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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第8章:動き出した運命
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第64話:だとしても

太一郎が魔王カーミラの義理の息子である事を口実に、太一郎とクレアを貶めて自らが新たな国王となるべく、市民たちに対して力強く演説をするリゲル。

その欲と謀略にまみれた演説の果てに、待ち受ける物とは…。

 「我がフォルトニカの同志諸君たちよ!!既に皆さんもご存じだと思うが、魔王カーミラが我がフォルトニカを土足で踏みにじった挙句、女王陛下を相手に和平交渉をしようなどと、愚劣な事を言い出した!!」


 もうすっかり日が沈んで夜になろうかという最中、配下の部下たちからの近辺警護を受けながら、リゲルがとても真剣な表情で、しかし心の中では妖艶な笑みを浮かべながら、広場に集まってきた市民たちに対して力強く演説を行っていた。


 「だが皆さんも記憶に新しいだろう!!先代の魔王カーミラによって、世界中の人々がどれだけ犠牲になったのかを!!どれだけ理不尽に苦しめられたのかという事を!!」


 拡声機能が付いたタリスマンを使い、自らの主張を大勢の人々に訴えるリゲル。

 リゲルの声はタリスマンを介し、今リゲルが立っている広場だけでなく、王都内のかなりの広範囲にまで広がっている。

 

 「先代の魔王カーミラは、我々が異世界より召喚した『伝説の女剣士』須藤明日香と相討ちになり、戦死した!!彼女の尊い犠牲により、我々は一時の安息と平和を手に入れる事が出来た!!だが薄汚い魔族共は性懲りもせず、またしても次なる魔王カーミラを異世界より召喚するなどという、とんでもない暴挙を犯したのだ!!」


 多くの市民たちが今日の仕事を終えて、帰り支度を始めようか、あるいは今日はどこかに外食でも食べに行こうか、飲みに行こうかと考えている今の時間。

 タリスマンを手にしたリゲルの声が、近所迷惑だと言っても差し支えないレベルで王都中に広がってるもんだから、そのリゲルの演説を市民たちは否応なしに聞かされてしまっていた。

 これまでリゲルの演説を、別に興味が無いわと言わんばかりに聞き流していた何人かの市民たちもまた、この国の英雄である明日香の名前が突然出てきた事で、リゲルの演説に次々と興味を引かれていったのだが。


 「しかもその魔王カーミラは、よりにもよって『閃光の救世主』の母親だという、衝撃の事実が判明した!!つまりこれは同志諸君が英雄だと呼んでいるあの男が、実は薄汚い魔族共の手先だった事を意味するのだ!!」


 しかしリゲルは先代の魔王カーミラの度重なる悪行を口実に、今度は先代の魔王カーミラとは全く何の関係も無い、全くの赤の他人である瑠璃亜や太一郎をおとしめようと企てたのだった。

 このリゲルの言葉で市民たちの多くが、とても厳しい表情になる。

  

 「さらに魔王カーミラは何を血迷ったのか、我が国に対して和平交渉を持ち掛けるなどという、極めて愚劣な事を言い出した!!あれだけ世界中の人々に多大な苦しみを与えておきながら、あの魔女は一体何を寝ぼけた事を言っているのか!?」


 その市民たちの厳しい表情を見たリゲルが、今がまさに好機と言わんばかりに、さらに畳みかけるかのように瑠璃亜や太一郎への非難を強めていった。


 「しかも女王陛下は何を気狂いなされたのか、魔王カーミラとの和平交渉の場に臨むなどという、極めて理解不能で愚かな判断を下されたのだ!!我々が魔王カーミラに要求すべきなのは対話などではなく、薄汚い魔族たちを我々に隷属れいぞくさせる事ではないのか!?その程度の事も女王陛下はご理解なさらないのだろうか!?」


 そしてリゲルのこの非難は、さらにこの国の女王であるクレアにまで及んでいた。

 クレアを失脚させる事で自分が新たな国王となり、この国を支配する為に。


 「これらの暴挙を我々は断じて許す訳にはいかない!!魔王カーミラの息子などという大罪人に対して名誉貴族という重役を与え、しかもよりにもよって誇り高き近衛騎士に任官し、さらには姫様と結婚させるなどという数々の暴挙を犯した女王陛下に対し、我々は断固とした態度で厳しく責任追及をしなければならない!!」


 リゲルの力強い演説に、さらに熱が帯びる。

 大袈裟な身振り、手振りを行い、クレアを痛烈に批判する事で、市民たちに自らの存在をアピールしている。

 そして。


 「同志諸君よ!!今こそ立ち上がる時だ!!このままでは女王陛下の度重なる失政の結果、この国を魔王カーミラに支配されてしまう事にもなりかねない!!我らが愛するフォルトニカを守る為、これ以上女王陛下にフォルトニカを任せる訳にはいかないのだ!!」


 リゲルは市民たちに対してクレアの失政を力強くアピールし、クレアを女王の座から降ろすべきだと、自らが王となるべきだと、力強く訴え始めたのだった。


 「私が国王となった暁には、薄汚い魔王カーミラが提案してきた和平交渉を即刻拒否!!さらに周辺他国と連携し、全身全霊をもってパンデモニウムの薄汚い魔族たちを、一匹残らず駆逐すると約束しよう!!そして魔王カーミラの息子だという事が判明した愚かな大罪人『閃光の救世主』も、即座に国外追放処分とする!!」


 右拳を高々と突き上げ、市民たちに力強く呼びかけるリゲル。

 その表情は真剣その物だが、心の中では妖艶な笑みを浮かべていた。

 

 「同士諸君よ!!今こそ君たちの力を私に貸してくれ!!この国の平和と秩序を守る為、私は女王陛下の代わりに新たな国王となり、君たちの命と尊厳を全力で守ると、今ここに誓わせて貰おうじゃないか!!」


 そして自分の発言が市民たちに受け入れて貰えると信じて疑わないリゲルが、厳しい表情の市民たちを熱い視線で見つめながら、力強い演説を見事に締めくくったのだった。


 先日の緊急会議の場において、太一郎の存在を邪魔だと感じたリゲルは太一郎を排除しようと企み、謀反をさせない為という名目によって『呪い』を再付与すべきだと主張した事で、強要と虐待示唆の現行犯でクレアに逮捕された(第53話参照)。

 それにより大臣の地位を剥奪されたリゲルは職を失ってしまい、両親から早く再就職しろと執拗に迫られるなど、すっかり落ちぶれてしまっていた。

 だがそんな中でもリゲルは、自分を失脚させたクレアを陥れ自らが新たな国王となる事を、決して諦めてはいなかったのだ。


 そんな中で魔王カーミラが太一郎の義理の母親で、しかもクレアとの間に和平交渉を持ち掛けてきたというとんでもない情報を、使用人たちから聞かされた。

 そのあまりの突然の出来事、そして衝撃の事実に王都中が大騒ぎになる最中、リゲルはこの騒動を好機と捉え、即座に行動を起こしたのだ。  

 そう…魔王カーミラが太一郎の義理の母親である事を口実に、太一郎をこの国から追放するべきだと…さらに和平交渉を持ち掛けてきた事を口実に、クレアを女王の座から失脚させるべきだと…市民たちに力強く演説を始めたのだ。


 いかに『閃光の救世主』と呼ばれている太一郎といえども、それが魔王の息子だと判明した今となっては、市民たちも決して黙ってはいまい。

 これまでのように英雄呼ばわりなど、決してしなくなるだろう。

 ならば今のこの好機、決して逃す訳にはいかない。

 市民たちが大騒ぎになっている今のこの状況を逃すまいと、クレアを失脚させて自分が新たな国王となる為に、他のクビになった元大臣たちよりの誰よりも早く、迅速に行動を開始したのである。


 魔王カーミラの正体にしても和平交渉の件にしても、リゲルも使用人から聞かされた時は流石に驚きを隠せなかった。 

 だがその騒動さえも、自分が新たな国王となる為に利用させて貰うまでの事だ。

 何しろ先代の魔王カーミラが、あれだけの悪行をしでかしたのだ。

 その魔王カーミラの後を継いだ現在の魔王カーミラが、今更クレアに対して和平交渉など持ち掛けた所で、市民たちが到底受け入れるはずがない。

 さらに太一郎が魔王の息子であるとなれば、太一郎への風当たりは相当強い物になるはずだ。

 

 そこへ太一郎とクレアを痛烈に批判し、自分が新たな国王になるのに相応しいとアピールすれば、市民たちを味方につける事が出来る。

 そうして市民たちを扇動し、巧みにあおって暴動を起こさせ、クレアを女王の座から引きずり降ろそうと…そんな事をリゲルは企んでいたのだが。 


 「…貴方は一体何を言ってるんですか…!?」


 そんなリゲルに対し、先程から演説を聞いていたナタリアが身体を震わせながら、怒りに満ちた表情でリゲルに食って掛かったのだった。


 「あの人が魔王の息子だからって、それが一体何だって言うんですか!?」

 「な、何だと!?」


 予想外のナタリアの侮蔑の言葉に、リゲルは戸惑いを隠せない。

 怒りに満ちた瞳で、ナタリアはリゲルを睨みつけている。


 「あの人が今までこの国の為に、どれだけ必死に戦い抜いてくれたのか!!一体どれだけ沢山の人たちを救ってきたのか!!貴方はそれを知らないんですか!?」


 何しろナタリアはトメラ村で、実際に目の当たりにさせられたのだ。

 実家があるトメラ村の近くにある聖地レイテルの調査任務に赴いた結果、全身傷だらけのボロボロになり、さらにエキドナの暗黒魔法に蝕まれた事で、回復魔法での治療すらままならない無惨な状態になってしまった太一郎の姿を。

 実際にナタリアは太一郎の戦いぶりをその目で見た訳では無いが、それでも聖地レイテルでの太一郎の戦いが、自分では及びもしない壮絶な代物だったという事は、ナタリアも充分に思い知らされたのだ。


 その太一郎に対して、どうしてこのような誹謗中傷を平気で出来るのか。どうして国外追放処分にするなどと平気で言えるのか。

 それがナタリアにはどうしても信じられなかったし、そんな事を平気で主張するリゲルを、ナタリアは心の底から軽蔑していたのだった。

 それにナタリアがリゲルに激怒した理由は、それだけではない。

 

 「それに私の祖母は、トメラ村であの人に命を救われました!!あの人がいてくれなければ、今頃祖母はどうなっていたか!!」


 そう…ナタリアにとって太一郎は、生まれ故郷のトメラ村でたった1人残してきた祖母の命を救ってくれた恩人なのだ。

 魔王の息子だから何だと言うのか。太一郎がナタリアにとって、祖母の命を救ってくれた恩人だという事実に変わりは無いのだ。

 その太一郎を、リゲルは平気な顔で侮辱したのだ。ナタリアが激怒するのは当然だと言えるだろう。


 「だから私は、あの人の悪口を平気な顔をして言う貴方の事を、絶対に許す事は出来ません!!」


 そうだそうだ!!と、他の市民たちも一斉にナタリアに賛同する。 

 先程から市民たちがリゲルの演説に対して厳しい表情になっていたのは、リゲルの思惑通りに市民たちが瑠璃亜や太一郎、クレアに対し、怒りや失望を抱いたからなどでは断じて無い。

 逆にリゲルの方が、市民たちからの怒りや失望を買ってしまったからなのだ。


 そりゃそうだろう。これまでこのフォルトニカ王国に住まう数多くの人々の命を救ってくれた英雄である太一郎に対して、目の前で堂々と誹謗中傷するような馬鹿がいたとしたら、市民たちだってその馬鹿に対して怒りを爆発させるのは当たり前だ。

 どうやらリゲルは太一郎をこの国から追い出そうと躍起になるあまり、そんな程度の事さえも理解出来ていないようだった。

 自分の事しか見えていない、周囲が全く見えていない馬鹿だという典型例だと言えるだろう。


 「ま、普段から安全な場所に引きこもってばかりで、あの兄ちゃんの戦いぶりを直接見てもいないお前さんが、今更あの兄ちゃんの悪口を言った所で、俺らの心には全然響かねえよなあ。」

 

 さらに武器屋の店主が呆れたような表情で、リゲルに対して情け容赦無く駄目出しを始めたのだった。

 武器屋の店主自身もリゲルに対してこんな事を言ってはいるが、実際に太一郎の戦いぶりを直接その目で見た事は一度も無い。

 だがそれでも聖地レイテルで大破した隼丸を一目見ただけで、武器屋の店主は充分に思い知らされてしまったのだ。

 今ナタリアが言っていたように、これまで太一郎が一体どれ程の凄まじい戦いを経験してきたのかという事を。隼丸を手にどれだけ大勢の命を救ってくれたのかという事を。


 曲がりなりにも、王室御用達のプロの武器職人だ。

 武器の状態を見ただけで、それ位の事は一目で分かってしまう物なのだ。

 

 「な、何を馬鹿な事を!!武器屋の店主よ!!あの男は汚らわしい魔王の息子だと、さっきから…!!」

 「だとしてもだ。」


 さらに太一郎を失脚させる切り札と成り得るはずだったリゲルの主張を、いともあっさりと却下した武器屋の店主。


 「そもそも魔王だか阿呆だか何だか知らねえが、あの嬢ちゃんは専守防衛を掲げていて、全然他国に侵略行為をしてねえらしいじゃねえか。お前さん、普段から新聞を読んでねえのかよ?」

 「そ、それは…!!しかし武器屋の店主よ!!あの女は…!!」

 「その上であの嬢ちゃんは、俺らと同盟和議を結びたいって言って来てるんだろ?だったら別に何も悪い事なんかねえじゃねえか。それを邪魔しようとするお前さんの考えの方が、俺には逆に理解出来ねえんだけどよ。」


 そうだそうだ!!と、大勢の市民が武器屋の店主の言葉に一斉に賛同する。

 仮に瑠璃亜が先代の魔王カーミラのように残虐非道な存在で、他国に侵略行為を仕掛けて多くの人々を傷つけるような外道な女だったのであれば、思惑はどうあれリゲルの言い分は確かに正当性のある代物だった事だろう。

 他国の人間たちをあれだけ傷つけておきながら和平交渉とか、何を馬鹿げた事を言っているんだとなるはずだ。

 だが忘れてはならないのが、瑠璃亜が専守防衛を掲げており、


 『他国の人間たちに対して、自分たちからはただの一度も、侵略行為など一切仕掛けていない。』

 『瑠璃亜がチェスターを殺したのは、あくまでも戦場での正当防衛による物なのであって、しかも非人道的な行為を行ったのはチェスターの方であり、非難される筋合いなど微塵も無い。』


 という点だ。

 そもそもリゲルは先代の魔王カーミラの悪行を口実に、現在の魔王カーミラである瑠璃亜の義理の息子である太一郎を、国外追放処分にしようと企てているのだが。

 その悪行自体が 先 代 の 魔 王 カ ー ミ ラ の 所業なのであって、何の関係も責任も無い瑠璃亜や太一郎までもが重荷を背負う必要性など、微塵も無いのだ。

 そこは勘違いしてはいけないし、履き違えてもいけない。

 その責任を瑠璃亜や太一郎にまで求めているリゲルの方こそが、逆に非難されて然るべきなのだ。


 それ位の事は当然ながら、市民たちの誰もが心の底から理解していた。

 だからこそ今この広場に集まっている市民たちの誰もが、こうしてリゲルに対して侮蔑の視線を向けているのだ。


 「大体お前さん、さっきから女王陛下を失脚させようと企ててるみてえだけどよ。その女王陛下の善政のお陰で、俺ら下々の連中がこうして金にも食い物にも仕事にも困らずに潤ってるって事を、忘れちゃあいけねえなあ。」

 「なっ…!?」

 「お前さんみてぇな欲望丸出しの奴がこの国の新しい国王になっちまったら、何だか俺らの生活が逆に苦しくなりそうで不安になっちまうわ。なぁ?」


 武器屋の店主に賛同した大勢の市民たちが、物凄い雄叫びを上げながらリゲルを侮蔑の表情で睨みつけたのだった。

 そんな市民たちの雄叫びを、とても悔しそうに歯軋りしながら睨みつけるリゲルだったのだが。


 「お前さんよ。自分の事ばっか見てねえで、もう少し周りを見てみろや。今、この場にいる連中全員、お前さんの事を一体どういう目で見ている?」


 侮蔑の瞳。

 それが今こうして広場に集まっている市民のほぼ全員が、リゲルたちに向けている代物だった。

 演説によって市民たちの賛同を得ようとした結果、逆に市民たちからの反感を買う結果になってしまったのだ。

 リゲルにとってこれは、最早屈辱以外の何物でも無い。


 「ま、そういうこった。お前さんがさっきからほざいてる事は、俺らの心には全然響かねえ。俺らにとっちゃ何もかも戯言たわごとに過ぎねえんだよ。」


 武器屋の店主の言葉に市民たちの誰もが賛同し、一斉に大歓声を上げる。

 そしてどこからかリゲルに対して「帰れ!!」コールが響き渡り、その流れに乗じた多くの市民たちによって、この広場において


 「「「「「「か・え・れ!!か・え・れ!!」」」」」」


 と大合唱が始まったのだった。

 そのあまりの圧力に、完全にタジタジになってしまったリゲルだったのだが。


 「ふ、ふざけるなぁっ!!私を誰だと思っているのだぁっ!?私は名家ヴァルスリー一族の長男にして、この国の次期国王候補筆頭!!リゲル様だぞぉっ!!」

 「リゲル様、ここは撤収すべきです!!最早これ以上は!!」

 「クソがぁっ!!何も分からぬ下民共がぁっ!!この私という存在を受け入れなかった愚行を、後になって後悔するがいいわぁっ!!」


 使用人の男性たちに促され、市民たちに捨て台詞ゼリフを吐きながら、鬼のような形相でその場を去っていくリゲル。

 その無様な光景をクレアとサーシャが、苦笑いしながら見つめていたのだった。


 「どうやら私たちの出る幕は無かったみたいね。」

 「そうですね、お母様。一時はどうなる事かと思いましたけど。」


 ブチ切れたリゲルが市民たちに危害を加えようとするのを敢えて待った上で、リゲルを傷害未遂の現行犯という口実で再逮捕するか。

 あるいは最悪の場合は適当な罪状をでっちあげ、証拠を捏造する事も止むを得ないと考えていたクレアだったのだが、わざわざそんな面倒臭い事をするまでも無かったようだ。

 そしてクレアとサーシャもまた、太一郎がこの国の人々にどれだけ慕われているのかという事を、存分に思い知らされる事になったのである。

 さらに瑠璃亜との和平交渉を行う事が何の問題にもならない事、市民たちからの賛同も間違いなく得られるという事も、充分に確認する事が出来たのだ。

 

 「帰りましょう、サーシャ。ここはもう放っておいても大丈夫でしょう。」

 「そうですね。瑠璃亜さんたちも心配なさっているでしょうし。」


 まあ自分の首を自分で締めてしまった馬鹿の事など、最早どうでもいい。

 いや、どうでもよくは無いのだが…そんな事よりも明日から大忙しになるであろう事を、クレアは気にしているのだ。


 何しろ魔王カーミラと和平会談を行うなど、前代未聞だ。

 周辺他国も当然黙ってはいないだろうし、それを口実に転生術を目当てに、自分たちに対して戦争を起こそうと企てる国がいたとしても不思議ではない。

 またパンデモニウムの魔族たちの中にも、自分たちとの和平に反感を抱く者たちだって少なからずいるだろうから。

 それらの処理に忙殺される事になるだろう事は、想像に難しくないだろう。


 だがそれでもサザーランド王国という前例があるのだ。ならば自分たちもラインハルトに続くだけの話だ。

 それに瑠璃亜が言っていたのだ。イリヤが真由を殺し、太一郎がアリスを殺した…こんな悲しみの連鎖は、今ここで絶対に終わらせなければならないのだと。

 それに関しては、クレアもサーシャも同意見だ。


 取り敢えず今日はもうこんな時間なので、瑠璃亜たちには今日は城に泊まって貰い、馬鹿のせいで中断してしまった和平交渉は、明日の朝にでも再開するとしよう。

 その決意を胸にクレアは、愛娘であるサーシャの右手を優しく左手で握りながら、サーシャと共に城へと歩き出したのだった。

次回はいよいよ瑠璃亜とクレアによる和平交渉です。

互いに同盟和議に対して異論は無い瑠璃亜とクレアですが、それでも同席した大臣たちが他国からの政治的圧力、武力介入を招く元凶になりかねないと、パンデモニウムとの和平に猛反対します。


この国と民たちを真に想うのであれば、パンデモニウムとの和平には慎重になるべきだと、そうクレアを諭す大臣たちですが…そんな中でクレアが下した判断は…。

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