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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第11章:破滅への序曲
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第93話:虐殺

美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』によって、あっという間に壊滅状態になってしまったファムフリート王国騎士団。

1人、また1人と虐殺される兵士たち。そしてベルドの魔の手がクライスにも…。

 そこから先は、最早『戦い』にすらなっていなかった。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』によって、本来の実力の5分の1にまで減退させられたファムフリート王国騎士団が、1人、また1人とベルドに、そしてギャレット王国騎士団に蹂躙じゅうりんされていく。

 全く抵抗らしい抵抗も出来ないまま、戦場に多数のファムフリート王国騎士団の死体の山が出来上がったのだった。

 

 まさに『戦い』とは呼べない『虐殺』…自らの『異能【スキル】』によって引き起こされてしまった惨劇を目の当たりにさせられた美海が、絶望の表情で大泣きしてしまう。

 あまりに悲惨な光景に目を逸らそうとする美海だったが、顕現した『呪い』がそれさえも許さず、美海の顔を無理矢理戦場に向けさせたのだった。


 【ファファファファファ…よく目に焼き付けておくのだ美海よ。これが、これこそが、そなたの力によって引き起こされた光景よ。】

 「嫌…!!嫌…!!もう止めて…!!」


 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』さえ無ければ、ファムフリート王国騎士団はギャレット王国騎士団による侵攻を、充分に食い止める事が出来ていたはずだ。

 つまり『呪い』の言う通り、美海のせいでこんな事になってしまったのだ。

 その逃れようのない事実が、美海の心を絶望に染め上げてしまう。


 「どうして…!?どうしてこんな酷い事をするの…!?皆で仲良くしようとか助け合おうとか、どうしてそういう事を考えてくれないの…!?」

 【ファファファファファ…ベルドの考えている事など、所詮はわらわの知った事では無いがのう。しかし言われてみれば確かにそなたの言う通りじゃな。人間というのは本当にどこまでも愚かで強欲な生き物よ。】

 

 アルベリッヒにしてもチェスターにしてもカーゼルにしても、これまでに国の頂点に立つ者がよこしまな野心を抱いてしまったせいで、一体どれだけ多くの命が奪われてしまったのか。

 因果応報と言うべきか、3人共無惨な最期を遂げてしまったのだが…しかしそれでもなお人間たちはこうして争い合う事をめようとしない。

 人は強大な力を手にすると、それを試さずにはいられない。

 神也が面白半分に世界中に拡散した転生術が、こうして異世界全土に波乱を巻き起こしてしまっているのだ。

 それを『呪い』は嘲笑ちょうしょうし、人間たちを愚かな存在だと馬鹿にしているのである。


 「…な…何という事だ…!!こんな事が…あってたまるものか…!!」


 そして目の前で起きている惨劇を、城の展望台からクライスが驚愕の表情で見せつけられてしまっていたのだった。

 まさかたった1人の転生者が発動した『異能【スキル】』のせいで、ここまでの惨劇を引き起こされてしまうとは。

 クライス自身、転生者たちに秘められた力を、心のどこかで軽視してしまっていたのかもしれない。

 部下たちが進言したように国民から税金を臨時徴収してでも、他国への対抗手段として転生術を発動しておくべきだったのか。


 だが今は、そんな事を考えている余裕など無い。後悔などしていられる場合ではない。

 こうなってしまった物は仕方が無い。起きてしまった事は最早どうにもならない。

 時間を巻き戻す事など、出来る訳がないのだから。

 今は国王として、この絶望的な状況下において、少しでも国の…そして民の為に、最善の選択をしなければならないのだ。


 「エストファーネ!!お前は護衛の兵たちと共に直ちに隠し通路から城を脱出し、サザーランド王国に助けを求めよ!!そしてラインハルトに今回の惨状を伝えるのだ!!ラインハルトは信頼出来る男だ!!必ずやお前の力になってくれるはずだ!!」


 とても厳しい表情で、クライスは傍に控えていた愛娘の少女・エストファーネに命じたのだった。

 突然のクライスからの命令に、エストファーネが困惑の表情を見せる。


 「そんな、ならばお父様も私たちと一緒に!!」

 「ならぬ!!国王たる私が国や民を見捨てて逃げる事など、断じて許されぬのだ!!」


 そう、それが一国の王として果たさなければならない責務なのだ。

 国の頂点に立ち民を守らなければならない責務を持つ国王が、その守るべき民を見捨てて自分だけおめおめと逃げ出すなど、断じて許される訳が無い。

 そんな事をしよう物ならクライスは、愚王として永遠に歴史に名を刻む事になってしまうだろう。

 いや、クライスだけが嘲笑されるだけで済めばいいのだが、ファムフリート王国という国全体が世界中から誹謗中傷の対象となり、国家間の交流が断たれ貿易にも影響が出てしまい、民たちが路頭に迷う事にも繋がりかねない。

 だからこそクライスは、今ここで逃げ出す事など絶対に許されないのだ。


 だがエストファーネは違う。彼女にはまだ先が、未来がある。

 そしてエストファーネにはファムフリート王国の王女として、必ず生き残って果たさなければならない責務があるのだから。

 

 「エストファーネ、お前はファムフリート王家に残された唯一の跡継ぎ…我が国に残された唯一にして最後の『希望』なのだ!!故にお前の身に何かあるような事だけは、絶対に避けなければならぬのだ!!」

 「お父様…!!」

 「例え私の身に何かあったとしても、お前さえ生きていればファムフリート王国を建て直せる!!だからお前だけは絶対に生き残らなければならぬのだ!!それが王女としてお前が成さねばならぬ責務だと心に銘じよ!!よいな!?」

 「きゃあっ!!」


 断腸の思いでエストファーネを尽き飛ばしたクライスを、近くにいた数名の兵士たちが慌てて受け止める。


 「連れて行け!!そして必ず生きてサザーランド王国へと辿り着くのだ!!」

 「「「「「はっ!!」」」」」

 「嫌あああああああああああああ!!お父様ああああああああああああああああああああっ!!」


 兵士たちに隠し通路まで連行されるエストファーネに背を向け、覚悟を決めて槍を手にするクライス。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の凄まじい威力によって、ファムフリート騎士団は壊滅状態…最早この戦いの勝敗は決したも同然だろう。

 だがそれでもクライスは国王として民を守る為に、ここで逃げ出す訳にはいかないのだ。

 せめて死ぬ前に、孫の顔だけは見ておきたかったのだが…苦笑いしながらクライスは槍を手に戦場へと飛び出したのだった。


 「エストファーネ、どうか幸せにな…!!ラインハルトよ、エストファーネを頼んだぞ!!」


 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』の持続時間は3分…だが実際の戦場においては、3分というのは物凄く大きな時間となる。

 既に持続時間の3分は経過しているのだが、そのたった3分間もの間に、あっという間にファムフリート王国騎士団は壊滅状態になってしまっていた。

 次から次へとファムフリート王国騎士団の兵士たちを虐殺しながら、ベルドを先頭に正門を突破し、城下町へと侵入したギャレット王国騎士団。

 

 「目標はクライスとエストファーネだ!!全軍そのまま城まで突撃…っ!?」

 「ぬあああああああああああああああああああああああっ!!」


 だがそこへ槍を手にしたクライスが、物凄い勢いでベルドに斬りかかってきたのだった。

 妖艶な笑顔で、クライスの渾身の一撃を剣で受け止めるベルド。


 「来たなクライス!!今ここで貴様を討ち取り、この国とエストファーネを我が物としてくれるわ!!」

 「ベルドぉっ!!」


 鍔迫り合いの状態になるクライスとベルドだったが、ベルドが手にする剣を見せつけられたクライスは驚愕の表情になったのだった。

 他の兵士たちが手にする武器とは一線を画す、神々しいまでの白銀の輝きを放つ剣。


 「そ、その白銀の剣は…まさか!!」

 「ふはははははは!!そうだ!!かつて人間の無力さを嘆いた神々が地上に遺したとされる、伝説の武器が誇る一刀!!神剣バルムンクよ!!」

 「馬鹿な!!一体どこでそれを手に入れたというのだ!?」

 「どこからか知らんが、我が国の冒険者共が手に入れた代物らしくてな!!それを俺が高値で買い取ってやると言ってやったのに拒否しよるから、仕方が無いので強奪してやったのよ!!」

 「何だと!?貴様、正気かぁっ!?」


 強奪って。ベルドは自国の民を…ましてギルドからの依頼を受けて命懸けの戦いに身を置く自国の冒険者たちを、一体何だと思っているのか。

 この異世界の各地に点在するとされている伝説の武器は、その希少性と圧倒的な性能故に、その所有権を巡って存在自体が国家間の争いを生む元凶になってしまっている代物だ。

 だが、だからと言って、いかに国王と言えども冒険者たちから一方的に強奪するなど…到底許される行為では無いだろう。

 何という傲慢な…そして何という身勝手な男なのか。

 怒りを露わにするクライスを、ベルドが妖艶な笑顔で弾き飛ばしたのだった。


 「フン!!何を腑抜けた事を言っておるか!!民の物は俺の物!!俺の物は俺の物!!貴様らが国民から税金を徴収するのと何が違うというのだ!?」

 「おのれベルド!!貴様のような男を、このまま野放しにしておくわけにはいかぬ!!」

 「口上のみ達者な弱者の言葉など、所詮は俺の心には響かぬわ!!偉そうな事は俺に勝ってから言うのだなぁっ!!」

 「ぬううううううううううううううううううっ!!」


 ベルドの凄まじいまでの連撃を、辛うじて槍で受け止め続けるクライス。

 だが元々の実力が違い過ぎる上に、ベルドが手にする神剣バルムンクの威力も圧倒的だった。

 あっという間にクライスは、全身傷だらけになって追い詰められてしまう。

 その様子をクライスに付き添っていたファムフリート王国騎士団の兵士たちも、周囲の民間人たちも、絶望の表情で見つめていたのだった。

 ベルドに吹っ飛ばされたクライスが、もう見てもいられない程までにズタボロになってしまっている。


 「くっ…お、おのれ…っ!!」

 「雑魚が!!所詮は貴様の力など螳螂とうろうの斧に過ぎん!!俺には痛くも痒くも無いわ!!」

 「最早私の命もここまでか…!!だが!!ただでは死なぬぞ!!貴様に私の暗黒流水龍槍あんこくりゅうすいりゅうそうの真髄、存分に味合わせてくれるわ!!」


 クライスの全身から放たれた、凄まじいまでの『圧力』。

 ベルドの配下に控えていたギャレット王国騎士団の兵士たちは、クライスの気迫に思わず気圧されてしまうものの、それでもベルドは妖艶な笑顔のまま全く動じない。

 そんな余裕しゃくしゃくのベルドに一泡吹かせてやろうと、クライスがベルドに全身全霊の一撃を放ったのだが。


 「食らえぃ!!暗黒流水龍槍奥義!!大海嘯だいかいしょう!!ザッバーン!ザッバーン!!ザッバーーーーーーーーーン!!」

 「馬鹿め!!そのようななまくらでは、この神剣バルムンクには遥かに及ばぬわぁっ!!」


 妖艶な笑顔でベルドは、クライスの渾身の一撃を容易く受け止めたのだった。


 「な、何だとぉっ!?そんな馬鹿なぁっ!?」

 「今度はこちらの番だ!!暗黒流鳳凰剣奥義!!鳳凰天翔!!ほうおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!ほうおおおおおおおおおおおおおおおおう!!ほうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!」

 「ぐあああああああああああああああああああああああっ!!」


 カウンターで放たれた強烈な一撃を辛うじて槍で受け止めたクライスだったのだが、あまりの威力に防ぎ切れず、民家の壁に叩きつけられてしまったのだった。

 何という凄まじいベルドの技の、そして神剣バルムンクの威力なのか。

 今の一撃でクライスの槍がボロボロになってしまっており、クライスが叩きつけられた民家の壁に亀裂が走ってしまっていた。


 「がはぁっ!!」

 「この世界に108もの流派が存在するとされている暗黒流!!その中でも我が鳳凰剣こそが最強!!最強なのだ!!」

 「ぐっ…お、おのれ…この外道が…っ!!」

 

 最早虫の息のクライスの髪をわし掴みにして無理矢理立ち上がらせ、ベルドが妖艶な笑顔でクライスの無様な姿を見下している。

 そして。


 「エストファーネは俺の嫁として存分に可愛がってやる!!だから貴様は安心して今ここで死ねぇっ!!」

 「が…っ!!」


 ベルドの神剣バルムンクが、情け容赦なくクライスの喉を貫いたのだった。

 驚愕の表情のクライスの死体が、どう…っとその場に崩れ落ちてしまう。


 「こ、国王陛下が…し、死んだ…!!」

 「もう駄目だぁ…!!おしまいだぁ…!!」


 そのクライスの無様な惨状を見せつけられた、生き残ったファムフリート王国騎士団の兵士たちが、絶望の表情で一斉に武器を捨ててベルドに降伏したのだった。

 戦場というのはたった1人のエースが敗北しただけで、戦いの流れがガラリと変わってしまう物なのだ。

 ましてそれが一国の王が戦死したともなれば、尚更の話だ。

 周囲の民間人たちもクライスの戦死という絶望的な光景を、不安の表情で見せつけられてしまっていた。

 これから自分たちは、一体どうなってしまうのかと。


 そしてクライスの遺体をボロ雑巾のように無造作に投げ捨てたベルドは、今回の戦いでクライスを討ち取った事で確信したのだった。

 美海の実戦テストは最高の結果をもたらした上で、無事に終了した。

 美海の『絶望の輪舞曲【デストラクション】』の『異能【スキル】』は、まさにこの世界を制する力だ。

 美海さえいれば『閃光の救世主』だろうと『雷神の魔術師』だろうと魔王カーミラだろうと、所詮は自分の敵では無いのだと。この世界全土を征服する事も不可能ではないのだと。


 「ククククク…ふはははは!!ひゃははははははははは!ひゃあああああああああああああああああっはっはっはっはっはっはっは!!」


 狂喜乱舞の笑顔で、自分がこの世界全土の支配者になる未来を想像しながら、ベルドは豪快に高笑いをしたのだった…。

クライスの死を無駄にしない為にも、断腸の想いでサザーランド王国へと急ぐエストファーネ。

その混乱に乗じてエストファーネを狙って、盗賊団が襲撃を仕掛けてくるのですが…。

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