第5話:復讐の転生者
バルゾムを倒してロファールを救った事で、英雄呼ばわりされる太一郎。
フォルトニカ王国内で沢山の人々の様々な思惑が絡む中で、太一郎が他の転生者たちに語った事とは…?
タイトルにある「復讐」という言葉が、いよいよ今回から物語に大きく関わってきます。
「号外!!号外ーーーーーーーー!!転生者・渡辺太一郎殿がラムダ村にて、盗賊バルゾム一味を圧倒的な強さで撃破!!」
太一郎と真由が馬車で城下町へと帰還する最中、太一郎がバルゾムを倒したという情報は兵士が城に送った伝書鳩によって、即座に城下町全土に広まる事になった。
新聞の制作会社によって、あっという間に大量の号外が制作され、市民たちが一斉に号外の配達員に殺到する。
あのバルゾムを、これまで近隣の村や町を荒らし回ってきたバルゾムを、圧倒的な強さで撃破した…それは市民たちに希望を与え、太一郎と真由への揺るぎない信頼を持たせるには、あまりにも強烈過ぎる情報だったのだ。
『閃光の救世主・渡辺太一郎殿!!』
『バルゾムに深手を負わされた、近衛騎士ロファール殿を救う大活躍!!』
『我らフォルトニカ王国の救世主と成り得るか!?』
太一郎を絶賛する、そんな内容の記事が書かれた号外を読んだ市民たちが、ようやく訪れた一時の平穏に、一斉に歓声を上げたのだった。
「報告致します!!ロファール殿がバルゾムに深手を負わされたものの、救援に駆けつけた渡辺太一郎殿が、圧倒的な強さでバルゾムを撃破しました!!」
「な、何だと!?私とレイナでさえ手を焼いたバルゾムを、あの男が撃破しただと!?」
そしてその情報は瞬く間に、兵士によってシリウスとレイナにも伝えられる事となる。
予想もしていなかった太一郎の活躍ぶりに、シリウスもレイナも驚きを隠せない。
「信じられん…!!あの暗黒流蛇咬鞭のバルゾムだぞ!?しかも圧倒したとはどういう事なのだ!?」
「私は直接戦いぶりを見た訳では無いので、説明のしようが無いのですが、ロファール殿が『閃光の救世主』だと大絶賛なさっていたとの事!!あんな凄まじい剣術は今まで見た事が無いと!!」
「閃光の…救世主…だと…!?」
このフォルトニカ王国騎士団の中でも精鋭中の精鋭の強者たちが集結した、王室直属の護衛部隊である近衛騎士。
その近衛騎士であるロファールでさえも苦戦させられたバルゾムを、太一郎が『圧倒した』というのだ。
しかもシリウス自身もレイナもバルゾムと交戦し、敗走させられた苦い経験があるのだ。シリウスが兵士の話を信じられないのも無理も無いかもしれないが。
そしてレイナは以前太一郎を拘束した際、『呪い』を発動させない為に彼が『敢えて』自分に拘束させられたのだという事を、彼がその気になれば自分もシリウスもいつでも容易く殺す事が出来るのだという事を、改めて思い知らされたのだった。
もし太一郎があの時、本気でシリウスや自分を殺すつもりで立ち回っていたなら、今頃どうなっていた事か。
そしてもし太一郎がいつかシリウスの『呪い』を自力で解除し、復讐の為に自分とシリウスを殺そうなどと考えでもしたら…。
それを考えた途端、レイナは改めてゾッとしてしまったのだった。
だが同時に、これ程の戦闘能力を誇る太一郎はシリウスにとって、復活した魔王カーミラに充分に対抗出来る『希望』に成り得るかもしれないのだ。
果たしてフォルトニカ王国にとって、太一郎の存在は吉となるのか…それとも凶となり得るのか…。
「皆。言い出しっぺの僕たちが時間に遅れてしまって、本当に済まなかった。」
そんな騒ぎの中で太一郎と真由は、他の転生者の少年8人が待つ、先程太一郎たちが転生させられた地下室へとやってきたのだった。
シリウスに命じられた女王と王女への謁見の前に、どうしても話しておきたい事があると…太一郎が他の転生者の少年たちに対して、17時30分までに地下室に集まるよう要請したのだ。
最も太一郎と真由がバルゾムの討伐に向かっていたせいで、言い出した本人の太一郎と真由が30分程遅れてしまったのだが。
だが転生者の少年たちは太一郎と真由が約束の時間に遅れた事よりも、2人の現在の『服装』に唖然とさせられたのだった。
「既に皆も事情を聞いていると思うけど、僕と真由の2人で盗賊の討伐に向かっていたんでね。だから約束の時間より30分も遅れてしまった。」
「背広に…学生服だぁ!?」
太一郎が着ているのは、黒色のリクルートスーツのような服装に純白のワイシャツ、そして赤色のネクタイ。
さらに真由は向こうの世界で通っていた女子校の制服によく似た、緑と白を基調にした服だった。彼女も首に緑色のネクタイを身に着けている。
「僕と真由の戦闘服兼正装だよ。魔法耐性のある生地で作られているらしいんだけど、城下町の散策とバルゾムとの戦いの間に、城の給仕のおばちゃんに仕立てて貰ったんだ。」
シリウスの話では、この国における衣食住は無償で提供すると王女が語っていたそうだが、これらの服も真由が描いたイラストを元にタダで作って貰ったのだ。
向こうの世界では別に珍しくも何ともない、ごくごく普通に有り触れた服装なのだが、この国では全く見かけない珍しい服装なのだそうで、割と手間がかかったらしいのだが。
それでもこんな短時間で質のいい服を作ってくれた事に、太一郎も真由も給仕のおばちゃんに心の底から感謝していた。
「最も、この国にはネクタイという概念が無いみたいで、説明するのに苦労させられたけどね。まあそんな事はどうでもいいから本題に入ろうか。」
「おい、シリウスが言ってた約束の時間は18時20分だろうが!!呑気にこんな所で話し込んでる場合かよ!?奴に『呪い』を発動されたらどうすんだよ!?」
太一郎と真由がバルゾムの討伐に向かってしまっていたので、シリウスに女王と王女への謁見の時間を30分遅らせて貰ったのだが。
「慌てるな。まだ20分ある。僕の話を静かに聞いてくれれば10分で終わるよ。」
そもそもシリウスに指定された集合場所自体が、この地下室なのだ。
最悪、20分ギリギリまで話が長引いてしまったとしても、使いの者が訪れた時点で途中で話を切り上げて、後日改めて集合…という形でも問題無いだろう。
「時間が無いから手短に済まそう。まずは自己紹介を兼ねて、ここにいる全員の顔と名前を把握しておきたくてね。僕は渡辺太一郎。向こうの世界では警察官をやっていた。そして彼女は渡辺真由。僕の腹違いの妹で聖ルミナス女学院の2年生だ。」
「んだよてめぇ、マッポ(警察官)かよ!!」
「そうだ。そういう君たちは?」
太一郎に促されて、先程『帝王の拳【カイザーナックル】』でシリウスを殴ろうとして、『呪い』で返り討ちにされたリーゼントの少年が、声高々に宣言したのだが。
「俺様は極星高校3年!!チーム『ブラックロータス』のヘッド!!そして東京四天王の一角の霧崎一馬だ!!」
「そうか。じゃあ隣の君は?」
全く何の興味も示さなかった太一郎に、一馬は露骨に不服そうな表情を見せる。
他の少年たちも自己紹介したのだが、全員が一馬と同じ『ブラックロータス』という名前の暴走族の一員のようだ。
どうも一馬の話では東京では相当有名な集団のようだが…太一郎も真由も愛知県在住だったので、東京四天王とかブラックロータスとか言われても、正直全然ピンと来なかった。
「…よし、これで全員だな。君たちに集まって貰ったのは他でもない。僕たちの今後についての話をしたいと思ってね。」
「あぁ!?何で俺らがてめぇの指図なんざ受けなきゃならねえんだよ!?殺すぞ!?」
そうだそうだ!!一馬さんの言う通りだ!!などと、他の少年たちも露骨に不満そうな態度を見せる。
大人しく話を聞いてくれれば10分で終わると言ったのに…。呆れた表情で太一郎は一馬たちを見据えていたのだった。
まさに向こうの世界において全国的に問題になっている、学級崩壊のような有様だ。
生徒たちが全く教師の話に耳を傾けずに騒ぎまくり、注意しようとしても生徒たちから理不尽な暴力を受け、かと言ってこちらから手を出すと体罰だとか騒がれて、逆に被害者のはずの教師が処罰を受け、逮捕され、周囲から指導能力が無いとかで批判される。
それが原因で教師を辞めてしまう人たちが全国で続出しており、全国的に教師の数が慢性的に不足していると、太一郎も新聞やニュースで見た事はあったのだが。
そんな彼らを黙らせる為に、太一郎は魔法の言葉を一馬たちにかけたのだった。
「僕の話というのは、シリウスが僕たちにかけた『呪い』の発動条件についてだ。」
「…な…何だと…!?」
「知っておいて損は無いと思わないか?」
太一郎の言葉に、先程まで露骨に不満そうに騒いでいた一馬たちが、一転して静まり返ったのだった。
さすがに自分たちが当事者なだけに、一馬たちも黙って話を聞かざるを得ないようだ。
「ついさっき、一度だけ『呪い』が発動しただろ?正直に白状するが、あれは僕のせいだ。」
「何だとコラぁ!?てめぇ一体どういうつもりだ!?ああ!?」
「どうしても『呪い』の発動条件について正確な情報が欲しかったんでね。事後報告になってしまって本当に済まなかった。だがこれで確信が持てたよ。」
太一郎は一馬たち全員に、それぞれ一枚ずつ紙切れを手渡した。
そこに書かれていたのは太一郎が推測で導き出した、シリウスに掛けられた『呪い』の発動条件についてだ。
この世界にはパソコンは無かったのだがタイプライターはあったので、本来なら城の事務員にでも借りて印刷してしまえば楽だったのだが。
それをやってしまうと、文面を第三者に見られる事で『呪い』が発動するリスクがあったので、仕方が無いので面倒だったが8枚全て手書きする羽目になってしまったのだ。
★呪いが発動する条件
1.シリウスかレイナのいずれかに対して、『肉体的』な危害を加える。
2.フォルトニカ王国の人々に、何らかの多大な迷惑をかける。
3.シリウスかレイナのいずれかの命令に対し、反抗的な態度を取る。
4.シリウスかレイナ、転生者10人以外の、『呪い』には一切関りが無い第三者に対して、『呪い』について明かそうとする。
5.必要に応じてシリウスが何時如何なる時でも、任意で『呪い』の発動が可能。恐らく数十km単位での遠隔発動も可能だと思われる。
6.転生者10人の誰か1人でも『呪い』の発動条件を満たしてしまった場合、連帯責任として全員が『呪い』を受けてしまう。
★ただし以下の状況においては『呪い』は発動しない。
1.シリウスかレイナのいずれかに対して、『精神的な』危害を加える。
2.シリウスかレイナ、転生者10人以外の、『呪い』には一切関わりが無い第三者が1人でも傍にいる。ただし『呪い』について明かそうとした場合は即座に発動してしまうし、発動条件を満たした状況で第三者が周囲からいなくなった途端に、即座に呪いが発動する。
3.シリウスかレイナのいずれかの命令に対し、従順に従う。
★『呪い』に関しての詳細
1.『呪い』の効果は対象者への『精神』への攻撃である。『肉体』には何の危害も及ぼさない。
2.『呪い』の発動持続時間は約10秒。リキャスト時間は約5秒。これは状況に関わらず固定である。
3.『呪い』によって発狂する事は有り得るかもしれないが、死ぬ事は無い。逆に言うと『呪い』で死ぬ事は出来ないし、『呪い』を利用しての自殺は出来ない。
4.シリウスかレイナのいずれかを殺害してしまえば、『呪い』が永久に解けなくなる可能性がある。
「そこに書かているのは、あくまでも僕が『呪い』を食らいながら分析して、導き出した推定条件だけど…まず間違いないと見ていいだろう。」
『呪い』を食らいながら分析したって。しかもこれだけの細かい条件を正確に導き出したって。
あの『呪い』に苦しめられた状況で、そんなとんでもない芸当をやってのけたというのか…一馬たちは太一郎の聡明さに驚きを隠せないでいた。
だが紙に書かれている内容を見て、一馬たちはやはり露骨に不満そうな表情を見せたのだった。
これだけの細かい条件を、あの短時間で導き出したのは確かに見事だ。それに関しては一馬たちも太一郎の事を認めざるを得ない。
だがそれでも紙に書かれている内容は、一馬たちのような血気盛んなやんちゃ坊主にとっては、到底耐えられない代物だったのだ。
「まあぶっちゃけた話、僕らが余計な真似さえしなければ、『呪い』は絶対に発動しないって話だよ。」
「んだよそれ、要は素直にあいつらの奴隷として働けって事かよ!?」
「君はシリウスの話をちゃんと聞いていなかったのか?僕たちの国内での地位は保証するし、衣食住を無償提供する、正当な報酬も払うと言っていただろう。それに僕のこの隼丸も転生者としての特権で、武器屋からタダで貰った物だ。」
奴隷ではなく、あくまでも『戦力』として扱うと、そうシリウスが言っていたのに。
もしシリウスが自分たちを奴隷として扱うつもりなら、『呪い』の発動条件も効果も、こんなにも『微温い』代物にはしなかったはずだ。
そもそも衣食住や装備品の無償提供、正当な報酬も払うという時点で、太一郎たち転生者は女王や王女に、かなりの好待遇で迎えられているはずなのだ。
そんな程度の事も理解出来ないのかと、太一郎は心底呆れ果てていたのだった。
「要はシリウスの野郎を脅して、無理矢理『呪い』を解かせれば済む話じゃねえかよ!!何なら今すぐにでも俺様がやってやんよ!!この俺様の『帝王の拳【カイザーナックル】』でなぁ!!」
「…君は馬鹿か?」
「あぁ!?」
さらに一馬の馬鹿さ加減に、太一郎は深く溜め息をついてしまう。
「そんな真似をすれば僕たちは一気に犯罪者だ。君は一生この国で指名手配されて、この国の騎士団に追われながら生きていくつもりなのか?」
「うるせえよ!!そいつらも全員俺様がぶっ殺してやんよ!!」
「今の状況なら僕たちは堂々と城内や国内を出歩く事が出来る。それどころか王女殿下から転生者としての好待遇を受けているんだぞ。それをむざむざと捨て去るような真似をしてどうするんだ。少しは頭を使って考えたらどうなんだ。」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ面倒臭ぇ奴だな!!要は逆らう奴らは全員ぶっ殺せば済む話じゃねえかよ!!」
「それが最悪の悪手だという事を、君は何故理解出来ないんだ?」
『今は』この国の戦力として働くべきだという太一郎と、逆らう奴は皆殺しにすればいいと主張する一馬。
真っ向から対立する両者の主張は、一向に交わる気配を見せなかった。
というか言ってる事自体は、完全に太一郎の方が100億%正しいのであって、一馬の主張は状況から考えれば、完全に的外れもいい所なのだが。
この国の女王と王女から好待遇を受けている今のこの状況なら、フォルトニカ王国全土において堂々と動き回る事が出来るのだ。
それに衣食住や装備品の無償提供、支払われる正当な報酬。わざわざこれらを自分から捨て去るメリットは何も無い。
対する一馬の主張を有言実行してしまえば、自分たちは一気に犯罪者へと転落してしまう。
当たり前の話だが、そうなれば今のような好待遇は受けられなくなり、収入が断たれて貧困生活へと突入、それだけでなく一生騎士団から追われる身になってしまうのだ。
太一郎の主張を押し通せば、この国全体を味方につける事が出来る。
だが一馬の主張を押し通せば、この国全体を敵に回す事になってしまうのだ。
どちらの主張が正しいのかは、ちょっと考えれば容易に分かる事だろう。
それでも…だとしても。
太一郎とて、このまま黙ってシリウスとレイナの思い通りになり続けるつもりは微塵も無かった。
その為に太一郎も真由もバルゾムと戦う前に、王都内を色々と動き回って情報を得ていたのだから。
「だったらてめぇに何か妙案はあるのかよ!?まさか一生あいつらの奴隷として働けって言うんじゃねえだろうな!?」
「だから奴隷じゃないて言ってるのに…勿論僕だってこのままで済ませるつもりは微塵も無いよ。」
何の迷いも無い力強い瞳で、太一郎は一馬に堂々と告げたのだった。
「僕が企てているのは、シリウスへの復讐だ。」
「な…復讐だぁ!?」
「僕はいずれ必ず、この『呪い』を打ち破ってみせる。そして僕たちを不当に苦しめるシリウスに対して、僕は必ず復讐を果たす。」
こんな優男の口から、こんな物騒な言葉が出てくるとは。
予想外の出来事に、さすがの一馬も仰天してしまったのだった。
「その為にさっきまで王都内を色々と動き回って情報を得ていたんだ。『呪い』を解く為の方法も僕と真由の2人で、現在進行形で色々と探っている所だよ。」
太一郎は一馬たちに対して、これからの計画についての説明を開始した。
まずは『呪い』を解く手段を見つける事…これが何よりも最優先するべき事項。
太一郎の考えとしては、シリウス自身の手で『呪い』を解かせる事が出来れば、それで良し。
仮にそれが無理だった、あるいは出来なくなってしまった場合に備えて、自分たちの手で自力で『呪い』を解く手段も見つけ出す。
その為に絶対に必要不可欠なのは、これから転生者として多大な実績を積み重ね、この国の…特に女王と王女の強い信頼を得る事だ。
そうすれば国内、特に城内において動きやすくなり、『呪い』について探る事もやり易くなる。
極端な話、女王や王女に『呪い』を解けと、そうシリウスに命令を出して貰う事も出来るだろうから。
だが実績も信頼も何も無い今の状況でそれをやってしまうと、女王や王女から「こいつは一体何を言ってるんだ」と思われる事になりかねない。
そうなれば太一郎たちに待っているのは、恐らく『呪い』による懲罰だ。とてもじゃないがそんなリスクを犯すわけにはいかなかった。
警察官として訓練や実戦を積み重ね、夢幻一刀流の継承者としての修行も積み重ね、肉体的にも精神的にも鍛練を受けた太一郎なら、この程度の『呪い』ならば耐え続けられる自信はある。
むしろ最悪の場合、『呪い』を受けながらシリウスやレイナを殺す事さえも、やろうと思えば余裕とまでは行かないが、邪魔さえ入らなければ充分に可能なレベルなのだ。
だが何の訓練も受けていない普通の女子高生だった真由では、幾度もの『呪い』の発動には到底耐えられないだろう。下手をすれば発狂して廃人になってしまう事にもなりかねない。
それは恐らく喧嘩の心得があるとはいっても正当な訓練も修行も受けておらず、まだまだ精神的に未成熟な一馬たちも同様のはずだ。
だからこそ絶対に必要なのだ。『呪い』を解く為の鍵として、この国の女王や王女からの絶対的な強い信頼を得る事が。
「その為に君たちの力を貸して貰えるのであれば、それはそれで有難いんだが。」
「ざけんじゃねえぞコラァ!!何で俺らがてめぇなんざに従わねえといけねえんだ!?年長者だからって偉そうにしてんじゃねえぞ!!殺すぞ!!」
「そう言うと思ったよ。それならそれで別に構わないよ。最初から僕と真由の2人だけで立てた計画だからね。だが『呪い』の発動条件については頭に入れておいてくれよ。」
一馬に協力を拒否された太一郎だったが、それもまた想定内の返答だ。
何故なら最初から戦力として、全く計算に入れていないのだから。
コンコンコン。
扉をノックする音が地下室に響き渡る。
そうこうしている内に、シリウスが指定していた18時20分になってしまったようだ。
「転生者の皆様、入室してもよろしいでしょうか?」
「…っと、すっかり話し込んでしまったようだな。どうぞ、開いてるよ。」
「失礼致します。」
太一郎からの呼びかけで、凛とした声と共に地下室に入ってきたのは、白を基調とした近衛騎士の正装に身を包んだ、腰にロングソードをぶら下げた1人の若い女性。
パッと見た感じでは、24歳の太一郎よりは年下のようだが。
その背筋を正した凛とした態度、女性にもモテそうな凛々しい顔つきが、彼女が高貴な存在であるという事を充分に伺わせる。
なんか向こうの世界の女子高とかだと、ファンクラブでも出来てしまいそうだ。
「お取込み中の所、失礼致します。私は姫様直属の近衛騎士を務めさせて頂いております、ケイトと申します。以後お見知りおきを。」
「近衛騎士のケイトか。君がシリウスが僕たちに寄越した使いなのかい?」
「は。皆様を女王陛下と姫様の元へとご案内するよう、シリウス殿から仰せつかっております。すぐに女王陛下のお部屋へとご案内致しますので、どうぞ私にご同行下さいませ。」
「分かった。すぐに行こう。皆、準備はいいな?」
シリウスに命じられた、女王と王女への謁見。いよいよその時がやって来たのだ。
まずは女王と王女からの、絶対的な強い信頼を得る事…それがシリウスによって自分たちにかけられた、『呪い』を解く為の第一歩だ。
その為にはこの国で、転生者として多大な実績を残さなければならない、
(ああ、そうだなシリウス。今は君の思惑通りに動いてやるよ。だけど何時までも君の思い通りになると思うなよ。)
必ず自分や真由たちを『呪い』から解放する。その為に今は『敢えて』シリウスの尖兵として、魔王軍や魔物たちとの戦いに臨む。
何か月掛かるか分からない。下手をすれば何年も掛かってしまうかもしれない。
だがいずれ必ず、シリウスに牙を突き立ててみせる。この国の女王や王女の信頼を得る事で、その為のチャンスを必ず掴んでみせる。
その強い決意を胸に秘め、太一郎は真由の右手を左手でぎゅっと優しく握りながら、他の転生者たちと共にケイトに同行したのだった…。
次回はいよいよ女王と王女が初登場。第1章完結となります。