第71話:愚王の末路
サザーランド王国騎士団の加勢によって、一転して追い詰められてしまうバルガノン王国騎士団。
この戦いの流れを変えるべく、ルミアがラインハルトに挑みます。
そしてカーゼルと果敢に戦うセレーネ。この両者の戦いの結末は…。
パンデモニウムでの死闘が遂に決着です。
戦いには相性があり、得手不得手という物がある。
バルガノン王国騎士団の主力部隊として編成された重装兵は、その頑丈な鎧と大型の盾による強固な防御力によって、敵の物理攻撃に対しては圧倒的な優位を誇る。
それ故にカーゼルは反魔法煙幕によって魔王軍の魔導兵器や魔術師たちを根こそぎ無力化し、魔王軍の対抗手段を物理攻撃のみに限定させた事で、今回の戦いを優位に進める事が出来ていたのだ。
そう…ラインハルトが援軍に駆けつけるまでは。
重装兵は確かに敵の物理攻撃に対しては無敵を誇るのだが、その重装備故に動きが鈍重で回避能力に乏しく、それ故に魔法や竜のブレスといった『物理防御力が全く意味を成さない攻撃』に対しては、圧倒的な不利を強いられてしまうのだ。
そしてラインハルト率いるサザーランド王国騎士団の、今回の戦闘における主力部隊は…『飛竜に搭乗した竜騎士部隊』だ。
ここまで言ってしまえば…後は言わなくても分かるな?
「ひ、ひぎゃあああああああああああああああああああああ!!」
無数の飛竜たちが放つ炎のブレスによって、情け容赦なく全身を焼かれてしまうバルガノン王国騎士団の兵士たち。
これまで魔王軍との戦いで無敵を誇った重装の鎧も、竜のブレスの前では全く何の役にも立たない。
しかもその重装備故に、高速で空を飛び回る飛竜たちに全く対応出来ない。次々と放たれる炎のブレスを前にどうする事も出来ず、成す術も無く蹂躙されてしまっていた。
竜のブレスというのは威力は絶大だが、命中率が低いという致命的な弱点がある。
しかし回避能力が低い重装兵が相手なら、その低い命中率も全く何の弱点にもなっていなかった。
重ねて言うが、戦いには相性があり、得手不得手という物があるのだ。
「何をグズグズやっているのだ!?たかだが飛竜如き、弓やバリスタで撃ち落とせば済むだけの話だろうが!!」
自軍が成す術も無くサザーランド王国騎士団にフルボッコにされている光景を、双眼鏡を通じて情け容赦無く見せつけられたカーゼルが、怒りを爆発させたのだが。
「し、しかし、反魔法煙幕が周囲に展開されているせいで視界が悪く、満足に狙いが付けられません!!迂闊に撃てば味方を誤射してしまう危険性が非常に高いです!!」
「ならば魔法で攻撃させろ!!」
「反魔法煙幕の効力により、我が軍の魔法攻撃はサザーランド王国騎士団に届きません!!」
「…な、何という事だ…!!」
魔術師の言葉にカーゼルは、一気に表情が青ざめてしまったのだった。
自分が魔王軍を追い詰める為に、子供を爆殺してまで発動させた反魔法煙幕。
それをラインハルトに、魔王軍を守る為の手段として逆に利用されてしまったのだ。
カーゼルにとって、これ程屈辱的な話は無いだろう。
反魔法煙幕は周辺一帯の魔法の発動を阻害するという強力な効果を持つが、しかしそれでも本質は『煙幕』だ。
どれだけ優れた弓兵だろうと、煙幕の中にいてまともに視認が出来ない標的を、絶対に味方を誤射せずに精密に狙い打ち続けろなんて言われたら、「そんなの無理だ」と言うに決まっているだろう。
かといって魔法で攻撃しようにも、当たり前の話だが反魔法煙幕の中では一切の魔法が無力化されてしまう。
反魔法煙幕、重装兵、モグラ叩きの為の弓兵。
これらのカーゼルの策略を完全に読み切ったラインハルトの見事な戦術眼により、最早戦いの流れは完全にサザーランド王国騎士団に傾いてしまっていたのだった。
「流石はラインハルト陛下だ。このままでは我が軍に勝機は無し…ならば!!」
その流れを断ち切る為に、ルミアが単独で全速力でラインハルトの下へと駆け抜ける。
どれだけ戦いを優位に進めていようが、指揮官が…特に一国の王が倒されたとなれば、軍というのは一気に瓦解する物なのだ。
それを防ぐ意味でも、今回のラインハルトのように国王自らが戦場の最前線に出るというのは、あまり好ましい事では無いのだが…。
「だ、誰か、あの女を止めろぉっ!!ぐわあ!!」
「陛下をお守りするのだぁっ!!ぎゃあ!!」
放たれた無数の竜のブレスを巧みに避けまくり、立ちはだかるサザーランド王国騎士団の竜騎士たちを次から次へと叩きのめしながら、ルミアが標的のラインハルトを自らの間合いに捉えたのだった。
重ねて言うが竜のブレスというのは、威力は高いものの命中率が低いという、致命的な弱点があるのだ。
ルミアのような高速で縦横無尽に動き回るような相手には、あまりにも無力だと言わざるを得ない。当たらなければどうという事は無いのだから。
「へ、陛下!!敵の女拳法使いがそちらに向かっております!!」
「む。」
部下から言われるまでもなく、ラインハルトも即座に感じていた。
自分に対して向けられる、凄まじいまでの『殺気』を。
「ラインハルト陛下、お覚悟を!!」
ラインハルトの首筋を狙って、物凄い勢いで放たれたルミアの飛び蹴り。
それをラインハルトは涼しい表情で、必要最小限の動きだけで避けたのだが、勢い余って放たれたルミアの蹴りが、近くの建物の壁を粉々に粉砕してしまったのだった。
何という凄まじい威力の蹴り技なのか。まともに食らえばラインハルトとて、決して無事では済まないだろう。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!!」
あまりの出来事に自分の足元で腰を抜かしてしまった魔王軍の兵士を無視し、ルミアがとても厳しい表情でラインハルトに向き直る。
「ラインハルト陛下。このような形で貴方と再会する事になってしまった事、大変遺憾に思っております。」
「私もだ。ルミア殿。」
「国王陛下の命により、貴方の命を奪わせて頂きます。」
両手を広げ、まるで水鳥のような美しい構えを見せるルミア。
対するラインハルトも国王らしく威風堂々と、真っすぐにルミアを見据えている。
「我が暗黒流水鳥脚の真髄、とくと御覧に入れましょう!!」
次の瞬間ルミアは物凄い勢いで側転、バク転、バク宙を繰り返し、ラインハルトの周囲をぐるぐるぐるぐると回り出したのだった。
相当なボディバランスと強靭な体幹を有していなければ、到底出来ない芸当だろう。
あまりのルミアの凄まじくも美しい動きに、周囲の誰もが驚愕の表情で思わず見とれてしまっていたのだが。
「暗黒流水鳥脚奥義!!水流燕舞!!ぴいいいいいいいいいい!!ぴいいいいいいいいいいいいい!!ぴいいいいいいいいいいいいいいい!!」
バルガノン王国騎士団の兵士たちも魔王軍の兵士たちも、誰もがルミアの動きを目で捉える事が出来ない。
並の使い手ならばルミアのこの美しくも凄まじい体術に翻弄され、何も出来ないまま蹴り技の餌食になってしまう事だろう。
だが『雷神の魔術師』の異名を持つラインハルトは…並の使い手では無いのだ。
「稲妻よ!!雷迅の槍となりて敵を穿て!!」
「馬鹿な!?今の貴方は魔法が使えないはずでは!?」
まさかの魔法を使う構えを見せたラインハルトに、ルミアは側転、バク転、バク宙しながら戸惑いの表情を隠せない。
周辺一帯に反魔法煙幕が張られている以上、今のラインハルトは魔法が一切使えないはずなのに。
「そんなこけおどしなどで、この私を惑わせようなどと!!これで終わりだあああああああああああああああああっ!!」
所詮は自分を惑わせる為のブラフに過ぎないと、ルミアがバク転しながら上空へと飛翔し、渾身の飛び蹴りをラインハルトの首筋を狙って放つ。
だがルミアとて、ラインハルトが反魔法煙幕の中で魔法道具であるタリスマンを問題無く使用していた光景を、ちゃんと双眼鏡を使って目撃していたはずなのに。
もう少しルミアが、その事を頭に入れて警戒していれば…ラインハルトを相手に勝てないまでも、少しは善戦する事が出来ていただろうに。
反魔法煙幕の中にいるから、今のラインハルトは魔法が使えない。
そのルミアの固定概念が、今回の瞬殺劇を招いてしまったのだ。
「むん!!」
「なっ…!?」
岩をも容易く破壊するルミアの強烈な蹴りさえも、魔術師とは到底思えない程の屈強な腕力と握力でもって、右手でがっしりと受け止めたラインハルトが。
「ブレンサンダー!!」
「があああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
渾身の雷撃魔法を、情け容赦無くルミアの体内に流し込んだのだった。
信じられないといった表情を見せながら、どうっ…と力無く地面に倒れ込むルミア。
「…な…何故…!?」
「これは我が国が開発した、現在エキドナ殿が使っている聖剣ティルフィングを参考にして作り出した、あらゆる状態異常を無力化する装置の試作品なのだが。」
「じょ…状態異常の…無力化…!?」
全身に流された稲妻によって身体をビクンビクンと震わせながら、ラインハルトが威風堂々と自分に見せつけた腕輪を、ルミアは驚愕の表情で見つめていたのだが。
「コストが馬鹿高くて量産には向かない上に、聖剣ティルフィングと違って身に着けているだけで、使用者の魔力を情け容赦なく吸い続けてしまう欠陥品でね。結局私以外に誰も使いこなせる者がいないという事で、試作の段階で量産を断念したのだよ。」
どれだけ状態異常を無力化しようが、それで使用者の魔力を吸いつくしてしまうのでは話にならない。
とても魔術師や精霊術師が実戦で使えるような代物ではない。どれだけ状態異常を無力化しようが、肝心の魔法が使えなくなってしまったのでは話にならないからだ。
かと言って太一郎やセレーネのように魔法を全く使わない者が使ったとしても、肝心な時に魔力切れを起こして腕輪の効果が発動しない、なんて事になったのでは本末転倒だ。
しかし『雷神の魔術師』の異名を持ち、並の魔術師を遥かに凌駕する程の、底知れぬ膨大な魔力を有するラインハルトが使った場合…それは最高の防御性能を誇る、最強の魔法道具へと変貌するのだ。
そのラインハルトでさえも、あまりにも長時間使用を続けた場合、魔力切れを起こしかねない程の危険な代物なのだ。
おまけに作るのに膨大なコストが掛かるというのであれば、ラインハルトに欠陥品だと突き放され、量産を断念されてしまうのは仕方が無いと言えるだろう。
「…私の負けです…お見事でした…っ!!」
腕輪を外してマジックポーションを一気飲みするラインハルトを称賛しながら、ルミアはその場で気絶してしまったのだった。
そしてラインハルトがルミアを撃破したその頃、後方に陣取るカーゼルにもまた、セレーネの牙が情け容赦なく突き立てられようとしていたのである。
突如としてカーゼルたちに向けて奇襲を仕掛けた、別働隊の竜騎士部隊。
「へ、陛下!!敵の別動隊の竜騎士部隊が西方向から、大挙して押し寄せてきます!!」
「伏兵のつもりか!!馬鹿め!!魔術師部隊に迎撃させろ!!その為に後方に残しておいたのだからな!!」
「はっ!!」
反魔法煙幕を主力とした今回の戦闘において、敢えて魔術師部隊も編成したのは、こういった敵の伏兵や別動隊に対抗する為だ。
そのカーゼルの戦術は、決して間違ってはいないのだが…しかしそれさえも完全に読み切っていたラインハルトの戦術眼の方が、一枚も二枚も上手だった。
「光の矢よ!!敵を討て!!」
「紅蓮の業火よ!!敵を焼き尽くせ!!」
「烈風よ!!敵を吹き飛ばせ!!」
物凄い勢いで一斉に突撃してきた別働隊の竜騎士部隊に向かって、一斉に攻撃魔法を放つ魔術師たち。
だが。
「よし、かかった!!後はセレーネに任せて撤退するぞ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
すたこらさっさ。
魔術師部隊が攻撃魔法を発動した瞬間、その攻撃魔法の標的として狙われていた別働隊が、突然回れ右して大急ぎで撤退したのだった。
魔術師部隊が放った無数の攻撃魔法が、標的が突然逃げ出した何も無い空間を、呆気なく空振り三振してしまう。
そして。
「今だ!!全軍突撃開始!!敵の魔術師たちを一網打尽にしろ!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
その瞬間を狙ったセレーネ率いる竜騎士部隊の別動隊が、逆方向から時間差で魔術師部隊に奇襲を掛けてきたのだった。
攻撃魔法を発動した直後の膨大な隙を狙われたせいで、魔術師部隊は奇襲を仕掛けてきたセレーネたちに、全く対抗する事が出来なかった。
1人、また1人と、成す術も無くセレーネたちに叩きのめされてしまう。
「な、何だとおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
完全にラインハルトの戦術に翻弄されてしまったカーゼルが、目の前の惨状を驚愕の表情で見つめていたのだった。
最初にカーゼルたちに向かって突撃してきた別働隊の竜騎士部隊は、カーゼルに対して攻撃を仕掛けるつもりなど微塵も無かったのだ。
そう…魔術師部隊に攻撃魔法を発動させて隙を作り出す為の、ただの陽動部隊に過ぎなかったのである。
そうしてまんまと陽動に引っ掛かり、攻撃魔法を発動した直後で膨大な隙をさらけ出した魔術師部隊に対して、セレーネたちが時間差で強襲。
ラインハルトの優れた戦術の前に、魔術師部隊はあっという間に追い詰められてしまったのだった。
「カーゼル殿!!お命頂戴、仕る!!」
ラインハルトの戦術によって完全に壊滅状態になってしまった魔術士部隊なのだが、なおもセレーネは攻撃の手を緩めない。
最早放っておいてもサザーランド王国騎士団の勝利は揺るがないだろうが、バルガノン王国の国王たるカーゼルを今ここで討ち取ってしまえば、主を失ったバルガノン王国騎士団は降伏するしか無くなるだろう。
「小娘風情が!!このワシを舐めるなぁっ!!」
そうはさせまいと懐から双剣を抜いたカーゼルに向かって、飛竜からジャンプして勢いよく飛び降りたセレーネが、上空から強襲を仕掛ける。
激突するセレーネとカーゼル。2人の槍と双剣が何度もぶつかり合い、互いに一歩も引かない壮絶な死闘が繰り広げられていたのだが。
「このワシの暗黒流空蝉剣の恐ろしさ、存分に貴様に味あわせてくれるわぁっ!!」
セレーネを弾き飛ばしたカーゼルが両手の双剣を大きく広げ、必殺の一撃をセレーネに繰り出したのだった。
「食らえぃ!!暗黒流空蝉剣奥義!!蝉時雨!!ツクツクホーシ!!ツクツクホーシ!!ツクツクホーシ!!」
「な、何ぃっ!?」
ルミアの暗黒流水鳥脚さえも凌駕する程の縦横無尽の動きによって、セレーネはカーゼルに翻弄されてしまう。
前から後ろから、右から左からと、セレーネの周囲を物凄い速度で飛び回る。
「何なのだこの変幻自在の動きは!?とても人間技とは思えん!!」
「ツクツクホーっしゃあああああああああああ!!」
「ぐああああああああああああっ!!」
何とか辛うじて急所は避けたものの、それでもカーゼルの渾身の一撃によって、セレーネの右腕からドクドクと血が溢れ出てきたのだった。
その一方でパンデモニウムの城下町内部において、サザーランド王国騎士団と連携しながら、バルガノン王国騎士団を追い詰める瑠璃亜、イリヤ、エキドナ。
「「「「「死ね!!魔王カーミラぁっ!!」」」」」
「夢幻一刀流奥義!!陽炎!!」
「「「「「ぎぃああああああああああああああああ!!」」」」」
瑠璃亜が鳳凰丸を振るう度に無数の『閃光』が放たれ、1人、また1人と、バルガノン王国騎士団の兵士たちの命が奪われていく。
サザーランド王国騎士団の加勢、そしてラインハルトの優れた戦術のお陰で、最早この戦いの流れは完全に魔王軍が握り返していたのだった。
このまま放っておいても、もう魔王軍とサザーランド王国騎士団の勝利が揺らぐ事は無いだろう。
ならば瑠璃亜が今やるべき事は、ただ1つだ。
「エキドナ、私はセレーネちゃんたちの援護に行くわ。ここの指揮をお願いね。」
「はっ!!」
決意に満ちた表情で、瑠璃亜は『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』を発動し、その場から消えてしまったのだった。
そして。
「所詮は貴様のような小娘など、ワシの前では噛ませ犬に過ぎんのだ!!」
「くっ…!!」
部下たちが魔術師部隊をフルボッコにしている最中、カーゼルを相手に何とか善戦するセレーネだったが、カーゼルの猛攻の前に防戦一方だ。
とても人間技とは思えない程のカーゼルの凄まじい動きに、対処し切れずに翻弄されてしまっているセレーネ。
だがそれでもセレーネは一歩も引かない。まだその瞳からは希望の光が消えていない。
「止めだ!!死ねぃ!!蝉時雨!!ツクツクホーシ!!ツクツクホーシ!!」
「まだだ!!私はまだ負けてはいない!!」
槍を持つ両手に力を込めたセレーネが決意に満ちた瞳で、自分に突撃するカーゼルにカウンターで渾身の一撃を放ったのだった。
「カーゼル殿!!貴方のその技は、既に見切ったぁっ!!」
「な、何ぃっ!?」
「そこだあああああああああああああああああっ!!」
タイミングよく放たれた槍の一撃が、カーゼルの顔面に襲い掛かる。
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
何とか辛うじて直撃は免れたものの、それでもカーゼルの顔面から鮮血がほとばしったのだった。
地面をゴロゴロと転がりながらセレーネを通り過ぎたカーゼルが、慌てて起き上がって体勢を立て直したのだが、まさかの事態に驚きを隠せない。
「ば、馬鹿な!!このワシが!!暗黒流空蝉剣を極めたこのワシが!!こんな小娘如きに傷を負わされただとぉっ!?」
カーゼルの醜悪な悪面から、ドクドクと血が溢れ出てくる。
傷口からほとばしる痛み、そして熱。
まさかの事態にカーゼルは頭に血を昇らせ、怒りを爆発させたのだった。
「おのれえええええええええええええええ!!許さんぞ許さんぞ許さんぞ許さんぞ許さんぞ許さんぞ許さんぞ許さんぞ許さんぞ許さんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
セレーネの一撃によって傷つけられた顔の傷を右手で押さえながら、怒りに満ちた瞳でカーゼルはセレーネを睨みつける。
よもや、このような下民如きに、国王たる自分が傷を負わせられようとは。
この屈辱、最早セレーネをただ殺すだけでは収まらない。
「このクソアマがぁっ!!貴様だけはワシがこの手で全身を八つ裂きにした上で、徹底的に犯し尽くした後に虐殺してくれるわぁっ!!」
セレーネに対して怒りを顕わにしながら、全身から凄まじい闘気と殺気を放つカーゼルだったのだが、その時だ。
「いいえ、八つ裂きにされるのは貴方よ!!カーゼル!!」
「な、何ぃっ!?」
『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』で突然2人の間に割って入った瑠璃亜が、物凄い速度でカーゼルに斬りかかったのだった。
「瑠璃亜殿!!」
「一気にケリを付けるわよ!!『潜在能力解放【トランザム】』!!」
全身を真紅の光で包み込んだ瑠璃亜が、全身全霊の一撃をカーゼルに放つ。
目の前のセレーネに対して怒りを爆発させるあまり、周囲への警戒を怠ってしまったカーゼルは、突然目の前に現れた瑠璃亜に対して完全に不意を突かれてしまい、全く対応する事が出来なかった。
「ま、魔王カーミラ…!!」
「夢幻一刀流究極奥義!!朱雀天翔破!!」
「ぎぃああああああああああああああああああああああああああ!!」
瑠璃亜が放った無数の『閃光』による『暴風雨』を全身に浴びたカーゼルが、とても地上波では放送出来ない程の無残な姿となって、全身から凄まじい鮮血を放ちながら、どうっ…とその場に倒れて絶命してしまった。
そのカーゼル『だった』『それ』を、鳳凰丸を鞘に収めて『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』を解除した瑠璃亜が、侮蔑の表情で見下していたのだった…。
次回はサザーランド王国騎士団の協力を受けながら、安全確保と人命救助を行う魔王軍のお話。
そんな中でラインハルトに敗北して重傷を負ったルミアを、瑠璃亜が治療するのですが…。