第72話:助け合い、支え合い
傷ついた魔王軍の兵士たちに対し、懸命に治療行為や人命救助を行うサザーランド王国騎士団。
そんな中、ラインハルトに敗れて重傷を負ったルミアを、瑠璃亜が治療するのですが…。
かくして国王のカーゼルが戦死した事で、今回の戦争はバルガノン王国騎士団の敗北に終わった。
バルガノン王国騎士団は生き残った兵士の全員が大人しく降伏したのだが、今回の戦争でバルガノン王国騎士団は、投入戦力の80%を失うという大損害を出す結果となってしまう。
それに国王であるカーゼルが死んでしまった事で、統治者を失ったバルガノン王国の城下町は、近い内に大混乱に陥る事は間違い無いだろう。
カーゼルは妻が既に病死しており、3人の娘がいずれもカーゼルの指示で他国に政略結婚をしに行ってしまっているので、現状では国を継ぐ者が誰もいない事を意味する。
そこで新たな統治者が決まるまでの暫定措置として、ひとまずは瑠璃亜がバルガノン王国を一時的に統治下に置く事となった。
これにより誰がどう見ても完全に正当防衛による物だとはいえ、パンデモニウムはバルガノン王国を占領する形となってしまう。
もしかしたらカーゼルの戦死を知った3人の娘たちによる、バルガノン王国の統治権を巡っての骨肉の争い合いになるかもしれないが…あくまでも瑠璃亜による統治は、それまでの暫定的な代物だ。
3人の娘たちに対して助言はしてやれるが、誰が新たな女王になるのか、その後のバルガノン王国の統治までは、所詮は第三者でしかない瑠璃亜が気を回す事ではない。
そしてサザーランド王国騎士団の助けを受けて今回の戦争に勝利した魔王軍にも、イリヤとエキドナの尽力によって最小限の被害に抑える事が出来たものの、それでも死傷者が何人も出てしまっていた。
反魔法煙幕が少しずつ晴れてきているとはいえ、回復魔法の効果が未だに阻害されてしまっているので、ラインハルトの陣頭指揮の下、サザーランド王国騎士団が生き残った魔王軍の兵士たちにライフポーションを配給したのだった。
「しっかりしろ、大丈夫だ。傷は浅いぞ。」
「ううっ…!!」
「ほら、ライフポーションだ。焦らずにゆっくりと飲むんだ。いいな?」
負傷して壁にもたれかかっている魔王軍の女性兵士に、優しくライフポーションを飲ませるサザーランド王国騎士団の兵士。
コク、コク、と、魔王軍の女性兵士が青色の液体を口に含むと、少しずつではあるが魔王軍の女性兵士の顔色が良くなってきたのだった。
ライフポーションには回復魔法と違い即効性は無いのだが、自然治癒能力を飛躍的に高める効果がある。
しかも当たり前の話だが『薬』であって『魔法』では無いので、反魔法煙幕による魔力阻害の影響を受けないのだ。
「…ありがとな、お陰で随分と楽になったよ。」
「そうか。そこでしばらくゆっくり休んでな。」
「いや、アタシも手伝うよ。こんな所でのんびりなんかしていられないよ。」
「それは助かるが、あまり無理はするなよ?」
「大丈夫だよ。アンタがくれた薬のお陰でほら、この通りさね。」
すっかり回復した魔王軍の女性兵士が、とても元気そうにう~んと伸びをしてみせる。
戦闘で負傷したとはいえ、傷自体はそこまで深くは無かったようだ。
だが彼女自身はどうにか命を繋いだものの、彼女の眼前には見るも無残な光景が広がっていたのだった。
何人もの同僚の兵士たちが彼女の目の前で傷つき、倒れており、サザーランド王国騎士団による懸命な人命救助、治療措置が行われている。
その甲斐もあって彼女のように命を繋いだ者も大勢いるのだが、同時に既に死んでしまっている者たちも大勢いた。
バルガノン王国騎士団との戦闘で戦死した魔王軍の兵士の亡骸が、サザーランド王国騎士団の手によって次々と丁重に埋葬されていく。
その凄惨な光景を周囲の魔族たちの誰もが、悲しみの表情で見つめていたのだった。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
どうして他国の人間たちは、彼ら魔族を「薄汚い存在」だと罵り、排除しようとするのだろう。
彼らは何の罪も犯していないのに。ただパンデモニウムで静かに暮らしていただけなのに。
サザーランド王国やフォルトニカ王国のように、どうして彼ら魔族と互いに手を取り合い、歩み寄ろうとしないのだろうか。
だが今は、悠長に悲しみに耽っていられる場合ではない。
こうして命を繋いだ以上、1人でも多くの傷ついた同胞の魔族たちを救わなければ。
魔王軍の女性兵士は決意に満ちた表情で、自分の命を助けてくれたサザーランド王国騎士団の兵士と一緒に、力を合わせて目の前の瓦礫をどかし始めたのだが。
「なあ、アタシたちってさ…ついこの間までは戦場で、互いに何度も殺し合ってたんだよな?」
その懸命の救助作業の最中、魔王軍の女性兵士が思わずそんな事を呟いたのだった。
サザーランド王国騎士団の兵士も、ああそういえば…といった表情になる。
「それがいつの間にか、こんな事になるなんてねぇ…アタシは正直全く想像してなかったよ。」
「そうだな。俺は城下町の防衛を任されていて、これまでのパンデモニウムへの侵攻作戦には全く参加していなかったからさ、どうにも実感が沸かないんだけど…。」
せっせと瓦礫をどかしながら、サザーランド王国騎士団の兵士は力強い笑顔で断言したのだった。
「これも全て国王陛下のお陰だよ。あの人は本当に前の国王だったチェスターとは大違いだよ。俺らみたいな下々の者たちにも良くしてくれるからさ。」
国民たちの誰からも慕われ、仁・智・勇全てを兼ね備えたラインハルトが国王になってからというもの、チェスターによる圧政から解放されたサザーランド王国は、本当に誰もが暮らしやすい穏やかな国へと変化を遂げているのだ。
そして他国からの強い反発や圧力にも決して屈する事無く、こうしてパンデモニウムとの同盟関係を維持し続けている。
それはラインハルトが他の国々の上層部たちのように、パンデモニウムで暮らす人々を『魔族』という変な先入観で見る事はせず、『心』を持った『人』として接する事が出来る人材だからだ。
「俺たちはこれまでの戦争で、互いに多くの犠牲を出してしまったけど…それでもこうして再び互いに手を取り合う事が出来て、本当に良かったって思っているよ。」
「そうだねぇ。アタシも先代の魔王カーミラに、色々と酷い目に遭わされたんだけどさ。瑠璃亜様が新しい魔王カーミラになってくれたお陰で、本当に色々と救われたよ。」
「お互いにこれまでの戦いを無かった事にしろだなんて、そんな無責任な事は言えないけどさ…なんかいいよな、こうして俺たちが人間と魔族の垣根を越えて助け合うのって。」
崩れた瓦礫の中に閉じ込められていた魔族の老婆を無事に救助し、駆けつけてきた魔王軍の精霊術師の女性に引き渡した、サザーランド王国騎士団の兵士。
瓦礫が倒壊した際の打撲で負傷してはいるが、幸い骨には異常が無かったようだ。
ありがとう、ありがとう…と、精霊術師の女性による応急処置を受けた魔族の老婆が、サザーランド王国騎士団の兵士に深々と頭を下げたのだった。
遥か昔、人間と魔族は互いに争い合う事無く、共存共栄を果たしていたと聞いている。
それがどうしていつの間にか、互いに迫害し合うようになってしまったんだろうか。
人間たちからの理不尽な迫害への対抗手段として、魔族たちは先代の魔王カーミラを異世界から召喚したと聞く。
だがその魔王カーミラが
「俺専用のレズハーレムを作る」
などという己の欲望を丸出しにして世界征服を企てたせいで、人間と魔族の対立はさらに泥沼の混迷を極める事になってしまった。
それでもラインハルトと瑠璃亜のお陰で、今はこうして自分たちは互いに助け合う事が出来ているのだ。
人間と魔族という、これまで争い合ってきた種族同士の垣根を越えて。
サザーランド王国騎士団の兵士が言っていたように、先代の魔王カーミラのやらかしも含めて、これまでに互いに傷つけ合ってきた歴史を無かった事にする事は出来ない。
だがそれでも過去は過去、今は今だ。
「お〜い、お前ら~!!俺の飛竜がさっきの戦闘で翼をやられちまったんだ!!ライフポーション余ってないか!?」
そこへ慌てて飛竜に乗って上空から飛んできた同僚の竜騎士が、2人に助けを求めてきたのだった。
バルガノン王国騎士団の兵士による槍の一撃を受けたのだろうか。右翼が負傷して血が流れている。
「済まない、俺の手持ちは彼女を助けるのに使ったので最後だ。」
「ならアタシに任せな。応急処置くらいはしてやれるよ。」
慣れた手つきで飛竜の翼に消毒液を塗布して包帯を巻き、取り敢えず止血を防いだ魔王軍の女性兵士。
傷自体はそんなに大した物じゃない。このまま放っておいても勝手に治る程度の代物だ。
そんな彼女の頬に飛竜がゴロゴロと喉を鳴らしながら、とても嬉しそうに自分の頬をスリスリしてきたのだった。
「あはははは、よせよ、くすぐったいよ。」
「取り敢えずお前、瑠璃亜殿の所に行けよ。あの人なら死体にさえなってなけりゃ『異能【スキル】』で一発で治せるだろ?」
「いや、瑠璃亜殿がなんか無茶苦茶忙しそうでさ。これ位の傷ならライフポーションで治せるかなって思ったんだけど。」
人間と魔族の垣根を越えて談笑し合う3人の兵士たちの平和な光景を、飛竜がとても穏やかな笑顔で見つめていたのだった。
その一方で瑠璃亜が自身の『異能【スキル】』を駆使し、大忙しで怪我人の治療に奔走していた。
反魔法煙幕をもってしても瑠璃亜の『異能【スキル】』にまでは、その効力が及ばない。
魔王軍の精霊術師たちが回復魔法を使えない中、瑠璃亜は1人でも多くの命を救おうと、あっちに行ったりこっちに行ったりしていたのだが。
「瑠璃亜殿!!こちらもお願いします!!重症者の女性が1人です!!」
「分かったわ。」
サザーランド王国騎士団の兵士に呼ばれて、慌てて瑠璃亜が駆けつけると…そこにいたのはラインハルトに無様に敗北し、最早完全に虫の息のルミアだった。
全身に強烈な雷撃を浴びせられ、まともに動く事も出来ずにいる。
「…う…ぐ…!!」
瑠璃亜たち魔王軍にとっては自分たちに宣戦布告をした、忌々しい敵国の女なのだが。
「『治療【ヒーリング】』!!」
それでも瑠璃亜はルミアの傍にしゃがみ込み、全く何の躊躇も無く、自身の『異能【スキル】』でルミアを治療したのだった。
今回の戦争の首謀者のカーゼルが戦死し、生き残ったバルガノン王国騎士団の全員が降伏し、戦争が無事に終結した以上は、もう敵も味方も関係無いのだから。
瑠璃亜の力によって、あっという間にルミアの傷が癒えていく。
自分が瑠璃亜に何をされたのかを瞬時に理解したルミアは、戸惑いの表情を見せながら上半身を起こしたのだった。
「…何故…私を助けたのですか…?」
「もう戦いは終わったからよ。貴方の主のカーゼルは私が討ち取って、生き残ったバルガノン王国騎士団の全員が降伏したわ。」
「そうですか…国王陛下が討ち死になされたのですか…貴女の手で…。」
自分がラインハルトとの戦いに敗れて気絶している間に、まさかそんな事になっていようとは。
いや、ラインハルトの優れた戦術、そして精鋭を誇るサザーランド王国騎士団の圧倒的な戦力を前に、最早バルガノン王国騎士団は敗色濃厚だった。
サザーランド王国騎士団が救援に駆けつけた時点で、こうなる事は必然だったのかもしれない。
「カーゼルを殺した私の事を、恨んでいるかしら?」
「いいえ、国王陛下は貴女との戦いに敗れ、戦場で命を散らしたのです。それで貴女を恨むのは筋違いという物でしょう。」
戦場というのは残酷な場所だ。戦場で武器を手に取り戦う以上は、誰であろうとただの一戦闘単位としてしか扱われない。殺人罪など当然適用されるはずがない。
今回の戦いでカーゼルが戦死したのは、カーゼルが瑠璃亜よりも弱かったから悪いのだ。
そしてそれはどのような身分や立場、地位や境遇に置かれている者だろうと同じ事だ。
戦場で命を散らすのは完全に自己責任であって、弱い者が強い者に殺されるのは当たり前なのだ。
それ以上でも、それ以下でも無いのだから。
「それに国王陛下は、貴女に殺されて当然の事をしたのですから。文句など言えるはずがありませんよ。」
「貴女程の人が、どうして今までカーゼルに大人しく付き従っていたの?カーゼルに歯向かおうとは思わなかったのかしら?それに私に親書を届けに来てくれた時に、そのままパンデモニウムに亡命するという選択肢だってあったはずなのに…。」
瑠璃亜は親書を届けに来たルミアと少しだけ話をしただけなのだが、ルミアがカーゼルのような極悪非道な人物だとは到底思えなかった。
決して強い正義感や使命感を持っていた訳では無く、カーゼルに対しての忠誠心というよりは、あくまでも外交官という『仕事』だと割り切った上で、己の職務を果たしていただけのように見えたのだ。
そんな彼女が何故、カーゼルのような愚物に大人しく付き従っていたのだろうか。それが瑠璃亜には不思議で仕方が無かったのだが。
「…あんな人でも、両親と妹を盗賊に殺されて天涯孤独になってしまった私を、拾って下さった恩があるのですよ。瑠璃亜様。」
瑠璃亜から視線を外し、遠い目でサザーランド王国騎士団による救助活動を見つめるルミア。
彼女のその表情からは、皮肉を込めた笑みが浮かんでいたのだった。
「もっとも、あの人が私を拾って下さったのは、私が士官学校を首席で卒業して、外交官として使える見込みがあると判断したから…ただそれだけなんでしょうけどね。」
「ルミアちゃん…。」
「それでも私の恩人である事に変わりは無いのです。裏切る事など私には出来ませんよ。」
カーゼルはルミアに対して一度たりとも、部下に対しての労いの態度を見せた事は無かったのだろう。
恐らくカーゼルはルミアの事を、ただの戦略兵器や道具としてしか扱ってこなかったに違いない。
ルミアの皮肉を込めた笑みからは、それがひしひしと伝わってきたのだった。
だがそれでもルミアにとっては、カーゼルが天涯孤独になってしまった自分を拾ってくれた。恩人である事に変わりは無いのだ。
その恩人のカーゼルを裏切るというのは、とてもルミアに出来る事では無かった。
だからこそルミアはカーゼルに命じられるまま、命を賭けてまでラインハルトに正々堂々と戦いを挑み、そして無様に敗れたのだ。
バルガノン王国騎士団の兵士として…そして暗黒流水鳥脚の正当継承者として。
それは彼女がそういう生き方しか出来ない、不器用な女だからなのだろうか。
「…成程。貴女の事情はよく分かったわ。」
だが次の瞬間、瑠璃亜はルミアに対して誰もが予想もしなかった、とんでもない事を提案したのだった。
「ルミアちゃん…いいえ、ルミア。貴女の面倒は私が見てあげるから、今から私の部下になりなさい。」
「…はあああああああああああああああああ!?」
「どうせ天涯孤独で行く当てが無いのでしょう?それに私もエキドナのような優秀な外交官が、もう1人欲しいなって思っていた所だったから。」
例え敵国の兵士だろうが、人間だろうが魔族だろうが何だろうが、有能な人材だと判断すれば何の躊躇もせずに即座に味方に勧誘する。
まさに瑠璃亜の懐の深さを表していると言えるだろう。
とても穏やかな笑顔で自分の右手を両手で優しく包み込む瑠璃亜に、ルミアは思わず唖然としてしまっていたのだった。
「あ、貴女は一体何を考えておられるのですか!?私は貴女の敵なのですよ!?」
「もう敵も味方も無いでしょう?カーゼルは死んで、今回の戦争は終結したのだから。」
「で、ですが…人間である私が貴女の部下になるなど、パンデモニウムの魔族たちがどう思うのか…!!」
「あら、私もイリヤもエキドナも元人間なのよ?それに人間も魔族も関係無いわ。私は貴女が有能だと判断したからスカウトしたのだから。」
自分の右手を優しく両手で包み込む瑠璃亜の温もりと慈愛の心が、何だかルミアにはとてもくすぐったい。
と言うか直接交戦はしなかったとはいえ、ついさっきまで敵同士だった者に対して、どうして瑠璃亜はこんなにも優しく出来るのだろうか。
こんな人が『魔王』を名乗っているなど、ルミアには到底信じられなかった。
「…瑠璃亜様…私は…。」
「瑠璃亜!!捕虜にしたバルガノン王国騎士団の兵士たちの中に重傷者がいるわ!!出血が酷くて一刻を争う状況よ!!悪いけどすぐに来てくれる!?」
だがそこへセレーネから飛竜を借りたイリヤが、慌てて瑠璃亜の下に駆けつけて助けを求めにやってきたのだった。
全く、ルミアとゆっくり話をする暇も無いと…瑠璃亜が思わず苦笑いしてしまう。
「場所はどこかしら?」
「教会前の公園の大広場よ!!取り敢えず生き残った捕虜たちをそこに集めているの!!」
「分かったわ。すぐに行くわね。ルミア、さっきの話だけど返事は急がなくてもいいから、ゆっくり考えて頂戴ね。私はいつでも大歓迎よ?それじゃ。」
立ち上がった瑠璃亜がルミアに笑顔でウインクして、『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』でその場から消えてしまった。
そして唖然とするルミアを一瞥したイリヤが、忙しそうに飛竜に乗って飛び去って行ったのだった。
立ち上がったルミアが呆気に取られた表情で、先程まで瑠璃亜がいた場所を見つめていたのだが。
「あの女は…!!先日我々に宣戦布告をした、バルガノン王国の外交官ではないか!!」
だがそこへようやく神刀アマツカゼを手にパンデモニウムに帰還したドノヴァンが、目の前で繰り広げられていた光景を、歯軋りしながら睨みつけていた。
敵国の兵士…しかも外交官として自分たちに宣戦布告をしたルミアの命を救うどころか、よりにもよって味方に勧誘するなどと。
「ド、ドノヴァン殿…これは…。」
「何なのだこれは…!?一体俺の眼前で何が起こっているというのだ!?」
しかもイリヤは瑠璃亜に対して、こうも言っていた。
捕虜にしたバルガノン王国騎士団の兵士の中に重傷者がいるから、助けてやってくれと。
それを瑠璃亜は、全く何の躊躇もせずに笑顔で応じてしまったのだ。
そのバルガノン王国騎士団の手によって、どれだけ多くの同胞たちが傷つき、命を奪われてしまったのか…それを瑠璃亜は理解しているのだろうか。
目の前の信じられない、認めたくない光景に、思わずドノヴァンは頭に血を昇らせてしまっていたのだった。
「何故だ!?バルガノン王国騎士団の捕虜共など、全員処刑してしまえばいいのだ!!それなのに命を救うだと!?ふざけるなぁっ!!」
自分たちが駆けつけた時には、サザーランド王国騎士団の活躍によって既に終戦していた…その悔しさは勿論ある。
だがそれ以上にドノヴァンは、敵国の外交官を味方に引き入れ、あまつさえ重傷を負った敵国の兵士の命を救うなどという『愚行』に出た瑠璃亜に対して、憤りを顕わにしているのだ。
「最早堪忍袋の緒が切れたわ!!あのような甘い女、俺は断じて魔王カーミラだとは認めんぞぉっ!!」
神刀アマツカゼの鞘を力強く握り締めながら、ドノヴァンが瑠璃亜に対して凄まじいまでの怒りを爆発させていたのだった…。
次回は第32話で名前だけ出てきた、シャーロット王国が舞台となります。
魔王カーミラという強大な存在を生み出してしまった転生術を、フォルトニカ王国に独占運用させるのは危険であり、自分たちシャーロット王国が厳重に管理、運用しなければならないという名目で、フォルトニカ王国への戦争の準備を着々を進めるのですが…。
ちょっと危ない新キャラのお姉さんも登場します。