第59話:明日香の死の真相
FF14のパッチ6.0のメインクエストに集中していたのもあって、一カ月ぶりの投稿となってしまいました。本当に御免なさい(泣)。
あと凄くどうでもいい事なんですが、ちょっと思う所があって、第30話で掲載していた魔王カーミラの年齢を「20代後半」から「20代前半」に変更致しました。
シルフィーゼに宮廷魔術師として騎士団への復帰を依頼するサーシャですが、そこでシルフィーゼから驚愕の事実を知らされます。
半年前、先代の魔王カーミラと相討ちになり戦死したとされていた明日香なのですが、その真相は…。
その後、70人近いイゾルデ王国騎士団特殊工作部隊の死体を丁重に火葬した後、サーシャ、シリウス、レイナはシルフィーゼの自宅に招かれ、応接室へと案内された。
いつまた野良の魔物、あるいはシリウスを狙う敵などが再び襲ってきてもいいように、太一郎とケイトが家の外で警備を行っている。
精霊の森の奥深くにポツンと建たれたシルフィーゼの一軒家は、質素ながらも落ち着き払った雰囲気を醸し出していた。
家の周囲には様々な野菜や薬草が栽培されている畑がいくつも点在しており、ウールを作る為のモフモフの羊、卵を産んでもらう為の鶏なども何匹か放し飼いにされている。
また食肉や革を得る為の狩猟用の弓矢、革を鞣す為の工具、衣服を作る為の裁縫道具、火を起こして調理をする為の石窯など、シルフィーゼが1人で自給自足する為の一通りの道具は揃っているようだ。
この近くには大きな泉と川もある事から、水源もきちんと確保されているのだろう。
逆に言うとシルフィーゼは人との関わりを一切断って世捨て人となり、こんな森の奥深くでたった1人で暮らしていくのに、一切困っていないという事だ。
かつて明日香と共にツーマンセルを組み、フォルトニカの宮廷魔術師として八面六臂の活躍を見せつけ、多くの人々を救ってきたシルフィーゼ。
だが明日香が先代の魔王カーミラと相討ちになって戦死して姿を消してから、一体彼女に何があったというのか。
そんな事を考えながら、応接室でサーシャとシリウスが席に座り、2人の護衛役のレイナが2人の背後に起立する形となる。
そして紅茶とクッキーを用意したシルフィーゼが、2人の反対側の席に座ったのだった。
「さてと、単刀直入に聞かせて貰おうかしら。一体どういう理由でここに訪れたのかしら?」
「シルフィーゼさん。貴女の力を再び貸して頂きたいのです。この混迷の世界において、フォルトニカに住まう多くの人々の命と尊厳を守る為に。」
紅茶を飲みながらサーシャは意を決した表情で、シルフィーゼに全てを語ったのだった。
3か月前に新たな魔王カーミラが誕生した事、彼女に対抗する為に太一郎ら10人の転生者をシリウスに召喚させた事。
だが先代の転生者である龍二たちと同様に謀反される事を恐れたシリウスが、太一郎たちに『呪い』を掛けてしまった事。
その魔王カーミラは先代の魔王カーミラと違って何故か専守防衛を掲げており、こちらから人間たちに危害を加えるつもりは無いが、そちらから攻めてくるのであれば一切合切容赦はしないと公式発表している事。
それを無視してサザーランド王国がパンデモニウムに侵攻を仕掛けた結果、国王のチェスターは魔王カーミラとの一騎打ちに敗れて戦死。「雷神」の異名を持つ魔術師ラインハルトが新たな国王となった事。
そして聖地レイテル調査任務において、一馬たち転生者8人が謀反を起こした挙句、対話を持ち掛けてきた魔王軍の幹部であるイリヤとアリスを騙し討ちしようとして、逆に返り討ちに遭い殺されてしまった事。
真由もイリヤに殺されてしまい、太一郎がアリスを討ち取ったものの瀕死の重傷を負い、生き残った転生者は太一郎1人だけになってしまった事。
一馬たちがサーシャとクレアを殺害し、フォルトニカ王国をシメる(支配する)事を企んでいた事。
太一郎に掛けられた『呪い』はサーシャが浄化したものの、リゲルら大臣たちが太一郎に『呪い』を再付与すべきだと進言し、そんな彼らをクレアが虐待示唆の現行犯で逮捕した事。
そんな中でも太一郎がサーシャ直属の近衛騎士になってくれた事。そしてサーシャが太一郎に求愛し、太一郎とサーシャが両想いになって結婚したという事…その全てを。
サーシャの話をシルフィーゼは黙って聞いていたのだが…全てを聞き終えた後、はぁっ…と呆れたように深い溜め息を漏らしたのだった。
「…本当に人間というのは愚かで欲深い生き物だわ。私がフォルトニカを去ってからも何も変わっていないのね。」
「シルフィーゼさん。お母様はこう仰っていました。貴女の方から我が国に戻ってきてくれるまで、そっとしておいてあげましょうと。ですが今はもう、そんな悠長な事も言っていられるような状況ではない…この混迷を極める世界において、今こそ再び貴女の力が我が国に必要なのです。」
新たな魔王カーミラがこの世界に顕在しただけではない。
転生者たちが太一郎を除いて全滅してしまった今こそが最大の好機だと、フォルトニカ王国だけが独自運用している転生術を狙い、周辺各国がフォルトニカ王国に侵攻をしようと、虎視眈々とその機会を狙っているのだ。
そう…パンデモニウムに侵略しようとしたチェスターや、シリウスを拉致しようとしたアルベリッヒと同じように。
今の所は近衛騎士になってくれた太一郎の存在が抑止力になっているからなのか、各国共に目立った動きは見せていないようだが…それでも痺れを切らして攻め込んでくる国が出てこないとも限らないのだ。
そうなれば一体どれだけ多くの人々が戦火に巻き込まれ、傷つき、命を落とす事になってしまうのか。
だからこそ、今こそフォルトニカ王国に、再びシルフィーゼの力が必要なのだ。
かつて明日香と共に多大な活躍を残し、数え切れない程の沢山の人々の命を救ってくれたシルフィーゼの力が。
フォルトニカ王国に住まう多くの人々の命と尊厳を守る為に。フォルトニカ王国の平和を守る為に。
「シルフィーゼさん。どうか宮廷魔術師として騎士団に復帰して頂けませんか?」
「嫌よ。」
だがそんなサーシャの想いを、シルフィーゼはあっさりと拒絶してしまったのだった。
「…シルフィーゼさん…。」
「どうして私が今更、フォルトニカの人間たちを守ってあげないといけないのかしら?」
彼女の瞳に映るのは、人間たちに対しての「失望」。
それを敏感に感じ取ったサーシャは、戸惑いの表情を隠せない。
こんな森の奥深くで人との関わりを一切断ち、世捨て人になってしまっている事もそうなのだが。
一体何がシルフィーゼに、ここまで拒絶の態度を取らせてしまっているのか。
「…シルフィーゼさん。半年前に明日香さんが亡くなられてから、一体貴女の身に何があったというのですか?」
そう、半年前に先代の魔王カーミラと明日香が相討ちになった時…シルフィーゼの身に「何か」があったのだ。
シルフィーゼが人間たちに失望し、世捨て人になった最大の理由が…その真相が。
シルフィーゼのプライベートな部分に…下手をするとシルフィーゼの心の傷に首を突っ込む事になりかねないのだが。
それでもその真相を知っておかなければ、今のシルフィーゼを説得する事など到底出来ないだろう。
だからこそ敢えてサーシャは、シルフィーゼに対して失礼な事を言っていると承知しながらも、意を決してシルフィーゼを追及したのだった。
「…そうね。王女様自らが、こんな辺鄙な場所に足を運んでくれたんだもの。私も貴女の心意気には敬意を払ってあげないとね。」
そんなサーシャの心情を察したのか、シルフィーゼは深く溜め息をつき、紅茶を一口飲んでから静かに語り出したのだった。
半年前…明日香が死んだあの日、一体何があったのか…その忌々しい真相を。
「いい機会だから教えてあげるわ。半年前、明日香が龍二に『殺された』、あの日の愚かな出来事を。」
「なっ…!?」
自分を真っすぐに見据えるシルフィーゼの予想外の言葉に、サーシャは戸惑いを隠せない。
「ちょっと待って下さい!!明日香さんは魔王カーミラと『相討ちになって』、戦死なされたのでは無かったのですか!?私は伝令役の兵たちから、そのように報告を…!!」
そう、確かに伝令役として同行させていた兵士たちからは、そのような報告を受けていたのだ。
明日香が魔王カーミラと壮絶な死闘の末に相討ちになり、戦死したのだと。
だがシルフィーゼはそれを即座に否定し、確かに断言した。
明日香は龍二に『殺された』のだと。
「明日香は魔王カーミラと相討ちになんて、なっていない…確かに戦闘中に瀕死の重傷を負ったのは事実だけど、それでも明日香はまだ生きていた…生きていたのよ。」
「そんな…!!一体どういう事なのですか…!?」
「…あの日の事は、今でも昨日の事のように、鮮明に思い出せるわ。」
意を決した表情で、シルフィーゼは全てを語り出したのだった。
今から半年前…明日香が先代の魔王カーミラとの決戦に赴いた、あの日…一体何があったのかを。
『これで、終わりだああああああああああああああああああああっ!!』
『ぐあああああああああああああああああっ!!』
『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』を発動した明日香の聖剣ティルフィングが、遂に魔王カーミラの腹部を貫いたのだった。
派手に壁に叩きつけられ、口から派手に吐血する魔王カーミラ。
聖剣ティルフィングを魔王カーミラの腹部から引き抜いた明日香に見下されながら、ずるずると魔王カーミラが床に崩れ落ちる。
『ち…畜生…何でだよ…俺はこの世界じゃ…無敵だったのに…よぉ…!!』
『はぁっ…はぁっ…はぁっ…!!』
『ふ、ふざけるなよ…お前のせいで…俺の…レズハーレムの野望…が…っ!!』
明日香への怨念の言葉を口にしながら、そのまま事切れてしまった魔王カーミラだったのだが。
明日香もまた魔王カーミラとの死闘によるダメージと、『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』発動による反動が重なり、その場に崩れ落ちてしまったのだった。
『明日香ぁっ!!』
慌ててシルフィーゼが明日香に駆け寄り回復魔法をかけるものの、魔王カーミラの暗黒魔法に侵された明日香の体には、回復魔法が効力を現さない。
『くっ…先に暗黒魔法を浄化しない事には…!!』
『は、ははは…何とかミッションコンプリートだね…。』
『喋らないでじっとしていて!!すぐに貴女の体を侵している暗黒魔法を浄化するから!!』
すぐに明日香に応急処置を施して止血したシルフィーゼが、必死に暗黒魔法の浄化を試みるものの、魔王カーミラの暗黒魔法は術者の死後も強力に明日香の体を蝕んでおり、中々思うようにいかない。
自らの命を奪った明日香に対して、魔王カーミラが死後もなお怨念をぶつけているのだろうか。
とても苦しそうな表情の明日香の姿に、シルフィーゼは焦りを隠せない。
暗黒魔法による回復魔法阻害効果というのは、放っておいても数日あれば勝手に消え失せてしまう物だ。
それは術者がどれだけ強力な魔力の持ち主だろうと、例外では無い。
だが今の明日香の現状を考えれば、とてもそんな悠長な事を言ってはいられないのだ。
一刻も早く治療しなければ、明日香の身体が持たないだろう。
『これは…私1人だけの力では、とても…!!』
今すぐに王都に帰還して、サーシャかクレアに協力して貰わなければ。
心底悔しいが、これ程の強力な怨念が込められた暗黒魔法を、シルフィーゼ1人だけの力で浄化するのはとても無理だ。
かといって瀕死の重傷を負った今の明日香の状態では、転移魔法で運ぶには身体への負担が大き過ぎる。
時間は掛かってしまうが伝令役として待機させていた兵士に、馬車で王都に運んで貰うしかないだろう。
その間にシルフィーゼが何とか救命措置を続ければ、明日香の命は何とか持つだろうが。
気の毒だがそれまでの間、明日香には生き地獄を味わって貰うしかない。
『明日香!!今から貴女を王都に連れて行くから、どうかそれまで持ちこたえて!!』
『わ、私…向こうの世界では…いじめられっ子だったけど…こんな私でも…この世界を救う事が…。』
『喋らないでって言ってるでしょう!?言いたい事があるなら改めて聞くから、今は傷を癒す事を第一に考えて!!』
『あっちの世界で…私を助けようと…必死になってくれた…あのイケメンのお巡りさん(太一郎)に…私は今もこの異世界で生きているよって…伝えたかったけど…。』
『ええ、貴女はこれからも生き続けるのよ!!私と一緒に、この世界で!!』
明日香を抱き起こし肩を貸したシルフィーゼだったのだが、その時だ。
この時を狙っていたと言わんばかりに、突然『異能【スキル】』の力で物凄い速度で放たれた槍が、情け容赦なく正確無比の精度で、明日香の心臓を貫いたのだった。
『がはあっ!!』
『明日香ぁっ!!』
左胸に大きな穴がぽっかりと開き、どうっ…と崩れ落ちる明日香。即死だった。
放たれた槍が物凄い勢いで、明日香の背後の壁に突き刺さる。
驚愕するシルフィーゼの目の前に現れたのは、ニヤニヤしながら自分たちを睨みつけている龍二たちの姿。
自分たちが魔王カーミラと戦っている間、配下の魔族や魔物たちとの戦いを任せていたはずだったのだが。
『ひひひひひひひひ!!これで邪魔者を1人消してやったぁ!!次はてめぇだシルフィーゼ!!』
『龍二!!これは一体どういう事なの!?』
『どうも何も、最初からてめぇらをここで殺すつもりだったに決まってるだろうがぁ!!ひゃはははははははは!!』
『な…!?』
この龍二の言葉で、シルフィーゼは全てを悟ったのだった。
そう…龍二は、ずっと待っていたのだ。
明日香と魔王カーミラが死闘の末に傷付き合い、ボロボロになるその時を。
そして生き残った方を龍二が殺し、ついでにシルフィーゼも殺し、邪魔者を全て始末するつもりだったのだ。
『てめえらは俺らがフォルトニカ王国をシメる(支配する)為の、最大の障害になろうだろうからなぁ!!だから今ここで殺してやったんだよぉ!!』
『シメるですって!?ふざけるなぁっ!!貴方たちはそんな下らない事の為に明日香をぉっ!!』
『安心しろ!!その女は魔王カーミラと相討ちになって死んだ事にしといてやるからよぉっ!!その代わり今日から俺たちの天下だぁっ!!ひゃははははははははは!!』
龍二の『異能【スキル】』によって放たれた無数のダガーが、一斉にシルフィーゼに全方位オールレンジ攻撃を仕掛ける。
『行けよファング!!』
『ぐああああああああああああああああああああっ!!』
シルフィーゼが万全の状態だったなら、この程度の攻撃を凌ぐなど造作も無い事だったはずだ。
だが明日香同様、魔王カーミラとの戦いで激しく魔力を消耗してしまった今のシルフィーゼでは、龍二のこの猛攻を防ぎ切る事は出来なかった。
全方位からシルフィーゼに向けて放たれた無数のダガーが、情け容赦なくシルフィーゼの全身を切り刻んでいく。
何とか辛うじて急所は避けたものの、それでもシルフィーゼの全身から血が溢れ出ていた。
シルフィーゼの美しい身体が、彼女自身の真紅の血によって汚されていく。
『くっ…!!はぁっ…!!がはっ…!!』
『しぶてえ奴だ!!まだ生きてやがるのか!!けどよ!!これで終わりだあっ!!』
『こんな所で…終わってたまる物ですか…っ!!』
止めを刺そうとした龍二だったのだが、シルフィーゼの姿が明日香の死体と共に、突然消え失せてしまったのだった。
残り少ない魔力を全て使い切り、最後の力を振り絞って発動した転移魔法によって、何とか辛うじてこの場を離脱したのだ。
『ちっ、殺し損ねたか。けどよ、これで邪魔者はいなくなったぜ。』
『龍二さん、上手くいきましたね!!』
『おうよ。あの女を殺せなかったのは残念だが…まあこれであのクソ生意気な女も、俺様という存在の恐ろしさを充分に思い知っただろ。』
龍二の言葉に、一斉に高笑いと雄叫びを上げる他の転生者たち。
妖艶な笑みを浮かべながら、龍二は転生者たちに呼びかけたのだった。
『さあ行くぞてめぇら!!俺たちがフォルトニカをシメる為の、最後の仕上げだ!!』
そして伝令役としてパンデモニウムの外に待機していた兵士たちに、魔王軍との戦闘で満身創痍になったと装った龍二たちが姿を現したのだが。
『りゅ、龍二殿!?明日香殿とシルフィーゼ殿はどうなされたのですか!?』
『明日香は…残念だが魔王カーミラと相討ちになって、戦死した…。』
『そ、そんな…!!明日香殿が亡くなられたと!?』
『シルフィーゼも姿を消しちまって消息不明だ。』
まさかの龍二からの知らせに、驚愕の表情を隠せない兵士たち。
明日香が魔王カーミラと相討ちになり、戦死してしまうとは。
『済まねえな。俺たちの力が足りなかったばかりによぉ…。』
『何という事だ…!!これは早急に王都に戻り、姫様と女王陛下にご報告しなければ!!』
『俺たちはここで後始末を付けてから行く。お前らは先に王都に戻っててくれや。』
『はっ!!承知致しました!!皆様方もどうか御無事で!!』
慌てて龍二たちに敬礼し、馬車で王都に向けて走り去っていく兵士たちだったのだが。
『ククククク…ひゃはははははははは!!ひゃーーーーーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっは!!』
その後ろ姿を見届けた龍二が妖艶な笑みを浮かべながら、計画通りを言わんばかりに高笑いしたのだった…。
こうして龍二からの虚偽の報告を受けた兵士たちによって、
『明日香が魔王カーミラと相討ちになって戦死した』
という嘘の情報がサーシャとクレアに寄せられ、その嘘の情報が物凄い勢いで人から人へと伝わり、あっという間に世界中に広まっていく事になる。
インターネットが存在しないこの異世界においても、情報が伝わるのは本当にあっという間だ。
龍二たちは英雄としてフォルトニカ王国の人々に盛大に称えられるものの、サーシャとクレアを暗殺しようとして失敗。逆に2人の返り討ちに遭い皆殺しにされてしまう。
他国との政治的な駆け引きもある事から、シリウスからの進言を受けたクレアの計らいにより、龍二たちは表向きには英雄としての称号を与えられたまま、第2の人生を探す為にフォルトニカ王国を旅立ったと公式発表された。
当然その嘘の情報は、辛うじて生き延びたシルフィーゼにも伝わったのだが、他国との政治的な駆け引きという止むを得ない事情があったとはいえ、自分たちを陥れた龍二たちが英雄として祀り上げられている事に激怒したシルフィーゼは、フォルトニカ王国に失望。
そしてその嘘の情報を平然と鵜吞みにし、何の疑いもせずに龍二たちを英雄呼ばわりする人々にも失望したシルフィーゼは、人との関わりを一切断って世捨て人となり、この精霊の森の奥深くで一軒家を建て、たった1人で余生を過ごす事を決めたのだ。
なまじ『異能【スキル】』という強大な力を得てしまったばかりに愚かな野心に囚われ、明日香たちを陥れ、人々を騙し、そして己の力を過信してサーシャとクレアを殺そうとして、逆に殺されてしまった龍二たち。
彼らのせいで明日香が殺され、シルフィーゼが人間たちに失望し、そしてシリウスが次代の転生者である太一郎たちに『呪い』を掛けてしまうなど、全ての歯車が狂ってしまったのだ。
改めて言うが、この復讐の転生者という作品は、先代の転生者である龍二たちのやらかしのせいで、次代の転生者である太一郎たちが大迷惑する話なのである…。
宮廷魔術師への復職を拒絶するシルフィーゼですが、そんな彼女をシリウスが懸命に説得します。
シリウスが犯した『呪い』という過ちをシルフィーゼに指摘されながらも、それでもシリウスは自らの思いの丈をシルフィーゼにぶつけるのですが…。