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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第2章:転生者たちの戦い
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第8話:閃光の救世主

今回は太一郎のバトルがメインです。

真由のサポートを受けながら、圧倒定な強さで魔物たちを叩きのめす太一郎。

戦闘シーンは本当に描いてて気持ちいいですわ。

 一馬たち『ブラックロータス』がシグマ村で暴れているのと、同時刻。

 彼らと別行動を取っている太一郎と真由もまた、トメラ村で魔物たちを相手に死闘を繰り広げていた。

 村人たちが不安そうな表情で2人の戦いを見守る最中、太一郎が隼丸を『抜く』度に『閃光』が周囲にほとばしり、魔物たちの首が次々と飛んでいく。


 「嫌ああああああああああ!!アタシの畑があああああああああああ!!精魂かけて育てたアタシの野菜がああああああああああああああ!!」

 「「「「「ゴブッ!!ゴブゴブッ!!ゴブゴブゴブッ!!」」」」」」


 太一郎が無数のキラービーたちを隼丸で一生懸命バラバラにしている隙を狙って、ゴブリンたちが一斉に畑に植えられた野菜を狙うが、そうはさせまいと真由が『異能【スキル】』を発動。


 「『敵視操作【ヘイトコントロール】』!!」

 「「「「「ゴブブブブブブブブブブ!!」」」」」 


 真由の『異能【スキル】』によって、ゴブリンたちの『敵意』が野菜から太一郎へと向けられていく。

 狙っていた野菜をほっぽり出して、一斉に棍棒で太一郎に殴りかかるゴブリンたち。

 とばっりちを受ける羽目になってしまった太一郎だが、これは太一郎と真由の戦いの常套手段でもあるのだ。


 真由の『敵視操作【ヘイトコントロール】』は、知能が無い、あるいは低い魔物の『敵意』の矛先を、任意に他者へと向けるという『異能【スキル】』だ。

 それを利用して真由が太一郎の元へと魔物たちを誘導し、一斉に向かってきた魔物たちを太一郎が一手に引き受け、隼丸で斬り捨てる。

 当然太一郎の負担は増す事になるが、こうする事によって魔物たちの敵意が村人たちに向く事が無くなるので、太一郎は村人たちへの被害を気にする事無く、目の前の敵を斬る事に集中する事が出来るのだ。


 太一郎がいるから、真由は魔物たちの敵意を村人たちから逸らす事が出来る。

 真由がいるから、太一郎は目の前の魔物たちに集中する事が出来る。

 太一郎と真由が互いの能力を理解し合い、互いを信じ合っているからこそ出来る芸当だ。


 「「「「「ゴッブーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」

 「お兄ちゃん!!ゴブリン8匹!!そっちに行ったよ!!」


 真由に無理矢理植え付けられた太一郎への殺意を放ちながら、一斉に棍棒で太一郎に殴りかかるゴブリンたち。

 そんな中で隼丸を鞘に収めた太一郎が直立不動の姿勢のまま、自分に向かってくるゴブリンたちを見据え、ふうっ…と静かに息を吐いた。

 こうして血相変えて自分を殺そうとするゴブリンたちを見ていると、あの時の事を鮮明に思い出す。

 

 太一郎は向こうの世界において、警察官として多くの凶悪な犯罪者たちを捕らえ、数多くの力無き人々を救ってきた実績がある。

 だが『居合刀を使う警察官』という特異な存在である事から『警察官として相応しくない』などと、国の上層部からは白い目で見られてしまっていた。

 お陰で仕事がクソ忙しいのに平日の朝っぱらから、国会からの参考人招致を受けて出頭を命じられ、片道数時間もかけて新幹線に乗って東京の国会議事堂まで赴き、証人喚問を受けた事さえもあったのだ。


 まあ折角なので、ついでに秋葉原にも寄ってやったのだが。

 

 『渡辺太一郎巡査長。貴方は警察官としての任務において、刀などという極めて凶悪な凶器を使用していますが、それに関しての貴方の意見をお聞かせ頂けますか?』

 『3点。主張させて頂きますが、よろしいでしょうか?』

 『はい、結構ですよ。』

 『まず1点。私が任務の際に居合刀を使う事自体は、特例として上層部から正式に認められています。これに関しては実際に愛知県警や警視庁に問い合わせて頂ければ分かる事です。』


 リクルートスーツ姿で壇上に上がった太一郎が、自分を取り囲む無数の国会議員たち、自分に無数のカメラを向けるテレビ局のカメラマンたちに全く怯む事無く、自分の意見を真っ向からぶつけていく。


 『2点目。どれだけ大義名分を掲げようとも、力無き正義など何の意味もありません。私には警察官として、凶悪犯罪者から市民たちを命を賭けて守る責務があります。その為の力として居合刀を使っているだけの事です。』

 『刀を使わなければ凶悪犯罪者を捕らえられないのですか!?貴方も警察官なら逮捕術を習得しているでしょう!?』

 『3点目。その逮捕術だけではどうにもならないような相手も実際にいるのです。逆に質問させて頂きますが、貴方は私に拳銃を持った凶悪犯罪者を相手に丸腰で挑み、殉職しろと仰りたいのでしょうか?』


 太一郎の主張に、国会議員たちが一斉にざわつき始める。

 全く、こんなクソみたいな、どうでもいい議論なんかしてる場合かよ…太一郎は心の底からそう思ったのだった。

 居合刀が凶悪な凶器だと言うが、だったら拳銃や警棒だって似たような物じゃないか。

 そこまで言うならアンタら自身が拳銃を手にした凶悪犯罪者相手に、丸腰で戦いを挑んでみろと問い詰めたい。小一時間程問い詰めたい。


 まあ太一郎ならその気になれば、例え拳銃を手にした犯罪者が相手でも、充分素手で戦えるのだが…そんな事を言おうものなら国会議員たちがさらに調子に乗ってしまいかねないので、止めておく事にした。


 『そんな物は建前に過ぎません!!夢幻一刀流だか何だか知りませんが、警察官が刀などという凶悪な凶器を振るうなど…!!貴方は国民の模範となるべき警察官として、もう少し自覚を持つべきなのではないですか!?』

 『私には渡辺家の稼ぎ頭として、妹の真由、義理ですが母親の瑠璃亜を…家族を養う責務もあるのです。だから私は死ぬ訳にはいかないのですよ。死なない為に私は居合刀を振るっているのです。』

 『それは貴方が警察官として未熟なだけの話です!!刀などという凶悪な凶器に頼る正当な理由にはならないでしょう!!』


 背広組は、現場の事を全く何も分かっていない…国会議員たちは太一郎の主張に全く理解を示してくれなかった。理解しようともしなかった。

 白熱し、真っ向から対立する、太一郎と国会議員の主張。

 この証人喚問の様子は絶賛生中継しているNHKや、録画した上で夕方のニュース番組で放送する各テレビ局によって日本全国に流される事となる。

 お陰で太一郎は日本全国でちょっとした有名人になってしまい、国民たちの間でも太一郎の主張は物凄い勢いで賛否両論だ。


 「刀を使う警察官って。その刀で人を死なせたらどうするんだよ。」

 「いやどう考えても正当防衛だろ。」

 「どんな理由があっても凶器を使うのは良くないと思う。」

 「所詮は現場を知らない連中の戯言だな。俺は太一郎氏に同情するわ。」

 「今夜0時、渡辺太一郎を殺します。」

 「↑の発言をした奴を特定した。〇〇高校の2年C組18番〇〇〇〇。これ証拠画像な。」

 「仕事早過ぎだろwwwwwていうかツイ垢もう消えててワロタwwwww」 

 「またバカッターかよwwwww何でツィッターでこんな殺害予告をしちゃうのかね。バレないとでも本気で思ってるのかこいつはwwwwww」


 ネット上でもこのような意見が流れる事になり、ツィッターでも『♯刀を使う警察官』のハッシュタグがトレンドになってしまう始末だ。

 この証人喚問以降、太一郎は各テレビ番組に引っ張りだこになってしまい、どういう訳か太一郎が勤務している警察署に、聖地巡礼する人々まで多数現れてしまう事態にまでなってしまう事になる。


 このように向こうの世界では、凶悪犯罪者を相手に居合刀を振るう事を、国会議員から『警察官として相応しくない』などと激しく叱責されていた。

 だが、このフォルトニカ王国では違う。こうしてトメラ村の村人たちを守る為に、太一郎は隼丸という強大な力…国会議員たちが言う所の『凶悪な凶器』を振るう事を許されているのだ。

 だからこそ太一郎は、存分にその力を…夢幻一刀流の真髄を発揮する事が出来ていた。

 力無き人々を守る…向こうの世界で警察官だった頃から変わらない、太一郎の揺るぎない信念を果たす為に。


 真由が自分への殺意を埋め込んだ8匹のゴブリンたちが、もう目の前にまで迫っていた。

 それでも慌てる事無く、太一郎は右手に添えていた隼丸の柄を握り、ゴブリンたち目掛けて隼丸を『抜く』。


 「夢幻一刀流奥義…五月雨さみだれ!!」


 その瞬間、ゴブリンたちに襲い掛かる、無数の『閃光』。

 と思ったら、ゴブリンたちの首がいつの間にか宙を舞っていた。

 自分たちが死んだ事にも気が付かないまま、どうっ…と、力無く倒れるゴブリンたち。


 「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 「今度は大型の一つ目巨人か。」


 自分の数倍もの図体を誇る巨人が相手でさえも全く慌てる事無く、隼丸を鞘に収めた太一郎が、突然現れた一体のサイクロプスを見据える。

 このサイクロプスも、魔王カーミラが復活した影響を受けて凶暴化でもしたのか。それとも空腹に耐えかねて餌を求めてトメラ村へとやってきたのか。

 いずれにしても人々に害を成す凶悪な魔物だというのであれば、太一郎は村人たちを守る為に隼丸で斬らねばならない。

 これも向こうの世界では「可哀想だ」とか批判されそうな行為だが、そんな悠長な事を言っていられるような状況では無いのだから。

 ここでサイクロプスを殺さなければ、村人たちが死ぬのだ。

 

 「『敵視操作【ヘイトコントロール】』!!」

 「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 村人たちに被害を出させない為に、真由の『異能【スキル】』によってサイクロプスの殺意が、太一郎へと強制的に向けられる。

 そのとばっちりを受けた太一郎に向けて振り下ろされる、サイクロプスの巨大な棍棒。

 ドーーーーーーーーン!!という派手な音を立てながら、棍棒が凄まじい腕力によって地面に叩きつけられた。

 押し潰された太一郎の死体を想像し、ニヤリとするサイクロプス。

 だが次の瞬間、その笑みは一気に絶望へと突き落とされる事となる。


 「こっちだよ。」

 「ウガッ!?」


 いつの間にかサイクロプスの背後に回り込んでいた太一郎が、その巨大な図体に狙いを付けていたのだ。

 夢幻一刀流の高速大幅移動術・縮地法…サイクロプスは太一郎の動きを目で追う事すら出来ていなかった。


 「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 慌てて振り返るサイクロプスだが、時既に遅し。

 さらに縮地法でサイクロプスとの間合いを一瞬で詰めた太一郎が、隼丸を『抜く』。


 「夢幻一刀流奥義…疾風はやて!!」


 次の瞬間、サイクロプスに放たれた一筋の『閃光』。

 縮地法で一瞬でサイクロプスを通り抜けた太一郎が、いつの間にか隼丸を鞘に納めて平然と溜め息をついていた。

 それにしても、腹が減ったなぁ…そう言わんばかりの余裕の態度で。

 

 「ウガアアアアアアアアアアアアア(貴様の剣など、蚊ほども効かんわ)!!」


 それをもろともせず、太一郎に殴りかかるサイクロプス。

 まさか太一郎の『閃光』の剣術が効いていないのか…!?一瞬絶望する村人たちだったが、その絶望も数秒後には徒労に終わる事となる。

 そう…達人クラスの使い手が刀を振るうと…並の使い手では『斬られた事にすら全く気が付かない』物なのだ…。

 

 「ウガアアアアアアアアアア…(ぶっ殺してや…)!?」


 太一郎に殴りかかりながら、サイクロプスの腹が真っ二つなっていたのだった。

 

 「ぶっぶぶぶっぶぶぶぶっぶっぶっぶーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 自分の身体に何が起こったのか理解出来ないまま、どうっ…と倒れ、死んでしまったサイクロプス。

 まさに太一郎の『神技』…村人の誰もが驚きを隠せずにいた。


 「真由、他に周囲に敵は?」

 「『敵意感知【ホストセンサー】!!』」


 太一郎に呼びかけられた真由が『異能【スキル】』で、半径2km圏内にトメラ村への敵意を抱く者たちが存在しないか、感知しようとするが…どうやら現状では誰もいないようだ。


 「大丈夫。この近くには魔物や盗賊の類はいないよ。」

 「そうか。ならこれで任務完了だな。」


 太一郎と真由の言葉に、一斉に歓声を浴びせる村人たち。

 この2人の活躍によって魔物たちは全滅、村人の死傷者もゼロ。トメラ村に全く何の被害も出さずに済む事が出来たのだ。

 それでも太一郎も真由も慢心する事無く、自分たちが殺した魔物たちの死体を一か所に集める。

 そして村人たちに油と松明を譲って貰い、紅蓮の炎で魔物たちの死体を丁重に火葬したのだった。


 この魔物たちもトメラ村を襲ってきたからこそ、太一郎と真由がサーシャの依頼で始末したわけだが、それでも空腹に耐えかねて餌を求め、このトメラ村にまでやってきただけなのかもしれない。

 真相は不明ではあるが、それでも彼らもまた『生きる』のに必死なのだ。

 勿論どんな理由があったとしても、村人に危害を加える存在である以上は討伐しなければならない。さもなければ村人たちの命が危険に晒されてしまう事になるのだから。


 だがそれでも太一郎と真由が、必死に生きようと足掻いていた魔物たちの命を奪った事に変わりは無い。

 だからこそ彼らの命を奪った者として、その責任だけはしっかりと果たさなければならないのだ。

 燃え盛る炎の前で静かに黙祷をささげ、魔物たちの冥福を祈る太一郎と真由。

 どうか来世では静かで穏やかな日々を送れますように…心の底からそう願いながら。


 「坊やたち、本当にご苦労さんだったねえ。アンタたちのお陰で助かったよ。」


 無事に火葬を済ませ、村人たちにも手伝って貰って魔物たちの遺体の埋葬も丁重に終わらせた後、1人の老婆が太一郎と真由に語り掛けて来たのだった。


 「お昼ご飯まだだろう?良かったらアタシの家で食べていきな。」

 「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせて頂きます。」


 とても穏やかな笑顔で、太一郎が心からの感謝の言葉を老婆にかける。

 昼休みを取る暇も無く慌てて駆けつけたせいで、太一郎も真由も正直お腹がペコペコだったので、この老婆の申し出は本当にありがたかった。

 

 「さあ、たんと食べな。アンタたちが守ってくれた畑で育てた野菜で作ったんだよ。」

 「これは美味そうだ。頂きます。」


 太一郎がオクラの天ぷらを箸で摘んで口に運ぶと、オクラ特有のふわとろ感が口の中に存分に広がった。

 絶妙な火加減で炒められたオクラが、太一郎の心と体を満たしてくれる。

 

 「美味い。」

 「そうだろう、そうだろう。アタシたちはこれで生きてるからねえ。」

 

 心からの笑顔を太一郎と真由に見せる老婆。

 シリウスに『呪い』を掛けられ、理不尽に戦いへと駆り出されている太一郎と真由だったが、こうして自分たちが守り抜いた人々の笑顔を見ていると、こんな戦いの日々も決して悪くは無いと思えたのだった。


 「アタシの孫が今、王都でキャバ嬢として働いてるんだけどね。この間久しぶりに帰省してきた時にアンタたちの事を絶賛していたよ。アンタたちがこの国を守ってくれているから、安心して王都で働く事が出来るってね。」

 「あの繁華街にあるキャバクラですか?僕も一度だけ目にした事はありますけど、確かに夜になると凄く賑わってますよね。」

 「賑わってるのは、アンタたちがこの国を守ってくれているからだよ。」


 雑穀米を口に運びながら、老婆の他愛の無い話に耳を傾ける太一郎。

 真由と共に王都内の構造を一通り頭の中に入れているので、繁華街にそういった店が幾つかあるという事も調査済みだ。

 キャバクラともなれば、様々な客層が店に訪れる事になる。そんな彼らに毎日のように接客しているキャバ嬢たちも、当然色々な情報を耳にしている可能性が高い。

 それ故に情報収集の為に客として訪れようとしたら、真由が物凄く不機嫌になったので、足を運んだ事は一度も無いのだが。


 …何で真由が不機嫌になったのか、ファミレスに行った時は文句を言われなかったのに、何でキャバクラは駄目だと言われたのか、太一郎には良く分からなかったのだが。


 「ご馳走様でした。凄く美味しかったです。」

 「ふふふっ、綺麗に食べてくれたねえ。折角だからゆっくりしていきな。」

 「そうしたいのは山々なのですが、魔物の討伐が終わり次第すぐに帰還するよう、王女殿下に言われている物でして…。」

 「そうかいそうかい。アンタたちも大変だねえ。」


 太一郎と真由が守らなければならないのは、トメラ村だけではない。

 国内の他の町や村からも、もしかしたら救援要請が出るかもしれないのだ。

 それ故に魔物の討伐が終わり次第、すぐに王都に帰還するようサーシャに命じられているのだ。ゆっくりしていられる余裕はない。

 お茶を飲み干した太一郎と真由が慌ただしく立ち上がった、その時だ。


 「おい、今度はシグマ村で転生者たちが大暴れしたらしいぞ。家を破壊したり畑を燃やしたり、やりたい放題だってよ。」

 「マジかよ。あの『閃光』の兄ちゃんとは偉い違いだな。俺らの所には絶対に来て欲しく無いよな。」

 「何でもシグマ村の人たちが『暴虐の悪魔』とか呼んでたらしいぜ。」

 「何じゃそりゃ?笑えない冗談だよな。」


 村人たちが農作業をしながら一馬たちへの文句を口にしたのを見て、太一郎は苦虫を噛み締めたような表情で舌打ちをしたのだった。

 クソ真面目に働いてるのに、毎回毎回とばっちりを受ける事になる太一郎と真由にとっては、本当にたまった物では無い。


 「…真由。恐らく村を離れた瞬間に『呪い』が発動する。覚悟だけはしておいてくれ。」

 「うん。」

 「では皆さん、僕たちはこれで失礼します!!また何かあれば遠慮なく仰って下さい!!」


 真由に耳打ちをした後、村人たちに王都へと帰還する事を告げ、村人たちに笑顔で手を振られながら、馬に乗って大急ぎで王都へと帰還する太一郎と真由。

 だがトメラ村から遠く離れた、次の瞬間。


 「ぐううううううううううううううううううっ!!」

 「あああああああああああああああああああっ!!」


 一馬たちの問題行動の連帯責任として、『呪い』に苦しめられる太一郎と真由。

 必死に馬にしがみついて10秒間もの苦痛に耐え続ける太一郎と真由だったが、太一郎はともかく真由はとても辛そうだ。

 この2週間で『呪い』が発動した回数は、初日にシリウスが任意発動した最初の1回と、太一郎が『呪い』の分析の為に敢えて意図的に発動させた2回を除けば、実に12回にも及ぶ。

 つまり単純計算で、1日に一度は『呪い』が発動している事になるのだ。


 「だ、大丈夫か真由…!?」

 「う、うん…私は大丈夫…。」

 「あの馬鹿共が!!『呪い』の発動条件は教えてやっただろうが!!なのに何でこうも毎回毎回、性懲りも無く…!!」


 この12回の『呪い』は、全て一馬たちが発動条件を満たしてしまった物だ。太一郎も真由も一度たりとも発動条件を満たしていない。

 それ故に毎回毎回、とばっちりで連帯責任を食らわされている…クソ真面目に働いている太一郎と真由にとっては、たまった物では無いだろう。


 いや、問題はそれだけでは無い。

 シリウスに掛けられた『呪い』を解く為に、まずはクレアとサーシャの強い信頼を得る事が絶対に必要…そう一馬たちに説明したはずなのに、この有様なのだ。

 太一郎と真由に関しては、少しずつだが確実に、クレアやサーシャの信頼を得る事が出来ている。

 だが最近はこの2人から、一馬たちに対する愚痴を聞かされるようになっているのだ。

 一体何をやっているんだと…太一郎は一馬たちに対して苛立ちを隠せずにいた。


 「とにかく、今は急いで王都に帰還しないと…僕たちまで女王陛下や王女殿下の信頼を失ってしまったら話にならないからな。」

 「大丈夫だよ。今日もお兄ちゃんのお陰で村の人たちは救われたんだから。そう簡単に2人の信頼を失ったりなんかしないよ。」

 「…だと、いいんだけどな…。」


 現状では完全に一馬たちが、太一郎と真由の足を引っ張る状況になってしまっていた。

 この度重なる『呪い』の発動によって、少しは一馬たちも懲りてくれればいいのだが…しかし一馬たちの性格上、それは絶望的かもしれない。

 だが、それでも。

 一馬たちが役に立たないのであれば、自分たちだけでもクレアやサーシャの信頼を確実に得なければならないのだ。

 

 「取り敢えず、王女殿下に任務完了の報告をしないとな。帰ろう、真由。」

 「うん。」


 その決意を胸に秘めながら、太一郎は真由と共に王都へと馬を走らせたのだった…。

次回はフォルトニカ王国の転生術の技術を、何としても手に入れようと画策する他国が、ある非人道的な策略を行う事に。

村人たちを救う為に奮闘する太一郎と真由ですが…。

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