第7話:暴虐の悪魔
今回から第2章開始です。いよいよ太一郎たちは本格的に戦いに身を投じていく事に…。
今回は一馬が主役の物語となります。
一馬があまりにもゲス過ぎて、描いててとても気持ち良かったですわwwwww
太一郎たちが元居た世界で死亡し、このフォルトニカ王国に転生させられてから、既に2週間が経過していた。
あれから太一郎たちはシリウスからの命令により、近隣を襲う野良の魔物たちや盗賊たちと相手に戦い続ける日々が続いている。
ただ、やはり一馬ら8人の転生者の少年たちは、太一郎や真由とはどうしても反りが合わないという理由から、この2人とは別にチーム『ブラックロータス』を再結成。2人とは別行動を取る事になる。
そんな中、傷だらけの兵士たちが、シグマ村に凄腕の盗賊たちが襲撃してきたとサーシャに報告。
だが太一郎と真由がシグマ村とは全くの逆方向の、トメラ村を襲撃してきた野良の魔物たちへの対処に当たっていた事から、サーシャはたまたま食堂でコーヒーを飲みながら休憩を取っていた、一馬ら『ブラックロータス』に救援を要請。
ヒャッハーとか叫びながら物凄い勢いで駆けつけた一馬たちが、盗賊団を相手に戦闘を繰り広げたのだが。
「生意気なクソガキ共が!!転生者だか何だか知らねぇけどなぁ!!この俺の暗黒流邪猿拳に太刀打ち出来ると思ってんのかぁ!?ああ!?」
「ウダウダ言ってねえでよぉ!!さっさと始めようぜ!!かかって来いや!!」
一馬たちに部下たちを全て倒された盗賊団のリーダーが、歯軋りしながら一馬と向かい合い、1対1の決闘を始めようとしていた。
徒手空拳の喧嘩殺法で戦う一馬に対し、盗賊団のリーダーの武器は両手に装備された鉤爪だ。
他の転生者の少年たちはニヤニヤしながら、一馬と盗賊団のリーダーの戦いを観戦している。
「食らえ!!暗黒流邪猿拳奥義!!幻影爪!!ウキーーーーッ!!ウキキキキキキーーーーーーーッ!!」
先に攻めたのは盗賊団のリーダーの方。
残像を残す程の凄まじい動きでもって、一馬を翻弄しようとするのだが。
「どうだ!!この俺の残像さえも残す凄まじい動き!!貴様如きに容易く見切れる物では無いわ!!」
目にも止まらぬ速さで動き回りつつ、不規則なタイミングで一瞬止まる。
それを繰り返す事で常人の目には、この盗賊団のリーダーが分身したように見えてしまうのだ。
一馬が『異能【スキル】』を持たない、ただ喧嘩が強いだけの少年のままだったなら、全く動きを見切る事が出来ずにやられてしまっていただろう。
だが転生者として『異能【スキル】』という強大な力を得た一馬には、この程度の攻撃を見切る事など容易い事だった。
一馬の背後に回り込み、無防備の首筋に鉤爪を突き付けようとした盗賊団のリーダーだったのだが。
「ウッキーーーーーーーーーーーっ!!死ね…っ!?」
「馬鹿が。俺様にはてめぇの動きが視えてんだよ。雑魚がよ。」
邪悪な笑みを浮かべながら、余裕の表情で背後を振り返った一馬が、あっさりと盗賊団のリーダーの首を右手で掴み、顔を地面に叩きつける。
「ごえっ!!」
「この俺様の『見切り【インサイト】』の『異能【スキル】』に、見切れねえ攻撃なんざねえんだよ。」
「ば…馬鹿な…っ!?」
「そしてこれが!!この俺様の天下無双の一撃!!『帝王の拳【カイザーナックル】』だぁっ!!」
「ぶぼべらぁっ!!」
無理矢理盗賊団のリーダーを起き上がらせた一馬が、盗賊団のリーダーの顔面に正拳突きを食らわせる。
右拳にオーラを纏わせた一馬の渾身の一撃によって、盗賊団のリーダーが近くにあった一軒家まで吹っ飛ばされ、叩きつけられる。
その凄まじい衝撃によって、一軒家の壁が粉々に粉砕されてしまう。
「嫌ああああああああああああ!!私たちの家がああああああああ!!まだ新築なのにいいいいいいいいいいいっ!!」
「うるせえっ!!俺らに助けて貰ってるピクミン共のくせに、ゴチャゴチャ抜かしてんじゃねえぞコラぁ!!」
自宅を壊されて絶叫する若い女性に文句を言いながら、一馬は何とか起き上がった盗賊団のリーダーを、ニヤニヤしながら見つめていたのだった。
だが一馬の一撃によって相当なダメージを受けたようで、完全にフラフラの状態だ。
「お、まだ動けるのかよ。雑魚の癖に中々やるじゃねえか。」
「クソガキの分際で調子に乗りやがって!!このガキがどうなってもいい…いいいいいいいいいっ!?」
「うるせえ!!そんなガキがどうなろうが、俺の知ったこっちゃねえんだよぉっ!!」
たまたま近くにいた幼い少女を羽交い絞めにした盗賊団のリーダーだったのだが、それさえも構わず一馬は殴りかかってきたのだった。
「く、くそが!!くそがあああああああああああああああああっ!!」
「痛い!!痛い!!痛いよおーーーーーーーーー!!」
「嫌あああああああああ!!トバリいいいいいいいいいいいいっ!!」
完全に自暴自棄になってしまった盗賊団のリーダーが、持っていたナイフで少女の頬を切り裂いてしまう。
それと同時に一馬の拳を食らった盗賊団のリーダーが、今度は沢山の野菜がたわわに実った畑まで吹っ飛ばされた。
そして頬からの酷い出血と激痛で、泣き叫ぶ少女。
だがそんな事など一切気にする事無く、一馬が派手にガッツポーズをしたのだった。
「オラぁ!!どうだ見たか俺様の雄姿!!」
「一馬さん、今日の止めは俺にやらせて下さいよ!!」
「おう!!殺ってみろ伸二!!」
「しゃあ!!任せて貰いますよ一馬さん!!」
少年が『異能【スキル】』で両手に生み出した真紅の炎が、情け容赦なく盗賊団のリーダーへと、畑ごと巻き添えにして放たれる。
「食らえ!!これが俺の『異能【スキル】』!!その名も『爆炎【エクスプロージョン】』だぁっ!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」
凄まじい爆炎、それに伴う爆発と高温によって、盗賊団のリーダーは無残にも黒焦げになってしまう。
そして巻き添えになった畑の野菜もまた、次々と燃やし尽くされてしまったのだった。
「あああ…!!アタシの畑が…!!精魂かけて育てたアタシの野菜があっ!!」
絶望の表情で泣き叫ぶ老婆を無視して、いえーいなどと叫びながら勝利のハイタッチをする一馬たち。
そんな一馬たちの姿を、一馬たちに助けて貰ったはずの村人たちが、軽蔑の表情で睨みつけていたのだった。
「何て奴らだ!!あの『閃光の救世主』とは偉い違いだ!!」
「同じ転生者なのに、あの『閃光』の兄ちゃんと何でこんなにも違うんだ!?」
「悪魔だ!!まさしくあの男は『暴虐の悪魔』だ!!」
無理も無いだろう。一馬たちは村人たちに極力被害が出ないように、常に気を配りながら戦ってくれている太一郎や真由とは全く違う。
村人たちにどんな二次被害が出ようがお構い無しに、周囲への迷惑など全く顧みる事無く、ただ『敵を倒す』事しか考えていないのだ。
確かに一馬たちは盗賊団を壊滅させ、村人たちを救った。だがそれ以上にシグマ村に甚大な被害を及ぼしてしまっているのだ。
そんな連中に対して、一体どうして感謝など出来るというのか。
「…んだよお前ら!!何俺らにガン飛ばしてんだ!?あーーーーーーーーっ!?」
そんな村人たちの軽蔑の視線を感じ取った一馬が不機嫌そうな表情で、村長を務める初老の男性の胸倉を掴んで、近くにあった家の壁に思い切り叩きつけたのだった。
「ひ、ひいっ!!」
「俺らがいねえと、あんな雑魚共さえも始末出来ねえピクミン共の癖によ。こうして俺らに守って貰ってる癖に、俺らに反抗的な態度を取ってんじゃねえぞ?あ?あ?あ?」
「く、苦しい…!!も、もう勘弁してくれえっ!!」
「今度俺らに対して反抗的な態度を取ってみろ…殺すぞ。」
村長の胸倉を乱暴に離した一馬が、後処理さえも村人たちに丸投げし、馬に乗って王都へと帰還していく。
そんな一馬たちの姿を、村人たちが侮蔑に満ちた表情で睨みつけていたのだった。
「しゃあ!!行くぞお前らぁっ!!」
ヒャッハーとか叫びながら馬に何度も鞭をぶつけ、馬の疲労さえも全く考慮せず、物凄い速度で馬を走らせていく。
だが一馬たちがシグマ村から遠く離れた、次の瞬間。
「「「「「ぐあああああああああああああああああああっ!!」」」」」
『呪い』の発動条件の1つ…それはフォルトニカ王国の人々に対して、何らかの迷惑行為を働く事。
今回の一件で思い切り条件を満たしてしまった事で、一馬たちに『呪い』が発動してしまったのだ。
当然だろう。周囲への被害を顧みずに敵を倒す事『だけ』に夢中になり、結果的に畑や野菜を黒焦げにしてしまうなど、村に甚大な被害を与えてしまったのだから。
「あぐ…あああああ…あがあああああああああああっ!!」
10秒間もの精神的苦痛が、一馬たちを情け容赦なく蝕んでいく。
思わず馬から転げ落ちてしまった一馬が、頭を両手で押さえながら地面をゴロゴロとのたうち回ったのだった。
やがて『呪い』が収まり、一馬たちは息を乱しながらも何とか立ち上がったのだが…。
「くそが!!何でだよ!?俺らはあの盗賊共をぶっ殺してやっただろうが!!村の連中を守ってやっただろうが!!」
「一馬さん、やっぱり村の連中をシメたのがまずかったんじゃ…。」
「んだよそれ!!あーーーーめんどくせーなぁっ!!」
それ以前に家を破壊する、人質を傷付ける、畑や野菜を燃やし尽くす等といった、度重なる破壊行為が問題なわけだが。
そんな事にも気が付かない一馬が、たまたま近くにあった木を正拳突きで倒木させたのだった。
派手な音を立てながら、根元から折れた木がその場に倒れてしまう。
「ふざけやがってよお!!何で俺らがあんな連中に気を配らなきゃいけねえんだよ!?俺らはこの国を守る為に召喚された転生者なんだぞぉっ!!どいつもこいつも俺らを敬えってんだよ!!クソッタレがぁっ!!」
自分たちの国内における身分は保証するとクレアやサーシャに告げられたにも関わらず、蓋を開けてみればフォルトニカ王国の人々に敵意を向けられる結果になるばかりだ。その事に一馬たちは苛立ちを隠せずにいた。
まあぶっちゃけた話、こんな物は一馬たちが自分たちの手で自分たちの評判を落としまくっている事が原因であり、一馬たちが100億%悪いのだが。
この2週間で『呪い』が発動した回数は、初日にシリウスが任意発動した最初の1回と、太一郎が『呪い』の分析の為に敢えて意図的に発動させた2回を除けば、実に12回にも及ぶ。
つまり単純計算で、1日に一度は『呪い』が発動している事になるのだ。
しかも太一郎も真由もこの2週間もの間、『呪い』の発動条件を一度たりとも満たしていない。12回全てが一馬たちが原因による物なのだ。
一馬たちが『呪い』に苦しめられるのは自業自得だが、毎回毎回連帯責任で巻き添えを食らっている太一郎と真由にとっては、たまった物では無い。
「あーーーーくそがぁっ!!『閃光』だか何だか知らねえけどよ!!あの野郎(太一郎)はマジで気に入らねえ!!俺らはこんな扱いだってのに、あいつらだけチヤホヤされやがってよお!!」
この2週間の間、フォルトニカ王国においてクソ真面目に働いている太一郎と真由の評判が上がりまくっている一方で、今回のような問題行動を起こしまくっている一馬たち『ブラックロータス』の評判は、下がりまくっている一方だ。
ぶっちゃけた話、こんな物はただの自業自得であり、一馬の太一郎への恨みも逆恨みでしかないのだが、それさえも一馬たちは全く理解してはいなかった。理解しようともしなかった。
それを戒める為にシリウスは一馬たちに『呪い』を掛けたのだが、今の所は『呪い』によって一馬たちの、太一郎やシリウスへの怒りや憎しみが増すばかりであり、全く何の抑制にもなっていないようだ。
痛みや苦しみで相手を従わせようとした所で、何の解決にもならない。
それどころか相手に怒りや憎しみの心を抱かせるだけであり、その反動が必ず自分自身に跳ね返ってくる事になるだけだ。
以前、太一郎が心の中でシリウスに苦言を呈した事なのだが、現状ではまさにその通りの結果になってしまっているようだ。
そしてこの一馬の太一郎への逆恨みによって、後に取返しが付かない悲劇を生む事になってしまうのである…。
「ぶっ殺してやる!!シリウスもあの野郎も、俺様がいずれ必ずぶっ殺してやるよ!!」
完全に筋違いな復讐心を胸に秘めながら、再び馬に跨った一馬が仲間たちと共に、猛スピードで王都へと帰還したのだった…。