化されて…!!」
「ではエストファーネ殿。逆に聞かせて貰うが、歌姫の『すぐ傍で』彼女の歌を聴いていたベルド殿やギャレット王国騎士団は、何故能力の減退を受けなかったのかな?」
「…!?そ、それは…!!」
ラインハルトからの問いかけに、言葉に詰まってしまうエストファーネ。
言われてみれば確かにそうだ。ベルドもギャレット王国騎士団の兵士たちも、確かに美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の影響を全く受けていなかったのだ。
美海の歌を間近で聴いていたはずなのに、一体何故…?特にベルドは美海のすぐ隣で聴いていたというのにだ。
「そういう事だ。大体理解したよ。歌姫の『異能【スキル】』の特性をね。」
だが何にしても、これが『歌』だと分かってさえいれば、別にどうという事は無い。
『雷神の魔術師』の異名を持つラインハルトの前では、今回の美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』を利用したベルドの戦術は、あまりにも滑稽だと言わざるを得なかった。
「今のエストファーネ殿の話を聞いて、1つ確信した事がある。歌姫の『異能【スキル】』のトリガーとなっているのは、恐らくは歌姫自身の痛みや苦しみといった、強い『絶望』だろう。」
「絶望…ですか…!?」
「うむ。それも絶望の度合いが深ければ深い程、それに比例して威力を爆発的に増大させるタイプの代物だと考えて、まず間違い無いだろうな。」
そうでなければ本来は希少な存在であるはずの転生者の美海を、ベルドはわざわざ奴隷として扱ったりはしないはずだ。
転生術の発動には膨大な魔力や触媒が必要になるばかりか、一度発動してしまえば再発動までに相当な時間がかかる。
そこまでのリスクを冒してまで召喚した美海は、本来なら雑に扱っていいような存在では無いはずなのだ。
それなのにベルドは、わざわざ美海を奴隷として扱った…それはつまり美海に絶望を味合わせる事こそが、『異能【スキル】』の威力の増大に繋がると見て間違いない。
そしてそれは見事に的中しており、ラインハルトはエストファーネからの事情聴取を受けただけで、それを瞬時に見抜いてしまったのである。
「何にしても、これは最早我々サザーランド王国だけの問題ではない。このままベルド殿を野放しにしておいては、この世界の全ての人々がベルド殿の暴虐の力による支配を受け、そして歌姫の歌の恐怖に晒され続ける事になるだろう。」
エストファーネの話を聞いて、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の詳細は充分に理解した。
ならばその情報を元に対策を立て、早急に行動に移さなければならない。
「よって我々が今成すべき事は、ベルド殿の魔の手から歌姫を何としてでも救出する事だ。」
何の迷いも無い力強い瞳で、ラインハルトは高々と宣言したのだった。
「歌姫の『異能【スキル】』が引き金となり、多くの兵たちやクライス殿を殺されたエストファーネ殿にとっては、確かに歌姫は憎むべき仇なのかもしれない。」
「それは…。」
「だがエストファーネ殿の話を聞いた限りでは、歌姫もまたベルド殿の暴虐の『被害者』であり、絶対に助けなければならない存在なのは確かだ。」
美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』はラインハルトの推測通り、美海自身が深い絶望に堕ちれば堕ちる程、その威力が爆発的に増大する代物だ。
ならば美海は今後もベルドによって、過酷な生き地獄を味合わされ続ける事になるのは間違いない。
そしてベルドは今後もファムフリート王国のように、美海の力で多くの兵たちの命を奪い、人々を恐怖に晒し続ける事になるのだろう。
この世界を征服するなどという、あまりにも身勝手な下らない野心の為に。
だからこそ美海はベルドの魔の手から、絶対に助けなければならない存在なのだ。
当然これはサザーランド王国を守る為でもあるのだが、ラインハルトの言うように、これは最早サザーランド王国だけの問題ではないのだから。
そしてそんなラインハルトの威風堂々とした姿に、ダリアは理屈抜きに心の底から感心したのだった。
『雷神の魔術師』などと呼ばれているからには、一体どんな人物なのかと心の中で期待していたのだが。
中々どうして、相当に頭が切れて高潔な人物のようだ。
彼が国王でいる間は、このサザーランド王国は間違いなく安泰だろう。ダリアはそれを確信させられたのだった。
「アンタは本当に大した奴だよ、ラインハルト陛下。それでアタシらに歌姫の救出をさせようってのかい?」
「いや、ダリア殿。歌姫への対処は我々とフォルトニカ王国だけで充分に可能だ。『ラビアンローズ』の皆にはエキドナ殿と共に、他にやって貰いたい仕事があるんだよ。実はその為に私はエキドナ殿に頼んで、冒険者ギルドを通じて仕事の依頼をして貰ったのだけどね。」
「へぇ、ならアンタはアタシらに一体何をさせようってんだい?」
ダリアの当然の疑問に対して、何の迷いも無い力強い瞳で、ラインハルトはダリアに高々と宣言したのだった。
「それは歌姫救出作戦と並行して、パンデモニウムの魔族たちを真野神也の支配から救う事だ。」
真野神也…まさかの予想外の人物の名前が出た事に、流石のダリアも驚きを隠せない。
だがその為にラインハルトは、わざわざ高い金を払ってまで、ダリアたちに仕事の依頼をしたのである。
それはダリアたち『ラビアンローズ』がエキドナと力を合わせれば、充分に可能だとラインハルトは確信しているから。
困った時にはお互い助け合う…それはラインハルトが瑠璃亜と約束した事なのだから。
「まず前提条件として、真野神也が魔王カーミラとしてドノヴァン殿に転生させられたのであれば、瑠璃亜殿と同様に転生者たちが使える『異能【スキル】』は、真野神也もほぼ全て使えると考えた方がいいだろう。」
流石に一度も出会った事が無い神也の詳細な能力までは、聡明なラインハルトと言えども分かりようがないのだが。
瑠璃亜が使える『異能【スキル】』は、恐らく神也もほぼ全て使える…それさえ分かればラインハルトにとっては充分だった。
「ならば私はパンデモニウムの人々を真野神也の魔の手から救う為に、それを最大限に利用させて貰うまでの話だ。」
「り、利用するって、ラインハルト様…。」
ラインハルトの言葉に、戸惑いを隠せないエキドナ。
パンデモニウムの魔族たちを神也の魔の手から救う…そう言ってくれたのは本当に有難い話だ。
それこそラインハルトには、どれだけ感謝しても、し切れない程までに。
だがそれを実現する為に、神也の『異能【スキル】』を逆に利用するなどと。
ラインハルトは一体、何を考えているというのか。
「その上で『ラビアンローズ』の皆に、エキドナ殿と協力してやって貰いたい事は…。」
だがそんなエキドナの疑問に応える為にラインハルトが提案した作戦に、流石のダリアも仰天してしまったのだった。
「おいおいアンタ、予知能力者か何かかい?全くとんでもない事を考えるねぇ。」
エストファーネもエキドナもセレーネも大臣たちも、ラインハルトが提案した作戦の内容に驚きを隠せずにいるようだ。
これはまさしくラインハルトの言うように、神也の『異能【スキル】』を逆に利用する代物だ。
まさに『雷神の魔術師』の異名を持つに相応しい、大胆さと繊細さを併せ持った、利用出来る物は全て利用するという、ラインハルトが下した見事な戦術だ。
「予知能力だなんて大層な物では無いよ。エキドナ殿の話では、真野神也は重度の戦闘狂との事らしい。となれば現状の状況から考えれば、今後の彼の行動も大体予測がつくよ。」
神也は重度の戦闘狂。
ならば当然、強者との命懸けの戦いを求めているはず。
ギャレット王国がファムフリート王国を制圧した。
それを可能にしたのが、美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』による、暴虐的なまでの破壊の力。
そして神也も今頃は、ベルドと美海の事は当然察知しているだろう。
神也が戦闘狂で強者との命懸けの戦いを求めているのであれば、当然ベルドか美海のどちらか…いや、いっその事両方か。ヘラヘラと笑いながら戦いを挑みに行くはず。
ベルドは美海の『異能【スキル】』を利用し、世界征服を企んでいる。
ならばファムフリート王国だけで満足するはずがない。当然他の国にも侵略を仕掛けてくるはず。
となれば地理的に次にベルドが狙うのは、テレスティア王国かサザーランド王国のどちらかだろう。
しかしベルドが次の標的として、サザーランド王国を狙うとは考えにくい。
テレスティア王国国王ジュリアスもまた、転生者たちを使っての不穏な動きを見せている以上、まず真っ先に潰しに行った方が戦略的に安全だからだ。
ならばベルドは美海の『異能【スキル】』でテレスティア王国を制圧後、そのまま隣国のフォルトニカ王国を狙うと考えて間違いない。
それを察知した神也は当然ベルドと美海を狙って、フォルトニカ王国に魔王軍を率いて攻めてくるはず。
これらの情報からラインハルトは、太一郎をも上回る聡明さを発揮して心理学的分析を行い、瞬時に導き出したのである。
この美しい異世界を、ベルドや神也の魔の手から救う為の最終決戦の地は…フォルトニカ王国で間違い無いと。
「ダリア殿たちにパンデモニウムの救援を行って貰うのと並行して、我々はフォルトニカ王国と連携して何としてでも歌姫を救出し、そしてベルド殿と真野神也を討伐しなければならない。最悪の場合は歌姫の救出だけでも出来れば御の字なのだが…。」
だがラインハルトが言い掛けた、その時だ。
「ならばラインハルト陛下、私も一緒にフォルトニカ王国まで連れて行って下さい!!」
「は!?」
王族らしく威風堂々と凛とした態度で、エストファーネが決意に満ちた表情でラインハルトに訴えたのだった。
流石のラインハルトといえども、このエストファーネの申し出までは想定していなかったようで、戸惑いを隠せずにいたのだが。
「エストファーネ殿、何を言っているんだ!?何も君自身が戦場に出る必要は…!!」
「私にも精霊魔法の心得はあります!!峻烈な戦場において1人でも多くの兵の命を救う為に、ヒーラーは1人でも多くいた方がいいでしょう!?」
「それは…確かにそうだが…!!」
「それにラインハルト陛下に助けを求めたのは私です!!その私が皆さんばかりに命懸けの戦いを押し付けておいて、私だけが安全な場所でのうのうとしているだけだなんて、私にはそんな事は耐えられません!!」
エストファーネが優秀な精霊魔法の使い手だという事は、ラインハルトもよく知っている話だ。
確かにエストファーネがヒーラーとして同行してくれるのであれば、ラインハルトにとっては大変有難い話ではあるのだが…。
「ラインハルト陛下。エストファーネも一緒に連れて行ってやりな。戦闘は苦手だが、彼女は回復魔法の腕前だけならイリーナ以上だ。戦場においても決して足手まといにはならない。アタシが保証してやるよ。」
そんなエストファーネの決意を後押しするように、ダリアがラインハルトに笑顔で進言したのだった。
歴戦の傭兵であるダリアがそこまで言うのであれば、確かにその通りなのだろう。
それにこのままエストファーネに『駄目だ』と告げた所で、彼女は無理矢理にでもラインハルトに付いていくに違いない。
エストファーネの力強い瞳からは、その想いがひしひしと伝わってきたのだった。
「…よし、分かった。ならばエストファーネ殿にはヒーラーとして後方支援に回って貰う。そして何よりも君自身の命を守る事を最優先で行動する事。それでいいね?」
「はい!!」
「決まりだな。では現時刻をもって歌姫救出作戦、並びにパンデモニウム解放作戦の準備を行う物とする。」
かくしてサザーランド王国による、最終決戦の地・フォルトニカ王国への救援が行われる事となった。
それと並行してエキドナとダリアら『ラビアンローズ』による、パンデモニウム救援作戦も同時進行。
後に歴史の教科書でも語られる事となる今回の最終決戦において、ラインハルトはフォルトニカ王国とパンデモニウムの双方、そして美海さえもベルドや神也の魔の手から見事に救ってみせた、暦史上最強の天才軍師として後世に名を遺す事になるのである。
そして会議が終わった後、エキドナが穏やかな笑顔でダリアに語りかけてきた。
「ダリア様。此度のパンデモニウム救援作戦、助力して下さる事を心より感謝致します。」
「今のアタシらのクライアントはラインハルト陛下だ。そのラインハルト陛下からの頼みとあれば、どんな相手とも戦ってやるし、どんな相手とも協力してやるよ。」
「皆様方の武勇伝は私も聞き及んでおります。パンデモニウムの魔族たちを救うにあたり、これ程心強い戦力は御座いません。」
「それとアタシの事はダリアと呼びな。様付けなんてくすぐったいよ。エキドナ。」
「ふふふっ、では遠慮なくそう呼ばせて頂きますね。ダリア。」
がっしりと、笑顔で握手を交わすエキドナとダリア。
敗れたとはいえ太一郎を苦戦させたというダリアの武勇伝は、エキドナも遠く離れたパンデモニウムにおいても耳にしていた。
そんなダリア率いる『ラビアンローズ』が、パンデモニウムの救援に力を貸してくれるのだ。確かにこれ程の心強い戦力は無いだろう。
神也の前に敗走を余儀なくされた時は、一時はどうなるかと思っていたが…ようやくエキドナにも希望の光が見え始めた。
フォルトニカ王国に転移させた瑠璃亜の容態、そして大切な仲間であるイリヤとルミアの事は気がかりだが。
それでもクレアならば、必ず瑠璃亜を救ってくれるはずだと…エキドナはそれを強く信じているのだ。
だからこそ今エキドナが全力でやるべき事は、ダリアたちと協力してパンデモニウムの魔族たちを、神也の支配から救う事だ。
(瑠璃亜様、どうか今しばらくのご辛抱を…!!)
窓から外の景色を眺めながら、エキドナは力強い瞳で、今後の戦いに向けての決意を顕わにしていたのだった。
次回で第11章完結です。
ラインハルトの読み通り、フォルトニカ王国への侵攻を企てるベルド。
そして美海は…。