第67話:交渉と言う名の脅迫
新章開始。今回はサザーランド王国が舞台です。
フォルトニカ王国とパンデモニウムによる同盟締結を口実にして、周辺各国による両国への侵攻準備が着々と進められる最中、サザーランド王国にバルガノン王国からの使者が送られます。
パンデモニウムとの同盟を破棄しない場合、サザーランド王国への武力介入さえも示唆する使者なのですが…。
サザーランド王国に続く2例目となる、フォルトニカ王国とパンデモニウム…「人間と魔族との間に締結された同盟条約」という衝撃的なニュースは、各国の記者たちがフォルトニカ王国から飛ばした伝書鳩たちによって、瞬く間にこの異世界全土に広がったのだった。
このとんでもないニュースに世界中の国や人々が大騒ぎする最中、瑠璃亜の演説が行われた翌日の朝9時。
城の自室でとても忙しそうに事務作業を行っているラインハルトだったのだが、そこへコンコンコンと軽快に扉をノックする音が聞こえたのだった。
「入っていいぞ。」
「失礼致します。ラインハルト様。」
ラインハルトに促されて部屋に入ってきたセレーネに、ラインハルトが穏やかな笑顔を見せたのだが。
「セレーネか。どうした?」
「バルガノン王国からの使者と名乗る女性が、ラインハルト様に面会を求めておられます。応接室でお待ち頂いているのですが…。」
「やれやれ、今度はバルガノン王国か。分かった、すぐに行こう。」
苦笑いしながら立ち上がったラインハルトが、セレーネに対して
「もうこれで何度目だよ。」
「今日の朝食のパスタには納豆が入っていたよ。」
とか愚痴をこぼしながら、彼女に付き添われて応接室へと向かっていく。
先日、パンデモニウムとの間に同盟条約を締結してからというもの、こうして周辺各国から派遣された使者が何度にも渡って、ラインハルトの元に訪れるようになっているのだ。
その用件のいずれもが、パンデモニウムとの同盟条約を直ちに破棄しろという物なのだが。
それら全てをラインハルトは丁重に断っているのだが、それでも周辺各国のいずれもが全く諦める素振りを見せず、何度でも何度でも な ん ど で も、こうしてラインハルトの元に使者を送り続けているのだ。
周辺各国の国王たちの誰もが表向きには、魔族との間に締結した同盟条約などという前代未聞の事態に対して、使者たちを通じて色々と難色を示しているのだが。
しかし実際に使者たちを派遣した国王たちの誰もが、本心ではパンデモニウムが独自運用している転生術欲しさに、虎視眈々とパンデモニウムへの侵攻の機会を伺っている状況なのだ。
その為にはパンデモニウムと同盟条約を結んでいるサザーランド王国の存在が、邪魔になるとでも思っているのだろう。
『雷神の魔術師』の異名を持ち、イリヤが太一郎と互角だと称賛する程の、凄腕の魔術師であるラインハルト。
彼の戦闘能力も戦術眼もカリスマ性も相当な物なのだが、それに加えてサザーランド王国騎士団自体の戦力も相当な物だ。
そのサザーランド王国騎士団を敵に回すのは厄介…いや、むしろ上手く立ち回って味方に引き入れる事が出来れば、パンデモニウム侵攻作戦においての強大な戦力になる…そんな事を周辺各国の国王たちは企んでいるのだ。
だからこうして周辺各国のいずれもが、性懲りもせずに何度でも何度でも な ん ど で も、サザーランド王国に使者を派遣しているのだが…ラインハルトからは全く良い返事が返ってこないのが現状だ。
かくして応接室に訪れたラインハルトの視界に映ったのは、とても若く美しい女性だった。
国から派遣された公的な使者という事もあってか、清楚な礼装を身に纏い、背筋をピンと伸ばして礼儀正しくソファに座っている。
そしてラインハルトとセレーネが応接室に姿を現わした途端、彼女は凛とした態度で立ち上がり、ラインハルトに対して礼儀正しく深々と一礼したのだった。
「お初にお目に掛かります、ラインハルト陛下。私はバルガノン王国からの使者として馳せ参じました、外交官を任されておりますルミアと申します。どうかお見知り置きを。」
「ルミア殿か。遠路はるばるご苦労だったね。私はサザーランド王国の国王ラインハルトだ。変に畏まらなくてもいいから、楽にしてくれて構わないよ。」
「は。」
穏やかな笑顔でラインハルトに促され、礼儀正しくソファに座り直したルミア。
そのルミアの反対側のソファにラインハルトが座り、セレーネが護衛としてラインハルトの隣で起立し、ルミアの一挙手一投足に目を光らせている。
「君はバルガノン王国からの使者だと聞かされたが、早速で悪いが本題に入ってくれないかな?私もそうそう暇では無いのでね。」
「承知致しました。ではこちらの親書を。国王陛下からのラインハルト様に対しての言伝で御座います。」
「カーゼル殿から私への言伝か。わざわざ届けに来てくれて有難う。では早速読ませて貰うよ。」
ルミアから丁重に差し出された封筒を、ラインハルトが丁寧に受け取って開封する。
その中に入っていた親書に書かれている文章に、静かに目を通していたラインハルトだったのだが。
「…はぁ…やれやれ。いつかはこうなるとは思っていたが、遂にここまで来たか…。」
呆れたような表情で、読み終わったラインハルトが深く溜息をついたのだった。
そのラインハルトの普段と明らかに違う態度に、怪訝な表情を浮かべるセレーネ。
これまで周辺各国から送られた使者たちがラインハルトに親書を渡した際は、それら全てにラインハルトは即座に「応じられない」と即決していたのだが。
それがこんな、いつものように即答せず、それ所か呆れたような表情で溜息をつくなど…こんな事は今回が初めてのケースなのだ。
「あの…ラインハルト様。カーゼル殿からの親書には一体何と?」
「読んでみろ。」
「はぁ。」
ラインハルトに促され、手渡された親書に言われた通りに目を通すセレーネだったのだが。
「んなっ…!?」
そのあまりも理不尽をすっ飛ばして極悪非道な内容に、セレーネは怒りを爆発させたのだった。
最終通告書
我が国はこの世界における最大の脅威である魔王カーミラを討伐し、この世界に真なる恒久和平をもたらす為、近日中に魔王カーミラの住処であるパンデモニウムへと侵攻作戦を開始する。
差し当たって魔王カーミラと同盟和議を締結している貴国に対しては、直ちに同盟和議を破棄し、我が国に協力する事を強く要求する。
期限は、我が国のパンデモニウム侵攻作戦の開始時刻、アルテミア暦5973年11月23日午前9時までとする。
それまでに貴国が魔王カーミラとの同盟和議を破棄し、我が国への協力の姿勢を見せなかった場合。
我が国は貴国こそがこの世界の最大の脅威と判断し、この世界に真なる恒久和平をもたらす為、貴国に対して武力介入を行う事を通告する。
これは我が国からの最終通告であり、抗議や弁明の余地は一切無い事を通告する。
以上。
バルガノン王国国王・カーゼル
「貴女という人は…!!これでは最早交渉ではなく、我々に対する脅迫ではないか!!」
「止めろ、セレーネ。」
「ラインハルト様…!!」
怒りに満ちた表情でルミアに掴みかかろうとしたセレーネを、ラインハルトが落ち着いた表情で右手で制する。
「彼女は単に使者として、カーゼル殿の意向を私に伝えに来ただけだ。親書の内容はどうあれ彼女自身に全く非は無い。彼女を責めるのは筋違いだよ。」
そう、ラインハルトの言うように、ルミアは単に親書をラインハルトに渡す為に、使者としてサザーランド王国に訪れただけであって、サザーランド王国に戦争を仕掛けに来た訳でも、まして危害を加えに来た訳でも無いのだから。
いかに親書の内容が無茶苦茶な代物だからといって、下手にここでルミアに危害を加えてしまえば…いいや、それこそ胸ぐらを掴んだだけでも、重篤な国際問題になってしまいかねないのだ。
それこそ親書に書いてあるように、バルガノン王国がサザーランド王国に攻撃を仕掛ける為の、格好の口実にされてしまいかねないのだから。
いや、もしかしたらそれこそが、バルガノン王国国王・カーゼルの真の狙いなのかもしれないが。
だがしかし、それにしてもだ。
これまでラインハルトに対して使者を送ってきた国のいずれもが、パンデモニウムとの同盟和議の破棄を求めてはしても、サザーランド王国騎士団の戦力やラインハルトの戦闘能力を警戒してか、サザーランド王国への襲撃を示唆した事は只の一度も無かったというのに。
それがここまで強気の態度で迫ってくるという事は、魔王軍にもサザーランド王国騎士団にも…それこそ魔王カーミラやラインハルトにさえも、『勝てる』という絶対的な自信でもあるというのだろうか。
チェスターのように馬鹿なのか…それとも何か秘策でも用意しているのだろうか。
「ルミア殿。わざわざ親書を届けに来てくれて有難う。」
「は、それで返答の程は?」
「今から今回の件に関して大臣たちと緊急会議を執り行うので、申し訳無いが期限まで待って頂く事は可能だろうか?出来るだけ早く回答するよう尽力はさせて貰うがね。」
「即答しては頂けないのでしょうか?」
「内容が内容故にそれは難しいな。流石に国王とはいえ、今回ばかりは私1人の一存で決められる事では無いのだよ。」
「承知致しました。」
それはルミアに対しての建前であって、実はラインハルトの気持ちは既に固まっている。
ラインハルトの本当の狙いは、
『わざと期限ギリギリまで回答を先延ばしに、形だけの緊急会議を執り行う事で、ラインハルトがバルガノン王国騎士団の戦力やカーゼルの存在を脅威に思っている、回答を迷っていると、敢えてカーゼルに思わせておく』
という物なのだ。
何しろ親書には、サザーランド王国への侵攻さえも示唆されているのだ。
反逆か従属か…どちらを返答したとしても、バルガノン王国騎士団によるサザーランド王国への侵略及び介入が、即座に行われる事は間違い無い。
それを防ぐ為にラインハルトは、敢えて身も蓋もない言い方をするならば、
「バルガノン王国怖いよ~!!ちょっとビビってるから考えさせてくれよ~(泣)!!」
などと敢えてルミアに伝えたのだ。
こうする事でカーゼルに
「雷神の魔術師などと言っても所詮はヒヨッコよ!!放っておいても問題無いわ!!いやむしろ奴がワシに屈服するのも時間の問題よのう!!ぐわっはっはっはっはっは(笑)!!」
などと思わせておき、カーゼルの注意をひとまずはパンデモニウムだけに向けさせるという、ラインハルトの意図があるのだが。
そんなラインハルトの意図を知ってか知らずか、ルミアは凛とした態度で席を立ったのだった。
「分かりました。では私はこれより早急に国に戻り、ラインハルト陛下の回答を国王陛下にお伝え致します。」
「ああ、頼むよ。」
「確認致しますが、期限まで回答を保留なさるという事でよろしいのですね?」
「うむ、それで間違い無いよ。」
「承りました。ではこれにて失礼させて頂きます。」
深々と一礼し、応接室を去っていくルミアの後ろ姿を、神妙な表情で見送るラインハルトとセレーネだったのだが。
「ふう…さてと。セレーネ、すぐに大臣たちを会議室に集めてくれないか?」
「はっ!!」
果たしてラインハルトの号令の元、即座に大臣たちを招集しての、形だけの緊急会議が会議室で執り行われたのだった。
別に緊急会議など行わなくても良かったのだが、もしかしたらバルガノン王国から送られた諜報部隊が、周囲に潜伏しているかもしれないのだ。
別に怪しい気配は感じられないので恐らく大丈夫だとは思うが、ラインハルトがカーゼルにビビッていると、少しでもカーゼルに思わせておかなければならない。念には念を入れて一応だ。
(こんな時に瑠璃亜殿のように、『敵意感知【ホストセンサー】』の『異能【スキル】』でも使えれば簡単なんだけどなぁ…。)
そんな事を考えながら、ラインハルトは事の詳細を大臣たちに伝えたのだが。
「…と、いう訳で、皆の意見を纏めたいんだ。」
バルガノン王国カーゼルが、サザーランド王国への武力介入さえも示唆してきた…このラインハルトからの説明に、流石に大臣たちも大騒ぎになってしまっていた。
無理も無いだろう。何しろ武力介入の示唆など、これまでのケースでは有り得なかった事だからだ。
今回ばかりは私1人の一存で決められる事では無いからと、ラインハルトからの招集を受けて来てみれば…いつの間にかとんでもない事態になってしまっていた事で、大臣たちの誰もが戸惑いを隠せずにいるようだ。
こんな時、前国王のチェスターなら即座にブチ切れて、有無を言わさずバルガノン王国への反逆の意志を示していただろうが。
「国王陛下!!無礼を承知で上申させて頂きますぞ!!」
「構わないよ。私はそのつもりで皆をここに呼んだのだからね。」
「直ちにパンデモニウムとの…瑠璃亜殿との同盟和議を破棄すべきです!!」
やはり自国が侵略される危機が迫っているとあっては、流石に大臣たちも国を守る責務を負う者として、そう返答する者がいても不思議では無い。
この程度の事は、ラインハルトも想定の範囲内だ。
いや、むしろ逆に大歓迎とでも言うべきか。
何故ならこの大臣たちの態度でさえも、サザーランド王国がバルガノン王国にビビッているとカーゼルに思わせるのに、充分に役に立ってくれるのだから。
彼らの名誉の為に言っておくが、彼らは決してカーゼルの存在にビビッているのではない。ましてリゲルたちのような欲にまみれた愚か者などでは断じて無い。
真に国を、そして民を憂う者として、このような事をラインハルトに上申しているのだ。
もしバルガノン王国に反抗でもしようものなら、直ちにバルガノン王国騎士団による武力介入が行われる事は間違いない。
そうなればサザーランド王国の愛すべき民たちが、そして前線に立って戦う兵たちが、一体どれだけ犠牲になってしまうのか…それを大臣たちはラインハルトに苦言を呈しているのだ。
「国王陛下!!どうかご決断を!!我が国と民の安全と平和を真に守りたいと願うのであれば、パンデモニウムと結んだ同盟和議を直ちに破棄し、バルガノン王国に従うべきですぞ!!」
「だがそれは結果的に瑠璃亜殿を裏切る事になってしまう。それでカーゼル殿の言いなりになってパンデモニウムを攻めてしまえば、逆に我々が瑠璃亜殿の怒りを買い、返り討ちにされてしまう事にもなりかねないが?」
「…そ、それは…しかし…!!」
「瑠璃亜殿はフォルトニカ王国での記者会見で、こう仰っていたよな?こちらから人間たちに一切手出しはしないが、そちらから攻めて来るなら一切合切容赦はしないと。」
ラインハルトの言葉に、大臣たちの誰もが大騒ぎになってしまう。
そもそもラインハルトは、かつて瑠璃亜と戦い無様に敗北した経験があるのだ。
それを知っているからこそ、大臣たちの誰もが戸惑いを隠せずにいたのだった。
「それも踏まえて皆の意見を集めたいと思ってね。カーゼル殿に従いバルガノン王国騎士団と連携し、パンデモニウムに攻め入るか。それとも瑠璃亜殿との同盟を継続し、バルガノン王国と戦うか。」
「くっ…しかし今のこの状況…!!まさに八方塞がりではありませぬか!!」
カーゼルに従えば瑠璃亜を敵に回し、瑠璃亜との同盟を継続すればカーゼルを敵に回す事になってしまう。
つまりはどっちに転んだとしても、サザーランド王国は戦火に巻き込まれる事から逃れられない事を意味するのだ。
全く、余計な事をしてくれた物だと…大臣たちの誰もはカーゼルの横暴さに苛立ちを隠せずにいたのだった。
「だからこそ私はカーゼル殿への返答を保留したのだ。流石にカーゼル殿に武力介入を示唆されたのでは、私も慎重にならざるを得ないのでね(嘘)。」
「いや、国王陛下!!それでも私は同盟破棄を提案致しますぞ!!」
「うむ。して、その根拠は?」
「瑠璃亜殿は慈悲に満ち溢れた聡明なお方!!それに対してカーゼル殿の性格は国王陛下もご存じでしょう!!」
「ああ、とても血気盛んな、豪快な御仁だとは聞いているよ。」
「だからこそ話し合いが通じないカーゼル殿と違い、瑠璃亜殿ならば事情を説明すれば、納得して頂けると私は思うのです!!」
さて、バルガノン王国からの諜報部隊が城に紛れ込んでいるのであれば、この一連のやりとりにどう対応する…?
大臣たちの話を聞きながら、そんなような事をラインハルトは考えていたのだった。
「しかしチェスターが瑠璃亜殿に虐殺された事は、皆も知っているだろう?」
「うぐっ、そ、それは…!!」
「彼女は自分たちに敵対する者に対しては、何があろうと誰であろうと絶対に容赦はしないよ。私は営倉室にいたので直接現場にいた訳では無いが、見るも無残な殺され方をしたとセレーネから聞かされている。」
「で、ですがカーゼル殿もまた相当な武人!!あの方の暗黒流空蝉剣の恐ろしさは、国王陛下もご存じでしょう!?」
大臣たちがさらに大騒ぎする様子を、ラインハルトが国王らしく威風堂々と、落ち着いた表情で見据えていたのだが。
「そうだな。私とて真正面から戦えば、苦戦は免れぬだろうな(大嘘)。」
「でしょう!?でしたら…!!」
「では皆はカーゼル殿と瑠璃亜殿と、どちらが強いと思う?」
「は!?」
このラインハルトからの無茶な問いかけに、大臣たちはさらに大騒ぎになってしまったのだった…。
「そうだな、言い方を変えようか。カーゼル殿と瑠璃亜殿と、皆はどちらが敵に回ると恐ろしいと思う?」
「そ、それは…どちらが恐ろしいかとなると…!!」
「うむ。現状ではどちらかを敵に回さなければならない状況なのだが?」
敢えてこのような無理難題な言い方をしたのは、もしバルガノン王国からの諜報部隊が城に紛れ込んでいた場合、彼らに『自分たちが迷っている』と巧みに思わせておく為だ。
それも踏まえてラインハルトは、大臣たちとの形だけの話し合いを続けていたのだが。
ああでもない、こうでもない…両者の話し合いはラインハルトの思惑通り平行線を辿り、30分経っても全く決着の見通しが立たずにいたのだった。
そして。
「仕方が無い。このまま会議を続けても埒が明かないから、この辺りで一旦切り上げて終了という形にさせて貰う事にするよ。」
「では国王陛下、一体どうなさるおつもりで…!?」
「うむ。各自、名前は書かなくてもいいから、今一度自分の意見を紙に書いて私に提出してくれ。」
ラインハルトに促されたセレーネが、紙切れを大臣たちに手渡していく。
無記名による投票を行い、それを踏まえて今後の判断をする。
これも所詮は形だけの代物だが、それでもバルガノン王国の諜報部隊が城に紛れ込んでいた場合を想定し、ラインハルトがまだ迷っていると思わせる為の物だ。
「…よし、これで全員分だな。皆、今日は貴重な時間を私などの為に使ってくれて有難う。各自、自分の持ち場に戻ってくれて構わないよ。」
「いえいえ、我ら如きが国王陛下のお力になれるのであれば、いつでもご用命下さいませ。」
「では今回の皆の意見を踏まえた上で、今後の対応を検討させて貰うよ。」
大臣たちが去っていった後、渡された書類に目を通したラインハルトだったのだが。
瑠璃亜との同盟を破棄するか、継続するか…やはり大臣たちの意見は真っ二つに分かれてしまっているようだ。
だがそれでもラインハルトの気持ちは、緊急会議を行う前から既に固まっている。
それなのに形だけの緊急会議を行い、多忙な大臣たちの貴重な時間を30分以上も潰してしまった事に関しては、ラインハルトは本当に申し訳無く思っているのだが。
だがここまでやったのであれば、仮にバルガノン王国からの諜報部隊が紛れ込んでいた場合、ラインハルトがまだ迷っていると間違い無くカーゼルに報告してくれる事だろう。
「やれやれ、ただでさえクソ忙しいというのに…。カーゼル殿も余計な仕事を増やしてくれた物だ。」
決意に満ちた表情で、ラインハルトはセレーネに付き添われながら、自室へと戻っていったのだった。
次回は久しぶりの戦闘シーンです。
瑠璃亜の指示で伝説の武器の一刀・神刀アマツカゼを入手する為、神殿に訪れたドノヴァンら魔族の一個小隊なのですが、そこを根城にしていた強大な魔物であるドルムキマイラの襲撃を受けてしまいます。
ドルムキマイラを部下たちに任せ、傷つきながらも何とか神刀アマツカゼを手にするドノヴァンなのですが…。