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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第11章:破滅への序曲
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第94話:逃避行の果てに

クライスの死を無駄にしない為にも、悲しみを堪えてサザーランドへと急ぐエストファーネですが、そこへ盗賊団の襲撃を受けてしまいます。

そんなエストファーネたちを助けたのは…。

 ファムフリート王国、陥落…この衝撃の一報は、城下町にいた各国の記者たちによって世界各国に伝書鳩が飛ばされ、瞬く間にこの異世界全土に知れ渡ってしまう事となる。

 ただでさえ新たなる魔王カーミラ出現によって世界中で大騒ぎになっている所へ、さらに追い打ちをかけるかのように世界征服という野心に取り憑かれたベルドによって、この異世界はさらなる混迷の渦へと飲み込まれてしまう事となるのである。


 自分たちはこれから一体どうなってしまうのかと…国王であるクライスの戦死によって、不安そうな表情を隠せない城下町の住民たちだったのだが、肝心のベルドは全くそれどころでは無かった。

 何故ならエストファーネの姿が、城中のどこを探しても見当たらなかったからだ。 

 ベルドの命によってギャレット王国騎士団による、城下町全土の懸命の捜索が行われていたのだが。


 「国王陛下!!城内に外へと通じる隠し通路を発見致しました!!エストファーネ様は恐らくそこから国外へと逃亡した物と思われます!!」

 「何ぃ!?隠し通路だとぉっ!?」


 果たしてベルドが兵士に案内されて向かった先には、城の1階の床に巧妙に隠されていた地下通路が存在していたのである。

 自分の足元にある階段を、歯軋りしながら睨みつけるベルドだったのだが。


 「エストファーネめ、王族という身分にありながら、自国の民を見捨てて逃げ出すとはな。まあ恐らくはクライスが無理矢理連れ出して逃がしたのだろうが…。」

 「特殊部隊による追撃を行いますか!?」

 「うむ。ここから逃げ出して身を隠すのであれば、地理的にも治安的にもサザーランド王国が一番適してはいるだろうが…。」


 このファムフリート王国に隣接している4つの国の中で、エストファーネが即座に駆け込むのに地理的に適していると思われるのは、サザーランド王国とテレスティア王国の2国だ。

 他の2国は険しい山道を通る必要がある為、迅速な亡命には適していないからである。


 だがサザーランド王国国王・ラインハルトが『雷神の魔術師』の異名を持ち、人・智・勇共に持ち合わせている良王なのに対し、テレスティア王国は国王のジュリアスがベルド同様の野心家である事で有名だ。

 新たなる魔王カーミラからの提供を受けた転生術を発動し、転生者たちで結成した精鋭部隊によって、何やら良からぬ事を企んでいるとの報告も受けている。

 エストファーネとて王族として、それ位の事は分かっているはずだ。そんな男の下にわざわざ自分から身柄を差し出そうなどとは考えないだろう。

 ベルドは何の迷いもせず、即決で兵士に指示を出したのだった。


 「よし、今ならまだそんなに遠くへは行っていないはずだ!!ただちに特殊部隊をサザーランド王国へと向かわせろ!!殺しさえしなければ殴って蹴って袋叩きしても構わん!!」

 「はっ!!」


 こうしてベルドが送り込んだギャレット王国騎士団の特殊部隊による追撃が迫る最中、エストファーネはクライスの遺言に従い、大急ぎでサザーランド王国へと向かっていた。

 エストファーネが乗る馬車を囲むように、馬に乗った兵士たちが絶対防御の布陣を敷き、全方位に警戒の目を送っている。

 既にクライス戦死の一報は、エストファーネが契約している精霊によって伝えられているのだが、今は悲しみに暮れている場合ではない。

 クライスの死を無駄にしない為にも、エストファーネは何としてでもサザーランド王国へと辿り着き、ラインハルトに助けを求めなければならないのだから。


 「「「「「ヒャッハー!!」」」」」


 だがそこへ兵士たちに向けて勢いよく放たれたのは、突如として目の前に現れた盗賊たちが放った無数の矢。

 慌てて兵士たちが盾を構えて矢を防ぎ、馬から降りて武器を構え、臨戦態勢を整える。


 「何事です!?」

 「盗賊団です!!どうやら我々をここで待ち構えていたようです!!」

 

 慌てて馬車から降りたエストファーネもまた、杖を構えて精霊魔法発動の準備を整えていたのだが。


 「ひひひひひ!!ここで張っていれば、逃亡中の王女様に出くわすとは思っていたが…まさにドンピシャだったなぁ!!」


 そこへ無数の盗賊たちを従えながら意気揚々とエストファーネの前に姿を現したのは、剣を手にした筋肉質の男だった。

 妖艶な笑みを浮かべながら、厳しい表情のエストファーネを見下している。


 「俺様は暗黒流天馬剣あんこくりゅうてんまけんのノートン!!王女様は俺たちが頂いていくぜ!!」

 「薄汚い盗賊風情が!!姫様は命に代えても、我々が必ずお守りする!!」

 「馬鹿め!!クライスならばともかく、てめぇらのような雑兵如き、この俺様の暗黒流天馬剣の敵じゃねえんだよ!!」


 剣に強烈な闘気を込めたノートンが、エストファーネを全力で守ろうと盾を構える兵士たちを絶望させてやろうと、必殺の奥義を放ったのだった。


 「食らいやがれぇ!!暗黒流天馬剣奥義!!流星剣!!ペガッサァァァァァァァス!!ペガッサァァァァァァァァス!!ペガッサァァァァァァァァァァス!!」

 「「「「「ぐああああああああああああああああああああああ!!」」」」」


 ノートンが剣から放った無数の流星の如き衝撃波が、情け容赦なく兵士たちに次々と襲い掛かる。

 全く抵抗出来ずに吹っ飛ばされ、次々と木に叩きつけられる兵士たち。


 「この俺様の流星剣は一度に多数の敵を相手にしてこそ、その本領を発揮する広範囲攻撃技なのだ!!貴様ら雑兵如きに容易く見切れる代物ではないわ!!」

 「皆さん!!すぐに私の精霊魔法で治療を…きゃあっ!?」

 「ヒャッハー!!そうはさせるかよ!!」

 

 そんな彼らに慌てて回復魔法を掛けようとしたエストファーネを、盗賊の1人が後ろから羽交い絞めにしたのだった。

 背後から右腕を締め付けられて関節をめられ、、苦しそうにうめき声を上げるエストファーネ。


 「は、離しなさい!!私を誰だと思っているのですか!?この無礼者!!」

 「おいおい、馬鹿かお前!?分かっているからこそ、お頭はお前を拉致しようと考えたんだろうが!!ひひひひひ!!」


 クライスの死を無駄にしない為にも、何としてでもサザーランド王国に辿り着かないといけないのに。ラインハルトに助けを求めないといけないのに。

 それなのに、よりにもよって、こんな下衆な盗賊たちに邪魔をされてしまうとは。

 汚物を見るかのような表情で、エストファーネは目の前のノートンを睨みつけている。

 

 「ファムフリート王国の王女ともなれば、奴隷商人に高値で売り飛ばせるだろうが…これだけの上玉の女だ。てめぇを俺の性奴隷にするのも悪くはねぇよなぁ?」

 「姫様を…離せ…っ…!!」

 「おいおい、全員揃ってまだ立ち上がれるのかよ。流石は精強と名高いファムフリート王国騎士団って所か。だが暗黒流天馬剣を極めた俺の敵じゃあねえんだよ。」


 再び剣に闘気を込め、先程の奥義を兵士たちに放とうとしたノートンだったのだが。


 「お前らの忠義の心は認めてやるがよ。取り敢えずお前らは今ここで死ね…っ!?」

 「光の矢よ!!敵を討て!!」

 「な、何ぃっ!?」


 そこへ凛とした女性の声が聞こえたと思った瞬間、無数の光の矢がノートンに向けて放たれたのだった。

 慌ててバックステップし、光の矢を全て避けたノートンだったのだが。


 「精霊魔法だと!?このガキを護衛する伏兵が他にいたのか!?」

 「やれやれ、ファムフリート王国が制圧されたとは聞いていたが、これはまた随分と大層な場面に遭遇したもんだねぇ。」

 「なっ…!?」

 「アンタたち、今から王女様を全力で助けるよ!!つまらん相手だが油断だけはするんじゃないよ!?」


 そこへ颯爽とエストファーネたちの前に現れたのは…まさかこんな所で出会うとは、エストファーネも思ってもみなかった…。


 「最強の女傭兵団…『ラビアンローズ』…!?」

 

 そう、以前シャーロット王国に雇われ、太一郎やシルフィーゼと死闘を繰り広げた『ラビアンローズ』たちが、エストファーネたちの救援に駆けつけてくれたのだ。

 『ラビアンローズ』…女性だけで構成された最強の傭兵団で、金次第でどんな相手とも勇猛果敢に戦い抜き、国同士での戦争に雇われれば、加担した方に必ず勝利をもたらすとされている。

 それ故に彼女たちは毎日のように、あちらこちらから冒険者ギルドを通じ、


 『あいつを討伐してくれ!!』

 『こいつをぶっ殺してくれ!!』

 『ののしって下さいお願いします!!』


 などと引っ張りだこの状態になってしまっているのだ。

 まあその不敗神話は、ダリアが太一郎に無様に敗れた事で崩れ去ってしまったのだが。


 「おや、アタシらの事を知ってくれていたのかい。嬉しいねぇ。」

 「ダリア殿!!私はファムフリート王国王女・エストファーネと申します!!皆様方『ラビアンローズ』の武勇伝は、私もかねてより聞き及んでおります!!」


 だが今は、そんな事はどうでもいい。

 何故こんな所に彼女たちが現れたのかは知らないが、現れてくれた以上は彼女たちを最大限に利用させて貰うまでの話だ。


 「我が故郷・ファムフリート王国はギャレット王国国王ベルドの手により陥落し、私は父クライスよりサザーランド王国への亡命を命じられました!!ここで皆様方とお会いしたのも何かの縁!!どうか私たちの護衛をお願い頂けませんか!?」

 「仕事の依頼だね。だがアンタも当然知っているだろうが、アタシら『ラビアンローズ』はボランティアじゃない。プロの傭兵集団だ。アタシらを雇用するなら相応の報酬は約束して貰わないといけないが…。」


 護衛して欲しければ金を払え…ダリアのこの要求に『血も涙も無い女だ』などと憤慨する読者の方も当然いるだろうが。

 しかし彼女たちはあくまでも『仕事』として傭兵をやっているのであって、決してボランティアなどではないという事を忘れないで欲しい。

 『プロ』である以上は、ちゃんと仕事にしないといけない。安易にタダ働きをする訳にはいかないのだ。


 人道的な問題として、ここで拉致される寸前のエストファーネをノートンたちから無償で助けてやる事に関しては、別に構わない。

 むしろ助けてやらないとダリアは、目の前で王女が盗賊団に襲われているのに何もしなかった悪女だとして、人々から激しいバッシングを受ける事にもなりかねないだろう。

 だからダリアは先程イリーナに、精霊魔法によるノートンへの攻撃を命じたのである。


 だがそこから先の事は『仕事』として正式な契約を交わしていない以上は、ダリアたちはエストファーネに無償で助力してやる訳にはいかないのだ。

 いや、別に減るもんじゃないし助けてやればいいだろう…そう思う読者の方も当然いるだろうが、ちょっと作者の話を聞いて欲しい。

 仮にもしここでダリアたちが、無償でエストファーネたちをサザーランド王国まで護衛してやったとする。

 すると、その噂を聞きつけた他のクライアントたちが揃いも揃って、


 『姫様をタダで護衛したんだから、当然俺らもタダで護衛してくれるよな?』

 『姫様だけ特別扱いしておいて、俺らには金を払えってか?』

 『こうなったら貴女には、私の全身を鞭で叩いて頂くしかありませんねえ!!』

 

 などとイチャモンを付けてくる事にもなりかねないのである。

 『プロ』である以上は慈善事業をする訳にはいかない。その線引きはしっかりしなければならないのだ。

 エストファーネとて、それ位の事は理解していた。だからこそ『護衛して欲しければ金を払え』というダリアの要求を、当然の事だとして受け止めているのだが。


 「確かにダリア殿が懸念なさる通りです!!国を追われた今の私に、貴女を満足させられるだけの報酬を支払えるだけの財力はありません!!」

 「ならアンタはアタシらに護衛の見返りとして、一体何を提供する?」


 だがそれでもエストファーネは、ダリアたちへの護衛の依頼を諦めるつもりは微塵も無かった。

 確かに今のエストファーネは、金銭も宝石類も持ち合わせていない。

 それでもエストファーネがダリアたちに、報酬として提供する事を決意した物とは…。


 「ですので代わりに私は、私の身も心も純潔も、全て皆様方に捧げさせて頂きます!!」


 いきなり無茶苦茶な事を言い出したエストファーネに、思わず顔を赤らめて大騒ぎしてしまう兵士や盗賊たち。

 だが確かに今のエストファーネがダリアたちに報酬として用意出来る物は、それ位しか無いのも事実だ。

 ダリアが周囲にレズビアンである事を公言し、しかも『ラビアンローズ』の女性全員がダリアの恋人だという話は、エストファーネもよく知っている事実だ。

 だからこそエストファーネは今回の護衛任務の報酬として、ダリアに…いいや、『ラビアンローズ』の女性たち全員にその身を捧げ、抱かれる事を決意したのである。


 そう…なりふり構ってなどいられない。

 エストファーネはこんな所で、クライスの命と覚悟を無駄にする訳にはいかないのだ。

 何としてでも、それこそ利用出来る物は全て利用してでも、必ずサザーランド王国へと辿り着き、ラインハルトに助けを求めなければならないのだから。


 「ですのでダリア殿!!どうか我々をサザーランド王国まで護衛して頂けませんか!?その後でならば何度でも何度でも な ん ど で も 、『ラビアンローズ』の皆様方にこの身を捧げて喜んで抱かれましょう!!ですからどうか…どうか!!」


 盗賊に背中から羽交い絞めにされながらも、王族らしい威風堂々とした態度で、ダリアに涙目で必死に訴えるエストファーネ。

 そんなエストファーネの姿に、ダリアは理屈抜きに心の底から感心したのだった。

 この絶体絶命の状況下においても決して取り乱す様子を見せない胆力もそうだが、何よりもダリアたちに抱かれる事を自分から躊躇なく持ち掛けた件に関してもそうだ。

  

 何しろ好きでも何でもない赤の他人、それも複数人を相手に、好きなだけ身体を…特に胸や局部を触らせてやるなどと、他でも無い彼女自身が自分から提案したのだ。

 それは女性にとって肉体的にも精神的にも、一体どれだけ苦痛を伴う代物なのか。

 状況が状況とはいえ、こんな事は相当な覚悟が無いと到底言えない事だろう。それは同じ女性であるダリアだからこそ、当然の事ながら理解していた。


 「あっはっはっはっは!!流石は王族の娘だよ!!アンタのその気品に満ち溢れた立ち振る舞いと覚悟!!見事なもんだ!!マジでアンタの事が気に入ったよ!!」

 「お、おいお前!!下手に動けばこの女は無傷では済まさながはあっ!?」


 エストファーネを拘束している盗賊が、慌てて短刀をエストファーネの首筋に当てようとするものの、いつの間にか盗賊の背後に忍び込んでいた『ラビアンローズ』の女性が、逆に短刀で盗賊の首元を切り裂いたのだった。

 どうっ…と、驚愕の表情で、激しく出血しながら地面に倒れ伏し、絶命する盗賊。


 「はっ、遅い遅い。所詮は腕っぷしが強いだけの素人集団だね。」

 「そうだね。だけど油断だけは絶対に禁物だよ?お姫様を保護してやりな。」

 「はいよ。」


 そしてエストファーネを救助した『ラビアンローズ』の女性が、両手の短刀をクルクルと器用に回しながら懐に納め、ぎゅっと優しくエストファーネを抱き寄せ、穏やかな笑顔で耳元で囁いたのだった。


 「あっ…。」

 「お姫様。一応念の為に確認だけはしておくけど、今のアンタの言葉に二言は無いね?」

 「私は何としてでも、ラインハルト陛下にお目通りをしなければならないのです!!何なら、まずは最初に貴女様から…!!」

 「おっとっとぉ、アンタの気持ちは凄く嬉しいよ。だけどアタシらのリーダーはダリアお姉様だからね。まずはダリアお姉様に筋を通すのが先だよ。」


 自分と唇を重ねようとしたエストファーネを、『ラビアンローズ』の女性が苦笑いしながら両手で制する。


 「アンタのその覚悟が本物だと言うのなら、まずはダリアお姉様への愛の証として、今からダリアお姉様をぎゅっと抱き締めて、とろけるような熱いキスをして差し上げな。」

 「…は、はい!!」


 『ラビアンローズ』の女性に護衛されながら、決意に満ちた瞳でダリアに歩み寄るエストファーネ。

 その様子を兵士たちが、唖然とした表情で見つめていたのだった。

 無理も無いだろう。いきなり最強の女傭兵団が助けに来たと思ったら、エストファーネが自分とのレズセックスを報酬として護衛の依頼をするなどという、無茶苦茶な状況が発生してしまったのだから。

 当然、邪魔をされたノートンたちも黙ってはいられなかったのだが。


 「て、てめぇら、一体何をふざけた事を…!!」

 「光の矢よ!!敵を討て!!」

 「「「「「「ぎぃああああああああああ!!」」」」」」


 そこへ容赦なくイリーナが力強い笑顔で精霊魔法を発動し、無数の光の矢をぶちかましたのだった。

 ノートンは剣で軽々と防いだのだが、直撃を食らった盗賊たちの何人かが吹っ飛ばされて木に叩きつけられてしまう。


 「あら、邪魔はさせないわよ?私たちの新しい恋人が誕生しようとしているんだもの。」

 「て、てめぇ…!!」


 イリーナを睨みつけるノートンだったのだが、そうこうしている内に『ラビアンローズ』の女性たちに護衛されながら、遂にダリアの前に辿り着いたエストファーネが、言われた通りダリアの首元をぎゅっと抱き締める。

 長身のダリアの顔を、エストファーネが見上げる形になってしまった。


 「…んっ…!!」


 身体を震わせながらも決意に満ちた表情で、力強く目を閉じるエストファーネ。

 そんな彼女をダリアが、とても穏やかな笑顔で優しく抱き寄せたのだが。


 「ふふふ…こうして見ると、中々可愛らしいお嬢さんじゃないか。」


 エストファーネの髪を優しく撫でながら、ダリアがエストファーネと唇を重ねようとした…次の瞬間。


 「…だけどね、嫌がる相手には絶対に無理に手を出さない…それがアタシら『ラビアンローズ』の掟、そして誇りだ。」


 エストファーネと唇を重ねる寸前の所で、ダリアがそっ…と優しく、エストファーネの唇ではなく頬に口付けたのだった。

 予想外のダリアの行動に、顔を赤らめながら唖然とした表情になってしまうエストファーネ。


 「ダ、ダリア殿…!?」

 「もういい、分かったよ。今はアンタに抱き締めて貰えただけで充分だ。」


 ダリアは瞬時に理解したのだ。エストファーネが自分とのキスを、本当は嫌がっているのだという事を。

 自分の首を抱き締めているエストファーネの身体がブルブルと震えているし、表情がとても強張っている。嫌がっているのがバレバレだ。

 こんな相手と無理に唇を重ねた所で、ダリアにとっては何も面白くない。

 そう…イリーナたちのように自分の事を大切に想ってくれて、心の底から愛してくれる女性とのキスでなければ、ダリアの心は燃えないし、夢心地の気分にもなれないのだ。 


 「…おい。」

 「エストファーネ。アンタのその決意と覚悟、このアタシがしっかりと受け取ったよ。」


 目の前のノートンを盛大に無視しながら、ダリアがとても穏やかな笑顔でイリーナを見つめる。 


 「実はアタシらも冒険者ギルドを通じて、ラインハルト陛下から仕事の依頼を受けた所だからね。ついでだからアンタも一緒にラインハルト陛下の所に連れて行ってやるよ。」

 「本当ですか!?どうも有難う御座います!!ダリア殿!!」

 「今回の護衛の依頼の報酬は、アンタがいずれファムフリート王国の王権を取り戻した時に、アタシらに最大限の便宜べんぎを図る。それで構わないよ。それとアタシの事はダリアと呼びな。エストファーネ。」

 「は、はい、分かりました!!ダリア!!」

 「よしよし、いい子だ。」


 とても穏やかな笑顔でエストファーネを優しく抱き寄せ、彼女の髪を優しく撫でてやるダリアだったのだが。


 「…おい!!」


 そんなダリアの自分を馬鹿にした態度に、遂にノートンがブチ切れてしまったのだった。

 怒りの形相でダリアを睨みつけながら、手にした剣に闘気を込める。


 「てめぇら、ふざけやがって!!さっきからこの俺様を無視して、一体何を女同士でイチャイチャしていやがるんだぁっ!?」

 「ん?ああ、何だアンタら、まだいたのかい。」

 「なっ!?ふざけやがって!!今からてめぇらに俺様という存在を思い知らせてやるよ!!」


 エストファーネを庇うように彼女の前に出たダリアに対し、ノートンが先程の必殺の奥義をダリアに放ったのだが。


 「食らいやがれ!!暗黒流天馬剣奥義!!流星剣!!ペガッサァァァァァァァス!!ペガッサァァァァァァァァス!!ペガッサァァァァァァァァァァス!!」

 「微温ぬるいねぇ!!そんな程度じゃ流星と呼ぶには程遠いよ!!ほらほらほらぁっ!!」


 妖艶な笑顔で、ダリアはノートンが放った無数の衝撃波を、全て槍で弾き返してしまったのだった。

 予想外の事態に、ノートンは驚きを隠せない。


 「ば、馬鹿な!?俺様の流星剣を、こうも簡単に!?」

 「さて、まだやるかい?アタシらが請け負った仕事は、あくまでもエストファーネたちの護衛であってアンタらの討伐じゃない。大人しく引いてくれるってんなら、無理にアンタらを痛めつけるつもりは無いが…。」


 噂には聞いていたが、まさかダリアがこれ程までの実力者だったとは。

 ダリアの圧倒的な実力を見せつけられた盗賊たちが、絶望の表情になってしまう。


 「お、お頭!!この女、強過ぎますぜ!!とても俺たちが叶う相手じゃ…!!」

 「じゃかあしい!!目の前に大層なお宝が転がってるってのに、それをむざむざと逃がしてたまるかってんだよぉっ!!」

 「で、ですがお頭!!」

 「そんな物はなぁ…!!盗賊の名折れだってんだよぉ!!」


 確かにダリアは強い。真正面からまともにぶつかっても勝てない相手だというのは、ノートンも充分に理解させられた。

 だが正面から戦って勝てないのなら、からめ手を使えば済むだけの話だ。

 自分たちは盗賊であって騎士ではない。ラインハルトのように騎士道精神を掲げて正々堂々と戦う必要など、これっぽっちも無いのだから。


 「こいつを食らいやがれぇっ!!」


 ノートンが懐から発煙筒を取り出してダリアに向けて思い切り投げつけた瞬間、目の前で派手に爆発した発煙筒から大量の煙幕が噴き出したのだった。

 ダリアとエストファーネの視界が、煙幕によって遮られてしまう。


 「おやおや、煙幕とは随分と姑息な真似をするんだねぇ。ま、アンタのその執念だけは認めてやるよ。」

 「ダリア、ちょっといいかしら。」

 「イリーナ。」


 どれだけの達人だろうと突然煙幕によって視界を遮られれば、ほんの僅かでも必ず隙が生じるはずだ。

 そしてノートンはダリアとエストファーネの現在位置を正確に把握している。しかもエストファーネを庇いながらでは、この煙幕の中ではダリアもまともには戦えまい。

 剣を握る両手に力を込めて勝利を確信し、ダリアに向けて煙幕の中を突撃するノートンだったのだが。 


 「貰った!!死ね…っ!?」


 今、この場にイリーナがいた事。そしてイリーナの能力を知らなかった事。

 それが今回の戦いにおける、ノートンの最大の敗因だった。

 

 「がっ…!?」


 いつの間にか…そう、いつの間にか、ダリアの槍がノートンの左胸を貫いていたのだ。

 いや、と言うか、『置いてあった槍にノートンが自分から貫かれに行った』と言った方が正しいか。

 そう…探知魔法でノートンの位置を即座に割り出したイリーナからの指示を受けたダリアが、ノートンが突っ込んでくるであろう場所に向けて、あらかじめ槍を『置いておいた』のである。

 皮肉にも自分が放った煙幕のせいでダリアの槍を目視出来なかったノートンは、それによって見事に自爆してしまったという訳なのだ。

 

 「な…何で…!?俺の…位置が…っ!?」

 「馬鹿な人。私の探知魔法の前では煙幕なんて、何の役にも立たないのに。」

 「た…探知…!?そんな…高度な…魔法を…っ!?」


 自分の敗北が未だに信じられないといった驚愕の表情で、どうっ…とその場に崩れ去り、絶命したノートン。

 エストファーネを安心させようと優しく肩を抱き寄せながら、そんなノートンを汚物を見るかのような目で見下すイリーナだったのだが。

 

 「ありがとな。助かったよ、イリーナ。」

 「ま、私の助けなんか無くても、ダリアならこんな人、余裕だったでしょうけどね。」

 「ふふふっ、確かにそうだね。気配を消すのが下手糞な奴だったし。」

 「んっ…ちゅっ…。」


 ダリアはイリーナを優しく抱き寄せ、そっ…と優しく唇を重ねたのだった。

 他の『ラビアンローズ』の女性たちも、とても嬉しそうな笑顔でダリアの元に駆け寄り、私も、私にも、とダリアにキスをせがむ。

 目の前で繰り広げている異様な光景に、顔を赤らめながら戸惑うエストファーネ。


 「お、お頭が殺された…!!しかも、こんなにもあっさりと…!?」

 「ば、化け物だ!!こんな女に俺たちがどう足掻こうが勝てる訳がねえ!!」

 「に、逃げろ逃げろ!!命あっての物種ってなぁ!!」


 『ラビアンローズ』の女性たちと違って何の想いも信念も持たず、ただ楽に略奪が出来るからと…所詮はそんな安直な理由でノートンに従っていた連中なのだろう。

 ノートンが戦死した途端、一斉に盗賊たちは逃げ出してしまったのだった。

 そんな彼らを興味が無いと言わんばかりに無視して恋人たち全員とのキスを終え、彼女たちに対して穏やかな笑顔を見せるダリア。


 その後、イリーナと2人がかりで傷ついた兵士たちに回復魔法を掛け終えたエストファーネが、改めてダリアにサザーランド王国までの護衛の依頼を正式に行った。

 護衛の報酬は、自分とのレズセックス…ではなく、いつか自分がファムフリート王国の王権を取り戻した際、『ラビアンローズ』に対して最大限の便宜を図る事。

 それをダリアは笑顔で快く承諾し、晴れて契約は成立したのである。


 「よし、じゃあ邪魔者は消えたし、改めてサザーランド王国へと向かうよ!!」

 「「「「「「「「「イエス、マム!!」」」」」」」」」


 自分に寄り添うエストファーネの肩を優しく抱き寄せながら、ダリアは『ラビアンローズ』の女性たちに笑顔で高々と命じたのだった。

ダリアたちの協力を受けサザーランド王国に辿り着いたエストファーネは、遂にラインハルトと邂逅を果たします。

緊急会議に参加するエストファーネとダリア。そこでラインハルトは何を語るのか…。

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