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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第11章:破滅への序曲
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第90話:傷ついた瑠璃亜

神也に敗北した重傷を負った瑠璃亜は、エキドナの咄嗟の機転により『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』でフォルトニカ王国まで飛ばされます。

フォルトニカ王国の医師による懸命の治療により、何とか一命を取り留めた瑠璃亜なのですが…。

 瑠璃亜、敗北…この衝撃的なニュースは瞬く間に世界中を駆け巡り、この異世界全土で大騒動を引き起こす事になってしまった。

 無理も無いだろう。いきなりフォルトニカ王国の城下町に、重傷の瑠璃亜が有無を言わさず転移させられたのだから。

 それを目撃させられた城下町の人々は大騒ぎになり、たまたま居合わせていた各国の記者たちが伝書鳩で緊急速報を飛ばし、人から人へ、街から街へ、村から村へ、国から国へと、物凄い勢いで異世界全土に情報が知れ渡る事になるのである。

 インターネットが存在しないこの異世界においても、人々に情報が伝わるのは本当にあっという間だ。


 憔悴した表情のイリヤとルミアが近くの兵士たちに事情を説明して助けを求め、太一郎と共に大慌てで駆けつけてきたサーシャが瑠璃亜に回復魔法を掛けたのだが、瑠璃亜が胸元を斬りつけられた際に神也の強力な暗黒魔法によって全身を侵されてしまっており、回復魔法による治療が不可能な状況になってしまっていた。

 なのでサーシャの指示で取り敢えず城の医務室に運ばれ、緊急手術が行われる事になったのだが。


 「一応、手術は無事に成功しました。現状では絶対安静ですが、このまま集中治療を続ければ命の心配はまず無いでしょう。」


 無事に手術を終えて医務室から出てきた20代の女性医師が、外で待機していた太一郎、サーシャ、クレア、ケイト、イリヤ、ルミアに報告したのだった。

 女性医師からの吉報に、太一郎たちは誰もが安堵の表情を見せたのだが。


 「ただ瑠璃亜様の身体を蝕んでいる暗黒魔法の威力が強大で、完全に消え去るまでには恐らく10日から2週間程度を要すると思われます。それまでは精霊魔法での治療を行って頂く女王陛下と姫様とシルフィーゼさん以外は、面会謝絶とさせて頂きます。ご了承下さいませ。」

 「2週間か…僕がエキドナに暗黒魔法を食らった時は、サーシャから数日だと言われたけど…。」

 「瑠璃亜様を傷つけた神也という男の暗黒魔法が、それだけ強大だという事なのです。何しろ私と女王陛下と姫様の3人がかりでさえも、暗黒魔法の浄化が完全には出来なかった程なのですから。」

  

 女性医師の言葉に、とても心配そうな表情になる太一郎。

 暗黒魔法というのはどれだけ強力な代物だろうと決して永続するような代物ではなく、時間が経てば自然に浄化されてしまう物だというのは、太一郎も自分が食らった経験があるだけに充分に承知している事なのだが。

 太一郎の時は数日だったが、今回の瑠璃亜のケースでは約2週間とは。

 暗黒魔法というのは本当に厄介な代物だ。回復魔法だけでなく『治療【ヒーリング】』の『異能【スキル】』での治療すら阻害してしまい、自然治癒に頼らざるを得なくしてしまうのだから。


 まあ目の前の女性医師の有能さは太一郎も充分に理解しているし、クレアとサーシャも瑠璃亜の傍にいてくれるのだ。

 瑠璃亜の命の心配に関しては、まず要らないだろう。それだけが今の太一郎の心の支えとなっていた。

 

 「瑠璃亜様を助けて頂いて本当に有難うございました。私とイリヤでは応急処置で止血をするので精一杯でどうにもならず、一時は本当にどうなる事かと…。」

 「いいえルミアさん、私は命を救う事が仕事ですから。医師として当然の事をしただけですよ。」


 泣きそうな表情で深々と頭を下げたルミアを、女性医師がとても穏やかな笑顔でなだめたのだが。

 

 「ところで太一郎殿、真野神也という男の名前に心当たりはありませんか?」


 顔を上げたルミアが、突然太一郎にそう質問してきたのだった。

 神也は瑠璃亜と同様に、向こうの世界からドノヴァンによって転生させられたと語っていた。

 だからもしかしたら、瑠璃亜の義理の息子である太一郎とも繋がりがあるのではないかと、そうルミアは思ったのだが。


 「真野神也か…直接的な面識は無いけど、名前だけは僕にも心当たりがあるよ。」

 「本当なのですか!?」

 「うん。僕が元いた世界で、中学校の歴史の教科書にでかでかと載っていたからね。幕末の時代に反幕府連合に所属した凄腕の剣士で、確か『神剣の申し子』とか呼ばれていたんだったかな?」

 「…神剣の…申し子…。」

 「それで幕府軍との戦いで戦死した事になっていたよ。」


 当事者では無いだけに、中学の授業では「ふ~ん」としか思わなかった太一郎だったのだが…まさかこの異世界で、その名前を再び耳にする時が来ようとは。

 恐らく鈴音との戦いで戦死した直後にドノヴァンの転生術によって補足され、この異世界に転生させられたのだろう。

 太一郎は持ち前の冷静さと聡明さで、それを瞬時に分析してみせたのだった。


 だがまさか転生術というのが、時間軸さえも超越してしまう代物だったとは…こればかりは流石の太一郎も想定外だったようだ。

 何しろ太一郎と真由、瑠璃亜が向こうの世界で死亡したのが令和3年だったのに対し、神也が戦死したと歴史の教科書に記載されているのは幕末だ。

 その年月には、まさに100年以上もの開きがあるのだから。


 「…化け物よ、あの男は…あんなとんでもない奴が魔王を名乗るだなんて…ドノヴァンの馬鹿も本当に余計な事をしてくれた物だわ。」


 ふと、沈痛の表情で、イリヤが太一郎にそう切り出してきた。

 

 「まるで歯が立たなかった…アタシとルミアとエキドナが3人がかりで挑んでも、あの男はヘラヘラ笑いながら…アタシたちなんか眼中に無いと言わんばかりに…。」

 「イリヤ…。」

 「太一郎…例えアンタでも、あの男には到底勝てないでしょうね。」


 普段は強気の態度を崩さないイリヤでさえも、ここまで弱気になってしまっているのだ。

 心なしか、イリヤの両手が微かに震えているようにも見える。

 太一郎は直接的な面識は無いが、その真野神也という男は相当な使い手なのだろう。

 何しろ『封印【スキルロック】』の『異能【スキル】』で瑠璃亜の『異能【スキル】』を封じたとはいえ、あの瑠璃亜にさえも深手を負わせてしまったのだから。


 いや、神也の危険さは、単純な戦闘能力だけの話ではない。

 イリヤとルミアの話では神也は戦う事に愉悦を感じる、戦う事『だけ』が生きる目的と化しているような、重度の戦闘狂との事らしい。

 そしてそんな男が神刀アマツカゼと『異能【スキル】』という、あまりにも強大な力を手にしてしまったのだ。

 そんな男が瑠璃亜を追い出してパンデモニウムを支配してしまったのだから、果たしてこの異世界全土にどんな騒動が沸き起こってしまうのか。


 イリヤの言う通り太一郎と言えども、確かに真正面から挑むだけでは勝ち目は無いのかもしれない。

 もし戦うのであれば入念に準備をした上で、何かしらの秘策や奇策を用意しておかなければならないだろう。


 「女王陛下。イリヤとルミアの話を聞いた限りでは、神也はこのまま放置しておく訳にはいかない危険な男です。一刻も早く何とかしなければならないでしょう。」

 「ええ、その為には瑠璃亜の力がどうしても必要になるわね。行方不明になってしまったエキドナの安否も気になるけど…。」


 太一郎の言葉に、力強く頷くクレア。

 この先、新たな魔王カーミラとなった神也が、一体何をしでかしてくるのか。

 イリヤとルミアが言うように神也が重度の戦闘狂であるならば、自分を楽しませる強敵を求めて、世界中の国々に侵略行為をしでかしてくる可能性は極めて高い。

 その時は敵の魔王カーミラである神也に対抗する為に、こちらも味方の魔王カーミラである瑠璃亜の力が、どうしても必要になってくるのだろうが…。


 「待たせたわね。頼まれていた薬草はこれでいいかしら?」


 そこへ女性医師の指示で薬草を採集に出かけていたシルフィーゼが、両手に抱えた大きな容器に山積みになった薬草の束を、女性医師に手渡したのだった。

 転移魔法を使える上に豊富な薬剤に関する知識を持つシルフィーゼに、女性医師が瑠璃亜の治療に必要な薬を作る為の、薬草の収集を頼んでいたのだが。


 「…ええ、問題ありません。感謝します、シルフィーゼさん。」


 女性医師が満面の笑顔で、シルフィーゼに頭を下げる。

 これだけの量の薬草を、しかも指示された種類の物を全く間違える事無く、必要な分だけ的確に用意してくれた。

 何しろ瑠璃亜の命を繋ぐ為の薬を、大急ぎで調合しなければならないのだ。余計な物が混じっていたら大変な事になる。

 シルフィーゼがいてくれて本当に助かったと、女性医師は心の底から本気で思ったのだった。


 「御免なさいねシルフィーゼ。本来なら今日は休日だったのに…。」

 「このような緊急事態ですから、構いませんよ女王陛下。ま、どこかに振替で休日を用意して貰いますけどね。私はあくまでも『仕事』として宮廷魔術師をやってる訳ですから。」


 苦笑いするシルフィーゼに対し、休日出勤をさせてしまった事を心の底から謝罪したクレアだったのだが。


 「…瑠璃亜の身体を蝕んでいる暗黒魔法を、今この場で浄化する方法は…その…無くはないのだけれど…。」


 突然クレアがシルフィーゼから視線を逸らし、そんな事を呟いたのだった。


 「本当ですか!?それは一体どんな方法なんです!?僕に出来る事なら何でもお手伝いしますよ!?女王陛下!!」


 何だ、そんな方法があるなら早く言ってくださいよと、希望に満ちた瞳でクレアに食って掛かった太一郎だったのだが。


 「だ、駄目よ!!何を言っているのよ太一郎!!そんなの、あまりにも早計過ぎるわ!!だって義理とはいえ貴方のお母さんなのよ!?」

 「へ(汗)?」


 何故か太一郎は、顔を赤らめたクレアに叱られてしまったのだった…。

 よく見るとサーシャもケイトもイリヤもルミアもシルフィーゼも女性医師も、なんか全員揃いも揃って物凄く顔を赤らめてしまっている。

 クレアが自ら提案しようとして即座に否定した、『瑠璃亜の暗黒魔法を今すぐに浄化する方法』とは…一体どんな代物なのだろうか…。

 なんか気になる。物凄く気になって仕方が無い。

 そんな太一郎の前に女性医師が、そんな事はさせるかと言わんばかりに、物凄く顔を赤らめながら立ちはだかった。


 「と、とにかく、回復魔法が効かないとは言っても、瑠璃亜様は何とか一命は取り留めましたから!!暗黒魔法が消えるまで、このまま集中治療を続ければ問題無いですからねっ!?」

 「う、うん、分かったよ(汗)。」


 物凄く顔を赤らめながら太一郎に念を押した女性医師に、取り敢えず了承した太一郎なのであった。

 だが太一郎が訳が分からないといった表情で困惑していた、その時だ。

 

 「じょ、女王陛下!!た、大変です!!」


 兵士の1人が血相を変えて、慌ててクレアの下にやってきたのだった。

 一体何事なのか…自分の目の前で膝に手を突いて、ゼーゼー言いながら必死に息を整える兵士を、クレアが怪訝な表情で見つめていたのだが。


 「一体どうしたの?何があったの?」

 「パ、パンデモニウムから伝書鳩が送られたのですが…!!」

 「パンデモニウムから!?」


 次の瞬間兵士が、とんでもない事をクレアに告げたのだった。


 「伝書鳩にくくり付けられてた、この紙に…転生術と『呪い』に関しての詳細な情報が記載されていたのです!!」

 「何ですって!?」

 

 兵士に手渡された一枚の紙には、フォルトニカ王国が独自運用している物とは形式が少し異なるようだが、転生術に関しての詳細なデータが確かに正確に記載されている。

 しかも転生者の謀反防止の為なのか、シリウスが太一郎たちに掛けた『呪い』の付与用法までも。


 「…これは…!!」

 「クレア女王!!これは彼の言う通り、間違いなく私たちが運用している転生術の術式を記載した物です!!」

 「本当なの!?ルミア!!」

 「瑠璃亜様に見せて頂いた事があるので、間違いありません!!私は魔法に関しては素人なので、書いてある事の意味はよく分からなかったのですが…!!」


 ルミアの言葉に、とても厳しい表情になるクレア。

 この紙はパンデモニウムから飛ばされた伝書鳩に括り付けられていたとの事だが、一体誰が何の目的で、何故わざわざこんな物をフォルトニカ王国に飛ばしたのか。

 そもそもフォルトニカ王国だって転生術を独自運用しているのだ。わざわざこんな物を送った所で何の意味も無いだろうに。


 だが太一郎は持ち前の冷静さと聡明さで、即座に判断したのだった。

 クレアの推察は、前提からして根本から間違っているという事に。

 そもそもの話、この伝書鳩が飛ばされたのは…本当にフォルトニカ王国『だけ』なのだろうか。

 誰の差し金かは知らないが、もしかしたら世界中の国々に無作為に、この転生術と『呪い』の詳細が記された紙が括り付けられた伝書鳩が、一斉に飛ばされているのではないのか。

 神也の暴政に対抗する為に、これまで門外不出としていた転生術を提供してでも、世界中の国々に魔族たちが助けを求めているというのか。

 いや、それではフォルトニカ王国に伝書鳩を飛ばす意味が無い。前述のようにフォルトニカ王国だって転生術を運用しているのだから。


 なら一体誰が、何の為に?

 まさかこの伝書鳩は、神也の手によって飛ばされた物だとでも言うのか。

 転生させられたばかりの神也が、フォルトニカ王国も転生術を運用している事を知らなかったというのであれば、わざわざフォルトニカ王国に伝書鳩を飛ばした事と辻褄が合う。

 だとしたら何故わざわざこんな、自分の脅威となる存在を自分から増やすような…それこそ自殺行為と言っても差し支え無いような馬鹿な真似をしでかしたのか。


 いや…まさか神也はそれさえも楽しんでしまう程の…それこそ生きるか死ぬかのギリギリの状況に快楽すら感じてしまう程の、重度の変態だとでも言うのか。

 

 「一体パンデモニウムで…何が起こっているって言うんだ…!?」


 不安そうな表情のサーシャに寄り添われながら、とても厳しい表情で太一郎はそう呟いたのだった。

クライマックスが近付いてきましたが、物語の鍵となる新キャラが登場です。

第32話で名前だけ出てきたギャレット王国が転生術を発動。世界征服への手始めとしてファムフリート王国に侵略を仕掛けるのですが…。


FF14のパッチ6.2が配信される事に伴い、申し訳ありませんが少しの間、執筆活動を一時中断させて頂きます。

期間は


「パッチ6.2のメインクエスト終了」

「万魔殿パンデモニウム煉獄編ノーマル4層クリア(零式はプレイしません)」

「タタルの大繁盛商店関連、新たなる冒険番外編のサブクエスト終了」


以上を達成するまでとさせて頂きます。

そんなに時間は掛からないとは思うのですが、こればかりはどうしても仕事の都合があるので、いつ終わるのかという確約は出来ません。

いつも僕の作品を楽しみにして下さっている皆様には本当に申し訳なく思っておりますが、どうかご理解下さいますようお願い致します。

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