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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第7章:帰還
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第53話:決意

舞台は再び会議室へ。

太一郎に再び『呪い』を掛けるべきだと主張する人は、一斉に起立しなさい…このクレアからの提案により、リゲルを含む過半数の大臣たちが、何の躊躇もせずに一斉に起立した光景に、絶望の表情を浮かべるサーシャ。

そんな大臣たちに対して、クレアが取った行動とは…。

 太一郎に再び『呪い』を掛け、二度と自分たちに歯向かえないようにするべきだと主張する人は、今この場で起立しなさい。


 このクレアの呼びかけによって、過半数の大臣たちが全く何の躊躇もせず、一斉に起立した光景を見せつけられたサーシャは、絶望の表情になってしまう。

 対照的にリゲルは、これで邪魔者の太一郎をサーシャから排除出来ると、妖艶な笑みを浮かべていたのだが。


 「成程…貴方たちが太一郎を、一体どういう風に扱っているのかという事が…よ~く分かったわ。」


 呆れたように深く溜め息をつきながら、クレアが右手の指をパチンと鳴らした、次の瞬間。

 突然会議室に乱入してきた多数の兵士たちが、起立した大臣たちに一斉に武器を突き付けたのだった。

  

 「なあっ!?」


 まさかの予想外の出来事に、途端に焦りの表情になってしまうリゲル。

 他の起立した大臣たちも、これは一体どういう事だとか、ワシを誰だと思っているのだとか、自分たちに武器を突き付けている兵士たちに罵声を浴びせている。

 一体全体何がどうなっているのか…唖然とした表情で、目の前の光景を見つめているサーシャとケイト。

 慌てふためいている大臣たちを、クレアが背筋をピンと伸ばしながら、毅然とした態度で見据えていたのだった。

 

 「じょ、女王陛下!!これは一体どういう事なのですか!?」

 「リゲル。私たち王族や貴族に課せられた使命は何かしら?言って御覧なさい。」

 「そ、それは…!!我が国や民を守る為に最善を尽くす事でしょう!?」


 この人は一体何を言っているんだと、兵士たちに武器を突き付けられながら、慌ててリゲルが怯えた表情でそう答えたのだが。


 「そう、貴方の言う通りよ。私たち王族や貴族は、この国や民を守る為に最善を尽くさなければならないわ。」


 だがそんなリゲルの無様な醜態を見つめながら、クレアは威風堂々とリゲルたちに宣言したのだった。


 「ならば私たちが勝手な都合で我が国に召喚した太一郎もまた、私たち王族や貴族が守らなければならない、大切なフォルトニカの民の1人よ。」

 「なああああああああああああああああああああ!?」


 兵士たちに一斉に武器を突き付けられ、無様な醜態を晒している大臣たちの姿に、クレアは心の底から失望したのだった。

 リゲルはクレアに語っていた。自分たち王族や貴族の使命は、このフォルトニカ王国と民を守る為に最善を尽くす事だと。

 それは民から税金を徴収し、その税金を基に国を動かし発展させるという重責を負う者として、至極当然の事だ。


 だからこそリゲルは、その為に太一郎に再び『呪い』を掛け、戦略兵器として扱うべきだと主張したのだが。

 だがそんなリゲルの主張を、クレアはとても厳しい表情で一蹴したのだった。


 「それにリゲル。彼がこの3か月もの間、我が国に対してどれだけの貢献をしてくれたと思っているの?彼にどれだけの街や村が救われたと思っているの?どれだけの命が救われたと思っているの?」

 「そ、そんな物は当たり前の事でしょう!?あの男は我が国が召喚した転生者!!それがあの男に課せられた『使命』なのですぞ!?」

 「使命?それは貴方たちが勝手に言っている事でしょう?そもそも私たちは彼に戦いを『お願い』している立場なのよ?貴方たちはそんな事も分からないのかしら?」


 シリウスが太一郎たちを転生術でこのフォルトニカ王国に召喚したのは、復活した魔王カーミラ率いる魔王軍と戦い、フォルトニカ王国を守って欲しいなどという、クレアたちの『勝手な都合』による物だ。

 だからこそクレアは太一郎たち転生者に対し、衣食住の無償提供に地位の確約、高額の給料という破格の待遇を与えたのだ。

 当然だろう。自分たちの勝手な都合で、太一郎たちに戦場に行って命のやり取りをしてこいなどと言っているのだから。

 そう…本来ならばクレアたちは太一郎たちに対して、むしろ精一杯のねぎらいをしなければならない立場にあるはずなのだ。


 だがリゲルたちは、どうやらそんな当たり前の事も全く理解していないようだ。

 太一郎たち転生者の事を、『兵器』『道具』『駒』だとしか考えていない。

 それはクレアの冒頭の呼びかけに対して、全く何の躊躇もせずに応じた事を考えれば明白だろう。

 

 「それに彼はシリウスに『呪い』によって戦いを強要された結果、聖地レイテルで真由を失っているのよ?それがどれだけ『重い』事実か分かってる?」


 さらに畳みかけるように、リゲルたちに対して厳しい態度で追及するクレア。

 目の前のリゲルたちの『だから何だっていうんだ』と言いたげな不服そうな態度から察するに、きっとリゲルたちは真由の死さえも別に何とも思っていない、それどころか当たり前の事だとさえ思っているのだろう。


 クレアたちの勝手な都合によって召喚され、戦いを強要された結果、聖地レイテルで戦死してしまった真由。

 そんな彼女にリゲルたちは、どうして先程から哀悼の意を表そうとしないのだろうか。

 それがクレアには先程から不思議で仕方が無かったし、そんな事すら出来ないリゲルたちに心の底から失望していた。

 

 「彼がこれまでに『呪い』によって受けた理不尽な苦しみや、真由を失った悲しみを理解しようともせず、それどころか彼に再び『呪い』を掛けるべきだなどと…そんな馬鹿げた事を平然と語る非道な貴方たちに、この国の重役を任せる事など到底出来はしないわ。」


 完全にリゲルたちに失望したクレアは、女王としての名の下に、情け容赦なくリゲルたちに通告したのだった。


 「今、この場で起立している貴方たち全員を、太一郎に対する虐待、強要示唆の現行犯で逮捕。大臣としての一切の権限をはく奪します。」

 「ば、馬鹿な!?女王陛下!!貴女はあの男に再び『呪い』を掛けるべきかどうか、多数決で決めるおつもりだったのでは無かったのですかぁっ!?」


 とても不服そうな態度で、クレアに罵声を浴びせたリゲルだったのだが。

 そんなリゲルの罵声に、クレアはきょとんとした表情で反論したのだった。


 「あら。私は『皆の意見をまとめる』と言っただけであって、『多数決で決める』だなんて一言も言ってないのだけれど?」

 「…はあああああああああああああああああああああああああ!?なんじゃそりゃあああああああああああああああああ!?」


 そう、クレアは確かに『多数決で決める』とは一言も言っていない。

 ただ単に『皆の意見をまとめる』と言っただけであって、それでクレアが冒頭の呼びかけを行った結果、リゲルたちが勝手に応じただけの話なのだ。

 

 「そ、そんな物は言葉のあやだぁっ!!こんな理不尽な暴挙が許されてたまる物かぁっ!!」

 「自分の発言と行動には責任を持ちなさい。貴方たちは自らの意志で、自らの責任において、太一郎に再び『呪い』を掛けるべきだと、そう私に進言したのでしょう?だから私は女王としての名において、貴方たちを虐待と強要示唆の現行犯で処罰しただけの話よ。」


 威風堂々とリゲルたちに通告するクレアの姿を、サーシャとケイトが唖然とした表情で見つめていたのだった。


 「…お母様…。」

 「無様だな、リゲル。いや、これも全て女王陛下の計画通りだったのかな?」

 「なっ…!?」

 

 さらに追い打ちを掛けるかのように、太一郎が右腕でロファールの肩を借りながら、会議室へと乱入してきた。

 慌ててサーシャが立ち上がり、自分に対して穏やかな笑顔を見せている太一郎に、ケイトと共に駆け寄ったのだが。


 「太一郎さん!!」

 「よっ。」

 「大丈夫なのですか!?精密検査の方はもう宜しいのですか!?」

 「うん。取り敢えず『呪い』の後遺症は無いから安心していいってさ。それでも数日間は安静にしてろって言われたけど。」

 「そうですか…本当に良かった…!!」


 安堵の表情で自分を見つめるサーシャとケイトに、穏やかな笑顔を見せる太一郎。

 そんな太一郎をリゲルたちが侮蔑の形相で睨みつける最中、クレアもまた起立して太一郎の前に歩み寄り、深々と頭を下げたのだった。

 謝罪。それがクレアが太一郎に対して、この国の女王として最優先でやらなければならない事なのだから。


 「貴方に話したい事は山程あるけれど、まずは『呪い』の件について謝罪をさせて貰うわね。この3か月もの間、貴方たちを不当に苦しめてしまって本当に御免なさい。女王として弁明の余地も無いわ。」

 「女王陛下…。」

 「それに真由たちの件についても…本来なら私は、貴方に殺されても犯されても文句を言えるような立場じゃない。それは分かってるけど…それでもどうか、どうかこれだけは言わせて頂戴ね。」


 頭を上げたクレアは太一郎の左手を両手で優しく包み込み、潤んだ瞳で太一郎をじっ…と見つめる。


 「太一郎…よく無事に生きて帰ってきてくれたわね。本当に良かったわ。」

 

 転生者たちが全滅した中で、太一郎だけが瀕死の重傷を負いながらも唯一生存したという事は、クレアも事前に聞かされてはいたのだが。

 それでも実際に太一郎が無事な姿を見て、心の底から安堵の笑顔を見せていた。

 そして目の前で兵士たちに武器を突き付けられ、無様な醜態を晒しているリゲルたちの姿を見た太一郎は、呆れたように深く溜め息をついたのだった。


 どうせリゲルの事だから一馬たちの謀反を口実にして、自分に再び『呪い』を掛けるべきだなどとクレアに主張するんじゃないかという事は、太一郎も予測はしていたのだが。

 太一郎自身、それならそれで逆に好都合だと思っていた。

 当然だろう。こんな物はクレアに対して、自分たちを逮捕して下さいお願いしますと言っているのも同義なのだから。


 読者の皆さんもよく考えてみて欲しい。目の前で虐待行為を行う事を公然と宣言する馬鹿共がいたとしたら、クレアだって女王として、虐待示唆の現行犯で逮捕するに決まっているだろう。

 なまじ大臣という重役の地位を得てしまったが為に、リゲルたちは「自分たちは特別な存在だ」などという、愚かな勘違いを持つ事になってしまったのかもしれない。

 その勘違いが、奢りが、自惚れが、愚かさが、今回の結末を招いてしまったのだ。


 いや、太一郎の言うように、これらは全てクレアの計画通りだったのだろう。

 リゲルたちのような横暴な考えを持つ大臣たちを、今回の緊急会議の場を利用して、全員まとめて解任する為に。

 だがリゲルたちが大臣として相応しくないという理由だけで解任してしまったのでは、逆にクレアがリゲルたちに逆提訴される事になりかねない。


 だからこうしてリゲルたちを言葉巧みに誘導し、太一郎に再び『呪い』を掛けるべきだと敢えて進言させるように仕向け、リゲルたちを逮捕する口実を巧みに作り出したのだろう。

 したたかに、計算をして。

 このあまりの手際の良さから考えると、そうとしか思えないのだ。

 どうやらクレアは太一郎以上に聡明で頭がキレて、とんでもなく計算高い人物のようだ。

 全く、本当に恐ろしい女性だと…太一郎は素直に感心したのだった。


 「女王陛下。僕は貴女とサーシャに伝えておかなければならない事があります。どうやらこの会議で議題に挙がっていたようですが…僕の今後の事についてです。」


 だが、そんな事は今となっては、別にどうでもいい。

 太一郎はこの緊急会議の場に乱入した、本来の目的を果たす事にした。

 それはシリウスに掛けられた『呪い』をサーシャに浄化して貰い、正真正銘自由の身になった自分が、今後どんな道を歩むのかという事を、サーシャとクレアに伝える事だ。

 

 サーシャもクレアも太一郎が騎士団を辞めると言い出したとしても、それは仕方が無い事だと思っているし、自分たちには慰留する権利も資格も無いと考えていた。

 当然だろう。太一郎はこの3か月もの間、シリウスに掛けられた『呪い』のせいで、ここまで理不尽な苦しみを受け続けたのだから。しかもそのせいで最愛の妹である真由まで失っているのだ。

 そんな太一郎に対して、これからもこの国の為に戦って欲しいなどと、口が裂けても言える訳が無い。


 それでもサーシャもクレアも心の中では、太一郎にはこれからも騎士団に残って欲しいと…自分たちの傍にいて欲しいと…そんな事を考えていたのだが。

 気持ちを落ち着かせる為に一度深呼吸をした太一郎が、意を決した表情でサーシャとクレアに、自らが出した答えをはっきりと告げたのだった。


 「単刀直入に言いますが、僕は騎士団には残りますよ。ただし僕はもう、この国の為に戦うつもりは微塵もありません。」


 威風堂々と、クレアをしっかりと見据えながら、自らの想いを語る太一郎。

 そんな太一郎に一斉に罵声を浴びせようとする大臣たちを、兵士たちが武器を突き付けて無理矢理黙らせたのだった。

 何しろ太一郎はシリウスに掛けられた『呪い』のせいで、あれだけの苦しみを味合わされただけでなく、最愛の妹である真由まで失っているのだ。


 『呪い』はサーシャに浄化して貰ったが、ここまで酷い仕打ちを受けてもなお「今後もこの国の為に誠心誠意戦います」などとクレアに語る程、太一郎はお人好しでは無い。

 太一郎は今でこそ英雄だの救世主だの呼ばれているが、それでも聖人などでは決して無いのだ。

 では太一郎は、今後一体何の為に戦うのか。それは…。


 「僕がこれから戦うのは、女王陛下とサーシャの為…そして真由がこの異世界で生きた証を残す為です。それ以上でもそれ以下でもありませんよ。」


 これからの太一郎は、この国の為に戦うのではない。

 サーシャとクレアの為に…そして死んでしまった真由の為に戦うのだ。

 まして目の前で無様な醜態を晒している、リゲルら大臣の命に従って戦うなど、言語道断だ。

 そんな太一郎の左手を両手で優しく包み込んだまま、潤んだ瞳で見つめるクレア。


 「太一郎。私としては貴方がどんな形であれ、騎士団に残ってくれるのは本当にありがたいと思ってるけど…本当にいいの?」

 「ええ。これが僕が出した答えです。」


 決意に満ちた表情の太一郎をじっ…と見据えながら、クレアは穏やかな笑顔で頷いたのだった。

 太一郎本人が騎士団に残ると言ってくれたのだ。ならばクレアの方からは、最早これ以上何も言う事は無い。


 「分かったわ。では現時刻をもって貴方を近衛騎士へと昇格させ、ケイトと共にサーシャ直属の部下として働いて貰います。給与に関しては後で人事担当者に話をさせるので、充分に話し合って頂戴ね。」

 「了解しました。女王陛下。」

 「同時に真由を亡くした事に対しての慶弔見舞金と、これまで貴方が理不尽に苦しめられ続けた『呪い』に対する賠償金を合わせて、この金額を今月末に給与と一緒に、貴方の預金通帳に振り込みます。」


 それだけ告げて懐から紙とペンと印鑑を取り出したクレアが、紙に0を大量に書いて捺印をし、太一郎に手渡したのだが。


 「ちょ(汗)!?」


 記された金額を見て、思わず太一郎はぎょっとしてしまう。

 無駄使いしなければ10年は遊んで暮らせるだけの金額が、クレアに差し出された紙に記載されていたのだった…。

 そんな太一郎を、リゲルたちが相変わらず兵士たちに武器を突き付けられながら、侮蔑の態度で睨みつけていたのだが。


 「き、貴様、たかが転生者の分際で、我々に対して何だその無礼な態度はぁっ!!」

 「ん?何だリゲル、まだいたのか。」

 「なっ…!?貴様ぁっ!!」


 そんなリゲルを太一郎が、最早完全に興味を無くしたと言わんばかりに一蹴したのだった。

 そして。


 「ああそうだ、サーシャ。」

 「はい?」


 とても穏やかな笑顔で、太一郎はサーシャに向き直ったのだが。


 「この間の君からの告白の返事…そう言えばまだだったよな?」

 「え?…んっ…!?」


 ロファールの肩から手を離した太一郎は、サーシャを優しく抱き寄せ…そして優しく唇を重ねた。

 いきなりの出来事に、その場にいた誰もが驚きを隠せず、会議室は凄まじい大喧噪に包まれてしまう。

 一瞬びっくりしてしまったサーシャだったのだが、それでも抵抗する事無く静かに目を閉じ、太一郎の身体をぎゅっと抱き寄せたのだった。


 「あらあらあら、まあまあまあ。」


 そんな2人のラブラブな光景を、とても穏やかな笑顔で見つめるクレア。

 

 「…えっと…。」


 やがてサーシャから唇を離した太一郎は、物凄く恥ずかしそうに顔を赤らめながら、思わずサーシャから視線を逸らしてしまったのだった。


 「と、とにかく…こ、こういう事だから…。」


 あまりの恥ずかしさに、太一郎はまともにサーシャと目を合わせる事が出来ない。


 (…ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!)


 今更ながら自分がやらかした事に、物凄く恥ずかしくなってしまった太一郎は、思わず心の中で絶叫してしまい、穴があったら入りたい気分になってしまったのだが。


 「んんんっ!?」

 

 そんな太一郎の頬を優しく両手で包み込み、顔を無理矢理自分の方に向けさせたサーシャが、お返しと言わんばかりに太一郎と優しく唇を重ねたのだった。

 まさかの出来事に、会議室はさらに凄まじい大喧噪に包まれてしまう。

 やがて太一郎から唇を離したサーシャは、唖然とした表情の太一郎に対し、とても嬉しそうな笑顔を見せたのだった。


 「不束者ふつつかものですが、これからもよろしくお願いしますね。太一郎さん。」

 「ふ、ふざけるなぁっ!!貴様と姫様とでは身分が違い過ぎるだろう!?たかだか近衛騎士如きが一国の王女と結婚など、到底許されるはずが無いだろうがぁっ!!」


 だがそんな太一郎とサーシャに、当然の事ながらリゲルが文句を言い出した。

 太一郎は近衛騎士に昇格したとはいえ、所詮は騎士団に所属する一兵士に過ぎない。

 それに対してサーシャは、このフォルトニカ王国の王女だ。リゲルの言うように恋仲になるには、あまりにも身分が違い過ぎるからだ。

 とはいえリゲルにとっては、このままでは太一郎に次期国王の座を取られてしまうというのが、正直な思惑ではあるのだが。


 「そうね。リゲルの言う通りだわ。確かに太一郎とサーシャとでは身分が違い過ぎるわね。」

 「お母様!!」


 クレアの言葉に不満そうな態度を示すサーシャだったのだが、次の瞬間クレアは誰もが予想もしなかった、とんでもない事を言い出したのだった。


 「では現時刻をもって、太一郎に名誉貴族の称号を与えます。」

 「…は…?」


 一瞬、クレアが何を言っているのか、頭が追い付かなかったリゲルだったのだが。


 「…はあああああああああああああああああああああ!?なんじゃそりゃああああああああああああああああああああ!?」


 すぐに言葉の意味を理解したリゲルが、当然ながら不服そうな態度を見せたのだった。

 ただでさえ太一郎が近衛騎士になっただけでも厄介だというのに、さらに名誉貴族の地位を与えるなどと。

 サーシャを妻にめとる事で、次期国王の座を虎視眈々と狙うリゲルにとって、これ程都合の悪い話は無いだろう。

 何故ならこれで立場上、太一郎はリゲルたちと同格の地位を得る事になってしまったのだから。

 そして太一郎は身分上はサーシャと結婚するのに、何の障害も無くなってしまった事になるのだ。


 「じょ、女王陛下!!こんなたかが平民如きを名誉貴族にするなどと…!!気でも触れられましたかぁっ!?」

 「別におかしい話ではないでしょう?彼のこれまでの功績を考えれば、至極当然の話なのではなくて?」


 そんなリゲルの抗議を、あっさりと一蹴してしまったクレア。

 と言うか貴族の地位を、こんなにポンポンポンポン簡単に与えていい物なのだろうか…。

 そんな事を心の中で考えていた太一郎なのであった。


 「これで身分の差は解消されたわね。さ、思う存分太一郎と結婚しなさい。サーシャ。」


 それだけ告げたクレアが、サーシャに対して笑顔でウインクをしたのだった。

 太一郎に寄り添いながらクレアに対して、とても嬉しそうな笑顔を見せるサーシャ。

 そしてクレアからの命令を受けた多数の兵士たちが、クレアの策略によって虐待、強要示唆の現行犯で無様に逮捕されたリゲルたちを、情け容赦なく営倉室へと連行していく。

 

 「ふ、ふざけやがって!!私を誰だと思っているんだ!?私は名家ヴァルスリー一族の長男にして、姫様の婚約者候補にして次期国王筆頭!!リゲル様だぞぉっ!!」


 他の大臣たちもリゲル同様に兵士たちに罵声を浴びせ、暴れようとするものの、兵士たちに情け容赦なく無様にずるずると引きずられてしまう。


 「お、お前たち、この私に対してこのような真似をして、只で済むと思っているのか!?離せ!!離さんかぁっ!!」


 自らの貴族という地位を盾に、兵士たちに自分を解放するよう命令するリゲルだったのだが、兵士たちだって女王であるクレアからの上位命令には、逆らえる訳が無かった。


 「くそがぁっ!!貴様さえ現れなければ、こんな事にはならなかったのだ!!貴様さえいなければぁっ!!」


 無様な醜態を晒しながら、兵士たちにずるずると営倉室へと連行されてしまうリゲル。

 最後の最後まで次期国王の座に執着しながら、自分に罵声を浴びせる『愚物』の姿を、太一郎がサーシャの肩を優しく抱き寄せながら、神妙な表情で見つめていたのだった…。

次回はサーシャの過去のお話。

太一郎を城下町の庭園へと案内したサーシャは、太一郎とのお茶会の際に話すのを躊躇した、先代の転生者である戸田龍二たちとの間に何が起こったのかを語ります。

サーシャから語られた衝撃的な内容に、太一郎は何を思うのか…。

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