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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第9章:止まらない戦争
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第69話:卑劣なるカーゼル

遂に始まってしまった、パンデモニウムとバルガノン王国騎士団による戦争。

瑠璃亜の圧倒的な戦闘能力もあって戦いを優位に進める魔王軍ですが、そこへカーゼルによる卑劣な罠が…。

 時間を少しだけ遡る。

 ドノヴァンら神刀アマツカゼ調査部隊が、神殿に向かっている最中。

 バルガノン王国によるパンデモニウム侵攻作戦の準備が着々と進められる最中、外交官のルミアを通じてカーゼルからの一方的な降伏勧告が、瑠璃亜の元に度々送られてきた。

 だがそれを瑠璃亜は、あまりにも一方的で理不尽な内容だという理由から、全て丁重に拒否したのだった。

 その降伏勧告のいずれもが、表向きには先代の魔王カーミラの数々の悪行を建前としており、


 『パンデモニウムの魔族たちに責任を取らせるべきだ。』

 『魔王カーミラの存在自体が危険であり、この世界の真なる恒久和平実現の為に討伐しなければならない。』


 などとうたっていたのだが。

 そもそも先代の魔王カーミラの一件に関しては、パンデモニウムの魔族たちは何の関係も無い…むしろ彼らもまた被害者でもあるのだから。

 彼らには何の罪も責任も無いというのに、それを理由にして殲滅するなど、絶対に許す訳にはいかない。


 それにカーゼルの真の狙いは間違いなく、フォルトニカ王国とパンデモニウムだけが独自運用に成功している転生術なのは明白だ。

 行使するにあたっての膨大なコストや、召喚できる者がランダムで指定が出来ないなどといったリスクはあるものの、それを帳消しにしてしまう程の魅力があるのだから。

 なまじフォルトニカ王国が太一郎という、文武両道で何をやらせても超優秀なパーフェクトイケメンの閃光という、完璧超人の召喚に成功してしまった事が、バルガノン王国を初めとした周辺各国の転生術への執着を、より強める結果となってしまったのかもしれない。


 瑠璃亜も度々エキドナを使者としてバルガノン王国に派遣し、この馬鹿げた侵略行為を直ちに中止するよう停戦を求めたのだが、カーゼルはそれに全く聞く耳持たず、


 『此度の戦は正義の戦である。』


 などと、情け容赦なくエキドナを突っぱねたのだった。


 そうしてバルガノン王国とパンデモニウム、両者の折り合いが全く付かないまま…と言うかカーゼル側からの一方的かつ理不尽な侵略行為なのだが…遂に開戦の時が来てしまった。

 バルガノン王国騎士団は、パンデモニウムの正門から少し離れた平原に陣地を結成。

 簡易テントの中で腕組みをしながら、どっかりと椅子に座るカーゼルの元に、パンデモニウムから帰還したルミアが駆けつけてきたのだった。


 「陛下、只今戻りました。」

 「おおルミアか。して、どうだった?」

 「は、陛下からの最終通告を瑠璃亜様にお伝えしましたが、一切応じるつもりは無いとの事です。我々の方から攻めるのであれば、一切合切容赦はしないと仰っておられました。」

 「フン、馬鹿な女だ。大人しく投降すれば我が国の貴重な労働力として、魔族共の命だけは助けてやろうと思っておった物を。」


 ルミアからの報告を、妖艶な笑みを浮かべながら聞き流したカーゼルだったのだが。


 「しかし陛下、此度の戦における、我が軍の部隊編成…いささか極端過ぎではありませんか?」


 そんなカーゼルの余裕の態度を、ルミアが凛とした態度で起立しながら、怪訝な表情で見つめていたのだった。

 何故なら今回のパンデモニウム侵攻作戦において編成された部隊は、後方支援に回る魔術師部隊や弓兵部隊は少数で編成されており、主力部隊の7割が重装兵という、常識では到底有り得ない極端な編成で構成されていたのだから。


 重装兵はその強固な鎧や大型の盾による極めて高い防御力を誇り、物理攻撃が中心となる敵の兵種に対しては圧倒的な優位性を誇る。

 だが重装備故の装備の重さが災いし、機動力や敵の攻撃に対する回避率という点に問題があり、何よりも魔法攻撃や竜のブレス等といった、物理防御力が全く意味を成さない敵の攻撃に対しては極めて相性が悪いのだ。


 それに対して迎え撃つ魔王軍にはバレストキャノンを始めとした、強力な威力を秘めた魔導兵器が数多く導入されているというのに。

 それに魔王軍が誇る優秀な魔術師部隊の存在も、決して侮れる物ではないのだが…。


 「これでは魔王軍の強力な魔導兵器や魔術師たちの前では、あまりにも相性が悪過ぎるのではないでしょうか?」

 「うむ。お前の疑念は当然だな。だが何も問題は無い。お前はワシの傍で大人しく戦いを見ておれ。大船に乗ったつもりでな。」

 「は…。」


 ここまで言い切るのであれば、カーゼルには魔王軍や瑠璃亜に『勝てる』という、絶対的な自信や秘策でもあるとでもいうのだろうか。

 こんな極端な部隊編成で、カーゼルは一体どうやって魔王軍に勝つつもりなのだろうか。


 「それでルミアよ。期限は今日の9時だと伝えたはずだが、サザーランド王国の動きはどうか?」

 「諜報部隊からの報告によると、ラインハルト陛下は我が国への加勢及びパンデモニウムとの同盟破棄について、未だ決断には至っておられぬご様子だと。」

 「まだ迷っておるのか。まあ良いわ。もし奴らが未だに魔王軍に味方をするのであれば、まとめて叩きのめしてやるだけの話よ。ぶわっはっはっはっは。」

 「は…。」


 雷神の魔術師などと呼ばれているからには、一体どれ程の物かと内心では期待していたのだが。

 やはりどれだけ優秀な魔術師だろうとも、所詮は国王になったばかりの25歳の若造だという事だ。

 そのような小心者如き、放っておいても問題無いだろうと…そんな事を考えている間に、兵士の1人がカーゼルとルミアがいるテントに入り、カーゼルに対して力強く敬礼したのだった。


 「国王陛下!!時間です!!」

 「うむ。魔王軍の動きはどうか?」

 「依然、臨戦態勢を整えたまま、動きはありません!!」

 「ならば現時刻をもって、奴らは我が軍からの降伏勧告を拒絶した物とみなす!!」


 威風堂々と、テントから外に出たカーゼル。

 カーゼルの手元の懐中時計が示した時刻は、事前にルミアを通してラインハルトと瑠璃亜に伝えた、進軍開始予定時刻の午前9時。

 それを確認したカーゼルが、拡声器の機能を有するタリスマンを口元に当て、威風堂々と兵士たちに呼びかけたのだった。


 「誇り高き我がバルガノン王国騎士団の兵士たちよ!!総員ワシに傾注せよ!!これより我が軍は当初の予定通り、パンデモニウム制圧作戦を開始する!!」


 兵士たちが回れ右をして、一斉にカーゼルに敬礼する。


 「此度の戦は世界中の人々の脅威である魔王カーミラを討伐し、この世界に真なる恒久和平をもたらす為の、正義の戦いであると肝に銘じよ(建前)!!」

 「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」」」

 「主力部隊、突撃開始せよ!!」


 カーゼルの命令により、彼の思惑など何も知らされないまま、遂に進軍を開始したバルガノン王国騎士団。

 重装備の鎧をガッシャガッシャと派手に鳴らせながら、同じく重装備で武装された地竜に乗り、魔導兵器の餌食にならないように不規則に蛇行しながら、パンデモニウムの城下町へと突進していく。


 「バルガノン王国騎士団、進軍を開始しました!!」

 「奴らに目に物を見せてくれるわ!!エルブラスト、てーーーーーーっ!!」


 そんな彼らにパンデモニウムからの魔導兵器による砲撃が、情け容赦なく襲い掛かった。

 無数の光弾が一斉にバルガノン王国騎士団に降り注ぎ、避け損ねた兵士たちの何人かが地竜から振り落とされてしまう。

 それでもバルガノン王国騎士団の勢いを止める事は出来ず、彼らの大軍が一斉に城下町の正門へと迫っていったのだった。

 迎え撃つ魔王軍も、もう目の前にまで迫ったバルガノン王国騎士団に対し、決死の覚悟で迎撃の構えを見せたのだが。


 「怯むな!!我が軍の力、存分に魔族共に見せ…っ!?」

 「『雷迅の刃【ライトニングエッジ】』!!」

 「な、何ぃっ!?ぐああああああああああああああああっ!!」


 突然降り注いだ無数の雷撃の刃が、バルガノン王国騎士団の兵士たちに情け容赦なく襲い掛かったのだった。

 強固な防御力を誇る彼らの重装の鎧も、雷撃の前では全く何の意味も成さない。

 次々と感電し、地竜から振り落とされる兵士たち。

 驚愕の表情を見せるバルガノン王国騎士団の兵士たちの前に現れたのは、威風堂々と立ちはだかる瑠璃亜だった。

 彼女の姿に、魔族たちが一斉に歓喜の表情になる。


 「そちらから攻めるのであれば一切合切容赦はしない!!確かにそう伝えたはずよ!!」

 「おおっ!!瑠璃亜様自らが戦場に立たれるとは!!」

 「皆!!ここが踏ん張り所よ!!私達の未来を守る為に、絶対に敵軍をここで食い止めましょう!!」

 「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」


 瑠璃亜が元から有していた物なのか、魔王カーミラという彼女の立場がそうさせたのか…あるいはその両方か。

 彼女のカリスマに導かれ、魔族たちの戦意が一気に向上したのだった。

 そうして正門前で死闘が繰り広げられる最中、カーゼルが送り込んだ特殊工作部隊が、壁を爆弾で爆破して城下町に侵入しようとしたのだが。


 「行きなさい!!ヴァジュラ!!」

 「な、何ぃっ!?ぎぃあああああああああああああああああああ!!」


 事前に瑠璃亜の『敵意感知【ホストセンサー】』の『異能【スキル】』によって彼らの存在を察していた、イリヤ率いる一個小隊が待ち伏せていたのだった。

 魔剣ヴァジュラから放たれた無数の刃が、情け容赦なく特殊工作部隊たちに襲い掛かる。

 一瞬にして無数の鮮血が、戦場に舞い散ったのだった。 


 「な、何故だ…!?完全に気配を消したはずなのに…っ!!」

 「アンタたちがどれだけ奇策を練ろうが、瑠璃亜の前では全くの無意味なのよ。」

 「くっ…薄汚い魔族共が…っ!!」


 事切れた特殊工作部隊たちの無様な姿を、侮蔑の表情で見下すイリヤ。

 そんな彼女の下に、聖剣ティルフィングを手にしたエキドナが『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』で駆けつけ、瑠璃亜からの指示を伝えたのだった。


 「イリヤ、ここはもういいわ。次はシュラクたちの援護に回ってくれる?」

 「城に紛れ込んでいたスパイは、もう捕まえたの?」

 「ええ。こっちはもう片付いたわ。」

 「やるじゃない。アタシも負けてられないわ。」


 笑顔でハイタッチをして、互いの戦果を労うイリヤとエキドナ。

 インターネットやスマートフォン、トランシーバーなどといった通信手段が存在しないこの異世界においては、このような大規模な戦場における乱戦において、エキドナやシルフィーゼのような瞬間転移が出来る者の存在は、単純な戦闘能力だけでは測れない程の脅威となるのだ。

 部隊間の伝令の伝達を瞬時に行う事が出来るので、隊の連携をより強固な物に出来るというのもあるが、それだけではない。

 窮地に陥った部隊に一瞬にして増援を送り込む、物資の迅速な提供、傷ついた兵士たちを一瞬で退避させるなど、味方にとってはとてつもなく頼もしく、敵軍にとってはとてつもなく厄介な存在となるのだから。


 かくしてエキドナの地味ながらも要所での的確な活躍、そして元々の兵種の相性の良さもあって、魔王軍は確実にバルガノン王国騎士団を抑え込んでいたのだった。

 放たれる魔導兵器の弾丸が、魔術師部隊の暗黒魔法が、情け容赦なく重装兵たちを叩きのめしていくのだが。

 それでも尚、カーゼルは何故かニヤニヤと余裕の表情を崩さなかったのだった。


 「陛下。我が軍が押されているようです。やはり此度の戦は無謀だったのでは?」


 双眼鏡で戦況を確認しながら、威風堂々と腕組みをするカーゼルに報告するルミア。

 ルミアが危惧していた通り、魔王軍が誇る優秀な魔術師部隊、そしてバレストキャノンを初めとした強力な魔導兵器の前に、重装兵を中心に構成されたバルガノン王国騎士団は苦戦を強いられていた。

 やはり今回の戦いは、初めから無謀だったのではないか…そんな事を考えていたルミアだったのだが。


 だが次の瞬間に繰り出された、あまりにも卑劣なカーゼルの秘策が、押せ押せムードの魔王軍を一気に絶望の底へと突き落とす事になるのである…。


 「うわあああああああああああああああああああん!!カーミラ様あああああああああああああ!!助けてよおおおおおおおおおおおおおお!!」

 「な…子供!?どうしてこんな戦場の真っ只中に!?」


 『帝王の拳【カイザーナックル】』の『異能【スキル】』でバルガノン王国騎士団の兵士を殴り倒した瑠璃亜の下に、突然1人の小学生位の男の子が馬にしがみつきながら駆けつけてきたのだった。

 重装のフルフェイスの兜を被ってもなお、オーラを纏った瑠璃亜の拳の『衝撃』によって、ビクンビクンと脳震盪のうしんとうを起こして地面に倒れ伏す兵士。

 自分の目の前で無様に戦闘不能になった兵士を無視した瑠璃亜が、慌てて子供を馬から助け降ろしたのだが。


 いや、と言うか、何でこんな戦場のど真ん中に、突然こんな年端も行かぬ子供が、たった1人で馬にしがみつきながら現れたのか。

 とにかく、ここはもう戦場だ。事情はどうあれ一刻も早く避難させなければ。


 「一体どうしたの?ここはもう戦場よ。ここにいては危ないわ。すぐに避難を…。」


 子供の前でしゃがみ込んだ瑠璃亜が、目から大粒の涙を流しながら泣き叫ぶ子供の頭を、優しく撫でてあげたのだが。


 「国王様が!!国王様が!!カーミラ様に助けて貰えって!!カーミラ様なら必ず僕を助けてくれるから、早くパンデモニウムに行けって!!」

 「カーゼルが?一体どういう事なの?」

 「カーミラ様ああああああああああ!!僕を助けてよおおおおおおおおおお!!」


 だが次の瞬間、瑠璃亜に頭を優しく撫でられている子供が、今この場にいる誰もが予想もしなかった、とんでもない事を瑠璃亜に口走ったのである…。


 「魔王軍が僕の身体に爆弾を仕掛けたから!!カーミラ様なら解除出来るからって、国王様がああああああああああ!!」

 「は!?」


 そして。


 「ククク…頃合いだな。やれ。」

 「はっ!!」


 カーゼルの命令で、傍に控えていた魔術師が遠隔操作で。


 「僕を助けっ…!?」


 子供に仕掛けられた爆弾を、情け容赦なく爆発させたのだった。

 凄まじい爆炎が瑠璃亜を、そして子供が乗っていた馬を、瑠璃亜に殴られて虫の息の兵士さえも、理不尽に包み込んだのだった。

 あまりの出来事に周囲の誰もが…バルガノン王国騎士団の兵士たちさえも驚きを隠せない。


 そして爆心地から物凄い勢いで放たれたのは、緑色の粒子が混ざった大量の煙幕だった。

 その煙幕がパンデモニウムの広範囲を巻き込み…これまで猛威を振るっていた魔王軍の魔導兵器を次々と無力化してしまい、魔術師部隊の暗黒魔法も発動出来なくなってしまう。

 反魔法煙幕…緑色の特殊な粒子の効果によって、この煙幕の中では一切の魔法が使用不可能になってしまうのだ。


 「どうだ見たか!!これぞ暗黒流人間爆弾の真髄よ!!」

 「成程、反魔法煙幕による魔導兵器の無力化…初めからこれが狙いだったのですか。」

 「うむ!!だからこそワシは主力部隊を重装兵中心に編成したのだ!!」


 双眼鏡で戦況を見つめるルミアの後ろ姿を、妖艶な笑みを浮かべて腕組みをしながら見つめるカーゼル。

 どれだけ魔導兵器や魔術師部隊が脅威だろうと、それを爆弾によって反魔法煙幕をばらまき、使い物に出来なくしてしまえば何の問題も無い。これがカーゼルの策略だったのだ。


 カーゼルの思惑としては、今回の子供を巻き込んだ爆撃で瑠璃亜を殺せれば、それで良し。

 もしこれで瑠璃亜を殺せなかったとしても、爆弾に仕込まれた反魔法煙幕の効力によって、魔王軍の魔導兵器や魔術師部隊を根こそぎ無力化出来る。

 当然、煙幕の中ではバルガノン王国騎士団の方も魔法を使えない事になるのだが、だからこそカーゼルは主力部隊を重装兵を中心に編成したのだ。


 「しかし、あのような子供を理不尽に巻き込む戦術…兵たちの士気に影響が出てしまわないでしょうか?」

 「所詮は身寄りを無くしたガキを一匹殺しただけだ。それにあのガキには『魔王軍に爆弾を仕掛けられた』と伝えてあるからな。あのガキが馬鹿正直にそれを話せば、周辺の兵士たちの魔族共への敵意がより増す事になるだろう。ぶははははは。」

 「成程…。」


 あまりにも理不尽かつ残酷なカーゼルの策略だが、確かに理にはかなっていると…ルミアは太一郎にも劣らない聡明さによって、それを瞬時に分析してみせたのだった。

 子供というのは純粋な生き物だ。自分を守ってくれる存在であるはずの、国の最高責任者たる国王の口から


 『魔王軍がお前の身体に爆弾を仕掛けている。』

 『魔王カーミラなら解除出来る。』


 とでも告げられれば、そりゃあ子供だって馬鹿正直に瑠璃亜に助けを求め、事情を説明しに行くに決まっているだろう。

 そして、こんなとんでもない事を子供の口から告げられた、バルガノン王国騎士団の兵士たちは…。


 「くっ…!!カーゼル…!!何て卑劣な真似を!!」


 何とか『防壁【プロテクション】』の『異能【スキル】』で爆風を防ぎ、自分が殴り倒した兵士と、子供が乗っていた馬も守り抜いた瑠璃亜だったのだが…爆弾を仕掛けられた張本人である子供だけは助ける事が出来なかった。

 四肢が飛び散り、見るも無残な姿になってしまった子供。

 そして目の前のバルガノン王国騎士団の兵士たちが彼女に見せたのは、どうしようも無い程の侮蔑の表情だった。

 フルフェイスの兜からでも、彼らの瑠璃亜への軽蔑、怒りが、情け容赦なく突き刺さってくる。


 「ふざけやがって!!こんな年端も行かぬ子供に対して何て酷い事をするんだ!!専守防衛を掲げておいて結局これかよ!!」

 「ち、違うわ!!お願い聞いて!!私は何も…!!」

 「最早問答無用だ!!所詮は貴様も、先代の魔王カーミラと同じだったという事だ!!」


 戸惑う瑠璃亜に、問答無用で襲い掛かるバルガノン王国騎士団の兵士たちだが。


 「この世界の真なる恒久和平実現の為に!!死ね!!魔王カーミラぁっ!!」

 「そうはさせません!!」

 「な、何ぃっ!?ぐあああああああああああああああああっ!!」

 

 そこへ颯爽と『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』で駆けつけてきたエキドナが、聖剣ティルフィングから放った暗黒魔法で、兵士たちを吹っ飛ばしたのだった。

 瑠璃亜を守るかのように、兵士たちの前に立ちはだかる。


 「エキドナ!!」

 「瑠璃亜様に手出しはさせません!!」


 その様子を双眼鏡で確認したルミアが、落ち着いた表情でカーゼルに報告したのだった。

 流石に全くの無傷だったというのは驚いたが、この程度の事で瑠璃亜を殺せるとは、ルミアはこれっぽっちも思っていない。


 「魔王カーミラ、無傷です。」

 「例の『防壁【プロテクション】』とかいう奴だな!!だがまあ別に構わん!!これで奴らの魔導兵器と魔術師部隊は根こそぎ無力化したのだからな!!弓兵部隊を周囲に展開させろ!!魔術師部隊が煙幕の外に脱出した瞬間を狙い討つのだ!!」

 「モグラ叩きの要領ですね。」

 「ぐわっはっはっはっは!!上手い事を言うではないか!!ルミアよ!!」


 高笑いするカーゼルを尻目に、双眼鏡で戦況を確認するルミア。


 (陛下の此度の戦術と初期行動は実に見事。だが瑠璃亜様が一体どう動くのか…。)



 「『氷結の槍【フリジットジャベリン】』!!」

 「「「「「ぎぃああああああああああああああああああああ!!」」」」」


 自分に対して侮蔑の表情で襲い掛かるバルガノン王国の兵士たちを、『異能【スキル】』によって生み出した氷の槍で吹っ飛ばす瑠璃亜。

 彼らの誤解を解きたいのは山々だが、ここは戦場だ。

 ここで彼らを討たなければ、城下町の魔族たちは皆殺しにされてしまう。

 不本意だが魔族たちを守る為には、今ここで彼らを討つしか道は無い。

 

 「瑠璃亜様、これは反魔法煙幕です。煙幕内部の魔導兵器や魔法は全て無力化されます。」

 「分かっているわ。だけど私たちの『異能【スキル】』なら問題無く使えるようね。」

 「私も聖剣ティルフィングの加護のお陰で、煙幕の影響を受けずに問題無く暗黒魔法を使えるようです。それを念頭にご指示をお願いします。」

 「分かったわ。」


 瑠璃亜は懐の短刀で自らの右手首を自傷し、溢れ出た自らの血を『血液武器化【ブラッドウェポン】』の『異能【スキル】』で、鳳凰丸の形状へと変化させたのだった。


 「瑠璃亜様。反魔法煙幕は城下町全土を覆っている訳では無いようです。魔術師部隊を煙幕の範囲外まで移動させますか?」

 「止めておきなさい。それこそ敵の思う壺よ。脱出した瞬間に敵の弓兵部隊に狙い撃ちされるわ。」

 「モグラ叩きの要領ですね。」

 「上手い事を言うじゃない。エキドナ。」


 鳳凰丸を鞘に収めた瑠璃亜が決意に満ちた表情で、目の前で怒り狂ったバルガノン王国騎士団の兵士たちを見据える。

 この視界が遮られた煙幕の中なら、敵の弓兵部隊も味方への誤射を恐れ、迂闊に矢を射る事は出来ないはずだ。

 ならば魔術師部隊たちには、むしろ煙幕の中にいて貰った方が逆に安全だろう。

 

 「エキドナ。魔術師部隊を下がらせて、市民たちの避難誘導に当たらせなさい。その後は城下町に潜入した敵の掃討を。あくまでも市民たちを守る事を最優先に行動してね。」

 「瑠璃亜様はどうなさるおつもりで?」

 「私はここで彼らを迎撃するわ。」

 「承知致しました。瑠璃亜様、どうかご武運を。」

 

 瑠璃亜に深々と一礼し、『転移【テレポート】』の『異能【スキル】』でその場を去っていくエキドナ。

 エキドナなら間違いなく、城下町の被害を最小限に食い止めてくれるはずだ。

 今は彼女を信じて、瑠璃亜は今ここでやるべき事をしなければならない。


 「太一郎君。貴方の夢幻一刀流、使わせて貰うわね。」


 先程まで子供『だった』『それ』を悲しみの表情で見つめながら、カーゼルの謀略のせいで命を散らしてしまった子供の冥福を祈る。

 本来ならばきちんと埋葬してあげたい所ではあるのだが、今はそれどころではない。


 「カーゼル…貴方だけは絶対に許す訳には行かないわ…!!」


 決意に満ちた表情で、瑠璃亜は遥か向こうにいるであろうカーゼルに対し、怒りを爆発させたのだった。

カーゼルの策略により、絶体絶命の危機に陥る魔王軍。

瑠璃亜、イリヤ、エキドナの奮戦も虚しく、バルガノン王国騎士団の圧倒的な物量の前に押され始めるのですが…。

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