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【完結】復讐の転生者  作者: ルーファス
第5章:悲劇
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第39話:望まざる戦い

サーシャ&ケイト VS エルダードラゴン。

一馬の暴走により怒り狂ったエルダードラゴンとの対話が不可能になってしまい、さらに太一郎と真由まで転移させられてしまった事で、止むを得ず2人だけでエルダードラゴンに挑む羽目になってしまったサーシャとケイト。


その壮絶な戦いの果てに待ち受ける物とは…。

 何故、こんな事になってしまったのだろう。

 エルダードラゴンに精霊魔法を放ちながら、サーシャは苦虫を噛み締めたような表情になっていたのだった。


 エルダードラゴンとの対話を目指していたというのに、一馬たちが突然エルダードラゴンに対して騙し討ちまがいの行為を行った結果、怒り狂ったエルダードラゴンと交戦する羽目になってしまった。

 そして太一郎と真由も一馬たちによって転移させられてしまい、サーシャはケイトと2人だけでエルダードラゴンと戦う羽目になってしまった。


 エルダードラゴンに攻撃は一切禁止すると命じたはずなのに、何故一馬たちは命令違反を犯して攻撃を仕掛け、エルダードラゴンを怒らせるような真似をしたのか。

 太一郎と真由を転移させ、自分たちから引き離したのは何故なのか。

 一馬ら『ブラックロータス』の少年たちは後で抗命罪の現行犯で拘束し、事情聴取をしなければならないが…それよりも今はこの状況を切り抜ける事が最優先だ。

 事情聴取も何も、ここで死んでしまっては何もならないからだ。


 「流星剣!!」


 サーシャのソードレイピアから放たれた、まさに流星の如き無数の光が、流星雨と化してエルダードラゴンに降り注ぐ。

 広範囲に渡る全体攻撃…だが多少はダメージを与えられたものの、エルダードラゴンを怯ませるには至らなかった。

 反撃の光のブレスが、魔法剣による大技を放った直後で動きが止まったサーシャに向けて放たれる。


 「させるかぁっ!!」


 そこへケイトが飛び出してサーシャをお姫様抱っこし、横っ飛びでサーシャを光のブレスから守り抜いたのだった。

 だが光のブレスの余波によってケイトの近衛騎士の正装のズボンが、ブスブスと焦げ臭い匂いを放ちながら焼け焦げてしまう。


 「ぐあっ…!!」

 「ケイト!!」


 太一郎と真由の戦闘服兼正装と同様、魔法攻撃に対して強力な耐性を持つ、法術によって編まれた服でさえも焼け焦がしてしまう、エルダードラゴンの光のブレス。

 しかも直撃を避けた余波でこの威力だというのだから、直撃してしまったら一体どれだけのダメージを受けてしまうというのか。


 「かの者の傷を癒したまえ!!」


 この手の調査任務において真由やサーシャのようなヒーラーは、まさに小隊の「命その物」だ。

 サーシャの精霊魔法によって、ケイトの左足の火傷は瞬時に癒えていく。

 だがそれでも、このままではジリ貧なのは明白だ。

 せめて太一郎と連携する事が出来れば…真由のサポートを受ける事が出来れば…もっと楽に戦えたはずなのに。


 だが無い物ねだりをしても仕方が無い。2人が救援に駆けつけてくれるまでは、何とかしてサーシャとケイトだけでエルダードラゴンを討伐しなければならない。

 ここでエルダードラゴンを討伐しておかなければ、怒り狂ったエルダードラゴンによって近隣の村や街が襲われ、甚大な被害が出る事になりかねないのだから。

 討伐出来る、出来ないではない。何としてでもらなければならないのだ。 

 立ち上がったサーシャがとても厳しい表情で、目の前で怒り狂ったエルダードラゴンを見据えている。


 「しっかりしなさいケイト!!生きて帰って彼氏と幸せになるのでしょう!?」

 「この間、浮気が発覚して、めんどくせー女だとか言われて…!!もう別れるとか一方的に言われましたけどねっ!!」


 サーシャの手を借りて何とか立ち上がり、ロングソードを構え直したケイト。

 エルダードラゴンという強大な敵を前にしても、ケイトの目は死んではいない。まだ闘志を失ってはいない。


 「そう、なら次にお付き合いする殿方が現れたのなら、ケツの穴に指を突っ込んで、貴女無しでは生きられない身体にしておきなさい!!」

 「了解!!うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 再びエルダードラゴンに斬りかかったサーシャからの、とんでもない檄を浴びせられながら、ケイトがロングソードに凄まじい威力の光を纏わせたのだった。

  そしてサーシャと交戦中のエルダードラゴンの背後に向かって走り込み、凄まじい威力の突きを放つ。


 「シャインブレイク!!」


 自らの身体を光の矢と化したケイトの渾身の威力の突きが、エルダードラゴンのケツの穴に直撃した。


 「アーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

 サーシャの精霊魔法や魔法剣でさえも怯ませる事すら出来ない程の屈強さを誇る、エルダードラゴンの肉体。だがその屈強さはケツの穴にまでは流石に及ばない。

  突然の激痛にのけぞり、のたうち回り、暴れ回るエルダードラゴン。

 ケツの穴からロングソードを引き抜いたケイトだったが、暴れ回るエルダードラゴンの尻尾による横薙ぎの一撃を食らい、ふっ飛ばされて木に叩きつけられてしまった。

 ロングソードで何とか尻尾を受け止めて直撃は避けたものの、あまりの威力に防ぎ切れず、嗚咽しながらうずくまってしまう。


 「うっ…がはっ…!!」

 「おのれぇっ!!人間如きがあああああああああああああああああああっ!!」


 エルダードラゴンが激痛と怒りで我を失いながら、全方位に無差別に光のブレスを放ち、周囲の美しい光景が瞬く間に焼け野原と化していく。


 「ケイトぉっ!!」


 咄嗟の判断でサーシャが、うずくまって動けないケイトに向かって駆け出していた。


 「光の壁よ!!かの者を守る障壁となれ!!」


 サーシャがケイトを庇うように立ちはだかり、精霊魔法によって光の壁を展開。

 無差別に放たれた光のブレスから、何とかケイトを守り抜いたサーシャ。

 だがエルダードラゴンの光のブレスの威力が強過ぎて、光の壁を維持するので精一杯だ。同時にケイトに回復魔法まで掛ける余裕が無い。


 「私より先に死ぬなんて許しませんよ!!ケイト!!」

 「私なら大丈夫です…!!しかし相当怒り狂ってますね、これは…!!」

 

 懐からライフポーションを取り出して一気飲みしたケイトが、手袋で口をぬぐいながら何とか立ち上がる。

 ケイトの一撃でエルダードラゴンにダメージは負わせたが、それでもこのまま持久戦になってしまえば不利なのは明白だ。

 サーシャとケイトが手持ちのポーションを全て使い切り、さらにヒーラーのサーシャが魔力切れまで起こそうものなら、この戦いはエルダードラゴンの勝ちなのだから。


 だからこそ多少のダメージは覚悟してでも、何とかして短期決戦に持ち込むしかない。

 ならばケイトの一撃によってエルダードラゴンが激痛にもがき、怒り狂って冷静さを失っている、今こそが勝機だ。

 

 「御免なさいケイト。何とかしてエルダードラゴン殿の動きを止めて貰えますか?かくなる上はセラフィム・インストールで一気にケリをつけます。」

 「しかしあの技は、発動後に姫様の身体に甚大な反動を起こす大技…!!もしそれで仕留め切れなければ、姫様は…!!」

 「リスクは承知していますが、やるしかありませんよ。このまま長期戦になってしまえば、不利になるのは私たちの方ですから。」


 覚悟を決めたサーシャが、決意に満ちた表情でソードレイピアを構えたのだった。

 そしてサーシャの全身から、凄まじいまでの魔力が放たれる。

 そんなサーシャの姿を見て、ケイトもまた覚悟を決めたのだった。 

 

 「分かりました。ならば私が全力で姫様をお守り致します。」

 「こんな事、貴女だからお願いしているのですよ?ケイト。」

 「では姫様のその期待に、私は全力で応えなければなりませんねっ!!」


 再びエルダードラゴンに向けて駆け抜けたケイトが、ロングソードに再び強烈な光を纏わせて斬りかかった。


 「こっちだ!!エルダードラゴン!!」

 「貴様らああああああああああああああああああああああああっ!!」


 次々と放たれるエルダードラゴンの光のブレスを避け続けながら、ケイトがエルダードラゴンの懐へと潜り込む。

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 再び放たれたシャインブレイク。全身を光の矢と化したケイトの一撃が、光を纏った剣から放たれた強烈な威力の突きが、エルダードラゴンの屈強な左足に直撃。

 左足に突き刺さるケイトのロングソードだが、それでも突き破るまでには至らなかった。

 何という頑丈な皮膚、強固な骨、そして屈強な肉体なのか。並の魔物なら今の一撃で確実に仕留める事が出来たはずなのに。


 だがそれでも、ここで引く訳には行かない。

 サーシャの大技で確実にエルダードラゴンを仕留める為にも、ここで確実にエルダードラゴンの動きを止めておかなければならないのだから。

 数秒…ほんの数秒だけでいい。数秒だけ時間を稼ぐ事さえ出来れば、サーシャなら確実に仕留めてくれるはず。


 「まだだああああああああああああああああああああああっ!!」


 その想いを胸に秘め、ケイトはロングソードを持つ両手に力を込めた。

 ケイトのロングソードから放たれる光が、さらにその凄まじい輝きを増していく。


 「き、貴様!!」

 「でやああああああああああああああああああああああっ!!」

 「ぐあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 そしてケイトの全身全霊の突きが、遂にエルダードラゴンの左足を物凄い勢いで貫いた。

 その瞬間、エルダードラゴンの左足に襲い掛かった激痛。 


 「お、おのれ!!人間如きがああああああああああああああっ!!」

 「がはあっ!!」

 

 激痛でうずくまりながらも、ケイトを右拳で殴り飛ばしたエルダードラゴン。

 咄嗟にロングソードを手放し、両腕をクロスしてガードしたものの、あまりの威力にまたしても吹っ飛ばされ、背中から木に叩きつけられてしまう。

 何という威力の拳なのか。ミスリル製の手甲で守られているはずのケイトの両腕が、あまりの衝撃で痺れてしまっていた。


 だがそれでも、ケイトは充分に仕事を果たしてくれた。

 ケイトが命懸けで作ってくれた、僅かな隙。

 時間にしてほんの数秒だが、サーシャにはそれだけあれば充分だった。

 

 「我が最愛なる盟友、熾天使してんしセラフィムよ!!今こそ我との契約に従い、我が身に宿りて敵を討つ力となれ!!」

 「な、何いいいいいいいいいいいいいい!?」

 「セラフィム・インストール!!」


 ケイトがエルダードラゴンの気を引いている間に、いつの間にかサーシャが精霊魔法で召喚していた光の上位精霊セラフィムが、一筋の光と化してサーシャと一体化。

 そしてセラフィムの力をその身に纏わせたサーシャが、全身から凄まじいまでの白銀の光をほとばしらせた。


 セラフィム・インストール…セラフィムとの一体化によって、自らの身体能力や戦闘能力を一時的に爆発的に向上させる技だ。

 爆発的な能力上昇の代償として、技の終了後に強烈な反動がサーシャに襲い掛かってしまうので、出来ればサーシャも使わずに済ませたかったのだが。


 だが今は、そんな悠長な事を言っていられる場合ではない。

 ここでエルダードラゴンを確実に討伐しておかなければ、近隣の村や街にどれだけの甚大な被害が出るのか、分かった物では無いからだ。 

 それに今のサーシャの技量では、この技を介さなければ、今から繰り出す究極奥義は放てないのだから。

 

 「これで、終わりだああああああああああああああああああああっ!!」

 

 左足にロングソードが突き刺さり、激痛で動きが鈍ったエルダードラゴンに向けて、サーシャの究極奥義が今、放たれた。 


 「光竜滅魔剣!!」


 背中から光の翼を生やし、自らの身体を一筋の弾丸と化したサーシャの、凄まじい白銀の光を放つソードレイピアが無数の閃光をほとばしらせながら、エルダードラゴンの全身に凄まじいまでの連撃を浴びせる。

 そしてサーシャがエルダードラゴンを物凄い勢いで通り抜け、ふうっ…と一息つきながらソードレイピアを鞘に収めた瞬間、一瞬で全身を斬られたエルダードラゴンの身体のあちこちから、凄まじい鮮血がほとばしったのだった。

 

 「ば…馬鹿なあああああああああああああっ!!」


 信じられないといった表情で、エルダードラゴンがどうっ…と地面に倒れ込む。

 そしてセラフィム・インストールを解除したサーシャもまた、技後の反動で全身に襲い掛かった激痛でうずくまってしまったのだった。

 

 「ぐっ…はあっ…はぁっ…!!」

 「姫様ぁっ!!」


 よろめきながらも何とかサーシャの下に駆け寄り、サーシャを庇うようにエルダードラゴンの前に立ちはだかるケイト。

 ロングソードはエルダードラゴンの左足に刺さったままだが、それでも怯まずに徒手空拳の構えを見せる。


 だがケイトが決死の覚悟を見せるまでもなく、サーシャによって全身を切り裂かれたエルダードラゴンの命は、最早風前の灯だった。

 ぜい、ぜい、と息を荒げながら、目の前で傷だらけになっているサーシャとケイトを睨みつけている。

 

 「この私が…王家の者とはいえ…たかが人間の…小娘如き…に…っ!!」


 自分たちを騙し討ちにしたサーシャとケイト…というのは一馬によって引き起こされた陰謀、誤解でしかないのだが…。

 サーシャがその誤解を解く機会を与えられる事も無いまま、エルダードラゴンは対話を望んだはずのサーシャの手で絶命してしまったのだった。

 よろめきながらも立ち上がり、エルダードラゴンの前に歩み寄るサーシャ。


 「御免なさい、エルダードラゴン殿…せめて…せめて、どうか貴方の魂に安息が訪れん事を…。」


 悲しみに満ちた表情で、サーシャは自分とケイトを睨みつけたままのエルダードラゴンの瞳をそっ…と優しく閉じて、両手を組んでエルダードラゴンの冥福を祈る。

 望まざる戦いだった。本当なら戦わずに和平交渉に持ち込みたかった。

 本来ならこの聖地レイテルを禁足地として厳重に管理し、誰も足を踏み入れられないようにしようと…そうエルダードラゴンに持ち掛けるつもりだったのに。

 それなのに一馬たちの暴走のせいでエルダードラゴンが怒り狂ってしまい、近親住民の安全を守る為に、止むを得ずエルダードラゴンを討伐せざるを得なくなってしまったのだ。


 「姫様、ご無事ですか!?」

 「私なら大丈夫です。それよりも、すぐに太一郎さんたちと合流しなければ…!!」


 ライフポーションとマジックポーションを飲み干して回復したサーシャが、決意に満ちた表情で口元を手袋で拭う。

 何だか嫌な予感がする。このままでは太一郎と真由が自分の前から消えて無くなってしまいそうな…そんな不安がサーシャの脳裏をよぎったのだ。

 両腕の痺れから回復したケイトが、ロングソードをエルダードラゴンの左足から引き抜き鞘に収めたのだが、その時だ。


 サーシャとケイトの遥か前方…距離にして1km程だろうか。

 凄まじいまでの爆音と共に、黒い煙が立ち上ったのだった。

 間違いない。太一郎たちが何者かと交戦状態になっている。

 

 「急ぎましょう、ケイト!!」

 「はっ!!」


 セラフィム・インストールの反動によって全身に激痛が走るが、今はそんな悠長な事を言っていられる場合ではないし、別に走れない程の痛みでもない。

 傷だらけの身体に鞭を打ちながら、サーシャがケイトと共に太一郎たちの下へと走り出したのだった。


 そこで待ち受ける事になる理不尽な悲劇を…知る由も無く…。

次回は太一郎&真由 VS 『ブラックロータス』。

圧倒的な強さを見せつける太一郎に驚愕する一馬ですが、そんな彼が繰り出した切り札とは…。

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