第6話:謁見
今回で第1章完結です。女王と王女が初登場となります。
女王と王女に謁見する事になった太一郎たち転生者一同。
そこで太一郎とシリウスとの間で、『呪い』を巡っての駆け引きが繰り広げられる事に…。
ケイトに案内された太一郎たちは、女王と王女が待っているという部屋まで辿り着いた。
ここに辿り着くまでの道中にも、多くの兵士や給仕たちが笑顔で太一郎たちに、挨拶や敬礼をしてきたのだった。
太一郎がバルゾムを倒して、ロファールやラムダ村を救った恩人だというのも勿論あるだろうが、太一郎たちが転生者として、ある程度の地位を確約されているというシリウスの話は事実だったようだ。
何だよ、この野郎だけチヤホヤされやがって…そんな不服そうな態度を一馬たちは見せていたのだが。
「姫様。女王陛下。転生者の皆様をお連れ致しました。」
「ご苦労様。入っていいわよ。」
「は、では失礼致します。」
落ち着いた女性の声が聞こえたのを合図に、ケイトが静かに丁寧に扉を開ける。
「さあ皆様、どうぞ先にお進み下さいませ。」
ケイトに促された太一郎たちは、ゆっくりと部屋の中へと入っていく。
そして太一郎の目の前にいたのは、椅子にゆったりと腰を下ろしている中年の女性、そんな彼女に寄り添うように起立している、腰にソードレイピアをぶら下げた、真由と同い年の17歳の少女。そして因縁のシリウスとレイナだった。
椅子に座る女性の前にあったのは、豪華な机の上に置かれた大量の書類。
そして周囲にある棚には数多くの書籍が収納されている。
どうやらここは、女王の執務室か何かのようだ。
「よく来てくれたわね皆。私はこのフォルトニカ王国を納める女王クレア。そして彼女が私の一人娘の王女サーシャよ。」
クレアと名乗った女性は穏やかな笑顔で、椅子に座ったまま太一郎たちに挨拶をする。
「私は王女サーシャと申します。これからどうぞよろしくお願いしますね、皆さん。」
そんなクレアに寄り添うサーシャと名乗った少女も、とても可憐な笑顔を太一郎たちに見せたのだった。
太一郎も決意に満ちた表情で2人に敬礼をし、挨拶をする。
「お初にお目にかかります、女王陛下。王女殿下。私はシリウスの転生術によってこの国に召喚された、渡辺太一郎と申す者です。こちらは腹違いの妹の渡辺真由。お二方、どうぞお見知りおきを。」
「ええ、既に貴方の活躍はシリウスから報告を受けているわ。ロファールとラムダ村の人々を助けてくれて本当にありがとう。」
「いえ、当然の事をしたまでの事です。」
まず太一郎たちが最優先でやらなければならないのは、国のトップであるこの2人からの、絶対的な信頼を得る事だ。
その為にも第一印象はとても大事だ。挨拶1つのミスだけで、相手からの印象を悪くする事にも繋がりかねないのだから。
そうはさせまいと、とてもきびきびとした礼儀正しい態度で、太一郎はクレアとサーシャに挨拶をしたのだった。
クレアはもう既に40を超えていると事前に兵士たちから聞かされていたのだが、母親の瑠璃亜と同様、とてもそうは思えない程に美しい女性だ。
対するサーシャも年頃の少女相応の可愛らしい笑顔を見せながらも、皇族としての凛とした高潔な雰囲気を漂わせている。
太一郎はそんな2人に素直に関心しながらも、それでも2人の何気ない立ち振る舞い1つだけで、2人が持つ驚異的な戦闘能力を敏感に感じ取ってしまったのだった。
(…微塵も…隙が無い…!!)
強い者程、相手の強さには敏感になってしまう物なのだ。まして太一郎程の達人ならば猶更だろう。
鈍感な一馬たちは、そんなサーシャとクレアの圧倒的な戦闘能力に、全然気が付いていないようなのだが。
もし…もし万が一…こんな事は絶対に避けたいのだが、シリウスが自分たちにかけた『呪い』を解く為に、この2人と戦わざるを得ない状況に陥ってしまった場合の事を、太一郎は瞬時に頭の中で想定したのだった。
太一郎の標的はあくまでもシリウス1人だけであって、他の者たちまで巻き込むつもりは微塵も無いのだが。
それでも、試しに想像で2人と殺し合ってみた結果。
(…駄目だ、この2人が同時に相手となると、とても僕には太刀打ち出来ないな。)
実際に手合わせをしてみない事には、この2人の本当の実力は分かりようが無い。
だがそれでも太一郎は、この2人の大体の実力なら充分に理解したのだった。
1対1なら何とか太刀打ち出来るかもしれない。だが2人同時にというのは無理だ。
仮に今この場でシリウスを殺す為に斬りかかったとしても、この2人に100億%返り討ちにされてしまう事だろう。
(もうぶっちゃけた話、僕らなんぞに頼らなくても、この2人が魔王カミーラと戦った方が早いんじゃないのか…?)
そんなしょーもない事を、太一郎は考えてしまったのだが。
いや、こんな事を考えるのは止めにしよう…すぐに太一郎は頭を切り替えた。
太一郎が今やらなければならない事は、この2人と戦う事ではない。この2人の信頼を得る事なのだから。
だが。
「…太一郎さん?どうかなさいましたか?私とお母様の顔をじーっと見つめて。」
「え?あ、いや…その…。」
突然サーシャに笑顔で話しかけられて、太一郎はガラにも無く焦ってしまったのだった。
2人の戦闘能力を敏感に感じ取ってしまったので、試しに想像で殺し合ってみましたとか、そんな物騒な事を言えるはずがない。
「…お兄ちゃん、何2人に見とれてるのよ。そんなにデレデレと鼻の下を伸ばしちゃってさ。」
そこへ真由が呆れた表情で、太一郎の右腕に軽く肘打ちを食らわしたのだった。
「す、済まない真由。」
太一郎が2人の美しさに思わず見惚れてしまっていた…そうクレアとサーシャに思わせる為の、真由のとっさの判断による立ち振る舞いだったのか。
それを敏感に察した太一郎が、僕をフォローしてくれて助かったと…そんな視線を真由に向けたのだが。
「…お兄ちゃんの馬鹿。」
なんか真由は太一郎に対して、本気で怒っていたのだった…。
頬を膨らませながら、プイっと不機嫌そうに太一郎から顔を背けている。
一体全体何が何だか、全然意味が分からないといった表情の太一郎。
(え?何で真由は怒ってるの?僕のミスをフォローしてくれたんじゃないの?)
「…フンだ。」
「あらあら、とても仲のいい兄妹なのね。見ていてとても微笑ましいわ。」
そんな2人の様子を、クレアが穏やかな笑顔で見つめていたのだが。
「もう少し貴方たちの微笑ましいやり取りを見ていたいのは山々だけれど、そろそろ本題に入りましょうか。これからの貴方たちの予定、そして貴方たちの待遇についての話をね。」
そう告げたクレアは、太一郎たちが何故このフォルトニカ王国に召喚されたのか、今のこの世界の情勢、そして太一郎たちに何を期待しているのかを、静かに語りだしたのだった。
半年前に太一郎たちの先代の転生者たちに倒されたはずの魔王カーミラが、再び魔王城に顕現した事。
そして敵は魔王カーミラだけではない。野良の魔物たちや、先程太一郎が倒したバルゾムのような賊たちも、この国の脅威になっているという事。
それだけではなく、この国だけが独自運用に成功している転生術を巡って、他国からも技術提供を求められ、強い圧力を掛けられ続けているという事。
それらと戦う為の貴重な戦力として、太一郎たちを召喚した事。
当然ながら太一郎たちに命懸けの戦いに赴いて貰う以上は、国内における身分と正当な報酬は保証するという事を。
他国からの圧力に関しては太一郎も初耳だったが、冷静に考えれば当然だろう。
何しろ転生術などという異質かつ強大な力だ。しかも運用に成功しているのはフォルトニカ王国だけで、他国への技術提供をクレアが固く禁じているとシリウスが語っていたのだ。
それ故に転生術の技術を求めて、他国が圧力を掛けてくるのは当然だと言える。
最悪の場合、太一郎たちは魔王軍や魔物たちだけでなく、全く何の悪意も無い、ただ上からの命令に従っているだけの他国の騎士団とも、殺し合いをしなければならなくなる可能性もある…そんな事は出来れば避けたい所なのだが。
「お母様、私からも一言…。既にシリウスから話は聞いていると思いますが、皆さんの衣食住、そして皆さんが使う装備に関しては、私の方で無償提供させて頂きます。」
そんな太一郎の不安を敏感に察したのか、サーシャが笑顔で太一郎たちの待遇について語り出したのだった。
「既に城内に皆さんの個室を用意させたので、後でケイトに案内させますね。食事に関しても城内の食堂を無料で使えるように手配してあるので、どうぞご自由に利用して下さい。他に何か質問はありますか?」
「王女殿下。2点、込み入った話があるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。何ですか?太一郎さん。」
太一郎の問いかけに、サーシャは穏やかな笑顔を見せたのだが。
「まず1点。先立って私が武器屋の店主から譲渡された、この隼丸の代金なのですが…王女殿下に代金を肩代わりして頂く事になっていると伺ったので、恐縮ながら請求書を持参させて頂きました。」
「隼丸!?…そんな…!!どうして貴方がその刀を!?」
隼丸の代金の請求書を太一郎に手渡された途端、何故かサーシャがとても悲しみに満ちた表情になったのだった。
予想外のサーシャの対応に、訳が分からないといった表情を浮かべる太一郎。
「は、武器屋の店主に居合刀は無いかと尋ねた所、この刀を譲って頂いたのですが…誰も買い取ってくれなかった、使いこなせる者が誰もいない、などといった愚痴を頂いたので、折角なので私が譲り受けた次第です。この刀がどうかなさいましたか?」
「…そうですか…貴方が隼丸を…これもまた運命なのかもしれないですね…。」
「は?」
「いえ、何でも無いのです。貴方になら安心して隼丸を託せます…きっと彼女も喜んで下さる事でしょうから…。」
「はぁ。」
悲しみに満ちた笑顔で、太一郎を見つめるサーシャ。
サーシャが言っている事の意味が、太一郎には全然理解出来なかったのだが。
何か深い事情があるのかもしれないが、取り敢えず太一郎が隼丸を使う分には何の問題も無さそうだ。
だが。
「分かりました。その隼丸の代金に関しては、明日にでも私が武器屋の主人に支払っておきますので、安心して下さいね。」
「それともう1つ。そちらのシリウスに関しての苦情なのですが。」
「な、何だと!?」
いきなり太一郎に名指しされたシリウスが、予想もしなかった太一郎の言葉に困惑した表情を見せたのだった。
「その…私が真由と共に魔法屋を訪れた際の出来事なのですが…魔王軍との戦いに備えて大量のマジックアイテムが必要なのは分かるが、彼から無茶な納期を要求されて困っていると、毎日夜遅くまで残業しているが全然間に合わないと、シリウスに文句を言ってやってくれと、私が店主から怒られてしまいまして。」
「まあ、それは本当なのですか!?シリウス!!」
サーシャに厳しい視線を向けられたシリウスが、とても狼狽えた表情になる。
「あ、いや、その…この者の言う通りで御座います…。」
「魔王軍との戦いに備え、出来るだけ多くのマジックアイテムを用意して欲しい…確かに私は貴方にそう命じました。」
「は…。」
「ですが国を活かすのは民です!!民が活きなければ国は決して活きないのです!!それなのに大切な労働力である民に無茶な残業をさせてどうするのですか!?もし魔法屋の主人が過労で倒れるような事になったら、貴方は責任を取れるのですか!?」
このサーシャの叱責を、向こうの世界のブラック企業の経営者や上層部の馬鹿な連中にも、小一時間程聞かせてやりたいと…太一郎は心の底からそう思ったのだった。
「申し訳ございません、姫様。ですが魔王カーミラの脅威に対抗する為の戦力を、一刻も早く整えなければならないのも、また事実でして…!!」
「そうですね。この件に関しては、貴方を急かした私にも責任はあります。」
情けない表情のシリウスに、サーシャは呆れた表情で溜め息をついたのだった。
「分かりました。魔法屋の主人には後で私の方から、菓子折りを持参して謝罪しておきます。今後は定時で終業しても構わないので、無理の無い範囲で品物を納品するよう伝えておきますから。」
「はっ!!恐縮です、姫様!!」
バツが悪そうにサーシャに頭を下げながら、シリウスはハッとなって、先程の太一郎との会話を思い出していた。
『では君たちの今後の予定を伝える。この後18時から君たちには、女王陛下や姫様に謁見して貰う。』
『残り4時間か…それまでの間、自由行動にさせて貰ってもいいか?色々と把握しておきたい事があるんでね。』
色々と把握しておきたい事があるんでね。
色々と把握しておきたい事があるんでね。
色々と把握しておきたい事があるんでね。
(ま、まさか…!!この男が言っていた『色々と把握しておきたい事』というのは…私の悪評か!!)
そう…シリウスは太一郎の行動の意図、そして太一郎が何を企んでいるのかを、瞬時に理解したのだ。
太一郎はシリウスを脅かす為に、敢えてシリウスの尖兵として戦場の最前線で戦い、多大な実績を残して『英雄』となる事で、この国のトップであるクレアやサーシャからの絶対的な強い信頼を得るつもりなのだ。
そうすれば太一郎はこのフォルトニカ王国の上層部の中でも、特に強い権限や発言力を持つようになる。
そしてそれ程の発言力の持ち主であれば、その発言の1つ1つにおける影響力も、この国において非常に甚大な物になる…その地位を利用してシリウスを脅かすつもりなのだ。
つまりは、こういう事だ。
もしクレアやサーシャからの強い信頼を得て、名実共にこの国の『英雄』となった太一郎が、シリウスに関する悪評を国中に垂れ流したとする。
すると悪評の真偽に関係無く、この国の『英雄』である太一郎の発言は、瞬く間に『真実』と化して国民全員に知れ渡ってしまうのだ。
しかも太一郎は相当頭が切れる男だ。シリウスを無理矢理犯罪者に仕立て上げる為に情報操作をしたり、証拠を捏造するなんて事さえも容易にやってのけてしまう事だろう。
そうなれば間違いなく、シリウスの宮廷魔術師としての地位が脅かされてしまう。下手をすると解雇されて路頭に迷うなんて事にもなりかねない。
そうなりたくなかったら、とっとと僕たちの『呪い』を解けと…太一郎の自分を見据える視線が思い切りシリウスに対して、そんなような脅しをかけていたのだった。
(どうやら僕の意図を理解してくれたようだな。シリウス。)
(くっ…!!聡明で思慮深い男だとは思っていたが、まさかそんな事まで考えて行動していたとは…!!)
シリウスに対しての、悪質な嫌がらせとも取れる太一郎の行動。
太一郎はもう既に『呪い』の発動条件を、全て完璧に把握してしまっている…それをシリウスは思い知らされてしまったのだった。
そう、太一郎はシリウスに対して『肉体的』な攻撃は一切していない。
今回のような嫌がらせ程度なら『呪い』は絶対に発動しないという事を、太一郎は既に理解してしまっているのだ。
『呪い』の発動条件を把握しているが故に、太一郎は『呪い』の発動を全く恐れていない。強気の態度でシリウスを無言で、しかもサーシャやクレアに『呪い』に関してバレないように巧みに追い詰めている。
これまでに既に『呪い』が3回発動しているが、まさかあのたった3回の『呪い』だけで、詳細な発動条件を完璧に分析してしまったとでも言うのか。
(私は…とんでもなく恐ろしい男に『呪い』をかけてしまったのかもしれないな。)
(どうするシリウス?後で僕たちに報復として『呪い』を任意発動するか?最もそんな真似をしても、逆に君自身を追い詰める結果になるだけだという事くらい、『呪い』を掛けた当事者である君なら理解しているだろうけどな。)
『呪い』では対象を一時的に苦しめる事は出来ても、殺す事は出来ない。
そしてあくまでも精神的な攻撃であって、肉体的には何の損傷も与えられないのだ。
これらは太一郎たちが魔王軍と戦う為の貴重な『戦力』であり、下手に必要以上の苦しみを与えて潰してしまっては、元も子も無いからだというシリウスの意向による物だ。
だが今となっては、それが完全に裏目に出てしまっていた。
それどころか逆に太一郎に『呪い』の発動さえも、シリウスを摘発する為の材料や証拠として利用されてしまう事にもなりかねないのだ。そして彼ならそれ位やってのけてしまうだろうという事を、シリウスは理解していた。
知能指数が低い一馬たちに関しては、先程から『呪い』の発動を恐れているような態度が見受けられており、彼らに限っては渋々ながらもシリウスの思惑通りに動いているように見える。
だが太一郎と真由に限っては何の迷いも無い力強い瞳で、焦るシリウスを見据えてしまっていた。
それでも…だからこそ。
(いや…それでこそだ…!!これ位有能な男でなければ、強大な力を持つ魔王カーミラには到底太刀打ち出来ないだろう…!!)
(そうだな。何しろ君たちにとって僕たちは、魔王カーミラと戦う為の貴重な戦力だ。潰してしまっては元も子も無いはずだ。)
魔王カーミラの力は強大だ。だからこそ太一郎たちの力が絶対に必要なのだ。
絶対に必要だからこそ、謀反される事を恐れたシリウスが、太一郎たちに『呪い』を掛けたのだ。
3か月前の、あの惨劇…国民たちには公になってはいないのだが…もう二度と絶対に、あんな凄惨な事件を繰り返す訳にはいかないのだから。
だからシリウスは、太一郎たちの『呪い』を絶対に解く訳にはいかないのだ。
(まあいい、どの道君たちは『呪い』からは絶対に逃れられないのだ。それにこの男も大人しく私の指示に従い戦っていれば、『呪い』が発動しない事くらい分かっているはずだ。)
(君の事だ。僕たちが『呪い』からは決して逃れられないとでも考えているんだろう?だが僕も真由もこうして『呪い』を解く為に立ち回っているんだからな?)
(君たちが『呪い』を解くなど絶対に不可能だ。あれだけ強大で複雑な術式を組み込んだのだからな。教会の神父たちに『呪い』を解くよう依頼した所で徒労に終わるだけだ。)
(恐らく君は教会の神父たちでは『呪い』の解除は出来ないとでも考えているんだろうが、『呪い』を解く手段は1つだけでは無いんだよ。僕も真由も色々と探っているし、君自身の手で『呪い』を解かせるという手もあるんだからな?)
クレアとサーシャは、このフォルトニカ王国の人々を魔王カーミラの魔の手から守りたいという、悪意の無い純粋な『願い』から、シリウスに太一郎たちをこの異世界へと転生させるよう命じた。
だがそんな2人の想いも虚しく、シリウスが独断で太一郎たちに発動した『呪い』を巡って、こうして太一郎とシリウスの峻烈な争い、駆け引きが繰り広げられてしまっている。
この国の人々を守りたい…クレアもサーシャも、シリウスもレイナも、太一郎と真由も…その『想い』は同じはずなのに。
それなのに何故…こんな事になってしまったのか。
「では皆さん、今日は本当にお疲れ様でした。特に太一郎さんと真由さんには召喚されて早々、ロファールとラムダ村を救って頂いた事…本当に心の底から感謝しています。」
「いえ、私と真由の力がお役に立てて光栄です。王女殿下。」
「既に食堂の調理師たちに皆さんの夕食を用意させたので、我が国の自然の恵みをどうぞご堪能下さいね。ケイト、皆さんを食堂へ。」
「は。では転生者の皆様、食堂へとご案内致します。こちらへどうぞ。」
ケイトに促されて、太一郎たちは部屋を出ていく。
クレアとサーシャ、シリウスとレイナ…この4人の様々な思惑が絡み合った視線を背中に受けながら。
「真由。今日は初めての実戦で疲れただろ?バタバタしてて今まで言いそびれてしまったけど、今日は本当によく頑張ったな。」
「うん。お兄ちゃんもお疲れ様。私自身はお兄ちゃんみたいに戦えないけど、それでも私の『異能【スキル】』なら必ずお兄ちゃんの役に立てるよ。」
「この先、僕もお前も戦いの真っ只中に容赦無く放り込まれる事になるだろう。だけど例えどんな敵が相手だろうと、僕は必ずお前を守り抜いてみせるよ。」
「私も精一杯、お兄ちゃんを『異能【スキル】』でサポートしてみせるから。」
互いに優しく手を繋ぎ合いながら、太一郎と真由はケイトの案内で食堂へと歩き出す。
向こうの世界で理不尽な交通事故で殺されたと思ったら、いきなり異世界へと召喚され、『呪い』を掛けられ、バルゾムと戦い、クレアとサーシャに謁見して…。
今日は色々あった。本当に色々あって疲れてしまった。
母親の瑠璃亜を理不尽な形で失い、異世界で2人ぼっちになってしまった太一郎と真由。
それでも太一郎も真由もこのフォルトニカ王国で、2人で力を合わせて生きていかないといけないのだ。
そしてシリウスに掛けられた『呪い』も、いつか必ずどうにかして解除してみせる。
その上で、自分と真由を不当に苦しめたシリウスに対して、太一郎は復讐を果たすのだ。
自分の左手をぎゅっと握る真由の右手の感触を感じながら、太一郎は改めてその決意を胸に秘めたのだった…。
次回から第2章開始。いよいよ太一郎たちは転生者として、本格的に戦いの中に身を投じていく事になります。