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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第7章:帰還
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第54話:語られた真実

晴れて近衛騎士となった太一郎はサーシャに誘われて、夜中に城下町の庭園へと案内されます。

そこでサーシャから語られた、先代の転生者である戸田龍二たちとの間に起きた事件。

その衝撃の事実を告げられた太一郎が、サーシャに対して取った行動とは…。

 色々な意味で大騒動を引き起こした緊急会議が行われた、翌日の朝。

 ぐっすりと休んで魔力が完全に回復したサーシャの精霊魔法によって、太一郎の身体を蝕んでいたエキドナの暗黒魔法は、無事に完全に浄化されたのだった。

 それに加えてクレアの精霊魔法によって、『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』発動による後遺症が原因で発症した、太一郎の全身筋肉痛も無事に完治。


 そして太一郎の体調が万全の状態に戻った事に伴い、かねてより各国の記者たちから開催を強く要望されていた記者会見が、城の会議室にて開催される事となる。

 記者会見の場でクレアは、今回の一件に関しての全ての真相を、全く何の嘘偽りも無く、100億%馬鹿正直に記者たちに語ったのだった。


 シリウスが自分たちには極秘で独断で、太一郎たち転生者に掛けていた『呪い』の事。

 一馬ら『ブラックロータス』の謀反、彼らが密かに企てていた「サーシャとクレアを殺し、フォルトニカ王国をシメる(支配する)」という野心の事。

 一馬たちの暴走によってエルダードラゴンと交戦状態になり、止むを得なかったとはいえサーシャが不本意ながら、近隣住民を守る為にエルダードラゴンを殺してしまった事。


 太一郎が無事に帰還後、唯一の生存者となった太一郎に謀反される事を恐れたリゲルが、太一郎に再び『呪い』を掛けるべきだと進言した事。

 それに賛同した過半数の大臣たちも含めて、クレアが強要、虐待示唆の現行犯で逮捕、大臣としての権限も剥奪した事。

 そんな太一郎にクレアが名誉貴族の地位を与え、さらにサーシャ直属の近衛騎士へと昇格させた事。

 そして太一郎とサーシャが両想いになり、晴れて夫婦となった事を。


 色々な意味であまりの衝撃的な内容故に、流石に記者たちは大騒ぎになってしまい、記者会見に同席した太一郎とサーシャは当然ながら、記者たちに質問攻めにされてしまう。

 そしてクレアとサーシャが『呪い』の件に関して記者たちに深々と頭を下げ、大喧噪に包まれた記者会見は無事に終了したのだった。

 今回の記者会見がきっかけとなって、各国の記者たちによって今回の騒動が世界中に知れ渡る事となる。

 シリウスが転生者たちに『呪い』を掛けていた…この衝撃的なニュースによって、世界中で大騒動を引き起こす事になってしまったのだった。


 そんな大喧噪がようやく落ち着いた、その日の夜7時。

 サーシャの愛情がたっぷりと込められた夕食を存分に堪能した太一郎は、


 「どうしても太一郎さんに話しておきたい事があるんです。」


 などとサーシャに誘われて、城下町の庭園へと足を運んでいた。

 もうすっかり陽が沈み、漆黒の闇と満点の星空に包まれた庭園が、あちこちに設置されたクリスタルから放たれた優しい光によって包まれ、幻想的な光景を作り出している。

 その幻想的な光景の中で、あちこちで多数のカップルたちが、人目もはばからずにイチャイチャしていたのだが。


 中には太一郎とサーシャがいる目の前で、白昼堂々と熱烈なキスを交わすカップルたちもいたりして、思わず太一郎は顔を赤らめてしまったのだった。

 対照的にサーシャは全く動じる事無く、太一郎と優しく手を繋ぎ合いながら、威風堂々と庭園を歩いていたのだが。


 「着きましたよ。太一郎さん。」

 

 そんな目のやり場に困る状況下の中、サーシャに案内されて庭園の奥深くに足を運んだ太一郎の目の前にあったのは…立派な装飾が施された、名前が刻まれていない一本の墓標だった。

 墓標の周囲には沢山の色とりどりの献花が置かれており、丁重に祀られているというのが一目で分かったのだが。

 

 「この墓は?」

 「太一郎さんの先代の転生者…戸田龍二さんたち9人のお墓です。」


 戸田龍二。以前シリウスの口から名前だけ語られた(2話参照)、太一郎たちよりも半年前にシリウスの転生術によって、このフォルトニカ王国に転生させられた転生者たちの1人だ。

 サーシャは以前お茶会の時(13話参照)、太一郎に語っていた。

 彼らは先代の魔王カーミラを討伐した須藤明日香と折りが合わず、常に別行動を取っていたのだと。

 その時は太一郎に龍二たちの所在を聞かされた際、サーシャは言葉を濁していたのだが…まさか既に亡くなっていたとは。

 城下町の図書館で見かけた公式記録では、確か騎士団を辞めて消息不明になったと記載されていたはずなのだが。


 だが次の瞬間サーシャは悲しみに満ちた表情で、太一郎に対してとんでもない事を口にしたのだった。

 

 「…私とお母様が殺しました。」

 「なっ…!?」


 まさかの予想外のサーシャの言葉に、驚きの表情になってしまう太一郎。

 そして墓標の前でサーシャは静かに目を閉じて両手を組み、龍二たちの冥福を祈る。

 そんなサーシャの姿を、戸惑いながら見つめる太一郎。

 殺したって。サーシャやクレアと龍二たちの間に、一体何があったというのか。

 その太一郎の疑問に応える為に、龍二たちへの祈りを済ませたサーシャが、悲しみに満ちた瞳で太一郎に向き直ったのだった。


 「先日、太一郎さんは私に仰って下さいましたよね?今後は私に対して隠し事は一切しないと。」

 「う、うん、そうだね。」

 「だから私も今後は太一郎さんに、隠し事は一切しないと決めたんです。」


 だからサーシャは、太一郎に全てを話す事を決断したのだ。

 この国の人々には知らされていない、龍二たちの件に関しての真実を。

 半年前、一体ここで何があったのかを。

 何故サーシャとクレアは、龍二たちを殺したのかを。


 「あれは今から半年前…ケイトが近衛騎士に昇格する前の、まだ一兵士に過ぎなかった頃の話です。」


 あの時の事は、今でもサーシャは昨日の事のように、鮮明に思い出す事が出来る。

 サーシャやクレアにとっての…そしてシリウスとレイナにとっての、忌まわしい思い出を。


 「全てを話しますね。今からおよそ半年前…龍二さんたちと私たちとの間に、一体何があったのかを。」




 聖剣ティルフィングを手に入れ、シルフィーゼと共にパンデモニウムへと赴いた明日香が、魔王カーミラと相討ちになって戦死したと報告を受けた、翌日の夜。

 明日香の葬儀が丁重に執り行われた後、サーシャとクレアは龍二たちに


 『俺たちの今後の件に関して、話しておきてえ事がある』

 『済まねえが姫様と女王様の2人だけで、夜10時に庭園の中央広場に来てくれねえか?出来れば誰にも聞かれたくねぇ話なんでな。』


 などと呼び出されて、2人で庭園にやってきたのだった。

 シリウスからはこんな夜中に2人だけで行くのは流石に危険だ、せめて護衛として兵士を何名か同行させるべきだと強く進言された。

 それでもサーシャもクレアもフォルトニカ王国の為に数多くの貢献を果たし、沢山の命を救ってくれた龍二たちの事を信頼していたし、何よりも龍二たちの「誰にも聞かれたくない」という意思を尊重したいと思ったのだ。

 だからこうして言われた通り、サーシャとクレアの2人だけで庭園にやってきたのだが。


 この庭園は防犯上の観点から、一般市民への解放時間は朝7時から夜8時までという事になっている。

 サーシャとクレアが現在ここにいるのは、管理者である王族故の特権という奴だ。

 それ故に現在この庭園にはサーシャとクレア以外誰もおらず、リーンリーンという優しい虫の鳴き声が鳴り響くだけの、不気味な静けさに包まれていたのだが。

 やがて約束の時間の、夜10時。

 龍二たち9人の転生者たちが、ゾロゾロとサーシャとクレアの前に姿を現わしたのだった。


 『おう、早ぇじゃねえか。』

 『5分前行動がモットーですから。』

 『そうか。待たせて済まなかったな。』

 『別に構いませんよ。』


 龍二たち9人の転生者たちが、サーシャとクレアを取り囲む形になったのだが。


 『それで?私とお母様に話しておきたい事とは?誰にも聞かれたくない話だと仰っていましたが…。』


 サーシャもクレアも魔王カーミラの討伐を果たした後も、龍二たちには今後もこのフォルトニカ王国の騎士団の一員として、是非働いて貰いたいと思っていた。

 龍二たちのお陰でこの国の多くの街や村が救われ、多くの人々の命が守られたのだから。


 だがそれでもサーシャとクレアがシリウスに命じて、龍二たちをこの国に転生させたのは、『魔王カーミラを討伐して欲しい』という、自分たちの『身勝手な都合』による物だ。

 だからこそ龍二たちが、魔王カーミラは討伐したんだから騎士団を辞めて、今後はこの異世界で自由に生きてみたいと言い出したとしても、サーシャもクレアも止める権利も資格も無いと思っていたのだが。


 『あの時も話したよな?俺たちの今後の件についてだ。』

 『そうですね。私としては、出来れば龍二さんたちには今後も…っ!?』


 だがそんなサーシャに対して、龍二の仲間が妖艶な笑みを浮かべながら、突然ショートソードを抜いて背後から斬りかかって来たのだった。

 咄嗟に殺気を感じて斬撃を避けたサーシャだったのだが、まさかの予想外の出来事に困惑してしまう。


 『ちっ、避けやがったか。完全に不意を突いたつもりだったのによぉ。』

 『龍二さん!!これは一体どういうつもりなのですか!?』

 『どういうつもりも何も、てめぇらを今ここでぶっ殺して、俺様がこの国をシメる(支配する)つもりに決まってんだろうがぁ!!ひゃははははははは!!』

 『なっ…!?この国をシメる!?』

 

 鞘からソードレイピアを抜いたサーシャに対し、龍二がロングソードで次々と斬撃を浴びせる。

 『異能【スキル】』によって強化された龍二の斬撃の連打を、戸惑いの表情でソードレイピアで受け続けるサーシャ。

 そして他の転生者たちも妖艶な笑みを浮かべながら、サーシャとクレアに一斉に襲い掛かったのだが。


 『光の壁よ。私たちを守る障壁と化しなさい。』


 咄嗟にクレアが精霊魔法で生み出した光の壁が、龍二たちの攻撃からサーシャとクレアを守ったのだった。

 慌ててバックステップして体勢を立て直し、サーシャとクレアから間合いを離す龍二。

 

 『この時をずっと待ってたんだよ!!てめぇらをぶっ殺せる最大の好機をよぉ!!』

 『何故ですか!?何故このような馬鹿げた真似をするのですか!?これまで沢山の人々の命を救って下さった皆さんが、一体どうして!?』

 『てめぇらの信頼を得て油断させて、ここにおびき寄せる為に決まってんだろうが!!俺たちは最初からてめぇらをぶっ殺して、いずれこの国をシメるつもりだったんだよ!!この異世界に転生させられてから、ずっとなぁ!!ひゃはははははははは!!』

 『そ、そんな…!!』


 信じられない、有り得ないといった表情で、クレアが生み出した障壁に守られながら、妖艶な笑みを浮かべる龍二をじっ…と見据えるサーシャ。

 今は夜10時で庭園が閉鎖されており、周囲には人1人いない。

 だからこそ今ここで龍二たちがサーシャとクレアを殺してしまったとしても、誰にも殺人現場を見られる事は無いだろう。

 仮に誰かに目撃されてしまったとしても、そいつを殺して口封じをすれば済むだけの話だ。


 この状況を作り出す為に、龍二たちは敢えてサーシャとクレアの尖兵として、この国の町や村を魔物や盗賊たちから何度も守り、沢山の人々の命を何度も救い続けてきたのだ。

 サーシャとクレアからの強い信頼を得る事で、2人をこの場所におびき寄せる為に…ただそれだけの為にだ。

 

 『ここなら誰にも邪魔されねえ!!誰の目にも入らねえ!!てめぇらを今ここでぶっ殺した後、俺様がこの国の王にやってやんよ!!』

 『龍二さん…!!』


 そして自分たちに対して、常日頃から色々とうるさく言ってきた邪魔者の明日香も、もう既にこの世にはいない。

 彼女とツーマンセルを組んでいたシルフィーゼも、姿を消してしまった。

 龍二たちの邪魔をする者は、もう誰もいなくなったのだ。


 ここでサーシャとクレアを殺し、フォルトニカ王国をシメて、自分がこの国の王となる。

 そしていずれは世界中の国々を侵略し、この異世界全てを自分の物にしてやるのだ。

 折角『異能【スキル】』という強大な力を手に入れたのだ。有効に使わなければ勿体無いという物だろう。

 そんな企みを胸に秘め、妖艶な笑みを浮かべていた龍二たちだったのだが。

 

 『ひゃはははははは!!お前ら!!ぶっ殺…っ!?』

 『行きなさい。エンゼルビット。』

 『なあっ!?』


 そんな龍二たちの表情が、途端に絶望に染まる事になってしまう。


 『ぎぃああああああああああああああああああああああああ!!』


 龍二たちに反撃する為に障壁を解除したクレアが精霊魔法で生み出した、10体の光の光弾「エンゼルビット」が、クレアを背後から襲おうとした転生者に一斉に光の稲妻を放ち、転生者の全身を情け容赦なく焼け焦がしたのだった。

 そして。


 『ぐあああああああああああああ!!』

 『ひいいいいいいいいいいいいい!!』

 『があああああああああああああ!!』


 そして10体のエンゼルビットが転生者たちに全方位オールレンジ攻撃を仕掛け、放たれた光の稲妻によって、あっという間に4人の転生者たちを焼き殺してしまう。


 『う…嘘だろ…!?い、一瞬で4人を!?』


 まさかの出来事に、驚愕の表情になってしまう龍二たち。

 彼らは知らなかった…いいや、気付く事が出来なかったのだ。

 目の前にいるクレアが内に秘めた、圧倒的なまでの戦闘能力を。

 強い者程、相手の強さには敏感な物だ。

 だが逆に言うと、『弱い者程、相手の強さが分からない』物なのだ。

 

 『サーシャ。こうなってしまった以上、最早今ここで彼らを討ち取るしかないわ。』 

 『お母様…!!』

 『彼らは私たちに謀反を起こしたのよ。それにここで彼らを野放しにしてしまえば、この国の人々の命と尊厳が危険に晒される事になってしまう…この国の王族として、そんな事を許す訳には行かないわ。』


 クレアの言葉でサーシャもまた覚悟を決め、ソードレイピアを構えたのだった。

 そう、クレアの言う通りだ。龍二たちはこの国をシメるなどと公言し、その為に自分たちを殺そうとしたのだから。

 ここで龍二たちを倒さなければ、この国はどれだけの脅威に晒されてしまうのか。どれだけの命が失われる事になってしまうのか。

 サーシャはこの国の王女として、目の前でこの国を支配するなどと公言する者を、自らの手で排除しなければならないのだ。

 

 『龍二さん…私は皆さんの事を信じていたのに…!!』

 『う、うるせえっ!!騙されるてめぇらが悪いんだよぉっ!!お前ら!!一斉にかかれぇっ!!』


 龍二の号令で一斉にサーシャに襲い掛かる4人の転生者たちだったのだが、サーシャがソードレイピアを振るう度に、1人、また1人と斬り殺されてしまう。

 あっという間にサーシャとクレアの周囲に、8人の死体が出来上がってしまったのだった。

 これで残るは、龍二1人だけだ。


 『そ、そんな…馬鹿な…っ!?』

 『…龍二さん…!!』

 『ひ、ひいいいいいいいい!!悪かった!!俺が悪かった!!だから助けてくれ!!この通りだ!!』


 圧倒的なサーシャとクレアの強さを見せつけられた龍二が、蛇に睨まれた蛙の如く、途端に心の底から怯えながら土下座したのだった。

 龍二は今更ながら悟ったのだ。この2人は自分如きでは到底敵わない、そして手を出す事自体がそもそもの間違いだった、まさに正真正銘の化け物たちだという事を。

 そもそも『異能【スキル】』という強大な力に溺れ、欲にまみれ、己の力を過信し、研鑽する事を怠るような『愚物』如きが、最初から勝てるような相手では無かったのだ。


 だが龍二があと数分早くその事に気付いてさえいれば、龍二も他の転生者たちも、今ここで死ぬような事にはならなかっただろうに…。


 『お、お前たちは、命乞いをする奴まで殺すのか!?そんな事をすればお前たちは正真正銘の犬畜生になっちまうぞ!?それでもいいのか!?』

 『貴方は一体何を言っているのかしら?私とサーシャを騙し討ちしようとした挙句、この国を支配するなどと言い出したのは、他でもない貴方でしょう?』

 『も、もうそんな事は言わねえからよお!!だから命だけは助けてくれよお!!』


 サーシャとクレアの靴をペロペロと舐めてでも助かりたいとでも言いたげな、無様な醜態を晒しながら土下座を続ける龍二。

 騙し討ちしようとした挙句に、反撃された途端にこのような無様な醜態を晒すとは。

 こんな男をサーシャとクレアは、今までずっと信用し続けていたとでも言うのか。

 呆れたように深く溜め息をついたサーシャが、手にしたソードレイピアを鞘に収めたのだが…その瞬間。


 『馬鹿が…っ!?』


 その隙を突いてサーシャに斬りかかった龍二の左胸を、神速の如き速さで鞘から放たれた、サーシャのソードレイピアが貫いていた。

 驚愕の表情で、どうっ…と背中から地面に倒れる龍二。即死だった。

 刀身についた血を振り払い、ソードレイピアを再び鞘に収めたサーシャ。

 だが止むを得なかったとはいえ龍二たちを殺してしまったという事実が、サーシャの心に重くのしかかってしまう。 


 生まれて初めて人を殺してしまった。それも5人も。

 魔物や獣なら今までに殺した事は何回もあったのだが、人を殺したのはこれが初めてだったのだ。

 ソードレイピアを握っていた右手に残る、生々しい感触…サーシャは思わず嗚咽し、その場に崩れ落ちてしまう。


 『サーシャ!!』


 そんな愛娘の身体をクレアがぎゅっと抱き締め、その豊満な胸にサーシャの顔を埋めたのだった。

 クレアの身体にしがみつきながら、身体を震わせるサーシャ。


 『お母様ぁっ!!』


 サーシャは泣いた。クレアの胸の中で涙を流しながら嗚咽していた。

 人を殺してしまったというのは勿論そうだが、何よりも龍二たちの裏切りが余程ショックだったのだろう。


 『姫様!!女王陛下!!』


 そこへサーシャとクレアが心配になって、シリウスがレイナと共に庭園の中央広場まで駆けつけてきたのだが…自分の目の前で起きているまさかの事態に、流石に困惑してしまったようだ。 

 クレアの胸の中で号泣するサーシャ。そして2人の周囲に無様に転がっている龍二たちの死体。

 

 『こ…これは…!?女王陛下!!一体ここで何があったと言うのですか!?』

 『龍二たちが私たちを裏切り、殺そうとしたのよ。』

 『な…戸田龍二たちが裏切った!?一体どういう事なのですか!?』


 号泣するサーシャをぎゅっと抱き締めながら、クレアは冷静沈着に、シリウスに事の詳細を100億%馬鹿正直に話したのだった。

 

 『馬鹿な…!!戸田龍二たちが、我が国を支配しようと企んでいたなどと…!!』

 『信じられないでしょうけれど、紛れも無い事実よ。』

 『そ、そんな…!!何という事なのだ…!!』


 シリウスの目には、龍二は横暴でぶっきらぼうな性格ながらも、それでも任務自体は真面目にこなしてくれているように映っていたのだ。

 だがそれが、まさかサーシャとクレアを信頼させ、油断させる為の演技だったとは。

 自分が転生術で召喚した異世界人が引き起こした、今回の騒動。

 当然シリウスに罪も責任もある訳が無いが、それでもシリウスは当事者として、責任を感じずにはいられなかったのだった。

 

 『取り敢えず今回の件に関しては、私たち4人だけの胸の内に留めておきましょう。』

 『そうですね。もし外部に漏れようものなら、どれ程の騒動になってしまうのか…下手をすると他国との国際問題になってしまうかもしれませぬ。』

 『龍二たちはこの庭園に丁重に埋葬し、表向きには騎士団を辞めて、どこかに旅立った事にしておきましょう。』

 『分かりました。では明日の朝にでも、そのように公式発表をしておきましょう。』

 『頼んだわよ。シリウス。』

 『はっ!!お任せを!!』


 こうして秘密裏に謀反を起こそうとした龍二たち9人の転生者は、サーシャとクレアに無様に返り討ちにされてしまい、全員が死亡。

 だがこの事実を他の者たちが知る事は無く、表向きには騎士団を辞めて消息不明になってしまったと、シリウスによって公式発表される事となった。

 そして魔王カーミラとの戦いで明日香が戦死してしまった事で、シリウスが転生術で召喚した転生者たちは全滅。全員が死亡するという最悪の結果となってしまう。


 今回の一件はサーシャの心に、深い傷を残す事になってしまう。

 同時にシリウスもまた、もし再び転生術を使うような事態に陥った場合、龍二たちのように謀反を起こされる事が二度と無いよう、何かしらの対策をしなければと思い詰めるようになってしまったのだった。


 そう…その思い詰めた結果が、その3カ月後にシリウスが独断で太一郎たちに施した『呪い』なのだ。

 それによってシリウスが、結果的に自分の首を絞める事になってしまうとも知らずに。


 ぶっちゃけこの『復讐の転生者』という作品は、先代の転生者の龍二たちのやらかしのせいで、次代の転生者である太一郎たちが大迷惑する話なのである…。


 

 

 「成程な、そんな事が…だからシリウスは僕たちに謀反される事を恐れ、『呪い』を掛けたんだな。」 


 サーシャから全てを聞かされた太一郎は、流石に驚きを隠せずにいたものの、それでも冷静に頭の中で話を整理し、事の詳細を分析したのだった。

 太一郎は龍二たちとは全く面識は無いのだが、それでも龍二たちの謀反によってシリウスの暴走を招いてしまった事は明白だ。

 一馬たちにしてもそうだが、この異世界で突然手に入れた『異能【スキル】』という強大な力に溺れてしまった結果、自分が特別な存在で、この世界で最強なのだという愚かな勘違いを生んでしまい、このような惨劇を招いてしまったのだろう。


 そして今回の龍二のような事件を二度と引き起こさせない為に、シリウスは『呪い』という強硬策を取ったのだ。

 この国を守る為に。自分たちが召喚した転生者たちの手で、この国を支配させない為に。

 シリウスとて決して残虐非道な悪人という訳では無い。この国や人々の事を真剣に考えた上で、太一郎に『呪い』を施したのだ。

 それに関しては太一郎も最初から分かっていた事だし、今回のサーシャの話を聞いて改めて理解させられた。


 だがそんな事は『呪い』から解放された今となっては、最早どうでもいい。

 いや、どうでもよくは無いのだが…今はそんな事よりも遥かに重大な案件があるのだ。

 それは太一郎の目の前で悲しんでいるサーシャを、少しでも安心させてやる事だ。

 

 「…あ…。」

 

 太一郎は、サーシャを無言で優しく抱き締めたのだった。

 サーシャに対して何の慰めの言葉も掛ける事無く、ただただ無言で。

 いかに夫とはいえ、龍二たちの件に関して当事者では無い太一郎が、今回の件に関してサーシャに下手な慰めや励ましの言葉を掛けた所で、サーシャの心には決して響かないだろうから。


 だから太一郎は、ただ黙ってサーシャをぎゅっと抱き締める事にしたのだ。

 悲しみに震えるサーシャの心を、少しでも安心させる為に。

 そんな太一郎の自分への気遣いを敏感に察したサーシャもまた、太一郎の身体をぎゅっと抱き締めたのだった。

 互いに抱き合いながら、互いの温もりと感触を確かめ合う太一郎とサーシャ。


 「太一郎さん…もう私を離さないで…!!ずっと私の傍にいて下さいね…!!」

 「当たり前だろ?僕たちは夫婦なんだからさ。これからもずっと君の傍にいるよ。」


 太一郎はエリクシル王国の特殊工作部隊が攻めて来た際、サーシャに人殺しをさせない為に、自らの手でアルベリッヒを殺した。

 だが実際にはサーシャは正当防衛、そしてこの国の人々を守る為とは言え、既に5人もの人を殺していたのだ。

 そして太一郎が味わった、人を殺したという『重さ』…そして人を殺した事による『罪悪感』『悪夢』を、既にサーシャも味合わされてしまっていたのだ。


 もしこの異世界に運命の神とやらが本当に存在するのだとしたら、そいつは一体どこまで残酷で薄汚い存在なのか。

 こんな17かそこらの純真で天真爛漫な少女に、何故このような残酷で悲しい思いを平気でさせてしまうのか。

 それが太一郎には、何よりも歯痒かった。


 だが、それでも。

 これからは太一郎が、サーシャの傍にいる。

 今後はこの国の為ではなく、サーシャやクレアの為に…そして死んでしまった真由の為に戦うと、太一郎は心に決めたのだから。


 「僕は何があろうと絶対に君を裏切らない。そしてずっと君の傍にいる。これだけはこの命に賭けて誓わせて貰うよ。」


 美しい星々と優しい月の光に包まれながら、太一郎はサーシャに対して不変の誓いを立てながら、サーシャの身体をぎゅっと優しく抱き締め続けたのだった…。

次回。


アッー!!

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