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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第5章:悲劇
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第41話:対話、そして…。

御免なさい、今回からしばらくの間、鬱展開が続きます。

遂に邂逅した太一郎たちとイリヤ、アリス。

いきなり対話を持ち掛けてきたイリヤに、驚きを隠せない太一郎ですが…。

 シリウスにかけられた『呪い』を解除する切り札として、太一郎と真由が手に入れようと画策していた、伝説の武器・聖剣ティルフィング。

 だが太一郎と真由が喉から手が出る程欲しがっていた聖剣ティルフィングは、一馬たちの企みによるいざこざの隙を突かれ、目の前のイリヤとアリスに先に入手されてしまった。 

 とても厳しい表情を見せる太一郎と真由の前に、イリヤが威風堂々と歩み寄ってきたのだが。


 「さてと。どっちが『閃光の救世主』なのかしら?」

 「僕だ。そういう君たちは?」


 名乗り出た太一郎に対し、イリヤが勝ち誇ったような笑みを浮かべたのだった。


 「アタシは魔王軍3魔将イリヤ。こっちはアタシの幼馴染の、3魔将アリスよ。」

 「魔王軍3魔将!?そうか、君たちが新聞に載ってた、あの…!!」


 まさかの予想外の勢力、そして予想外の人物の登場に、太一郎は驚きを隠せない。

 魔族の少女2人が既に聖地レイテルの奥深くにいると真由が言っていたが、まさか魔王軍の幹部だったとは。


 「僕はフォルトニカ王国騎士団所属の渡辺太一郎だ。彼女が妹の渡辺真由。」

 「渡辺太一郎に渡辺真由か。随分と変わった名前なのね。」

 「それにしても魔王軍の幹部が、直々に僕たちの前に現れるとはな。君たちのサザーランド王国騎士団との戦いでの武勇伝は、新聞で存分に読ませて貰ったよ。」

 「ふふふっ、ありがと。」


 満面の笑顔を浮かべるイリヤを見据えながら、太一郎は素直に感心したのだった。


 (成程な。確かに強い。2人共、向き合うだけで力を感じる。)


 太一郎は2人の何気無い立ち振舞いや仕草を見ただけで、2人の強さを敏感に感じ取ったのだ。

 強い者程、相手の強さには敏感な物なのだから。

 それに一馬を必要以上に傷付けないように、物凄く神経を使いながら無茶苦茶手加減して放ったとはいえ、朱雀天翔破を見せつけられてもなお、イリヤのこの余裕の表情。


 だが今は一刻を争う状況だ。この2人の強さに感心していられる場合ではない。

 今、アリスが手にしている聖剣ティルフィングを使わせて貰いたいのは事実だが、そんな事よりも今は最優先でやらなければならない事がある。


 「君たちとゆっくりと話をしたいのは山々だけど、見ての通り今は急を要する事態なんでね。済まないけど要件だけ手短に伝えてくれないか?」


 そう、エルダードラゴンと交戦中のサーシャとケイトを、早急に助けに行かなければならないのだ。

 聖剣ティルフィングならサーシャとケイトの救援を済ませた後で、後でアリスにジャンピング土下座して這いつくばって靴をペロペロと舐めてでも、少しの間だけ使わせて欲しいと懇願すればいい。


 今は何よりも、サーシャとケイトの命が最優先だ。

 そんな太一郎の焦りを敏感に察したのか、イリヤが溜め息をつきながら手短に用件だけを伝えたのだった。


 「なら単刀直入に言うわ。カーミラがアンタたちフォルトニカ王国の転生者たちと、いきなり対話しろとか言い出したから、こうしてわざわざこんな辺鄙へんぴな所まで足を運んでやったのよ。」

 「対話だと!?魔王カーミラが僕たちと!?」

 「そうよ。アンタたちを敵に回したくないらしいわ。出来れば協力関係を築ければ理想だとも言ってたけど。」

 「一体、どういう事なんだ…!?」


 シリウスは自分たち転生者たちをフォルトニカ王国に召喚したのは、魔王カーミラと戦って貰う為だと語っていた。

 その魔王カーミラが自分たちに対話を持ちかけ、和平交渉をしようなどと。

 一体全体、何がどうなっているのか。


 確かに新聞を読んだ限りでは、魔王カーミラは優しさと慈愛に満ち溢れた女性であるようなのだが。

 少なくともシリウスが以前戦ったという、先代の魔王カーミラのような残虐非道な存在では無いのは間違いないだろう。

 頭をフル回転させて色々と考えを整理したいのは山々だが、それでも前述の通り今はそれ所ではない。


 「イリヤ、アリス。出会ったばかりの君たちにこんな事を頼むのは、不躾ぶしつけな行為だと理解はしているけど、それでも君たちの力を見込んで、どうしても頼みたい事がある。」


 とても真剣な表情で自分たちを見つめる太一郎に、イリヤもアリスも一瞬顔を赤らめてドキッとしてしまったのだが。


 「今、サーシャとケイトがエルダードラゴンと戦っている。僕と真由は今からすぐに2人の救援に駆けつけるけど、出来れば君たちの力も貸して欲しいんだ。」

 「エルダードラゴンと戦ってるって…何でそんな事になってるのよ?」

 「事情は落ち着いたら後でゆっくりと話すよ。とにかく今は一刻を争うんだ。頼めるかな?」


 イリヤもアリスも敵に回すと恐ろしい相手だが、味方になってくれるのであれば、これ程頼もしい戦力はいないだろう。

 魔王カーミラが一体どういうつもりで、イリヤとアリスを通じて自分たちに和平交渉を持ち掛けたのか。

 彼女の思惑は実際に本人に聞いてみない事には分からないが、それでも味方になってくれるというのであれば、今の現状においては存分にイリヤとアリスの力を貸して貰う事にしよう。

 2人への褒章や見返り、それに彼女たちが言う魔王カーミラとの和平交渉に関しては、後でサーシャにでも相談すればいい。


 「仕方がないわね。1つ貸しよ?」

 「済まない。感謝するよ。イリヤ、アリス。」


 心の底からイリヤとアリスに、真剣な表情で感謝の意を示した太一郎だったのだが。


 「おい!!俺様抜きで話を続けてんじゃねえぞコラァ!!」


 先程から完全にほったらかしにされてしまっていた一馬が、ブチ切れながら太一郎、真由、イリヤ、アリスに突っかかってきたのだった。

 一瞬、きょとんとした表情になってしまったイリヤだったのだが。


 「…ああ、御免なさい。貴方が彼と違ってあまりにも雑魚過ぎたものだから、完全に存在を忘れてたわ。」

 「あんだとコラァ!?」


 頭に血を昇らせながら、一馬がイリヤの暴言に激怒したのだった…。

 そんな一馬の態度にあわわわわ言いながら、アリスが慌ててイリヤをたしなめたのだが。


 「イ、イリヤちゃん、そんな事言ったら、この人たちに失礼だよぉ(泣)。」

 「何よ。雑魚に雑魚って言って何が悪いのかしら?」

 「そ、それはそうなんだけど…(泣)。」


 それでも『一馬が弱い』というイリヤの主張に関しては、アリスは全く否定しなかったのだった。

 そんなアリスの自分を馬鹿にしたような態度に、一馬がさらに頭に血を昇らせてしまう。

 こんな小娘共に雑魚呼ばわりされるとは。東京四天王の俺様が。最強無敵の俺様が。

 『異能【スキル】』を全く使わない手加減しまくりの舐めプで戦った太一郎に、あそこまでコテンパンにされたにも関わらず、まだ一馬はそんな事を考えていたのだった。

 

 強い者程、相手の強さには敏感な物だ。

 だが逆に言うと、『弱い者程、相手の強さが分からない』物なのだ。

 一馬はイリヤとアリスの『少女』という外見に囚われ、2人が内に秘めた強大な戦闘能力に全く気が付いていないようだった。

 だからこそイリヤの暴言、そしてそれを否定しなかったアリスに対して、こんなにも簡単に頭に血を昇らせてしまうのだろう。

 怒りに身を震わせながら、周囲で倒れている『ブラックロータス』の少年たちに、一馬が大声で怒鳴り散らしいて檄を飛ばす。


 「てめぇら!!いつまで呑気に寝てやがんだ!?『ブラックロータス』のメンバーとしての根性を見せろやオラァっ!!」


 一馬の檄を受けた少年たちが、よろめきながらも何とか立ち上がったのだった。

 太一郎が必要以上に傷付けないよう、物凄く神経を使いながら無茶苦茶手加減したとはいえ、曲がりなりにも向こうの世界においてそれなりに有名な暴走族の一員であり、喧嘩を生活の一部にしていただけの事はあるようだ。

 一馬同様、彼らのタフネスぶりに関して『だけ』は本当に大した物だ。


 「俺たちはなぁ!!シリウスのクソ野郎に!!てめぇらと戦えって命令されてんだぞ!?それなのにいきなり対話とか和平とか、意味が分からねえんだよ!!」

 「アンタたちの上官の命令の事は知らないけど、それでもアタシたちだってカーミラからそういう命令を受けてんの。アンタたち転生者と対話しろ、可能であれば味方に引き入れろってね。」

 「あんだとコラァ!?てめぇマジでぶっ殺すぞコラァ!!」


 イリヤを睨みつけながら、ガンを飛ばす一馬。

 仮にも和平交渉をしに来た者たちに対しての、この無礼な態度…太一郎は呆れながら深く溜め息をつき、イリヤを守るように一馬の前に立ちはだかったのだった。


 「済まないなイリヤ。一馬の無礼を許してやってくれ。訳あって事情は話せないが、彼も色々と苦しんでいるんだ。」

 「気にしなくてもいいわ。彼の言い分も理解してるから。」

 

 そもそもフォルトニカ王国騎士団と魔王軍という互いの立場上、太一郎たちとイリヤたちは本来なら敵同士なのだ。

 それをいきなり対話だとか和平だとか言われたのでは、一馬が怒るのも無理も無いだろう。大体一馬は『魔王軍と戦え』とシリウスに命じられているのだから。

 それ位の事は、イリヤとて理解はしていた。


 だからと言って対話を求めている相手に対して、この一馬の無礼な態度は何なのか。

 イリヤは笑いながら、アリスはあわわわわ言いながら、軽く受け流している器量を見せてはいるが。

 これが互いのトップが集まる公式の和平交渉の場であったならば、一馬は即刻営倉入り、最悪その場でサーシャやクレアに処刑されても文句は言えないだろう。

 理由は簡単だ。一馬のせいで相手国側が激怒し、交渉が打ち切られるなんて事も充分に有り得るのだから。


 「一馬。君たちはしばらくそこで待機して頭を冷やしていろ。僕たちは今からすぐにサーシャとケイトの救援に行く。」

 「てめぇ、何俺様に命令して…!!」

 「君はともかく他の9人は、エルダードラゴンと戦った所で無様に殺されるだけだと言っているんだ。」


 語気を強めた太一郎に、一瞬びくっとなってしまう一馬たち。

 実際に一馬たちと戦ったからこそ、太一郎は彼らの戦闘能力を瞬時に把握し、そして理解したのだ。

 もし彼らがエルダードラゴンと戦った所で、一馬はそこそこ粘る事は出来るだろうが、他の9人は何も抵抗出来ないまま瞬殺されてしまうのがオチだと。

 それに太一郎が一馬たちに待機命令を下した理由は、それだけではない。


 「そもそも君たちはサーシャの命令を無視したどころか、サーシャとケイトの…いいや、それだけじゃない。近隣住民の命を危険に晒すような真似をしたんだぞ。それが何を意味するのか、当然分かっているよな?」

 

 そう、一馬たちはサーシャとエルダードラゴンを互いにガチで殺し合いをさせて消耗させて、生き残った方を殺そうなどと企てていたのだ。

 もしエルダードラゴンが生き残った場合、怒り狂ったエルダードラゴンによって、近隣住民にどれだけの被害が出るのか、どれだけの命が失われるか…それを全く考慮せずに。

 そんな一馬たちが今更サーシャの所に戻った所で、一体何が待ち受けているのか。それを太一郎は一馬たちに諭しているのだ。


 「今後、君たちに待ち受けているのは、恐らく抗命罪の現行犯による拘束、最悪処刑だろう。そうさせない為に僕がサーシャに交渉してやるから、君たちはしばらくそこで待ってろと言ってるんだ。」


 まあ交渉した所で、抗命罪による厳罰だけは決して免れないだろうが。

 王女という公的な立場上、サーシャは一馬たちに対して…それこそ太一郎や真由にさえも、特別扱いは絶対にしないはずだ。

 サーシャの性格なら処刑は無いだろうが、それでもしばらく営倉入りは免れないだろうなと…太一郎はそれを確信していたのだった。


 「この俺様が!!最強無敵のこの俺様が!!あんな小娘に殺され…!!」

 「僕如きに歯が立たなかった君が、サーシャに勝てる訳無いだろ。」

 

 太一郎に凄まれた一馬が、チッと舌打ちをしながら下を向いてうつむいた。

 一度手加減しまくりのサーシャに無様に負けた事があるだけに、流石に一馬も反論出来ずにいるのだろうか。


 「…チッ、分かったよ。けどよ、ちゃんと交渉しやがれってんだよ。」

 「善処はするが、あまり期待はするなよ?」


 何故か上から目線の一馬にそう告げた太一郎は、イリヤとアリスに向き直る。


 「見苦しい所を見せてしまって済まなかったな。」

 「馬鹿な仲間を持つと、アンタも大変ね。」

 「とにかく急ごう。サーシャとケイトが心配だ。」


 聖地レイテルの構造は、情報屋が用意してくれた地図を見た事で、全て太一郎の頭の中に入っている。

 それに太一郎は一馬たちとの戦いの最中にも、遠方から派手な爆発音が響くのを確認しているのだ。恐らくサーシャもケイトもそこにいるのだろう。

 場所さえ分かってしまえば、2人に合流するのは簡単な事だ。


 だが太一郎たち4人が一馬たちに背を向けた、次の瞬間。

 突然狂喜乱舞の笑顔を見せながら、一馬がソードレイピアでアリスに背後から斬りかかったのだった。

 瞬時に一馬の殺気を察した太一郎が、慌てて一馬のソードレイピアを隼丸で受け止め、アリスを守ったのだが。


 「一体何をやっているんだ!?一馬!!」

 「うるせえっ!!対話だか和平だか知らねえが、皆ぶっ殺せば済む話じゃねえかよ!!」

 「君は自分が何をしでかしたのか理解しているのか!?彼女たちは僕たちに対話を持ち掛けてきているんだぞ!?」

 「そんなの知るかよ!!皆ぶっ殺せば済む話じゃねえかよ!!」

 「魔王カーミラは僕たち人間たちに一切危害を加えるつもりは無い!!だけど敵対する相手には決して容赦はしない!!それは君もよく知っている事だろう!?」

 「ごちゃごちゃうるせえ奴だな!!皆ぶっ殺せば済む話じゃねえかよ!!」

 「彼女たちには敵対意思が無いんだぞ!?それを攻撃するというのが何を意味するのか、君には理解出来ないのか!?」

 「だから何だってんだ!!皆ぶっ殺せば済む話じゃねえかよ!!」

 

 太一郎の話に全く聞く耳を持たず、一馬が狂喜乱舞の笑顔で、アリスに対して猛烈な殺気を放っている。

 何という身勝手な、そして愚かな行為なのか。

 一馬がやらかしたのはイリヤとアリスに対しての、明確な騙し討ちも同然だ。

 そんな一馬を、あわわわわ言いながら見つめているアリスだったのだが。

 

 「光の矢よ!!このクソ野郎をぶっ殺せ!!」

 「ちいっ!!」


 一馬が至近距離から放った精霊魔法を、太一郎が慌てて横っ飛びで避けたのだった。

 太一郎がいた場所に放たれた、真紅に輝く光の矢。それが地面に突き刺さり、派手な音を響かせながら爆発する。


 「くそっ、まだそんな余力を残していたのか!!」


 セラフィム・インストールによる反動で、全身に激痛が走っているはずなのに。

 暴走族の族長として、『ブラックロータス』のリーダーとして、目の前のクソガキ共に舐められる訳にはいかないと、最早気力と根性だけで身体を動かしているのだろうか。

 とにかく邪魔者の太一郎をどかした一馬が、狂喜乱舞の笑顔でアリスに大技を放つ。


 「まずはそこのナヨナヨした女!!てめぇからだぁっ!!」

 「うええええええええええええええええええ(泣)!?」

 「ひゃははははは!!死ねええええ!!彗星剣!!」


 ソードレイピアを振り下ろす一馬。

 だがしかし、何も出なかった。

 本来ならアリスに対して超威力の彗星の如き光が放たれるはずなのに…一馬のソードレイピアからは、何も出なかった。


 「…ど、どうなってやがる…!?」


 何度も何度も、ソードレイピアを振り下ろす一馬だったのだが。


 「彗星剣!!彗星剣!!彗星剣!!くそが!!何で出ねえんだよ!?彗星剣だっつってんだろうがぁっ!!」


 それどころか一馬のソードレイピアが突然光の粒子と化して崩れ去り、一馬の自傷行為によって大きな傷口が空いた右手の掌から、凄まじい量の血が溢れ出てきたのだった。


 「あ、あああ…ああああああああああああああああああ!?血が!!血が止まらねえええええええええええええええ!!」


 先程までとは打って変わって、まさかの事態に怯えた表情になる一馬。

 当然だろう。何の前触れも無く、突然『異能【スキル】』が使えなくなってしまったのだから。


 「な、何なんだよ!?どうなってんだよこれええええええええええええええええ!?」

 「あ、あの、あのあのあのっ!!」


 絶望しながら慌てふためく一馬に、目をうるうるさせたアリスが躊躇ためらいながら話しかけてきたのだが。


 「み、皆さんが私たちに敵対する可能性があるからって、そうカーミラ様が危惧なされていらっしゃったので、そ、その…!!」


 次にアリスが告げた容赦の無い言葉によって、一馬ら『ブラックロータス』の少年たちは、絶望のどん底に突き落とされる事になる。


 「わ、私の『封印【スキルロック】』の『異能【スキル】』で、皆さんの『異能【スキル】』を一時的に封じさせて頂きましたっ!!」

 「ス…『封印【スキルロック】』…だと…!?」


 必死に右手首を左手で圧迫して止血しようと試みる一馬が、途端に青ざめた表情になってしまう。


 「なので、その、私が『封印【スキルロック】』を発動している間、私から半径30m圏内にいる転生者の皆さんは、私とイリヤちゃんも含めて、『異能【スキル】』を一切使用する事が出来なくなってますですっ!!」


 今回のフォルトニカ王国との対話任務に赴く際、出発前にイリヤは魔王カーミラにこう語っていた。

 仮に転生者たちが自分たちを殺そうとしたとしても、アリスの『異能【スキル】』なら転生者全員を簡単に無力化出来ると。

 つまりは、そういう事なのだ。


 そもそも一馬ら『ブラックロータス』の少年たちが、この世界で魔物や盗賊たちを相手に無双出来たのは、転生した際に与えられた『異能【スキル】』という、絶大な力による恩恵による所が大きい。

 逆に言うと『異能【スキル】』の恩恵が無ければ、今頃一馬たちは魔物や盗賊たちに無謀な戦いを挑み、無様に殺されていたはずなのだ。


 その『異能【スキル】』が…何らかの理由で突然使えなくなってしまったとしたら。

 『異能【スキル】』が使えなければ一馬たちの戦闘能力は、フォルトニカ王国騎士団の一般兵にすら劣る。

 そう…ただ喧嘩が強いだけの少年たちに成り下がってしまうのだ。


 「あのさあ、アタシたちはカーミラから、こうも言われているのよね。もし転生者たちが対話を拒否し、アタシたちを執拗に殺そうとするのであれば…その時はアタシたちの命を守る為に容赦せず殺せってね。」


 そんな一馬たちに向けて放たれる、全くもって何の容赦も無いイリヤの『殺気』。

 鞘から魔剣ヴァジュラを抜いたイリヤが、情け容赦なく一馬たちに魔剣ヴァジュラの先端を突き付ける。

 そんなイリヤから一馬を守る為、慌てて太一郎がイリヤの前に立ちはだかったのだが。


 「待てイリヤ!!一馬の暴走の件に関しては謝る!!だから…!!」

 「アタシたちはこいつに騙し討ちされたのよ!?今更アンタに謝罪なんかされたって、引き下がれる訳が無いでしょう!?」

 「そ、それは…!!」


 そう、一馬はイリヤとアリスが敵対意思を見せないどころか、対話を持ち掛けてきたにも関わらず、平然と騙し討ち同然の行為を、それも狂喜乱舞の笑顔を見せながら行ったのだ。

 イリヤとアリスにしてみれば、これはもう自分たちへの…いいや、パンデモニウムの魔族たちに対しての侮辱も同然だ。

 それどころかこれはもう、一馬たちによる宣戦布告だとも取れる行為ですらある。

 だからこそイリヤがこうして激怒するのは、当然の事だと…それ位の事は太一郎も理解はしていた。

 イリヤたちだって戦場において猛烈な殺気を放たれたのでは、自分たちの命を守る為に敵を討たなければならないのだから。


 「くそっ、何でこんな事になってしまったんだ!?一馬!!」

 「う、うるせえっ!!『異能【スキル】』なんざ無くても俺様は最強だ!!東京四天王の一角の俺様が!!こんな小娘共に負ける訳がねえっ!!」

 

 それでも一馬は謝罪しようとせず、アリスに向かって猛然と殴りかかったのだった。

 一馬は太一郎と違って、気が付いていないのだ。

 アリスが内に秘めた、太一郎やサーシャにも決して劣らない程の、強大な戦闘能力に。


 「『封印【スキルロック】』だか何だか知らねえが、所詮はこんな泣き虫の小娘…!!こいつ自身が喧嘩に強ぇって訳じゃねえだろ!?」

 「あわわわわ、あわわわわ、あわわわわわわわ(泣)!!」

 「死ねえええええええええええええええええええええええ!!」


 自分こそが最強無敵だと信じて疑わない一馬が、自分が所詮は井の中のかわずだと認めようとしない一馬が、無謀にもアリスの頬に渾身の右ストレートを浴びせようとする。

 だが、そんな一馬に対して、アリスは。


 「えーい!!」


 一馬に向けて聖剣ティルフィングを振り下ろし、凄まじいまでの真紅の光を浴びせたのだった。


 「ぎぃあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 「一馬ぁっ!!」 


 太一郎の悲痛の叫びも虚しく、直撃を受けた一馬が情け容赦なく吹っ飛ばされ、木に叩きつけられてしまう。

 ズルズルと情けなく、その場に崩れ落ちる一馬。あまりの威力に吐血し、全身に襲い掛かる激痛に身動きが出来ずにいる。


 「行きなさい。ヴァジュラ。」


 そしてそんな一馬に対して容赦なく放たれる、イリヤによる追撃。

 魔剣ヴァジュラの刀身から放たれた無数の小さな刃が全方位から一馬に襲い掛かり、全身という全身を残酷に切り刻んだのだった。


 「あ…が…!!」

 

 その瞬間、一馬の全身からほとばしる、凄まじいまでの鮮血。

 一馬の全身を切り刻んだ無数の小さな刃が、イリヤが手にする魔剣ヴァジュラの刀身に収納されていく。

 イリヤがヒュン、と魔剣ヴァジュラを振るい、刃についた返り血を振り払ったのだった。


 「い、嫌だ…!!お、俺はまだ…死にたくねえ…!!」


 全身に襲い掛かる激痛、そして薄れゆく意識の中で一馬が最期に目にしたのは…悲痛な表情の太一郎と真由、そして侮蔑の瞳で自分を見下すイリヤとアリスの姿。


 「な、何でだよ…!?最強…無敵の…俺様が…東京…四天…王…の…っ…!!」


 自分自身の愚かな行為によって招いた末路だと決して認めようとしないまま、絶望の表情のまま一馬は絶命してしまったのだった…。

次回…第5章完結。

自らの野心と暴走の果てに、自業自得とも言える最期を遂げた一馬。

そして太一郎と真由は…イリヤとアリスは…そしてサーシャとケイトは…。

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