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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第7章:帰還
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第52話:精密検査

サーシャが会議室で孤軍奮闘する最中、医務室で精密検査を受ける太一郎。

検査の結果、特に問題は無いと言われるものの、『潜在能力解放【トランザム】』の危険性を医師に警告されるのですが…。

 サーシャが開催した緊急会議において、太一郎の処遇を巡っての激論が会議室で繰り広げられている最中。

 検査着に着替えた太一郎がロファールの付き添いを受けながら、初老の医師による精密検査を受けていたのだった。


 『呪い』による後遺症が身体に残っていないか、身体を蝕んでいるエキドナの暗黒魔法の状態はどうなのか。

 医師が問診や身体検査などで入念な検査を行い、検査結果を紙に記録していく。

 そして検査の仕上げとして、視力検査をする事になった太一郎は、検査装置のレンズを両目で覗き込んでいたのだが。 


 「ではまず右目から。13番。」

 「右。」

 「14番。」

 「左。」

 「15番。」

 「上。」

 「16番。」

 「おっぱい。」

 「はい、右目の視力は2.0ね。」


 太一郎の右目の視力を測定した後、カードリッジを交換した医師が、今度は太一郎の左目の視力を測定する。


 「じゃあ次は左目。13番。」

 「上。」

 「14番。」

 「下。」

 「15番。」

 「右。」

 「16番。」

 「ちんちん。」

 「左目も視力2.0、と…。」


 記録を一通り紙に書き写した医師が、とても満足そうな笑顔で太一郎に向き直った。


 「うん。一通り検査してみたけど、特に『呪い』の後遺症などは見当たらないようだ。」


 視力、聴力、筋力共に問題無し。脈拍も血圧も正常。血液検査もしてみたが特に異常は見られなかった。

 あとは現在問題になっているのが、エキドナの暗黒魔法のせいでサーシャの回復魔法で治す事が出来ずにいる、未だに太一郎を苦しめている全身筋肉痛なのだが。


 「君の身体を蝕んでいる暗黒魔法に関しても、確実に効果が弱まっている。姫様が明日浄化なさるとの事だが、放っておいても数日あれば勝手に消えて無くなるだろう。そうすれば回復魔法も再び効くようになるはずだ。」


 これも取り敢えずは問題無いとの診断結果を受けた事で、ロファールは安堵の表情を見せたのだった。

 正直心の底では不安だったのだが、特に重篤な後遺症は無さそうで何よりだ。


 最も、シリウスが太一郎に『呪い』を掛けたのは、太一郎に戦いを強要する為だ。

 それで後遺症を残すまで苦しめてしまい、太一郎が使い物にならなくなってしまっては、本末転倒だという物だろう。

 だからこそ『呪い』による後遺症が無いのは、当然の事なのかもしれないが。


 「…ただ…。」


 それでもプロの医師の目は、やはり誤魔化せなかった。

 それは太一郎の身体を蝕んでいる、全身筋肉痛の正体についてだ。


 「今、精密検査をしてみて分かった事だが…君、相当無茶な事をしでかしたみたいだね?全身の至る所に細かいダメージが蓄積しているよ。」

 「ええ、恐らく『潜在能力発動【トランザム】』の後遺症でしょう。」

 

 太一郎は医師に対して、『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』の詳細、そして発動する事になった経緯の詳細を伝えたのだった。

 太一郎から話を聞かされて、流石に医師も驚きを隠せずにいたようだが。


 「…成程、『潜在能力解放【トランザム】』か…。」


 人間は自身に秘められた潜在能力を、30%程しか使う事が出来ない。

 これは限界以上の力を引き出した事で身体が壊れてしまわないように、無意識の内に本能で身体に安全装置を働かせ、力をセーブしているからだ。


 だが『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』は、その安全装置を強制的に解除し、秘められた潜在能力を無理矢理100%まで引き出してしまう。

 そうなると戦闘能力や身体能力が爆発的に向上するメリットはあるものの、当然ながらその代償として自身の身体に膨大な負荷がかかってしまうのだ。

 それがどれだけ危険な行為なのか…太一郎から一通りの説明を聞かされた医師は、随分と無茶な事をしでかしてくれた物だと、呆れたように深く溜め息をついたのだった。

 

 「医師としての正直な意見を言わせて貰うけど…全く使うなとは言わないが、それでも今後は出来るだけ発動するのは控えて貰いたいな。」

 「まあ出来れば僕もそうしたい所なんですけど…あの時は使わなかったら、僕が殺されていたかもしれなかったですからね。イリヤはそれ程の使い手でしたから。」

 「そうだね。だけど今後『潜在能力解放【トランザム】』は、いざという時の為の切り札のみに留めておきなさい。」


 とても真剣な表情で、医師は太一郎を見据えている。

 そして「君なら分かっていると思うが」と前置きした上で、『潜在能力解放【トランザム】』の『異能【スキル】』の危険性を、これでもかと太一郎に説いたのだった。


 イリヤとの戦い、そしてサーシャに『呪い』を浄化して貰った時は、いずれも『潜在能力解放【トランザム】』を発動したのが極めて短時間だったお陰で、こうして全身筋肉痛程度で済んでいるのだ。

 だが、あまりに長時間発動し続けた場合、下手をすると極限まで解放された潜在能力に肉体がついてこれずに破壊され、最悪死に至る危険性さえあるのだ。

 その事を太一郎に警告した医師は、頭の中でざっくりと計算して見積もりをした上で、1つの指針を示したのだった。


 「そうだね…『潜在能力解放【トランザム】』の発動は1日1回のみ、連続発動時間も30秒までが限度だ。それ以上は危険を伴うという事を肝に銘じておきなさい。」

 

 出来れば使わずに済ませればそれに越した事は無いのだが、それでも今回のイリヤとの戦いのように、「使わなければ死ぬ」という状況が今後も訪れないとは言い切れないのだ。

 だからこそ、こうしてざっくりとだが、発動限界時間の目安を太一郎に示したのだが。

 成程、よく見ているなと…太一郎は素直に医師に感心したのだった。

 太一郎自身も医師の見積もりと大体同じ目安を、事前に自分自身で分析していたのだ。

 自分の身体と『異能【スキル】』の事だ。自分が一番よく分かっている。


 『潜在能力解放【トランザム】』に限った話ではないが、太一郎とて何のテストもせずに、いきなり実戦で『異能【スキル】』などという強大な力を使う程、馬鹿ではない。

 実際にどれだけの効果があるのか、どれだけ有効な代物なのか、使うにあたってどんなリスクが伴うのか。周囲を巻き込んでしまわないかどうか。

 太一郎は自身が所有する『異能【スキル】』を、全て事前に入念に分析し尽くした上で、戦いに臨んでいるのだ。


 とはいえ、これまで太一郎が戦った魔物や盗賊たち、そしてバルゾムやアルベリッヒ、一馬でさえも、別に『異能【スキル】』を使わなくても鼻クソをほじりながら楽勝で勝てるような相手ばかりだった。

 だから太一郎はイリヤやアリスと戦うまでは、一度も『異能【スキル】』を使わなかったのだ。

 医師の言うように『潜在能力解放【トランザム】』に限っては、出来れば使わずに済ませられるのが、それはそれで一番ベストなのだろうが。

 

 「取り敢えず『潜在能力解放【トランザム】』のダメージも含めて、若くて健康な君なら数日安静にしていれば、万全の状態に戻せるだろう。それまでは戦場に出るのは勿論、激し運動も一切禁止だ。筋肉痛が収まるまでは絶対安静だよ。いいね?」

 「分かりました。サーシャと女王陛下にも、そのように伝えておきます。」

 「よし、それ以外は特に異常は無いから、これで精密検査は終わり。もう下がっていいよ。」

 「はい、ありがとうございます。」

 

 椅子から立ち上がった太一郎は検査着から背広に着替え、ロファールの肩を借りながら医務室から外に出ていく。

 そんな太一郎の背中越しに、医師が興味深そうに問いかけたのだが。 


 「君、これから一体どうするんだい?シリウス君に掛けられた『呪い』とやらは、姫様に浄化されたんだろう?だったら君を縛る物は、もう何も…。」


 これまで太一郎はシリウスに掛けられた『呪い』によって、この国の為に戦う事を強要され続けてきた。

 そしてその戦いの果てに、太一郎は最愛の妹である真由を失ってしまい、自身も瀕死の重傷を負ってしまったのだ。


 だがその『呪い』は、既にサーシャによって浄化された。

 だからこそ太一郎が、もうこの国の為に戦う理由など何も無いのだ。

 それにここまで理不尽な目に遭わされた以上、太一郎が


 『引き続きフォルトニカ王国の尖兵として戦います(笑)。』


 などとクレアに対して言うとは、医師にはとても思えない。

 何しろ太一郎はこの3か月もの間、ここまで理不尽に苦しめられ続けてきたのだ。流石に太一郎とて、そこまでお人好しではないはずだ。

 少なくとも医師が太一郎と同じ立場だったならば、


 『やってられるか。もう辞めてやるよ。つーか慰謝料を寄越しやがれ(激怒)。』


 などとクレアに告げるだろう。

 そんな医師に太一郎は背中を向けたまま、穏やかな笑顔で語り掛けたのだった。


 「それに関しては僕の中で、既に答えは出ていますよ。その答えを今からサーシャと女王陛下に伝えに行きます。」

 「そうか。まあ後悔だけはしないようにな。」

 「はい。」

 「君がどんな道を歩もうが、私は君の事を応援しているからね。」


 確かに太一郎はシリウスに掛けられた『呪い』によって、これまでずっと戦いを強要され続けてきた。

 だがそれでも太一郎がこの3か月もの間、沢山の町や村を魔物や盗賊たちから守り抜き、数え切れない程の命を救ってくれたという事実に変わりは無いのだ。

 そんな太一郎が仮に騎士団を辞めると言い出した所で、それを責める権利が果たして誰にあるのだろうか。

 そしてそんな太一郎に医師もまた、心の底から感謝していたのだった。


 「では太一郎殿、行きましょう。姫様と女王陛下がおられる会議室へ。」

 「ええ、お願いします。ロファールさん。」


 外で待機中のロファールの部下2人が、キャスター付きの担架の傍で、いつでも太一郎を会議室に運べるようにスタンバイしている。

 全身筋肉痛と言っても別に歩けない程では無いのだが、担架で会議室まで運んでくれるというのであれば、それはそれでありがたい話だ。


 騎士団を続けるにしても辞めるにしても、今の太一郎には、やらなければならない事がある。

 それは会議室で自分の処遇を巡って大臣たちに罵声を浴びせられ、孤軍奮闘しているであろうサーシャを、ケイトやクレアと共に支えてやる事だ。


 まあ恐らくは自分の事を邪魔に思っているリゲルあたりが、一馬たちの謀反を口実にして、自分に再び『呪い』を掛けるべきだとでも…そうクレアに進言しているのだろうが。

 先程自分を襲った暗殺者も、証拠はまだ見つかっていないが、恐らくはリゲルあたりが差し向けたのだろう。

 その程度の事は当然太一郎も想定の範囲内だし…それならそれで太一郎にとっては、むしろ逆に好都合だ。


 そしてその会議の最中において太一郎は、サーシャとクレアに伝えなければならない事がある。

 転生者たちは全滅し、真由も死んだ。

 その中で唯一人無様に生き残り、生き恥を晒してしまった自分が、これからどうするのかを。どんな道を歩むつもりなのかを。


 決意に満ちた表情で、ロファールの手を借りながら、太一郎は担架の上に横になったのだった。

次回、リゲル・フ・ル・ボ・ッ・コwwwwwww


会議室に乱入した太一郎が、サーシャとクレアに告げた事、それは…。

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