第91話:破滅への序曲
FF14のパッチ6.2が片付いたので、本格的に執筆活動を再開します。
神也が転生術と『呪い』の技術を面白半分で世界中にばらまいた事で、多くの国々が続々と転生術を発動。
その中の一国・第32話で名前だけ出てきたギャレット王国が、ファムフリート王国に対して侵攻作戦を仕掛けてきます。
転生術という強大な力に魅せられた、ギャレット王国国王ベルド。
この異世界は一体どうなってしまうのか…。
太一郎の推測は、見事に当たっていた。
伝書鳩を飛ばしたのは他でも無い神也であり、しかもフォルトニカ王国だけでなく世界中の国々に伝書鳩を飛ばしていたのである。
その伝書鳩に括り付けられた紙に記載されていたのは、転生術と『呪い』に関する詳細な術式だ。
これまでフォルトニカ王国とパンデモニウムが必死に門外不出にしていた転生術…そして転生者の謀反防止の為の『呪い』の詳細な術式までもが、神也の手によってあっさりと世界中に広まってしまったのである。
しかも何かしらの想いや信念を抱いた上での行為などではなく、
『この異世界の連中が、どいつもこいつも雑魚ばっかでつまんねーから(笑)。』
などという、あまりにも身勝手な理由でだ。
転生術というのは、向こうの世界でのソシャゲーでいう所のガチャのような物だ。
発動する為には膨大な魔力と触媒が必要になり、簡単に乱用は出来ない。
発動してから再発動までには、数カ月もの期間を開けなければならない。
しかも転生させられる者はランダムで指定が出来ない。それ故に一馬たちや神也のような暴君を召喚してしまう危険性がある。
折角苦労して転生術を発動したのはいいが、一馬たちのような馬鹿共を召喚してしまい、逆に謀反を起こされて自滅してしまう可能性も充分有り得るのだ。
転生術の発動には、これらの決して無視出来ない大きなリスクがあるものの、それでも転生術という強大な力に魅せられた半数近くの国々が、続々と転生術を発動。
向こうの世界で死亡した者たちが、この異世界へと次々と転生させられる事になるのである。
なまじフォルトニカ王国が太一郎という、文武両道で何をやらせても超優秀なパーフェクトイケメンの『閃光』という、完璧超人の召喚に成功してしまった事も、多くの国々が俺も俺もとばかりに転生術を発動する契機になってしまったのかもしれない。
仮に謀反を起こされても『呪い』で抑え込めば済む話だと…多くの国々がそのような事を考えているのだろうか。
そして国土が海に面し、豊富な海の幸による交易や船による運送業によって、多大な収益を得ている海の国、ギャレット王国。
国王にして暗黒流鳳凰剣の使い手・ベルドの命により、転生術を発動して転生者を召喚したこの国もまた、神也と同様に…いいや、神也すらも巻き込み、この異世界全土を混迷の渦へと巻き込む事になるのである。
「国王陛下!!ギャレット王国騎士団の大軍が、我が国に攻め込んでまいりました!!」
「何だと!?ギャレット王国だと!?おのれベルドめ、とうとう血迷うたか!?」
ファムフリート王国国王・クライスが、部下からの報告に厳しい表情を見せる。
諜報部隊からの報告により、ギャレット王国が転生術によって1人の転生者の少女を召喚したという情報は入手していたのだが、まさかこんなにも早く他国への侵略を企ててくるとは。
元々ベルドはチェスターやカーゼルにも負けず劣らずの野心家であり、神也が転生術と『呪い』の術式を世界中の国々にばらまく以前から、ファムフリート王国を含めた周辺他国に対し、自身の傘下に下るように執拗に要求し続けてはいたのだが。
しかもファムフリート王国に対しては、クライスの一人娘…ファムフリート王国王女・エストファーネを気に入ったベルドが、彼女を嫁に寄越せとまで要求してきたのである。
それもエストファーネに惚れたとか愛しているとかの真っ当な理由ではなく、
『エストファーネの美貌が気に入った』
『我が妻となるのに相応しい女だ』
という理由『だけ』でだ。
それをクライスは父親として断固拒否したのだが、これまでは近隣のフォルトニカ王国やサザーランド王国の存在を警戒してか、クライスに対して脅しをかけるだけに止まっており、表立った侵略行為は行ってこなかった。
そこへ転生者という圧倒的な力を得てしまった事で、その強大な野心を抑え切れなくなってしまったとでも言うのか。
「お、お父様…。」
「心配するな、エストファーネ。我が精強を誇るファムフリート王国騎士団は、これまで数多くの魔物や蛮族共から国民を守り抜いてきた実績があるのだ。そう簡単にベルドの好きにはさせぬよ。」
とても不安そうな表情で自分に寄り添うエストファーネの頭を、とても穏やかな笑顔で優しく撫でるクライス。
年齢はサーシャや真由と同程度だろうか。こんな17かそこらの少女が、突然のギャレット王国の侵略という非常事態に巻き込まれてしまったのだ。不安になるのも無理も無いだろう。
ファムフリート王国にも転生術と『呪い』に関しての詳細な術式が神也から届けられたのだが、クライスは転生術の発動を一旦保留としている。
転生術は発動するのに膨大な魔力と触媒が必要であり、フォルトニカ王国やギャレット王国と比べて国力で劣るファムフリート王国では、それだけの膨大な魔力や触媒を急に用意する事が困難だったからだ。
他国に対抗する為に無理をしてでも、それこそ国民たちから税金を臨時徴収してでも、転生術を発動するべきだと主張する大臣たちも何人かいたのだが、
『そのような事で我々が守るべき民たちに、血を流させるべきではない!!』
『国を活かすのは民だ!!民が活きなければ国は決して活きる事は無い!!』
などと、クライスは猛反対したのである。
まして転生者たちを束縛する為に『呪い』を発動するなどという、人道に反する行為など論外だ。
それによってファムフリート王国は、転生者抜きでギャレット王国騎士団と戦わなければならなくなってしまった訳だが、それでも来てしまった物は仕方が無い。
現在の現有戦力でもって、ギャレット王国騎士団を迎撃しなければならないのだ。
「全軍直ちに迎撃態勢を取れ!!ベルドの横暴を決して許す訳にはいかぬ!!」
「はっ!!」
「転生者だか何だか知らぬが、必ずや奴らを返り討ちにしてくれるわ!!」
ファムフリート王国騎士団が迎撃態勢を整える最中、ギャレット王国騎士団もまた侵攻の準備を着々と進め、ベルドからの命令を今か今かと待ち続けていたのだが。
その中で一際目立っていたのが、部隊の最前線に陣取るベルドの隣にいた、首をベルドが手にする鎖に繋がれ、両手と膝を地面につけて犬のように這いつくばっている、みずぼらしい服装の1人の少女。
ベルドが転生術によってこの異世界に召喚した、17歳の女子高校生だった少女…朝倉美海だ。
「しかし陛下…一体彼女は何者なんです?このような少女が本当に戦場で役に立つのでしょうかねえ?」
今にも泣きそうな表情の美海を、ベルドの部下が怪訝の表情で見つめていたのだが。
「確か、ガールズ…バンド?ボーカル?だったか?俺にはこいつの言っていた事の意味がよく分からなかったのだがな。どうやらこのガキは向こうの世界では、歌を歌う事を生業にしていたらしい。」
「ほう、歌で収入を…宮廷音楽家みたいなもんですかね?」
「まあこいつの経歴など、俺には至極どうでもいい事だがな。要はこいつの歌が実際の戦場で役に立つかどうかだ。今回の侵攻作戦は、そのテストも兼ねているのだ。」
ベルドの言葉に、部下が困惑の表情を見せたのだが。
「いやいやいやいやいや国王陛下、何を訳の分からない事を言ってるんですか。歌なんぞが戦場で役に立つわけがないでしょう。」
「そうか、そう言えばお前は、このガキの『異能【スキル】』を見た事が無いのだったな。」
とても妖艶な笑顔で、ベルドは自分の足元で這いつくばっている美海を見下しながら、はっきりと断言したのだった。
「折角の機会だ。よ~く刮目して見ておくがいい。『閃光の救世主』だろうが魔王カーミラだろうが、このガキの『異能【スキル】』の前では全くもって無力なのだ。」
「はぁ、『閃光の救世主』さえもですか?こんなひ弱そうな少女が?」
「初めて見た時は俺も正直言って驚かされたがな。全くとんでもない拾い物をする事が出来た物よ。このガキさえいれば、俺がこの世界全土を支配する事さえも夢では無いわ。」
「そ、そこまでの存在だと言うのですか?私にはとても信じられませんな…。」
次代の魔王カーミラが、一体どういう理由でギャレット王国に転生術と『呪い』の技術を提供したのか…それはベルドには分からない。
だが理由はどうあれ、これだけの強大な力を手にした以上は、それを存分に有効活用させて貰うだけの話だ。
美海の『異能【スキル】』の力でもって、ベルドはこの異世界全土を支配する。
フォルトニカ王国もサザーランド王国も、そしてパンデモニウムさえも、美海さえいれば容易く攻め落とす事が出来るのだ。
「その手始めに、まずはファムフリート王国を制圧する!!エストファーネを俺に嫁がせなかった事を、存分にクライスに後悔させてやるわ!!」
人間というのは、一体どこまで愚かな生き物なのだろうか。
強大な力を手にした途端、己の欲望を抑え切れずにはいられない。
神也が面白半分で転生術と『呪い』の技術を世界中にばらまいた結果、後にこの異世界全土で今回のような大騒乱が引き起こされる事になってしまうのである。
そして今回のギャレット王国による侵略行為は、美海の恐ろしい『異能【スキル】』の力によって、最早『戦い』と呼ぶ事も出来ない…見るも無残な一方的な大虐殺劇と化してしまうのである…。
「全軍ファムフリート王国城下町へと突撃せよ!!逆らう者は全員殺しても構わんが、エストファーネだけは殺さずに生け捕りにするのだ!!俺の妻として我が国に迎え入れなければならぬのだからな!!ふははははははは!!」
狂喜乱舞の笑顔で、ベルドは部下たちに突撃命令を下したのだった。
ファムフリート王国の制圧、そしてエストファーネの強奪を企むベルドの命により、遂に侵攻作戦を開始したギャレット王国騎士団。
そうはさせまいと万全の迎撃態勢を敷くファムフリート王国騎士団ですが、美海の暴虐的なまでに凶悪な『異能【スキル】』が発動し…。