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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第10章:新たなる魔王カーミラ
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第84話:反撃の時

鈴音を倒した神也の加入で勢いを増した反幕府連合は攻勢に転じ、幕府軍は敗走に次ぐ敗走を強いられてしまいます。

この非常事態に幕府は、仁戦組の隊士たちを招集するのですが…。

 神也の加入した反幕府連合の勢いは、とどまる事を知らなかった。

 鈴音を倒した程の圧倒的な戦闘能力を持つ神也を止められる者などいるはずがなく、神也の活躍によって各地の幕府軍は敗走に次ぐ敗走を重ねる結果となってしまう。

 無論、神也1人の戦闘能力『だけ』が突出していた所で、それだけで勝てる程戦争というのは甘い物では無い。

 何よりも菱川が提唱した局中法度に反発した、仁戦組からの謀反者を多数迎え入れる事が出来た事も大きかったのだ。

 その結果、仁戦組の活躍によって敗色濃厚だった反幕府連合は、あっという間に形勢を逆転させ、勢力を急激に強めていく事になるのである。


 この非常事態に幕府は、生き残った仁戦組の隊士たちを幕府の本拠地・京都の徳山城へと招集。

 今後の反幕府連合に対しての対策を練る事になったのである。

 

 「一同、控えよ!!我らが偉大なる征夷大将軍様、徳山茂重とくやましげしげ様の御成りである!!」


 城の中庭に集められた仁戦組の隊士たちに対し、幕府の幹部が偉そうな態度でふんぞり返りながら声を荒げる。

 その数はかつての300人もの大所帯から大幅に減ってしまっており、最早40人程度にまで落ちぶれてしまっていた。

 菱川の局中法度に反発した150人近くが脱退や謀反を起こし、さらに70人近くが先日の戦いで戦死。

 そうして生き残った80人の中からも、さらに40人もの隊士たちが嫌気が差して脱退してしまい、仁戦組の隊士は僅か40人近くにまで減ってしまったのである。


 先日の戦いで大量の戦死者が出てしまったというのもあるだろうが、やはり鈴音が神也に無様に敗れた様を目の当たりにしてしまった事が大きいのだろう。

 あの鈴音が、最強無敵の鈴音が、ここまで無様な醜態を晒してしまったのだ。

 このまま仁戦組にいた所で、神也に殺されるだけだと…命あっての物種だと…脱退した40人もの隊士たちが戦意を失ってしまうのも無理も無い事だろう。

 鈴音が菱川に警告していた通りだ。仁戦組の隊士たちの誰もが、幕府に対して絶対的な忠誠心を持っている訳では無かったのだ。


 「将軍様の、御成~~~~~り~~~~~!!」


 果たして幕府の幹部の呼びかけと共に壇上に現れたのは、威風堂々とした態度で仁戦組の隊士たちを見据える、征夷大将軍…徳山茂重とくやましげしげだ。

 まだ22歳という若さながら、その類まれなカリスマ性と聡明さによって、戊辰戦争ぼしんせんそうで戦死した父の代わりに皆をまとめ上げている名将だ。

 茂重の登場によって権藤たちが一斉に地面に正座し、深々と頭を下げて平伏する最中、ただ1人『誠』の文字を背負わない着物姿の鈴音だけは、直立不動で真っ直ぐに茂重を見据えている。

 仮にも征夷大将軍に対しての、この図抜けた態度…当然の事ながら幕府の幹部が、顔を赤らめながら激怒したのだが。

 

 「渡辺鈴音ぇっ!!貴様一体何様のつもりだぁっ!?将軍様に対して何だその無礼な態度はぁっ!?」

 「構わぬ。鈴音はあれで良い。」

 「し、しかし将軍様!!」


 それでも茂重は全く動じる事無く、毅然とした態度で幕府の幹部を右手で制したのだった。

 権藤たちが深々と頭を下げ続けている中でも、鈴音は全く動じる事無く、自分を怒鳴り散らした幕府の幹部を見据えている。


 「最初に茂重から用心棒の話が来た時に申したはずだぞ。私と茂重の立場は対等だと。それが此度の用心棒の話を引き受ける条件だとな。」

 「貴様、たかが農民風情が将軍様を呼び捨てにするなど…!!」

 「そんな下らぬ事を議論する為に、わざわざ我々をここに呼んだのでは無かろう?本題に入ってくれ。茂重。」


 幕府の幹部が頭に血を昇らせ顔を赤くしながら、ぐぬぬ…!!と鈴音を睨みつける。

 茂重は鈴音に大きく頷き、平伏している仁戦組の隊士たちに威風堂々と語りかけた。


 「一同、大義であった。表を上げよ。」


 茂重の呼びかけと同時に、平伏していた権藤たちが地面に正座したまま、一斉に顔を上げる。

 

 「此度の反幕府連合による襲撃事件においては、皆よくぞ生き残ってくれた。大量の謀反者と戦死者が出てしまった事は誠に遺憾ではあるが、そんな中でも皆がこうして余に忠義の心を示してくれた事、心より感謝する。」


 今、こうして茂重の目の前にいる40人もの隊士たちは、鈴音の敗北を目の当たりにさせられ、さらに大量の戦死者が出るという絶望的な状況に置かれてもなお、幕府に希望の光を見出し茂重に対して絶対的な忠義の心を示した、『誠』の旗を掲げし者たちばかりだ。


 「鈴音。大体の事情は既にざっくりと菱川から報告を受けてはいるが、改めて当事者であるお主の方から余に話してはくれないか?お主を負かしたという男についてな。」

 「うむ。話せば少し長くなるのだが…。」


 鈴音は茂重に、全てを語ったのだった。

 半年前に用事があって師匠のいる道場を訪ねた際、突然現れた神也が夢幻一刀流を教えろと押しかけてきたものの、神也の存在その物を危険視した師匠が門前払いした事。

 その報復として神也に、可愛い弟弟子たちを全員もれなく半殺しにされてしまった事。

 鈴音も神也と戦い手傷を負わせて撤退させるものの、無様に敗北を喫してしまった事。

 その一件で神也にすっかり気に入られてしまったようで、神也が鈴音と戦う為『だけ』に反幕府連合に加入したのだという事を。


 「…成程な。事情は大体分かった。しかしお主を二度も負かすとは…その真野神也という男は相当な使い手のようだな。」

 「我ながら、とんでもない男に目を付けられてしまったと呆れているよ。」


 鈴音から語られた一連の顛末てんまつに、ざわざわ、ざわざわ、という喧騒が中庭を包み込む。

 言うなれば鈴音は、神也を反幕府連合に呼び込んだ最大の元凶であるとも言えるのだ。その事は鈴音自身も自覚はしていた。

 だからこそ神也とは、鈴音自身の手で決着を付けなければならない。その決意を顕わにしていた鈴音だったのだが。


 「ではあの男が反幕府連合に加入したのは、他ならぬ貴様のせいだとでも言うのか!?ふざけるなぁっ!!あの男のせいで我々がどれだけ多大な損害を出していると思っておるのだぁっ!?」

 「遠藤。言葉を慎め。鈴音に対して何だその無礼な態度は。」


 鈴音に対して文句を言った幕府の幹部が、立ちはだかった茂重に厳しい表情で断罪されてしまったのだった。


 「しかし将軍様!!この女のせいで、あのような化け物が反幕府連合に加わる事になったのですぞ!?」


 興奮して顔を赤らめながら、それでも茂重に食って掛かる幕府の幹部。

 やはり農民の妻、そして仁戦組の正式な所属ではない用心棒という立場であるが故に、鈴音は幕府の幹部たちから軽く見られてしまっているのだ。

 だがそれでも茂重は威風堂々と、鈴音を庇うように幕府の幹部の前に立ちはだかる。


 「だから何だと言うのだ。鈴音のお陰でこれまでの間、どれだけ多くの隊士たちの命が守られたと思っているのだ。どれだけ多くの反幕府連合の浪士たちを討ち取る事が出来たと思っているのだ。」

 「何をおっしゃいますか!!そんな物は用心棒である以上は当たり前の話…!!」

 「ほう、当たり前か。ならば遠藤。お主は鈴音と同じように戦場のど真ん中で刀を振るえるのか?鈴音と同じように命を賭けて、反幕府連合の浪士たちを相手に命のやり取りが出来るのか?」

 「そ、それは…!!」


 茂重からの厳しい追求に、言葉に詰まってしまう幕府の幹部。

 所詮は異世界におけるリゲルと同様、幹部という己の地位に胡座あぐらをかいているだけの、口上のみ達者な愚か者でしかないという事だ。

 そんな幕府の幹部の無様な醜態を目の当たりにして、茂重は失望したように深く溜め息をつく。


 「出来ぬのであろう?そうだ。鈴音はお主に出来ない事をこれまで平然とやってのけてみせたのだ。ならばお主に鈴音や仁戦組の者たちを冒涜ぼうとくする資格など微塵も無い。脱退や謀反を起こした者たちも含めてな。その事を心から肝に銘じよ。よいな?」

 「は、はは~~~~~~~~っ!!」


 茂重からの厳しい言葉に、ただただ平伏するしかない幕府の幹部。

 そんな幕府の幹部の情けない醜態を一瞥いちべつした後、茂重は再び鈴音たちに向き直ったのだが。


 「先程、諜報部隊から入手した情報なのだが、反幕府連合はこの徳山城に全戦力を集中し、侵攻する準備を着々と進めているとの事だ。」


 徳山幕府の本拠地・徳山城に向けて、反幕府連合が全戦力を投入する。

 つまりそれは幕府や仁戦組にとっても反幕府連合にとっても、次の戦いが両陣営にとっての最終決戦になるという事だ。


 「これは危機的状況ではあるが、逆に言えば好機でもある。奴らがこの城に全戦力を投入して進軍してくるというのであれば、次のいくさで奴らを一網打尽に出来る最大の機会でもあるのだからな。」

 「うむ。だが神也の力は強大だ。私でも奴から皆を守り切れるかどうか…。」

 「鈴音の言う通りだ。そこで余に提案があるのだが。」


 決意に満ちた表情で、茂重が鈴音たちに語りかける。


 「まず一番重要な事なのだが、菱川が提唱した局中法度は廃案とする。かような事態を招いてしまったのだからな。異存は無いな?菱川。」

 「…ははっ!!」


 何も言い返す事が出来ず、ただただ茂重に平伏するしか出来ない菱川。

 150人近い隊士たちが局中法度に反発して謀反し、しかもその中から100人近くが反幕府連合に引き抜かれてしまった…この結果が全てを物語ってしまっているのだから。


 「そして此度の反乱によって、仁戦組は戦力の大半を失った。よって仁戦組はこれまでのような独立治安維持部隊としてではなく、現時刻をもって幕府軍の本軍に合流させ、余の指揮下の下に活動して貰う。」


 茂重の言葉に仁戦組の隊士たちは、力強い表情で茂重に傾注する。

 あれだけの惨状を目の当たりにさせられてもなお、彼らの瞳からは光が失せてはいない…彼らはまだ希望を捨ててはいないのだ。

 何故なら彼らにとっての絶対的なエースが…鈴音が未だに健在なのだから。

 鈴音が戦えるのであれば、彼らもまだ戦える。

 

 「次の戦では真野神也を加入させた反幕府連合は総力を挙げて、余の命を狙ってここに襲撃を仕掛けてくるはずだ。だが逆に言えば真野神也さえ討ち取る事が出来れば、反幕府連合は一気に勢いを失う事になるはずだ。」


 そう…先日の戦いにおいてもそうだったのだが戦場というのは、たった1人のエースが無様に敗北を喫しただけで、戦いの流れが大きく変わってしまう物なのだ。

 あの日、鈴音が神也に敗北した様を目の当たりにさせられてしまった仁戦組の隊士たちが一斉に絶望の表情になってしまい、逆に反幕府連合を勢い付かせる結果になってしまったように。


 だが逆に言えば、もし次の反幕府連合との最終決戦において、鈴音が神也を討ち取る事が出来れば。

 それで反幕府連合の戦意を完全に喪失させ、降伏させる事も充分に可能なはずだ。

 それを分かっているからこそ隊士たちの誰もが、まだ希望の光を失ってはいないのだ。


 「そして真野神也の目的は、あくまでも鈴音と殺し合う事だと聞く。ならば大変な負担を掛ける事となってしまい誠に申し訳無いが、鈴音には真野神也をおびき寄せる為の陽動を行って貰い、真野神也との決闘に望んでもらう。」

 「無論だ。そなたに言われずとも、私は最初からそのつもりだったからな。」


 決意に満ちた表情で、鈴音が茂重に大きく頷く。

 神也のような危険な男を、もうこれ以上好き勝手にのさばらせておくわけにはいかない。

 可愛い弟弟子たちを全員もれなく半殺しにされ、先日の襲撃事件においても30人近い仲間たちを殺されたというのもあるが、これは最早鈴音や仁戦組だけの問題では無いのだ。


 このまま神也を生かしておけば、この先どれだけの悲劇が繰り広げられるというのか。

 次の戦いで今度こそ、鈴音は神也を討ち取らなければならない。

 出来る、出来ないではない。らなければならないのだ。


 「反幕府連合との最終決戦の時は近い。奴らがこの徳山城に総攻撃を仕掛けてくるまで、恐らく3日と掛からないだろう。皆はそれまでに存分に英気を養い、来たるべき最終決戦の時に備えてくれ。」

 「「「「「はっ!!」」」」」

 「よし、今日はこれにて解散。皆、誠に大義であった。」


 茂重が立ち去った後、鈴音を侮辱した事で茂重に怒られた幕府の幹部が、慌てて彼を追いかけていく。

 その彼らの後ろ姿を、鈴音が決意に満ちた表情で見つめていた。

 反幕府連合との最終決戦の時は近い。この戦いで仁戦組の隊士たちや幕府軍の兵士たちの、果たして一体何人が生き残る事が出来るのだろうか。

 だがそれでも茂重が言うように、鈴音が神也を討ち取る事さえ出来れば…。


 『私たちパンデモニウムは…フォルトニカ…停戦協定…締結…。』


 ふと、鈴音の脳裏に響いた、謎の若い女性の母性と優しさに満ちた…どこか懐かしさと愛しさを感じる声。


 「…何だ?」

 「おい鈴音殿、どうした?」

 「む、権藤か。いや、何でも無い。」

 

 ぶるんぶるんと頭を振り払い、自分に話しかけてきた権藤に穏やかな笑顔を見せる鈴音。

 今の声は一体何だったのか。鈴音の頭の中に直接響いたような感覚だったのだが。


 「今、トシ(菱川)と話をしたのだがな。決戦前に英気を養おうという事で、今日の夕刻から仁戦組の皆で宴会を開こうかという話になったんだ。鈴音殿も一緒にどうだ?」

 「済まぬが辞退する。私は家族と共に過ごしたいのでな。」


 今度の反幕府連合との最終決戦においては、鈴音は今度こそ神也に殺されるかもしれない。

 無論、そう易々と殺されてやるつもりなど微塵も無いのだが…だからこそ鈴音は少しでも長い時間を、愛する直樹たちと共に在りたいと思っているのだ。

 何よりも他の隊士たちに無理矢理酒を勧められる事だけは御免だ。鈴音は酒を全く飲めないのだから。

 それで神也との決闘に差し支えるような事態になってしまったら、それこそ本当に洒落にならない。


 「そうか。残念だが仕方が無いな。」

 「あまり調子に乗って飲み過ぎないようにな。」

 「はっはっは。肝に銘じておくよ。それでは、また明日な。」


 豪快に笑いながら、他の隊士たちに声を掛けに行く権藤。

 その権藤の頼もしい後ろ姿を、鈴音が苦笑いしながら見つめていたのだった。

次回は幕府軍と反幕府連合による最終決戦です。

両軍共に壮絶な死闘を繰り広げる最中、神也との最終決戦に臨む鈴音。

圧倒的な神也の実力の前に追い込まれる鈴音ですが…。


鈴音と神也の因縁の戦いが、遂に決着です。

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